令和4年度メディア芸術連携基盤等整備推進事業 報告会が、2023年2月20日(月)にウェブ会議システムZoomにて開催されました。メディア芸術連携基盤等整備推進事業では、産・学・館(官)の連携・協力により、メディア芸術の分野・領域を横断して一体的に課題解決に取り組むとともに、所蔵情報等の整備及び各研究機関等におけるメディア芸術作品のアーカイブ化を支援しています。また、アーカイブ化した作品・資料等を活用した展示の実施に係る手法等を開発・検討することにより、貴重な作品・資料等の鑑賞機会の創出を図っています。本事業の実施を通じて、アーカイブ及びキュレーションの実践の場の提供や今後のメディア芸術の作品等の収集・保存・活用を担う専門人材の育成に寄与することを企図しています。報告会では、本事業の一環として実施した五つの分野別強化事業の取り組みの主旨や進捗状況の報告、メディア芸術連携基盤等整備推進事業の事務局調査研究及びメディア芸術データベース等に係る調査研究事業に関する報告がなされ、有識者検討委員からの質疑や助言が加えられました。本稿ではそのうちの「マンガ原画アーカイブセンターの実装と所蔵館連携ネットワークの構築に向けた調査研究」を取り上げます。
報告者:一般財団法人 横手市増田まんが美術財団 横手市増田まんが美術館 館長 大石卓
日本のマンガ文化を支える貴重な資料・財産として位置づけられるマンガ原画。その原画保存を担い、相談窓口として機能するのが、マンガ原画アーカイブセンター(MGAC)である。本事業では、MGACが中心となって、全国のマンガ所蔵館・マンガ関連施設に関わる学芸員や研究者などの参画により、所蔵館連携ネットワークの構築に向けた調査研究を実施している。事業体制は、マンガ原画アーカイブセンター運営協議会、マンガ原画アーカイブネットワーク部会、マンガ原画アーカイブマニュアル検討部会、収益・支援体制構築部会の4部会を設置し、研究や事業の推進を図っている。
今年度は六つの事業目的を掲げ、具体的な活動を実施した。まず、①「相談窓口の開設活動」として、今年度も横手市増田まんが美術館内にMGACの相談窓口を設置した。2022年10月には活動拠点を漆蔵資料館に移設、事業活動の紹介コーナーを常設するなど、MGACの活動内容及び成果のいっそうの周知を図った。
次に、②「所蔵館ネットワークの構築」として、マンガ原画ネットワーク会議を開催。施設間連携でMGACの対応に取り組み、石ノ森萬画館では昨年度の4万点に加えて約5万点の原画プールを追加北九州市漫画ミュージアムでは、当施設への原画収蔵が決定するなど、ネットワークを発揮した解決事案が見られた。
続いて、③「専門人材の育成」では、これまでの事業で整備してきた『マンガ原画アーカイブマニュアル』のさらなる充実を図っているが、手塚プロダクションや作家個人にヒアリングした結果、保存者ごとに原画保管に対する実務的な取り組みの幅が非常に大きいことを再認識したため、今後、よりきめ細やかな『保存者別マニュアル』をまとめるという結論に至った。
また、④「収益事業及び支援体制構築の調査」として「ゲンガノミカタ展」の巡回パッケージ化を進めてきたが、今年度の新たな取り組みとして、同展の解説テキストをほかの作家作品に置き換えた展示構築事例の創出として、京都国際マンガミュージアムで実施された「谷口ジロー展」にテキストを提供した。その意味で、さまざまな施設・展示にカスタマイズできる「ゲンガノミカタ展」がもつポテンシャルの高さを示す活動が展開できた。
さらに、⑤「集英社マンガアートヘリテージ(SMAH)との連携協議」として、保存原画の利活用についての意見交換を行い、今後のさらなる共同研究の実施に向けて方向性を確認した。一方で、刊本事業と合同で税務研修会とデータベース研修会を開催し、要望が強かった「版権等に関する税の取り扱い」について専門家から講義を受けた。
最後に、⑥「マンガアーカイブ機構(仮称)設立に向けた合同会議の開催」として、原画事業と刊本事業の早期合流に向け、年6回の合同会議を開催し、合流の機運や一体感の醸成が図られたことも大きな成果であった。
今後の課題としては、ネットワークの構築や人材育成、収益支援体制の構築などの面での効果向上及び効率化があげられる。そのためにも刊本事業と一体で取り組むことが効果的であることが確認できた。また、現状未整理となっているネットワーク館におけるプール原画への対応のための事業構築が求められる。今後の展望としては、刊本事業との早期合流を果たし、中長期的な視野に立った議論を目指したい。
※URLは2023年6月20日にリンクを確認済み