新進クリエイターの現在地 令和7年度文化庁メディア芸術クリエイター育成支援事業成果発表イベント「ENCOUNTERS」レポート[後編]

坂本 のどか

写真:小野 博史

ホールAの様子。「国内クリエイター創作支援プログラム」と「国内クリエイター発表支援プログラム」の成果物がランダムに展示される会場構成
photo by tada

発表の機会を創出する「国内クリエイター発表支援プログラム」

「国内クリエイター発表支援プログラム」は、より活動実績の浅いクリエイターにも門が開かれた、発表機会の創出を目的としたプログラムだ。令和7年度は24組のクリエイターが採択された。

大学卒業後など、教育機関を離れて個人で発表の場を得るにはある程度の資金が必要となる場合が多く、作品はあっても発表の場が得られない若手クリエイターは少なくない。採択クリエイターにはすでに実績のあるクリエイターはもちろんのこと、本支援事業を通して初めての個展に挑戦するクリエイターもいる。年度内にクリエイター自身で発表の場を設けることが支援の条件とされているため、成果発表イベントではその再現をはじめ、記録映像の上映や資料展示などを通して発表の報告を行うクリエイターが多い。

身体/知覚/パフォーマンス

今宿未悠氏による、体験者が大きな圧縮袋におさまり圧迫感を味わう装置『Pressure-Pleasure』や、DJ犬映画氏による鼻に着目したVR作品『TECH-NOSE-CODE』、モーションキャプチャーを装着しアバターとともにフルマラソン42.195kmを走破するJACKSON kaki氏によるパフォーマンス作品『42.195kmの分離する身体』、川畑那奈氏によるアニメーション作品『地の内臓』など、身体や知覚への探究を感じさせるプロジェクトが多く見られたのは今回の特徴といえるだろう。

今宿未悠『Pressure-Pleasure』展示風景と今宿氏。二人の参加者がそれぞれ圧縮袋に入り、互いの呼吸に応じた圧迫を感じるインタラクティブ・アート装置。展示ブースで作品体験ができたほか、映像展示も行った。加えてイベントスペースにてワークショップ「全身圧迫装置 Pressure-Pleasure の簡易的な体験」を実施
DJ犬映画『TECH-NOSE-CODE』展示風景とDJ犬映画氏(左)。VRゴーグルを装着するとその存在が希薄になる「鼻」に着目した、認知・身体とテクノロジーの関係を探るVR体験作品。体験者は鼻を媒介にしてVR空間と現実世界を往来する。展示ブースで実際にVR体験ができたほか、イベントスペースにて舞踏家・田代一裕氏を迎えたパフォーマンス「顔なき中心、と、その外側、と、ここ、についての振り付け」を実施した
JACKSON kaki『42.195kmの分離する身体』展示風景とJACKSON氏。テクノロジーによって切り離された身体や時間・空間の制約に肉体を酷使して向き合うことで、人とテクノロジーの共存のあり方を提示するプロジェクト。実際のパフォーマンスは浜離宮朝日ホールにて実施し、本展ではその記録映像やドキュメントを展示したほか、30分間のライブパフォーマンス「42.195kmの分離する身体 デモンストレーション」を行った
川畑那奈『地の内臓』。人類学者である石倉敏明の提唱する「外臓」という概念を手掛かりに、人間が地球の内臓でも外臓でもあるという両義的なあり方を描き出すアニメーション作品。民家で行ったインスタレーションの一部を展示した

スポーツ

ダンサーがサッカーを模した競技を繰り広げる豊田ゆり佳氏による観戦型ダンス作品『Organized Play オルガナイズド・プレイ』、独自の泳法「ミジンコ泳法」の実践を大会の開催を通して展開した松村寛季氏のプロジェクト『第1回ミジンコ水泳競技大会』は、スポーツをモチーフにしたプロジェクトだ。

豊田ゆり佳『Organized Play オルガナイズド・プレイ』。劇場をスタジアムに見立てたダンス作品を発表。観客からの指示がダンサーの動きにリアルタイムに反映される。パフォーマンスの映像上映を行ったほか、サッカーの観戦文化の拡張可能性について議論するトークイベント「サッカーの観戦文化はどこまで拡張できるか?/観戦型ダンス公演『Organized Play』振り返り」を実施した
松村寛季『第1回ミジンコ水泳競技大会』展示風景と松村氏。両国屋内プール(東京)にて「第1回ミジンコ水泳競技大会」を開催。本イベントではその記録映像やメダル、実際に泳ぐ「ミジンコ」を展示した

楽器/演奏

菊永絢音氏による『《聴覚奏法》』やMike Sekine氏による『声の楽器と耳のロボットによるサウンドインスタレーション/speaking instruments and listening robots』など、聴覚に着目し楽器の制作や演奏を行ったプロジェクトも見られた。

菊永絢音『《聴覚奏法》』展示風景と菊永氏。音刺激がない脳疾患や聴覚異常などを持つ人々に旋律や楽曲が聞こえる現象「音楽幻聴」に着目し、楽器を制作。その演奏や収録を通して、聴く行為の再定義を試みた。楽器や記録映像を展示し、会期中には「聴覚に奏でる方法」と題したパフォーマンスも実施した
Mike Sekine『声の楽器と耳のロボットによるサウンドインスタレーション/speaking instruments and listening robots』。声を出すこと・音を聴くことに関する作品を制作し、東京とドイツで発表を行うプロジェクト。自作した電子管楽器の笙などとともに、発表の記録映像を展示。また会期中に参加型のライブパフォーマンス「声の楽器と耳のロボット」を実施した

都市/街

清水愛恵氏による『東京観測』や志村翔太氏による『モビル文学』、鈴木椋大氏による『電車エレクトロニカ~神戸篇~「阪神電鉄とラジオと街 みんなを乗せていくよ」』、永田一樹氏の『ベッドタウン・AI』は、テクノロジーを介して、街や都市、環境に向き合うプロジェクトだ。

清水愛恵『東京観測』。自身が住む街・東京を観測しその特徴を抽出した作品「東京観測」シリーズによる個展を実施。本展では新作を中心に静止画や映像を展示した
志村翔太『モビル文学』展示風景と志村氏。映像装置に改造した自転車を用いて、各地の街を舞台に執筆したテキストをその土地の地面に投影しながらサイクリングする連作を発表。改造した自転車や記録映像、ドキュメントなどを展示した
鈴木椋大『電車エレクトロニカ~神戸篇~「阪神電鉄とラジオと街 みんなを乗せていくよ」』。電車のモーターから発せられる微弱な電波を昔ながらのアナログラジオで受信し、その音をきっかけに路線の歴史やエピソードを音の物語として紡ぎ、人々とともに作品化するプロジェクト。神戸でプロジェクトを実施し、その記録を展示した
永田一樹『ベッドタウン・AI』展示風景と永田氏。AIの物質的な側面や環境的な側面に着目した複数の作品を展示する展覧会を開催。本展では東京都日野市における建設予定のデータセンターのリサーチをもとにした映像作品『ベッドタウン・AI』などを展示した

家族/家庭

orm(藤井智也+高橋ちかや)氏による『Wonderland』や小川柚帆氏による『まぼろしの家族』は、家族や家庭に向き合ったプロジェクトだ。

orm(藤井智也+高橋ちかや)『Wonderland』展示風景と高橋氏(左)、藤井氏。自閉スペクトラム症という特性を持つ自身の子どもとの経験をもとにした体験型演劇作品。都内のギャラリー・Space√Kで行ったインスタレーションをブース内に再構成し、ハンドアウトを用意した
小川柚帆『まぼろしの家族』。家族代行サービスで提供された人物たちによる「家族写真」。大判出力した写真と、撮影時の記録映像、家族代行サービスの領収書を展示した

創作支援から発表支援へ

前年度創作支援プログラムで作品をかたちにし、今年度発表支援プログラムの支援を受け発表の場を得たクリエイターが3組見られた。

スタジオ石(代表:Mr.麿)『台湾原住⺠の音楽ドキュメンタリー“stillhualian” 上映会&ライブイベント』。昨年度『プロジェクト『ZOKU』第一弾作品 “stillhualian”』にて台湾先住民の音楽ドキュメンタリー映像を制作し、今年度はその上映会および出演者によるライブイベントを実施。ライブ映像の上映のほか、台湾のヒップホップシーンを伝える展示を行った
藤堂高行『『鎖に繋がれた犬のダイナミクス』海外発表』展示風景と藤堂氏。鎖に拘束された不自由な状態で自律ロボットを展示するインスタレーション作品『鎖に繋がれた犬のダイナミクス』を昨年度制作した藤堂氏は、今年度はその海外展開に向けて発表支援プログラムに参加。ロボットと海外での展示記録映像を展示した
森田崇文『The MorphFlux Series』。昨年度、『群ロボットの動的配置を活用した磁性流体駆動に基づく実体ディプレイの創作』にて作品を制作した森田崇文は、「The MorphFlux Series」と題して磁性流体を用いたシリーズ作品を展開し展示した

そのほか、花火師によるプロジェクトや青森のイタコ文化に着目したプロジェクト、多言語マンガの展開など、多彩なプロジェクトが並んだ。

島田清夏『here/there』。火薬と花火、暴力と祝祭など、火を見る行為が持つ両面性を素材に、映像インスタレーションを展開。制作過程を追ったドキュメント映像と資料を展示した
中澤希公『泡沫をたずねて』展示風景と中澤氏。青森のイタコ文化や恐山を参照し、泡の生成と消減に音響を重ね、死者との非言語的交信を探るインスタレーション作品を発表。青森で行った展示を再構成した
中村駿『物のイメージ/The Object as Representation』。モノクロ写真のビジュアルを現前する物体に展開する試み。グレースケール化された造花や食品サンプルなどが並んだ
野良洞『多言語漫画 書籍化・国内外発表プロジェクト『The Watermelon The Three Moths The Glass Land』+『海に行く!바다에 간다!去海邊!』』。中国語・日本語・韓国語による多言語マンガ2作品を制作、書籍化し国内外で発表するプロジェクト。壁面展示のほか、来場者が手に取って読めるマンガが置かれた
村本剛毅『Beautiful Medium: 美しい媒体』展示風景と村本氏(左)。「メディアアート」という名称に着目し、メディアそのものが芸術作品となる可能性を提示。会期中、イベントスペースにてトーク「Medium Art | メディウム・アート」を実施した
百瀬文『ガイアの逃亡』。南フランスで撮影した映像を中心に構成した3チャンネルビデオインスタレーション
渡邉顕人『Aerial spider』。蜘蛛の巣の構造に着目し、ドローンと幾何学的アルゴリズムを用いて自然の造形原理を再解釈した。制作に使用したドローンと映像を展示

会期中は各クリエイターによるトーク、パフォーマンス、ワークショップを実施したほか、次世代のクリエイター向けのセミナーや、短編アニメーション分野の人材育成を推進する連携プログラム「New Way, New World: Program for Connecting Japanese Animators to the World」による上映やトークイベント、国際的に活躍できるメディアアートクリエイターを育成・支援するプログラム「WAN: Art & Tech Creators Global Network」によるトークイベントも行われた。

information
令和7年度 文化庁メディア芸術クリエイター育成支援事業
成果発表イベント「ENCOUNTERS」
会期:2026年2月28日(土)~3月8日(日)11:00~18:00(最終入場17:30)
   ※2月28日(土)、3月6日(金)、7日(土)のみ11:00~19:00(最終入場18:30)
会場:TODA HALL & CONFERENCE TOKYO
入場料:無料
主催:文化庁
https://creators.j-mediaarts.bunka.go.jp/encounters-2026

※URLは2026年7月23日にリンクを確認済み

新進クリエイターの現在地 令和7年度文化庁メディア芸術クリエイター育成支援事業成果発表イベント「ENCOUNTERS」レポート[前編]

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