坂本 のどか
写真:小野 博史
15年目を迎えた「文化庁メディア芸術クリエイター育成支援事業」。令和7年度も昨年度と同様、40組のクリエイターが採択され、各々のプロジェクトに取り組んできました。2026年2月28日(土)から3月8日(日)の9日間、昨年度に引き続きTODA HALL & CONFERENCE TOKYO(東京・京橋)のホールA/Bおよびホワイエにて開催された成果発表イベント「ENCOUNTERS」は、約半年間の支援期間における成果を発表する場です。採択クリエイターが各々のプロジェクトをプレゼンテーションしました。前編では「国内クリエイター創作支援プログラム」採択クリエイターの展示をレポートします。

若手クリエイターの創作・発表を支援する「文化庁メディア芸術クリエイター育成支援事業」は、次世代のメディア芸術分野を担うクリエイターのレベルアップやそのための育成環境の整備、クリエイター同士のコミュニティ形成を目的としている。資金面の支援はもとより、プログラムにはアーティストやキュレーター、プロデューサー、エンジニアなど専門的な視点や経験値を持つアドバイザーが伴走しクリエイターの活動を支援する。
本イベントはその成果発表の場にあたるが、完成作品による作品展ではない。支援事業には「国内クリエイター創作支援プログラム」「国内クリエイター発表支援プログラム」と二つの枠があり、それぞれで支援の内容や条件が異なる。開発の途上にある作品のプロトタイプや、あるいはすでに別の会場で発表した作品を本展に合わせて再構成したものなど、プロジェクトによってその段階や見せ方はさまざまだ。
「国内クリエイター創作支援プログラム」は5年以上の活動実績や受賞歴のあるクリエイターによる「新たな挑戦」を支援するプログラムだ。令和7年度は16組のクリエイターが採択された。
採択クリエイターには支援期間中に数回、2名のアドバイザーとの面談の機会が設けられ、技術面やコンセプトメイキングなど、創作にまつわるさまざまなサポートやアドバイスを受けながらプロジェクトを進行することができる。年度中のプロジェクトの完成は求められないため、成果発表イベントでは進行中のプロジェクトをどう伝えるかに重点が置かれ、プロトタイプやイメージ映像、活動の記録映像、デモンストレーションなどによるプレゼンテーションを試みることになる。
採択クリエイターにはもともとテクノロジーの扱いに長けたクリエイターが多いが、制作にテクノロジーを取り入れるきっかけとして本事業を活用するクリエイターもいる。木戸龍介氏と山中千尋氏は、アナログな制作手法を主としながら、本支援事業を通して新たな表現に挑戦したクリエイターだ。
木戸氏は電動工具のリューターを用いた木彫によって立体やインスタレーション作品を制作してきたアーティストだが、本支援を通してその制作プロセスにロボットアームを取り入れ、アーティストとロボットによる協働の可能性と限界を見つめるプロジェクト『Inner Light — Dialogue through Two Hands —』を実施。会場ではプロジェクトの記録映像とともに、従来の手法で施された彫刻と、アーティストの手捌きを学習したAIとロボットアームによる彫刻が比較展示された。

「里山の記憶」をもとに、絵画的なアプローチと抽象表現を軸にアニメーション制作を行ってきた山中氏は、その制作にAIを取り入れることを試みた。山中氏はこのプロジェクトに取り組むまで、AIを制作に用いることはなかったが、仕事でAIの使い方を学び、制作に生かしたという。滲みや混色といった絵画ならではの表現をAIによって拡張しながら、自身のアナログ表現を重ね合わせ撮影するという独自の手法で新たなアニメーション制作に挑んだ。展示では壁面に複数のシーケンスを投影しながら、制作風景を再現した。


自身で継続してきたプロジェクトを、本支援事業を通してさらに展開させたクリエイターもいる。自作装置の制作や楽器による展示、演奏を国内外で行うアーティスト、すずえり(鈴木英倫子)氏は、2022年頃から継続する可視光通信システムを用いたプロジェクトをさらに展開させ、楽器「OP-Tone」と、レーザーの光と音を用いた新たなインスタレーションという二つのプランの実現を目指した。同システムを用いた作品の開発・発表はこれまで継続的に行ってきたものの、レーザー光を取り入れたグラフィカルな展開は新たな挑戦でもあった。作品はいずれも一旦完成を見せ、会場での展示が叶った。


自ら開発したAIと協働して絵画、彫刻、インスタレーションの制作を行うアーティスト、岸裕真氏による『xoxo-skeleton』は、AI生成の動作を装着者に微細な振動として伝えるウェアラブル作品を制作するプロジェクトとしてスタートした。支援期間を経て具現化されたのは、採択当初の作品イメージ1からは想像できないような、巨大ロボットの肋骨を思わせるようなデバイスと、それに操られるかのような岸氏によるパフォーマンスであった。AIと人の関係を突きつめた先でこのかたちに行き着いた、そのプロセスが興味深い。

伊藤道史氏による『虚影技術幽譚プロジェクト/Ghosts of Dreamed-UP Technology Project』は、「科学技術の構想の亡霊性」をキーコンセプトに、過去の技術者や科学者たちが実現しえなかった夢や妄想をもとに、総合的な知覚体験として作品化しようと試みるプロジェクトだ。採択期間中、存命の技術者や科学者へのインタビューの機会を積極的に設け作品に展開したという。会場では予約制のVR体験と大型モニターによる上映を実施。モニターに映し出されたのは、インタビューの内容をもとに3DCGで制作された語り部的なキャラクターたちだ。VRゴーグルを装着すると、キャラクターたちが展示会場に浮遊し、体験者に語りかけた。
また、会期中には「UFOを招ぶ。超能力者と集う。」と題し、同支援事業の採択クリエイター、すずえり氏、菊永絢音氏のほか、多摩美術大学教授・久保田晃弘氏やUFO研究家の比嘉光太郎氏などを迎えたトーク/ライブパフォーマンスを実施した。


創作支援プログラムにはそのほか、3DCGの考え方で実在の建造物を再構築するプロジェクトや、映像のエフェクトを物理的に再現する装置視覚効果など、ボーンデジタルなものや考え方を実空間に再現するようなプロジェクトが並んだほか、異なる言語を融合した新たな民謡の創造や多視点性を持ったゲーム、動くマンガなど、さまざまな着眼点や試行錯誤が見られた。民謡や民俗芸能といった土着的な文化・風習に加え、身体や知覚に着目したプロジェクトが多く見られたのも印象的だ。











脚注
information
令和7年度 文化庁メディア芸術クリエイター育成支援事業
成果発表イベント「ENCOUNTERS」
会期:2026年2月28日(土)~3月8日(日)11:00~18:00(最終入場17:30)
※2月28日(土)、3月6日(金)、7日(土)のみ11:00~19:00(最終入場18:30)
会場:TODA HALL & CONFERENCE TOKYO
入場料:無料
主催:文化庁
https://creators.j-mediaarts.bunka.go.jp/encounters-2026
※URLは2026年7月23日にリンクを確認済み
>新進クリエイターの現在地 令和7年度文化庁メディア芸術クリエイター育成支援事業成果発表イベント「ENCOUNTERS」レポート[後編]