次世代クリエイターを支援する場として 令和5年度文化庁メディア芸術クリエイター育成支援事業 成果発表イベント「ENCOUNTERS」レポート

坂本 のどか

写真:小野 博史

「国内クリエイター創作支援プログラム」採択者16組による展示

地下3階の空間、スペースオーで行われたのは「国内クリエイター創作支援プログラム」にて採択を受けた16組による成果発表展示。クリエイターの創作プロセスを支援する本プログラムでは、金銭的な支援に加え、支援期間中3回にわたりアドバイザーとの面談を実施。クリエイターとアドバイザーが並走し、課題解決やステップアップを図る。

以下、16組それぞれを展示番号に則って紹介する。坂本洋一+坂本友湖による『伝統工芸和紙製作におけるテクノロジーの応用』は、徳島の和紙工房に足を運び製造工程をリサーチし、伝統的な手業にテクノロジーが介入することでできる新たな表現を模索してきた。自作のプロッターを稼働させ、プロッターが和紙繊維をプロットしていくさまと、成果物のサンプルを展示。

坂本洋一さんと坂本友湖さん。『伝統工芸和紙製作におけるテクノロジーの応用』の展示スペースにて

堂園翔矢による『ORBITAL ART – 芸術と科学の領域横断コラボレーションによる軌道芸術作品の制作』は、JAXAの研究者とのコラボレーションを通して、小惑星や人工衛星の軌道を可視化、可聴化する試み。2台のモニターを同期させ、一方では軌道を線的に可視化した映像、もう一方では、それを元に可聴化した音と、音をさらに可視化した映像を上映。音はヘッドホンで聴くことができる。

堂園翔矢『ORBITAL ART – 芸術と科学の領域横断コラボレーションによる軌道芸術作品の制作』

『Laser Ropes』は、直線的なイメージを持つレーザー光が「柔らかいゴム紐のように動いたらおもしろい」という発想から生まれた、竹森達也によるユニークな試みだ。錯視効果を用いて発想の実現を試みた実験映像や、制作のプロセスでできたさまざまな装置のプロトタイプなどが展示された。

竹森達也『Laser Ropes』

長野櫻子(anno lab)の『それぞれの日々』は、いつの間にか過去のものとなりつつあるコロナ禍における人々の機微を、インタビューを基にアニメーションとして記録したアニメーション・ドキュメンタリー作品だ。本展ではモニターでアニメーションを上映し、またその周囲には原画を展示。登場人物を描いた絵に、トレーシングペーパーを重ねてマスクを描くという、本作ならではの手法で制作された原画だ。

長野櫻子(anno lab)さん。『それぞれの日々』の展示スペースにて

3Dスキャン技術によって、工房と工房における制作過程を記録する試み『表現力豊かな《工房》の模型』は、戸石あき(lemna)によるプロジェクト。ガラス工房における制作を記録した3Dスキャン映像や関連資料を展示したほか、本プロジェクトにまつわる論考やエッセイをまとめた小冊子を展示配布した。

『表現力豊かな《工房》の模型』の展示スペースにて、解説する戸石あきさんとアドバイザーの森田菜絵さん

ニヘイサリナによる『Five Orphans』は、5人の孤児を主人公に、混沌とした社会で生きるために闘うさまを描く短編アニメーション作品。本展ではアニメーションのデモ映像と原画を展示。これまで個人制作を主としてきた作家が、本プロジェクトにおいてスタッフワークに挑戦し、作品の密度とリアリティの向上を目指した。

ニヘイサリナ『Five Orphans』

2007年生まれのクリエイター、仲田梨緒+宇枝礼央は今年度の最年少採択者。VRを用いた『oToMR – Tactus』は、現実世界の環境音と人の脳が認知する音の関係性に焦点を当てたプロジェクトだ。来場者はVRゴーグルを装着し作品を体験。VR内の映像は壁面のモニターでも見ることができ、またもう一台のモニターでは、作品のコンセプト動画を上映した。

仲田梨緒+宇枝礼央『oToMR – Tactus』を体験する様子

高橋祐亮によるプロジェクト『trash for you「VRと現実空間の相互作用から生まれる多層的な想像」』は、プロジェクトの進行とともにテーマが絞られ、応募時にはVRでの体験型作品として展開される予定であったものから、「自宅と境界」をテーマとした、ゲームのプレイ動画を模したメタ構造を持つ映像作品へと昇華された。壁面のモニターでは作品を上映し、展示台に設置した小型のモニターでは、プロジェクトの過程で制作したデモ映像を上映。

高橋祐亮『trash for you「VRと現実空間の相互作用から生まれる多層的な想像」』

『彼女の話をしよう』は、副島しのぶによる神話をモチーフにした短編アニメーション。リサーチやインタビューを行い、またアニメーションに用いる造形物の制作を他者に委ねるなど、副島にとって新たな挑戦を多く含んだプロジェクトとなった。モニターでデモ映像を上映したほか、原画や造形物など、さまざまな関連資料を展示。

副島しのぶ『彼女の話をしよう』

原田裕規による『Waiting for プロジェクト《Home Port》』は、レンダリングポルノをアートとして再解釈した自身のCG映像作品をベースに、平面作品へと展開するプロジェクト。本展では一つの映像を縦位置にして並べた三つのモニターに分割して展示した。モニターの存在をあえて感じさせるその展示形態が、絵画と映像の境界への作家の意識をうかがわせる。

原田裕規『Waiting for プロジェクト《Home Port 》』

ネメスリヨによる『ONCE』は、前述の原田の作品と同様、縦位置のモニターを複数台使用したが、こちらはモニター同士の間に空間を空け、鑑賞者を囲むようにして設置。隣り合う世界のつながりとズレを、動画とアニメーション、インタラクティブな仕掛けを駆使して表現する作品だ。3Dハンドトラッキングセンサ(リープモーション)を用いて鑑賞者の手を動きを感知し、モニター3台で同期する映像を操作可能にしている。

ネメスリヨさん。『ONCE』の展示スペースにて

雑然とした誰かの自室を思わせる一角は、山形一生+ひらたとらじによる『Farewells – Prologue』の展示空間だ。本作はゲーム内の主人公の実生活と、彼自身がプレイするビデオゲームを操作することで物語が展開される、重層的なビデオゲーム作品。鑑賞者は部屋のような空間に置かれた寝具やクッションに身を預けながら、実際にゲームをプレイし体験した。

山形一生+ひらたとらじ『Farewells – Prologue』を体験する様子

布施琳太郎による、美術館にとっての「建築」を再考するプロジェクト『海の美術館』は、来場者参加型のワークシートと映像で作品をプレゼンテーションするかたちに。インドやフランスにおけるル・コルビュジエによる建築の現地調査を軸にした本作。ゲームを介したコミュニケーションによって、現地の専門家との対話やリサーチを行いながら、新たな美術館建築のプロトタイプを提示する試みだ。なお、本プロジェクトは3月12日から開催される「ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?―国立西洋美術館65年目の自問|現代美術家たちへの問いかけ」に出展を予定している。

布施琳太郎『海の美術館』

『短編アニメーション『普通の生活 Ordinary Life』の展示版を作る』は、水尻自子による、展示空間を意識した発表形態へと自作を発展させる試み。本展では、プロジェクトのゴールとしている海外での個展で実施予定の、四つのモニターを併置した展示のプロトタイプにトライした。

水尻自子さん。『短編アニメーション『普通の生活 Ordinary Life』の展示版を作る』の展示スペースにて

川田祐太郎による『Formation and Perceptualization of “Kairosymbiosis”: Human-Paramecium Interplay』は、人とミドリゾウリムシを共存させることで、その間に生じる体内時計の相互作用によって時間を表現する試み。ミドリゾウリムシの体内時計を計測するキットと、計測された数値を可視化した映像を展示した。

川田祐太郎『Formation and Perceptualization of “Kairosymbiosis”: Human-Paramecium Interplay』

『A Garden of Prosthesis』は、花形槙による、作庭をモチーフにその概念を拡張することを試みたパフォーマンス作品だ。作品では人工物やAI、人間の肉体などを全て等価に扱い、人間中心主義的な関係を反転し新たな関係性を形づくる。本展ではパフォーマンス公演の映像(MIND TRAIL 奥大和 心のなかの美術館OPEN SITE 8)のほか、パフォーマンスに用いたオブジェクトを展示。内覧会ではクリエイターによるパフォーマンスも実施した。

花形槙さん。『A Garden of Prosthesis』の展示スペースにて

スペースオーでは以上の16組の展示のほか、榊原澄人『飯縄縁日』(平成24年度採択クリエイター)、ぬQ『ぬQ特集上映』(平成26年度採択クリエイター)、吉開菜央『吉開菜央 特集上映』(平成28年度採択クリエイター)、GengoRaw(石橋友也+新倉健人)『バズの囁き』(平成30年度採択クリエイター)と、過年度採択クリエイター4組による招待展示を実施。

GengoRaw(石橋友也+新倉健人)による『バズの囁き』(平成30年度採択クリエイター)
榊原澄人『飯縄縁日』(平成24年度採択クリエイター)

国内クリエイター発表支援プログラム

続く小展示室では、今年度から新たに設けられたプログラム「国内クリエイター発表支援プログラム」の成果発表を実施。展覧会、上映会、公演、ワークショップなど、クリエイターの発表の場づくりを支援する本プログラムには24組のクリエイターが採択され、国内外各所で作品発表を展開中だ。本展では各プロジェクトを紹介するパネル展示をメインに、いくつかのプロジェクトについては作品を展示したほか、プロジェクションにてプロジェクトの関連映像を上映した。 

パネル展示の様子。発表支援プログラムの採択クリエイターは石川達哉/石原航/伊藤道史/牛島光太郎/小原開+柴田莉紗子+丸山翔哉/小林玲衣奈/近藤洋平/坂根大悟+市川しょうこ/塩澄祥大/宍倉志信/柴田一秀(サイバーターン)/諏訪葵/佃優河+猪瀬暖基+頃安祐輔(-間-)/津田翔一/tsumichara/寺尾悠/土居伸彰(ニューディアー)+折笠良/中尾拓哉+山内祥太/中村恵理/浪川洪作+永田一樹/原田明夫/古澤龍/細井美裕/ゑゑ
宍倉志信『子どもたちの庭』は、ゲーム作品の鑑賞装置の制作と展示を実施。作品の実物を展示した
作品を持って紹介する原田明夫さん。『3つの再創造(Recreate)「プラ継」、「地掌器」、「雲舟」への挑戦』にて、金継ぎの概念を現代のテクノロジーに応用した作品の展示発表を行った

また内覧会では、スペースオーの一角に設けられたイベントスペースに、発表支援プログラム採択クリエイターが入れ替わりで立ち、自身のプロジェクトの紹介を行った。会期中は同スペースにて、採択クリエイターや過年度採択クリエイターによるワークショップ、デモンストレーションが予定されている。

創作の裏側を紹介する特別展示とサテライト企画

加えて、吹き抜けに位置する大階段では、メディア芸術分野で活躍するクリエイター、磯光雄、西村ツチカ、浅野いにお、Boichi/尹仁完、あけたらしろめ、UNSEEN、Skeleton Crew Studio、生高橋の8組による特別展示を実施。創作の裏側にあるコンセプトメイキングや制作プロセス、技法などを紹介する。さらにサテライト企画として、クリエイター向けのセミナーやトークイベントも実施予定だ。後日アーカイブ映像の配信も予定されている。

Skeleton Crew Studioによるゲーム作品『Olija』の資料展示とインタビュー映像上映。
Boichi/尹仁完によるマンガ作品『スーパーストリング -異世界見聞録-』の展示には作家の絵とサインが添えられた
各フロアに設けられたアートスペースには、特別展示出展作家の作品を大きく展示

 

浅野いにおによる展示には、コロナ禍をきっかけに実施した、マンガの描き方を作家自らが実況するライブ配信動画を上映
吹き抜け大階段の展示風景

今年度から新たなフェーズに入った文化庁メディア芸術クリエイター育成支援事業。その初回とも言える本成果発表イベントは、採択クリエイターの発表の場にとどまらず、次世代クリエイターの育成をテーマに多角的なアプローチで構成された展示となった。

information
ENCOUNTERS
令和5年度 文化庁メディア芸術クリエイター育成支援事業 成果発表イベント
会期:2024年2月17日(土)~25日(日)
時間:日曜~木曜 11:00~18:00(最終入場 17:30)
金曜・土曜 11:00~20:00(最終入場 19:30)
会場:表参道ヒルズ 本館
①成果プレゼンテーション展:B3F スペースオー
②特別展示:吹き抜け大階段/アートスペース(各フロア)
入場料:無料
主催:文化庁
https://creators.j-mediaarts.jp/encounters-2024

※URLは2023年2月19日にリンクを確認済み

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