ゲーム特別座談会 さやわか×平井和佳奈×向江駿佑 移り変わる環境とコミュニティの発展[前編]

洋ナシ

写真:ひろぽん

左から、向江氏、さやわか氏、平井氏

利用料徴収発表の衝撃

――直近で起きた大きな出来事として向江さんから挙げられたのがUnity Runtime Fee問題。ゲーム開発エンジンの大手であるUnityが、自社商品であるUnityエンジンを使ってつくったゲームのダウンロード回数に応じてエンジン利用料を徴収するように変更すると、2023年9月に急に発表し大きな話題となりました。

向江 正直この発表に衝撃を受けた人の反応って、一様ではない部分もあるかなと思っていて。というのもこの料金体系の変更って、中堅どころが一番ダメージを受けるんです。大手は料金体系の変更にもエンジンの変更にも対応でき、小規模開発者はそもそも料金変更の影響を受けませんから。選択肢がほかにあればそちらのエンジンに乗り換えられますが、Unityのようにデファクトスタンダードになるとみんながそれに合わせてアセットや知見を共有するので、これを使うのが一番楽になるんですよね。

さやわか これってGAFAのようなプラットフォーマ側の基本的なパターンというか。フリーに、あるいは安価に使えると謳ってユーザーを集め、そのサービスから離れない状態をつくったあと、突然お金を要求したり、高額化したりしてくる。この仕組み自体が問われています。一方で、オープンソース運動のようなフリーモデル、またはシェアモデルも古びている。何か違う、新しいモデルがそろそろ現れたらいいなと。

向江 今回はこれまでに作成された過去の分までさかのぼって徴収すると言ってしまったから、あまり影響を受けない層からも、そんな会社とは契約できないという感情的な反発が出ました。だから先のモデルから変わっていくとすれば、共感ビジネスというか、私たちはあなたのサイドにいますよとアピールして人気を得ていくモデルなんじゃないかなと。

さやわか そもそもこれはゲームエンジンが売られるようになってから潜在的にあった問題じゃないですか。Unreal Engineを使うと莫大にお金を取られちゃうぞとか噂はされていた。そのなかでUnityはどこか救い主のように思われていたけれども結局はこういう問題が起こった。世の中がSNSを中心にある種の信頼を求める状況になっている以上、企業体も「こいつはいいやつだ」と思われる必要があるのかもしれませんね。

平井 数が正義になっているという現代の傾向と結びついているところもあります。評価を先に見て、点数が高ければ買うことが普通になってしまった。真新しいものを自力で発掘するにはエネルギーを要する時代となりましたね。

サブスクサービスでの試行錯誤

――Unityのトピックはかなり大きな問題ですね。同じ2023年9月に発売されて話題になったのがさやわかさんが挙げた『Starfield』です。

さやわか ゲームそのものの評価は別にありますが、このゲームは特に大手であるベセスダ・ソフトワークスの新規IPビッグタイトルをいきなりサブスクリプションサービスで出したのがおもしろい。ゲーム自体も充実した内容で、サービス加入者にとってはタダみたいな気分で遊べるのはいいことです。一方で、まずいと感じるのは売れた数がわからないということ。アクティブユーザーがどのぐらいかといった発表はあるが、それが本当に人気とつながっているのかわからない。サブスクに入ることで出荷本数といった客観的な数字が流通などの第三者から示されるわけではなくなっている。これだけの大きなタイトルがそういう状況になるのは相当なことです。「ダウンロード数がすごい」といった客観性のない表現で今、ネットを中心としたあらゆるコンテンツの評価の仕方が揺れ動いている。ゲームもそういうものになっていくのかなと。コンテンツ全体が、漠然と「人気があるらしいから」くらいの理由でアクセスされるようになっている。ある種の観光地のようなものとして見られていると言ってもいいです。人気がある場所みたいなのがあるらしいから行くという、名所のようなものに変わっていっているんです。

さやわか氏

平井 格闘ゲームも、周囲の対戦者や観戦者の多さから影響を受けて自らプレイヤーになる方も多いようです。まったくそのゲームを知らない方が、初めてゲームを見る機会が実況配信によって増えている。実況者やプロゲーマーの配信は注目を集めやすく、その内容も番組として企画や構成が練られています。配信のおもしろさで高まった注目や、誰が配信しているかが、一つの鍵となっている。

向江 さっきの観光名所の話は的を射ていると思いました。ある意味現代の教養みたいになっているのかなと。ただそこで問題になるのがサクラに惑わされてしまうことです。わかりやすいサクラならまだいいですが、いつもそうとは限らない。数の上では評価されていても、それらが本当にプレイに値するものか、ユーザー側には判断が難しい。今の世代には、そういうところはあまり気にならないのかもしれませんが。

さやわか そうなるとサブスクリプションサービスで運営する企業がやらなきゃいけないのは「盛り上がってる感」をどう演出するかで、そこで明暗が分かれるんでしょうね。やりすぎればここのサービスはステマ・サクラをやっているぞと広まって、ユーザーの共感を得られず上手くいかない。

――サブスクリプションサービスの話題で向江さんよりもう一つ挙がっているのが「オトメイトコレクション終了」です。こちらはアイディアファクトリーの乙女ゲームブランドであるオトメイトが始めたサブスクリプションサービスで、スマートフォンやブラウザでオトメイトの作品が遊べるというものでした。2022年10月からサービスが開始されましたが、1年たった2023年10月31日でサービス終了となってしまいました。

向江 オトメイトは多方面に展開しているブランドで、海外展開も積極的に行っているんです。2022年にファンクラブからオトメイトコレクションに切り替えたんですが、一社でやっているのでどうしてもタイトル数が少なくて。1年近くやって、体験版を除くと8タイトルぐらいかな? アニメや2.5次元舞台の映像とかも見られるようにして間を持たせていた感じでした。となると、すでに収録作品を持ってる熱心なプレイヤーほど、入らなくてもいいかなと思ってしまう。私も新しいタイトルが入るのを待っていたら、サービス自体が終わってしまった。ただ、今度はオトメイトグラフィティという新しい動きを打ち出しています。これはサブスクではなく、過去の作品をNintendo Switchに移植するというマイグレーションです。サブスクには早々に見切りをつけた一方で、家庭用ゲーム機にもう一回振り直している。オトメイトはやはり後者に活路を見出しているなと、ここ2年の動きを見ていると感じます。

向江氏

――今回乙女ゲームでは自社タイトルのみだったために花開かなかったのかもしれませんが、例えばホラーゲームであったり、格闘ゲームであったり、このようなジャンル固定のサブスクが出てくる可能性はあるでしょうか?

向江 ケーブルテレビのチャンネルを考えてみるとわかりやすいですね。ナショナルジオグラフィックのような成功例がある。それを参考にすれば、まだファン層が確立していない地域ならできるかもしれない。日本のようにすでにゲームをたくさん買っているファンが多くいる場合、その人たちをサブスクへ振り向かせるには仕掛けが必要です。そのうえで人気タイトルをコンスタントに配給してくれるメーカーをしっかり抱き込めれば、可能性はあるかなと。

平井 格闘ゲームといった対戦ゲームは環境がまた違います。リフレッシュレート1の影響が大きいビデオゲームといえます。先の乙女ゲームのような、ビジュアルノベルなら絵とストーリーが重視される。対戦ゲームはそうではない。対戦ゲームではソフトだけではなくゲーミングモニターのようなハードウェアも必要になる。対戦者の資産によって、対戦環境が変わる。その様子は、競技として平等なのか?という議論はあります。

さやわか 逆に、ハイスペックなハードウェアが必要ではない、高速な動きやリアルタイム性を必要としないタイトルなら可能ということですよね。例えば、今現在オールドスタイルな作品が流行ってプレイヤー層をつくっているので、そういう作品をまとめればあるいは。

中国乙女ゲームの台頭

――向江さんより乙女ゲームのトピックとして、もう1点挙げていただいているのが2023年10月20日に日本国内でサービスを開始した『時空の絵旅人』です。実は今アジアを中心に中国乙女ゲームが盛り上がっているというご指摘で、「四大国乙」と呼ばれる中国4大人気乙女ゲームの『恋とプロデューサー』(Papergames)、『光と夜の恋』(Tencent Games)、『未定事件簿』(miHoYo)、『時空の絵旅人』(NetEase)のうち、3作がこれで日本に上陸したという形になります。

向江 最初に上陸したのが『恋とプロデューサー』で、2019年ですかね。次が『未定事件簿』で、日本版は2021年。そして先日『時空の絵旅人』がリリースされ、あと1作はまだ来ていないという状況です。ただこれらは乙女ゲームとはいいつつも、ガチャゲーに近いんですよ。

『時空の絵旅人』ビジュアル(引用元:『時空の絵旅人』公式X

――キャラクターをガチャで当てて、育成して、敵と戦うRPGということですね。

向江 『あんさんぶるスターズ!!Music』(2020年)2とか『アイドリッシュセブン』(2015年)3のような、これまであった恋愛要素が薄めのゲームに、ちょっと濃いめのロマンスを足したような形ですね。この流れってすごく自然なことで、例えば『あんさんぶるスターズ!!』は中国の会社(Happy Elements)が配給元なんですよ。ただ開発は日本スタジオ(カカリアスタジオ)なので、そこの相互交流っていうのがもう10年ぐらいずっとあるんです。初期の『あんさんぶるスターズ!』(2015年)は画面上のボタンを単純にタップするシンプルなゲームでしたが、現地スタジオが手を加えた中国語版でリズムゲーム要素が付け加えられ、『あんさんぶるスターズ!!Music』では逆に日本側がそれを発展的に取り入れている。そう考えると、中国の乙女ゲーマーはよりゲーム性を求めているのかもしれません。だとすれば、中国からこういう乙女ゲームがどんどん出てきているのも納得です。アメリカでも乙女ゲームはリリースされていて、かなりセールスを上げているものもありますが、システムはまったく異なり、読み進めるのにお金が必要なタイプなんです。中国では日本でうけているガチャゲーのスタイルと乙女ゲーの文化を吸い上げて、アレンジして発展してきた。そしてそれが日本へと戻ってきたというのが今の状況です。

――『恋とプロデューサー』の中国での大ヒットを皮切りに、巨大資本が乙女ゲームに流れ込んでいるようですね。すでに日本でも『ブルーアーカイブ』(NEXON Games)4 や『原神』(miHoYo)5のような中国・韓国大手企業のゲームが大きなセールスをあげていますが、乙女ゲームでも中国・韓国の巨大資本力でトップセールスを勝ち取るというのもありえるのでしょうか。

向江 日本ではオトメイトや「ネオロマンス」シリーズを手掛けるルビー・パーティーのような専門ブランドが乙女ゲームをつくっていますが、四大国乙は全部大手のゲーム会社がつくっているんです。こういう企業は乙女ゲームだけではなくて、売れそうなゲーム全般を手掛けている。そうやって資金を回収し、さらにそれを投下して豪華にしていくというハリウッドスタイルの制作なんですよね。人気絵師や声優陣が起用されていますし、今後日本でもさらに注目を集める可能性は十分にあります。

ジェンダー観の表現

――次はさやわかさんのトピック『ホグワーツ・レガシー』(2023年)です。注目されているポイントとして、性多様性について議論となった部分を挙げていただいています。

さやわか ややこしい話になっていると思いますが、まず原作者が保守的なジェンダー感を持っているというところから、ゲームに対してもボイコットが起こっていました。そこで「このゲームはそういうものじゃないんですよ」と強めに開発陣は主張していたわけです。そして実際にゲームが発売されてみたら同性婚をしたようなキャラクターが出てきたり、自分もジェンダーにとらわれずパートナーシップが結べたり、ゲーム内はLGBTQ+に開かれていた。ただ、逆にそれが許せないと言い始める人も現れて、それはそれで議論が巻き起こった。ほかのゲームでもこのような性多様や性表現の是非について声を上げる人は少なくないわけです。これはゲーマーゲート事件6がいまだ尾を引いているんだと感じます。この事件では女性あるいは女性ゲーマーというものにかなり限定されてはいましたけれども、性に対し非常に強硬かつ保守な主張が相次いだ。騒動としては2016~2017年には収束したように見えますが、問題が解決しないまま飽きられたと言ってもいい。つまり火種としてはまだくすぶっていて、合意が形成されたわけでも、人々の価値観が変わったわけでもなく、炎上を起こしやすいような状態が続いています。

『ホグワーツ・レガシー』より(引用元:MobyGames

向江 キャラクターの個性がゲームプレイに必須の要素として生かされるのが理想ですよね。ハリウッドでは、登場人物やスタッフの何%はマイノリティーにしなさい、というように比率で決めてしまっていますが、そういう配慮の仕方がゲームにおいてもうまく機能するかどうか。

平井 私はeスポーツ公式タイトルになっている格闘ゲームの、セクシーさやグロテスクさに関する論文を書いております。格闘ゲームでは審査機構のCEROとは、また別のところで議論や配慮が生まれている。これはeスポーツシーンへの参入という目標があるからで、例えば「Dead or Alive」シリーズはその過激な表現が枷となってeスポーツに入り込めない例があった。その作品らしさなのか、それとも競技らしい健全さを選ぶか、葛藤がある。こういう葛藤はどの分野にも起こっていると思います。大正時代から芸術作品に関する「エログロナンセンス」……どこまで許容するか?といった問題は日本に限らず昔からありました。そうしたエログロナンセンスを表現上の問題として含んできた格闘ゲームが「競技」として扱われるに際し、この問題をどうするかのアンサーは必ず求められるでしょう。個人的な意見としては道着のような、スポーティーな衣装に変わっていくのではと考えてはいます。最近だと男性のトップスも配信ツールでの規制が厳しくなりました。ボクシングや総合格闘技など上半身は裸体が公式な種目は、ゲーム化においてガウンを羽織るなどの措置がなされています。

「鉄拳」シリーズのおもしろさ

――格闘ゲームのお話が出ましたが、次は平井さんからの2015年リリースの『鉄拳7』 が発売から7年経った2022年に1,000万本ヒットを達成したという喜ばしいトピックです。

平井 格闘ゲームは、難解なイメージです。実際にプレイしても、難しい。情報量も多く、覚えることも多い。座学も必要になる。強くなるには努力も求められるジャンルです。『鉄拳7』もその流れがまだ残る時期に発売された作品です。しかし難易度に反して、プレイヤーも観戦者も増えた。『鉄拳7』のコミュニティにはあらゆる層の強さの方がおり、ユーザー層の幅広さを感じます。世界的なヒットの記録は「鉄拳」シリーズでは『鉄拳3』(1997年)以来の快挙だそうです。

『鉄拳7』より(引用元:『鉄拳7』公式ウェブサイト

さやわか 『鉄拳7』がほかと違う何かを持っていたということなんでしょうか?

平井 やはり競技ツールとして非常に活発です。それこそ世界中の人間も同じ競技を触っておもしろいといっているわけで、コミュニティの規模はすごいものです。では「『鉄拳7』の競技としてのおもしろさ」が具体的に何なのか?には明確な解答が今の私にはありません。プロとアマではそもそも競技の体験も異なり、売れた作品は「ヒット」とか「当たる」の表現どおり「偶発性」もあります。なので、他作品との差別化の秘訣や、「鉄拳」シリーズのおもしろさとは何かを明文化したく、追求しています。ただ、そうしたなかで注目したいポイントがあります。これは別に挙げたトピックにもつながります。実は、ちょうど2024年に次回作である『鉄拳8』が発売されます。皆様におうかがいします。CPUと戦うのがおもしろく感じますか? それとも、人間相手のほうが、やはり対戦していておもしろいですか。

さやわか 僕は正直、どんなゲームでもCPUとプレイするほうが好きです。どういうアルゴリズムなのかを考えるのが好きだからなんですけど。

向江 私はそれより、五分五分ぐらいの勝率で勝てる相手だと楽しいですね。

平井 競技である以上は、接戦がおもしろいのでしょう。自分より強すぎる人とやっても防戦一方になり、かといってCPUが相手だと生身の人間ではない。「勝利する」あるいは「勝てなかった人と競り合うようになる」「出せなかった技が出せる」などの成功体験を得ることが競技の楽しさです。できなかったことができる。それは、練習を積む動機になりうる。今、格闘ゲームの敵CPUの挙動に関する研究が盛んです。しかもそれは、初心者に配慮したものが多いんです。例えば、テンションが上がりすぎたり、極度の緊張状態に陥ったりして、普段打たない技を打つ、みたいな人間らしさをCPUに持ち込もうとするなどの論文が出てきている。『鉄拳8』にもちょうど人間的なCPU戦となるゴースト戦機能が搭載される予定なんです。どんな練度のプレイヤーでも参入して楽しめる環境を維持する環境づくりが必要なのかなと。あと話は変わりますが、格闘ゲームは日本のエポック・メイクにもかかわらず、日本人研究者は少ない。さらに研究が増えてくれればと思います。

平井氏

さやわか 今はどうかわからないですけど、僕が『僕たちのゲーム史』(2012年)を書いたとき、国会図書館にゲーメストの『ストリートファイターII』(1991年)7が最初に速報として掲載された号がそもそもなかったんですよ。これはよくないのではと感じましたね。資料価値があるものもまとまっていないし、多方面からの研究があってしかるべきなのにそれも進んでいない。おっしゃるとおりです。

脚注

1 モニターが1秒間に何回画像を表示可能か示す数値。例えば240hzだと1秒間に最大240回の描画が行える。格闘ゲームでは一般的に1秒間に60回の描画が行われるが、この描画間隔(フレーム)で技発生やキャラクターの硬直が管理されるため、フレームそのものが攻撃の成否を分ける重要な要素となっている。そのため、正確にゲーム映像を描画できるリフレッシュレートの高いモニターを使用することが推奨されている。
2 『あんさんぶるスターズ!』はHappy Elementsが運営、カカリアスタジオが制作を行うスマートフォン向けゲーム。またそれを中心としたメディアミックス作品群。男性アイドル養成学校である夢ノ咲学院を舞台に、プレイヤーは同学に編入してきた特別な女子生徒となり、さまざまなアイドルたちと関わっていくこととなる。続編『あんさんぶるスターズ!!Music』は前作の1年後、学院の卒業生たちが生み出した芸能プロダクション集合体へと舞台を移している。
3 バンダイナムコオンラインが運営、現在はG2 Studiosが企画・開発を行うスマートフォン向けリズム&ノベルゲーム。またそれを中心としたメディアミックス作品群。2015年よりサービス開始。父が経営する小鳥遊芸能事務所に入社した主人公は、同社初めての男性アイドルユニット「IDOLiSH7」のマネージャーに抜擢される。彼らとプレイヤーの成長、ほかアイドルたちとの関わりが描かれていく。2022年末に第6部完結、2023年夏に劇場版公開を終えストーリーに一区切りがついた。次の展開が待たれている。
4 韓国NEXON Gamesが開発し、グローバル展開されているスマートフォン向けRPG。日本では運営をYostarが担当している。神秘を宿した女生徒たちが暮らす別世界・学園都市キヴォトスへ外界から赴任してきた先生となり、生徒たちの抱える問題を解決するべく奮闘していく。生徒たちが属する学校・部活動ごとにストーリーが少しずつ展開し1本の大筋へつながっていく構造となっており、2023年1月にメインストーリーの第1部が完結し話題となった。
5 中国miHoYoが開発・運営を行っているオープンワールドアクションRPG。スマートフォン・PC・家庭用機で展開されている。数多の世界を渡る旅人であったプレイヤーとなる双子の兄妹は、幻想世界テイワットから旅立とうとしたそのとき、謎の神に襲われ封印されてしまう。封印から目覚めたプレイヤーは兄(もしくは妹)を探す冒険へと旅立つ。ストーリーの追加に伴い、その舞台となる国・エリアも追加する展開を行っており、プレイヤーの探索する世界はどんどん広がっている。
6 女性インディゲーム開発者に対する真偽不明の告発を発端とした出来事の総称。当初は当該告発内容に関する議論が中心だったが、住所晒しや嫌がらせをはじめ過激化。過激な行動は分断を生み、フェミニズム、宗教、人種差別まで議論は発展。あまりに話題と対立が広がったため、この出来事にどう反応しても炎上する土壌ができあがり、多くの人物が過激な嫌がらせの対象になった。
7 カプコンが1991年3月にアーケード筐体を稼働開始したアクションゲーム。現在も続く2D格闘ゲームのムーブメントを引き起こした歴史的作品で、コマンド入力や波動拳のような遠距離技、ガードに対する投げ技の優位性など、2D格闘ゲームの基礎がここで確立された。2023年にはシリーズ最新作『ストリートファイター6』が発売され盛り上がりを見せている。

[さやわか氏のトピック解題]

1 『Starfield』:サブスク販売から考えられる今後
マイクロソフトが販売する『Starfield』は同社のサブスクリプションサービス「Game Pass」に対応しており、加入していればサービス利用料のみでダウンロードし遊ぶことができる。過去にヒット作を数多く手掛けてきたベセスダ・ソフトワークスによる10年ぶりの新規タイトルがこうした形式で発売されたことは時代の変化を感じさせる出来事だった。

2 『ホグワーツ・レガシー』:巻き起こった性の多様性議論
「ハリー・ポッター」シリーズの原作者J・K・ローリングはトランスジェンダーに否定的な発言を行っており、同作を題材にしたゲーム『ホグワーツ・レガシー』には開発段階からネットを中心に不買運動などの動きが見られ、また逆にローリングを擁護するバックラッシュも起こり、いわゆる炎上状態となった。開発陣はほぼ沈黙を貫いたが、完成したゲームはトランスジェンダーの人物が登場するなど原作者との距離を感じる内容となった。

3 eスポーツ、実況配信:コミュニティにおける選手、実況者のふるまい
2022年にはeスポーツのプロ選手がネット配信番組でジェンダーや障害者についての差別発言を行い解雇される事件があった。またプロに限らずとも、ゲームのプレイ実況を主力コンテンツとするネット配信者が炎上したり、問題発言が取り沙汰されたりすることは日に日に増えている。こうした動向は日本に限ったことではなく、海外ではゲーミングコミュニティに特有の粗暴さがスポンサー企業の警戒心を招きつつあるという報道もなされている。

4 『ELDEN RING』『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』:ヒット作のナラティブの洗練
『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』や『ELDEN RING』などの作品は、明確な目的の提示や言葉によるルールの説明などがなるべく控えられ、プレイヤーの創意工夫が試されるようなつくりになっている。そのことから、これらの作品は懇切丁寧なガイドが重んじられる、一般的な日本のゲームを覆す印象を残すと言われることがある。

5 『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』:実況動画を見ている感覚
2023年に公開されヒットした『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』はゲームそのもののような画面構成や演出が多用された。一部の映画批評家は「誰かがプレイしているゲームを見ているようだ」と批判し、同作が既存の映画文化の枠組みで語ることができる作品なのか、あるいはそうされるべきか否か等、幅広い議論を巻き起こした。

さやわか
批評家、マンガ原作者。著書に『僕たちのゲーム史』(2012年)、『僕たちとアイドルの時代』(いずれも星海社、2015年)、『名探偵コナンと平成』(コアマガジン、2019年)、『世界を物語として生きるために』(青土社、2021年)など。マンガ原作に『永守くんが一途すぎて困る。』(ふみふみこ作画、LINE、2021~2022年)、『ヘルマンさんかく語りき』(倉田三ノ路作画、KADOKAWA、2023年~)など。「ゲンロン ひらめき☆マンガ教室」主任講師。

平井和佳奈氏のトピック解題]

1 『鉄拳7』:販売本数1,000万本超え
『鉄拳』は世界的なヒットを記録する人気対戦格闘ゲーム。最初の稼働は1994年のアーケードで、約30年の歴史を持つ。「鉄拳」シリーズは独自の操作法を導入している。右パンチ・左パンチ・右キック・左キックと、四肢に対応したボタンや、空中コンボや十連コンボといった独自性の強い連続技を持つ。2015年にリリースされた『鉄拳7』は、累計1,000万本を超えるセールスを記録した。この快挙は1997年の『鉄拳3』以来である。本作品の人気と多数のシェアがわかる。

2 格闘ゲーム研究:注目される「格闘ゲームAI」
デジタルゲーム研究は日本でも盛んになり、学術的な考察の対象となっている。しかし、対戦格闘ゲームに関する論文は、まだ数が少ない。近年の格闘ゲーム論文は、アルゴリズムと、それを用いた格闘ゲームAI研究が活況である。その背景には、CPU戦を楽しむプレイヤーへの配慮がある。なるべく人間に近い動きをするように、ただ強いだけでなくランダム要素も含めるなどして、日々格闘ゲームAIは研究されている。

3 eスポーツ:問われる選手のスポーツマンシップ
「eスポーツ」とは、「エレクトロニック・スポーツ」の略で、広義には、電子機器を用いて行う娯楽、競技、スポーツ全般を指す言葉である。eスポーツもフィジカルスポーツの選手と同様、企業にスポンサードされ、プロ選手も一般プレイヤーの規範となる姿勢が求められるようになった。格闘ゲームにおいても、攻撃的・差別的な発言はスポーツマンシップに反し、不謹慎だとされ現在は謹慎の対象である。はたしてeスポーツプロ選手たちは、どのようなふるまいが今後求められるだろうか。

4 ゲームセンター:店舗の閉店にかかるコミュニケーションの場の消失
パンデミックに陥り、数多くの歓楽施設が閉鎖や休業に追い込まれている。ゲームセンターも例外ではなく、コロナ禍で営業を停止したり、店舗ごと閉店した場所も少なくない。格闘ゲーマーたちにとってゲームセンターは、ゲームをする以上に、情報交換や観戦などコミュニケーションの場でもあった。現在の、接触を避けたPCでの世界大会は、安全ではあるが、会場の熱気や交流という代え難い付加価値は、ここ数年で大幅に減少した。

5 『Idol Showdown』:「ホロライブ」のVTuberたちの2D格闘
『Idol showdown』は女性VTuberグループ「ホロライブ」の所属タレントが登場する非公式ファンメイド対戦格闘である。本作品では、普段は3Dアバターや2Dイラストを伴って活動するVTuberがピクセルアートで表現されている。ゲームシステムは2D格闘。操作キャラと、それに加勢するアシストキャラが選べる。この作品の特徴は、普段はVTuberのライブ配信の試聴も、格闘ゲームもしない層にも広く普及した点である。多くの人を動かした2023年の話題作といえる。

平井 和佳奈(ひらい・わかな)
東京都出身。2019年夏デジタルゲーム研究者デビュー。かつて純粋数学者を志していたが、業績は哲学が多い。私淑の偉人は文系・アリストテレス、理系・ポール・エルデシュ。対戦格闘ゲームに対し、多角的な論証を行う。主目的は3D対戦格闘ゲーム「鉄拳」シリーズのシステムおよびコミュニティ解析。「なぜ『鉄拳』はおもしろいのか」を分析中。対戦格闘ゲームのおもしろさの構造、強豪プレイヤーを構成する要素など学術的な手法を用いて疑問の核心に迫る。主な論文として「最小分散法による鉄拳プレイヤーの階層型クラスタリング」『ゲーム学会第18回合同研究会「ゲームと教育」研究部会 研究報告』第18巻、第1号、2021年。研究外の活動として2002年ランウェイにデビュー。

向江駿佑氏のトピック解題]

1 Unity:料金改定騒動にみるゲーム制作環境の画一化問題
CEOの交代にまで拡大した本騒動だが、結局勢力図が変わるには至っていない。代替候補のUnreal EngineやGodotは、学習コストの高さやアセット充実度などの面で導入のハードルが高く、また結果的に中小規模の開発者に有利な料金体系に修正されたことで、乗り換える理由自体が薄れた。不信感が払拭されたわけではなく代替エンジンの潜在的需要は高まったが、当面Unityのシェアが大きく減少することはないだろう。

2 オトメイト:ファンクラブ終了に続き、サブスクも終了
ルビー・パーティーとともに乙女ゲーム市場をリードしてきたオトメイトだが、その分ジャンルの勢いが停滞した際の影響も大きい。国外でプラットフォームがスマホに移行するなか、スマホ版だけでなくあえてゲーム専用機にも注力する判断がどう作用するかは、今後の乙女ゲーム市場全体の方向性を左右する。スマホアプリメーカーのボルテージの一年ぶりとなる家庭用機向けオリジナルタイトルが、この流れに棹さすことになるかも注目される。

3 『時空の絵旅人』:中国の人気タイトルリリースで勢力図に変化の兆し
現状中国向けのみの『光与夜之恋』(光と夜の恋)もすでに日本語に対応しているため、遠からず日本でもリリースされると思われる。国内大手メーカーがゲーム機向けに供給を増やす一方で海外勢がスマホアプリにリソースを割く傾向は続きそうだが、国内では『アイドルマスター SideM』(2014年)や『金色のコルダ スターライトオーケストラ』(2021年)など人気タイトルの終了が続く。中国乙女ゲームにとっても、四大国乙や新作『恋と深空』がこの1、2年でどれだけ地歩を固められるかが勝負となる。

4 『MADiSON』:海外・インディーホラーゲームでのオールドメディアの存在感
座談会で言及された「小中理論」のように、メディアの入れ子構造が恐怖を喚起するのは映画やビデオ作品では90年代から盛んに見られる。視聴者としてそうした表現方法に馴染んだ世代が現在のゲーム業界で存在感を持つことも、昨今のブームの一因だろう。海外タイトルにおけるこうした傾向についてはVTuberの人生つみこ氏が『BRUTUS』No.991(2023年)のホラー特集で紹介しているので、そちらも参照されたい。

5 『バイオハザード RE:4』:(サバイバル)ホラーの原点回帰の動き
現行機に旧世代機と互換性がないためジャンルを問わず過去作の移植やリメイクが続くが、グラフィックの質感の向上による体験の変化がわかりやすいホラーゲームにおいて、その傾向は著しい。「バイオハザード」シリーズにくわえ、『クロックタワー』(1995年)や『アローン・イン・ザ・ダーク』(1992年)などジャンルの黎明期を支えたタイトルが再びプレイ可能になれば、世代間での体験の断絶を埋め合わせ、時代を超えて通用する恐怖の源泉の再発見に資するだろう。

向江 駿佑(むかえ・しゅんすけ)
ゲーム研究者。CIEE Kyoto Adjunct Professor、立命館大学大学院先端総合学術研究科一貫制博士課程。『Violence | Perception | Video Games: New Directions in Game Research』(transcript Verlag、2019年)、『「情動」論への招待』(勁草書房、2024年、いずれも分担執筆)のほか、雑誌やウェブメディアなどにホラーゲームや乙女ゲーム論を寄稿。

※インタビュー日:2023年10月27日
※URLは2024年2月29日にリンクを確認済み

ゲーム特別座談会 さやわか×平井和佳奈×向江駿佑 移り変わる環境とコミュニティの発展[後編]

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