乙女ゲーム30年のあゆみ 第4回 ピークを迎える国内市場と国際化の萌芽:『薄桜鬼』・ガラケー・同人ゲーム(2005年〜2014年)

向江 駿佑

連載目次

第1回 「乙女ゲーム」という名称はどのように広まったのか?

第2回 理想の「女性向けゲーム」を求めて:「ネオロマンス」が築いた基礎(1985年〜90年代)

第3回 はじまりの五つのタイプ:三位一体の市場メカニズムが可視化するプレイヤー像(1993年~2004年)

第4回 ピークを迎える国内市場と国際化の萌芽:『薄桜鬼』・ガラケー・同人ゲーム(2005年〜2014年)

今回の対象作品の一部。概ねパブリッシャーごとに時系列(左から右)で並んでいる。最奥がコーエー、奥から2列目より左からディースリー・パブリッシャー、ブロッコリー、Rejet、QuinRose、アイディアファクトリー、コナミ、その他。

今回は、乙女ゲームの最盛期である2005年から2014年の10年間をみていく。対象作品は確認できている分だけで1,246本(移植版等を除く)と、文字どおり桁違いに増加した。そのためデータによる統計的な分析が中心になる。年度ごとの具体的な作品や傾向については、筆者が作成中のデータベース1を参照いただきたい。

家庭用+PCゲーム市場

有力パブリッシャーの動き

2004年までのオリジナルタイトルの発売数は、多少ばらつきはあるものの年10本前後で推移していた。しかし2006年以降その数は右肩上がりに増え続け、2013年にピークに達する2。『ファミ通ゲーム白書』によれば、2012、2013年は販売本数でも女性向けゲーム3全体で100万本を超えており、やはり最盛期とみていいだろう4。

図1 2005~2014年の年度別家庭用+PC向けタイトル数(移植・リメイク除く)

パブリッシャー別で見ると、2005年にアイディアファクトリー(以下IF)が『砂のエンブレイス〜エディンの里のネーブル〜』(2000年)以来となる乙女ゲーム『ふしぎ遊戯 玄武開伝 外伝 鏡の巫女』を発売し、本格的に女性向け作品の制作に取り組むようになる。その結果、今回の対象作品371本中1/4を占める95タイトルをリリースし、2位以下に大差をつけての1位となった5。

IFについで多いのがQuinRose(現在はIFに吸収合併)で、パブリッシュした41作品のうち37本がこの時期に集中している。同社の作品は、会社消滅の影響で移植やリメイクが行われていないものが多く、中古市場で高騰化が進んでいる。

3位以下はディースリー・パブリッシャー、コーエー、Rejet、TAKUYOと続く。また作品数こそ控えめだが、販売本数ではコナミも上位に入っている。

ビジュアルノベルの台頭とインタフェースの標準化

プレイジャンル別では、2004年以降ビジュアルノベル(VN)が常にトップで、とくに2007年以降はほぼ毎年全体の3分の2以上を占め、多い年には9割近くにのぼっている。その結果、ネオロマンスや『ときメモGS』シリーズなど例外はあるものの、後述するように乙女ゲームの主流はVNだと認識されるようになっていった。

図2 2005〜2014年の家庭用ゲーム機の+PCソフトのプレイジャンル比率

初期のVNとしては、前回触れた『FIRST/LIVE』(AMEDEO、2000年)や『星の王女』(美蕾、2003年)などがあげられるが、これらは“ゲームが苦手”あるいは“ゲームシステムへの関心が薄い”プレイヤーを想定してつくられたものだった。それは「女の子の女の子による女の子のためのゲーム」をうたう前者が、「ゲームシステムは、文章を読みながら選択肢を選ぶだけ」と、プレイアビリティの余地の少なさを前面に押し出していることからも明らかだろう6。両者が発売された2000年前後はまだ多くのメーカーが試行錯誤を繰り返していた時期で、ジャンルにも多様性が残っていた(前回を参照)ため、あえてシンプルであることをアピールすることが差別化につながっていた。

図3 2005〜2009年と2010〜2014年のリリース作品数上位5社

図2では7割超となっているVN率だが、じつはゼロ年代後半から2010年代前半のあいだに6割から8割に増加している。その担い手は26本から69本に急増したアイディアファクトリー、7本から30本に4倍増したQuinRose、そして15本をリリースして後者の期間の4位に躍り出たRejetなどだ(図3)。前期に8本だったコーエーが、後期には9本と微増しつつも3位から6位に後退しているのをみると、これらの急増ぶりは尋常ではない。

その背景には、量産を可能にする“型”があったと考えられる。つまり2000年代後半において、その後の乙女ゲームの標準となる様式が定着したとみるべきだろう7。この時期を代表する二つのパブリッシャーの作品のインタフェースから、その特徴を確認しておこう。

『薄桜鬼 ~新選組奇譚~』(アイディアファクトリー、2008年)

図4 ビジュアルノベルの肝となる選択肢によるルート分岐。以前選んだ選択肢はハイライトされている。
図5 任意のタイミングで巻き戻し(選択肢の再考も可)や既読音声の再生ができる。
図6 攻略対象のステータス画面。好感度に加え、作品によっては独自の特殊ゲージが数値ではなく大まかに表示される。
図7 セーブ・ロードはいつでも可能で、スロット数もこの時期のゲームにしては多い12箇所。世界観を深掘りする用語辞典も参照可能。

図4〜7はPS2版『薄桜鬼』のプレイ画面だ。オートセーブが一般的ではなかった当時の家庭用ゲームにおいて、セーブのタイミングや保存できるスロット数はゲームの難易度を左右する重要な要素だった。しかし本作では、ルート分岐の唯一の契機である選択肢をペナルティーなしで何回でも選び直せるため、時間をかければプレイスキルに関わらず誰でもクリアできる8。

さらに好感度上昇時の演出や攻略対象との関係の視覚的なデータ化によって、自身の選択の影響を即時に知ることができるため、ゲーム展開を自由に制御できる。

『ハートの国のアリス ~Wonderful Wonder World~』(QuinRose、2007年)

図8 キャラクターごとに音声のオン・オフを切り替えられるのは、乙女ゲームの特徴の一つ。
図9 ルート分岐のオルタナティブな方法として、マップ画面から場所移動が可能(ただしタイミングは限られることが多い)。

図8〜9は、PC版『ハートの国のアリス』のプレイ画面で、音声の聞き直しができないなど異なる点もあるものの、概ね『薄桜鬼』と同様といえる。キャラクターごとのボイスのオン・オフや、場所移動の要素など、この時点ですでに現在のノベルタイプの乙女ゲームとほぼ同じシステムが確認できる。

これらの点から、いずれの作品もプレイアビリティを最小限に抑えることでミスによる大幅な時間ロスを回避しつつ、豊富なセーブスロットと自由な保存のタイミングによって気に入った場面を何度も繰り返せるという、きわめて挫折しにくい設計になっていることがうかがえる。

また、攻略対象との恋愛の進捗状況や用語集といったメニュー画面の実装はより複雑な舞台設定を可能にし、プレイアビリティではなく世界観による差別化というVNの多様化の可能性が開かれた9。

新たなプラットフォーム

携帯・スマホアプリ

この時期の家庭用ゲームとは違い、携帯アプリはダウンロード版かサーバー上でのプレイが一般的なため、サービス終了後の入手が難しい。ゲーム機向けなどに移植されていない場合、それらの存在自体を把握することから始めなければならないが、幸い有志によるデータベース10や当時の個人ブログに断片的な情報が残っていた。プレイヤーもまた、乙女ゲーム史の紡ぎ手であることの一つの証左と言える。本節では、それらを手がかりに公式サイトのアーカイブ11や当時の雑誌・ウェブ記事などから得られた情報を統合している。

筆者の調査では、遅くとも2001年には携帯アプリに女性向けVNが見られる。その一つが『彷徨の小夜曲 ~La Illusion de Lune~』(元気)で、フランス革命期の侯爵令嬢と護衛の3人の男性との逃避行が描かれる12。その後数年は、年に1本あるかどうかという数しか見つかっていないが、2006年にauの「美少女ゲーム」カテゴリが「美少女・乙女ゲーム」に名称変更されるなど、徐々に浸透し始めたことがうかがえる。さらに翌2007年からは、乙女ゲーム全体でもアイディアファクトリーに次ぐリリース数を誇るマジックシードが年数本~十数本のペースで新作を公開したこともあり、急激な成長をみせる。そして2012年に確認できるだけで91本がリリースされてピークを迎えるものの、翌年以降は急減し、2014年を最後に確認できなくなるという流れになっている。

代わりに台頭するのがスマホアプリだ。こちらは2010年頃からまとまった数が登場し、2013年には両者の勢力が逆転、翌2014年には国内で年間82タイトルのリリースが確認できる。家庭用+PC向け商業タイトルのリリースのピークは2013年だが、携帯やスマホアプリを含めると2012年が最多で、確認できたものだけで合わせて203本にのぼる。このことからも、この時期が商業乙女ゲーム市場の拡大のピークだったといえそうだ。

図10 年度別携帯アプリリリースタイトル数(2005〜2014年)
図11 年度別スマホアプリリリースタイトル数(2005〜2014年)

携帯・スマホアプリのプレイヤー層が家庭用・PC向けゲームのそれとどの程度重なっていたかはともかく、少なくとも作品レベルでは影響が見られる。例えば『消えた少年』(マジックシード、2007年)のシナリオライター館山緑は、『薄桜鬼』をはじめとする家庭用機向けの人気作品も手掛けている。また『明治東亰恋伽』(ドワンゴ、2011年)のように、家庭用ゲーム機等へ移植されてヒットした作品も少なくない。

逆に『マージナルプリンス~月桂樹の王子達~』(ユニアデックス、2005年)のように、携帯に特化したタイトルもある。本作では一部のキャラクターの音声を着ボイスとして利用できるため、欲しいボイスによってはあえて好感度が下がる選択肢を選ぶことも必要になる(図12)。また指定した時間にキャラクターから電話がかかってくるイベントでは、音声認識機能によって双方向の会話ができるなど、携帯電話自体の機能を取り入れた設計が行われていた13。

図12 マージナルプリンス公式サイトより

同人作品

この時期から存在感を増してくるもう一つのプラットフォームが、「ふりーむ!」14をはじめとする個人制作ゲームの配布サイトだ。2025年6月時点で3万本を超える同サイトの登録作品の中から、作者が乙女ゲームのタグを付与しているもの15を集計した結果、2005年から2014年に公開された作品の総数は270本となった(図14)16。これは商業タイトルも含めた今回の対象作品の2割強を占める。その内容は、数分で終わる掌編からシリアスな長編までバラエティに富んでいる

90年代に欧米で広まったガールズゲーム・ムーブメントでは、あくまでプレイヤーとしての女性に注目していたが、ゼロ年代以降の日本ではむしろ女性ゲームクリエイターが存在感を増していった。それを支えたのが、それ自体もまた有志のクリエイターたちの手による(無料の)制作環境である。

乙女ゲームの登場以前から創作活動に従事する女性の数自体は多かったが、ゲーム制作に限れば、90年代は圧倒的に男性の比率が高かった17。しかし2000年代に入ると、『アニメディア特別編集 女の子のための同人誌・コミック・ゲーム・イラスト クチコミ&投稿マガジン』(Gakken、2001年)や『女の子向け 同人系ホームページをつくろう!』(ソフトバンクパブリッシング、2002年)といった、女性向けに創作技法やツールを教えるメディアが登場する。なかでも、さかいともこ著『吉里吉里/KAGで乙女ゲーム・BLゲームを作成する 同人ゲーム制作ガイドブック 基礎編』・『応用編』(いずれもメディアテック出版、2006年)は、小説家で自身も「ふりーむ!」に作品を投稿している著者が18、初心者向けに乙女ゲームやBLゲームのつくり方を教えるものであった。

図13 さかいともこ『朱雀の涙』(2003年)

商業作品でビジュアルノベルが急速に台頭したこの時期、同人作品においてもVNに特化したツールが人気となっていた。同書のタイトルに含まれる「吉里吉里2/KAG3」は、高度なプログラミングの知識がなくてもフラグ管理や背景処理などが行える、当時隆盛を誇ったノベルゲーム作成ソフトで、「RPGツクール」と並んで多くのフリーゲームを生み出した。

こうした指南書や無料ツール、そして作品発表の場が揃ったことで、2000年代半ば以降、同人乙女ゲームは次第に商業作品を凌駕するペースで公開されていく。なにより、新規タイトル数という点では家庭用やPC向けが2013年のピークを境に下り坂になっていくのに対し、同人ソフトの最盛期はむしろその後であるのは興味深い。担い手の数や作品の規模が異なるため単純な比較は難しいが、携帯やスマホアプリも含めた商業作品の盛衰の裏で、これまで乙女ゲーム史からこぼれ落ちてきた同人作品もまたジャンルの人気を下支えしていたことは、歴史を語るうえで見過ごせないだろう。

図14 年度別同人・インディーゲームリリース数遷移(2005〜2014年)

社会的認知の拡大

一般メディアへの露出

第1回で述べたとおり、2000年代初め頃にBLゲーム専門誌が刊行され、それらが次第に乙女ゲームも扱うようになっていった。2006年には『B’s-LOG別冊 乙女ゲーム白書』(エンターブレイン)や『乙女ゲーム胸キュンガイド』(ブックマン社)のようなジャンル全体を俯瞰する書籍のほか、『D3パブリッシャー乙女ゲームブック こちら胸キュン乙女 出張版』(エンターブレイン、2007年)のように特定のパブリッシャーにフォーカスしたカタログも発売されている。2000年代後半からはゲーム専門誌以外からの注目度も高まり、新聞やテレビでも取り上げられるようになった。例えば2008年12月1日付日本経済新聞夕刊では、以下のように紹介されてい

起爆剤となったのは〇六年十二月にサービスが始まった「恋人はNo. 1ホスト」(月額三百十五円)。その後類似ゲームが増え、「恋愛シミュレーション」ジャンルも、NTTドコモだけで二十三タイトルから一年間で五十七タイトルに増えた。ユーザー数も三十万人を超えるという。「恋人はNo. 1ホスト」シリーズの新作「恋人は同居人」(月額三百十五円)はこのジャンルでランキング一位(十一月十八日現在)。開発したボルテージ(東京・渋谷)執行役員の横田晃洋氏は「もともと小説サイトや占い、着メロを運営していたが、そこで培ってきた女性向けコンテンツ制作のノウハウを開発に生かした」という。

この時期はちょうど携帯向け乙女ゲームが台頭してきた頃であり、これまでプレイしていなかった層にも普及し始めていたことがわかる。

家庭用機向けについても、2010年12月27日の朝日新聞で

バンタンの担当者滝沢慧さんは「乙女ゲームのジャンルは確立され、この半年でブームになっている」と話す。乙女ゲームはプレーヤーが恋愛シミュレーションゲームの女性主人公となって話が進む。登場人物は美男子ばかり。滝沢さんは「女性向けゲームだからこそ、登場人物の顔立ちや色など細かいところにこだわって作る。クオリティーは高い」という。
ゲーム制作会社デザインファクトリーの樋口誠社⻑(48)は「女性の間で歴史ブームもあり『時代もの』が売れる」という。同社が2008年9月に発売した「薄桜⻤(はくおうき)」は女性主人公が新選組隊士らと出会う設定。4作で44万本を売り上げた。

と言及されている。

学術研究の対象として

またこの時期には、乙女ゲームについての学術研究も始まっている。海外では2007年頃から論文などで言及されるようになり19、2009年には第1回でも触れた乙女ゲーム研究で最も多く引用されているKimの論文が公開された。

同時期に日本でも研究が始まったと思われる(高杉 2009年; 2011年など)。ただ『薄桜鬼』について論じているHasegawa(2013年)を除くと、この時期の研究のほとんどが卒論や修論、あるいは学会での報告となっている。

これは国内にとどまらず、海外における研究もまた、『ときメモGS』についてのTompowskyの修論(2014年)のように学生によって行われていた。海外では、それらの修論や一部の卒論はしばしば各大学のリポジトリに登録されるが、国内ではそうしたケースは稀である。前述の高杉の卒論・修論のように著者自身がアップロードしているケースや、宮野(2013年)や戸田(2014年)のように優秀論文として学内紀要などに掲載されない限り、これらを外部から参照するハードルは高く、日本の乙女ゲーム研究が車輪の再発明を繰り返す一因となっている。高杉は乙女ゲーム史に関する研究としては(現時点においても)出色の出来であり、宮野や戸田は乙女ゲームをマーケティングの観点から考察する先鞭をつけた。また谷川&朝日(2013年)は、日本国内の乙女ゲームプレイヤーの分析として海外からも引用される20など、地理的なアドバンテージを生かした国内の乙女ゲーム研究は今後も需要が大きいと考えられ、公開スキームの整備が喫緊の課題となっている。

海外展開の試み

前回述べたとおり、北米の乙女ゲーム市場は2000年代以降停滞する。ローカル作品の代わりに受容されたのが、日本製タイトルのローカライズ版だった。最初に英語版が発売されたのは『Yo-Jin-Bo ~運命のフロイデ~』(Two Five、2006年)だと思われるが、本作を契機にVNタイプの国産乙女ゲームが、徐々に海外にも浸透していく。そのなかで、大きな影響力をもつのが『薄桜鬼』だ。幕末を舞台とする本作では、海外のプレイヤーにとっては京都とサムライという日本的エキゾチズムを感じさせる要素がテーマとなっており、ファンタジー世界とは一線を画す関心を惹きつけた。今日でも、動画配信者から研究者に至るまで多くの媒体で取り上げられているタイトルの一つだ。

海外志向がより強く現れたのは携帯・スマホアプリで、国内でも多数の作品を展開しているボルテージとNTTソルマーレを筆頭に、国産タイトルのローカライズだけでなく、海外専売タイトルもリリースされた(図15・16)。

図15 『Shall we date?: Ninja Love for GREE』(NTTソルマーレ、2012年)のプレイ画面
 (https://www.nttsolmare.com/press/2012/0713.html)
図16 『Memories Can’t Wait』(NTTソルマーレ、2013年)公式トレイラーより
 (https://www.youtube.com/watch?v=2Mi_0gOwHec)

アジア圏でも、この時期は

パソコンとケータイの両方で遊べる 「ウェブカレ」は、リンクシンク(東京・渋谷)が提供する、恋愛シミュレーションゲームとソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を組み合わせたサービス。海外のニュースサイトで取り上げられ、海外ユーザーも多数入会。特に、台湾のユーザーは全体の一八%にもなるという21

ように日本製タイトルの輸入が主であったが22、アリスマティックの伊勢は

海外については「コアなファン」が勝手に広げてくれるんですよ。とくに「ブログ記事」と「友達招待」から、ユーザーが入ってきています。[中略]海外では「強い意思があって芯がある」というヒロインが好まれます。自分の運命は自分で決めたくて、駆け引きもたのしみたい、という感じです。あと、シナリオについては、国内は「会話を多めに、ふわっと説明する」、海外は「きっちりと説明をいれる」というのが、ヒットの法則かなと考えています。

と日本と海外の違いを説明したうえで、アジア圏よりも英仏語圏に注力すべきだと持論を述べている23。家庭用機も含め、この時期は簡体字や繁体字よりも英語が優先されていることからも、この意識は業界の共通認識だったと見ていいだろう。

そうしたなかで、中国の同人ゲーム投稿サイト「橙光」(https://www.66rpg.com/)が2014年に本格的に女性向けに舵を切ったことは注目に値する。もともと「RPGツクール」のツール配布場所として開設された本サイトは、これ以降中国における乙女ゲームの拡散に大きな役割を果たすことになる(詳しくは次回触れる)。

おわりに

最後に各カテゴリーの比率を確認しておこう(図17)。家庭用+PC、携帯・スマホ、同人作品がバランスよく2、3割ずつを占めており、一つのカテゴリーだけを取り上げて乙女ゲーム全般を論じることは、「木を見て森を見ず」だと言わざるを得ないことがわかるだろう。

図17 2005〜2014年にリリースされたタイトルのカテゴリごとの割合

とはいえ、本稿も含め個人での調査には限界があるのも確かだ。携帯アプリのプレイ画面などは、当時のプレイヤーのスクリーンショット頼りになるかもしれない。そしてそれは現在プレイ可能なスマホアプリやDL専用ソフトなども例外ではない。動画配信やなにげない感想ツイートもまた、それらの完全な消滅を防ぐうえで有効な活動なのである。

次回は2015年から現在までの作品を振り返る。市場の再拡大に向けたインフルエンサーとのつながりや、急速に拡大する海外乙女ゲーム市場など、次の30年への交差点を示したい。

脚注

1 https://shu-mukae.raindrop.jp/otome/otome_index.php 作品データベースのほか、本稿で引用している文献の書誌情報も閲覧可能。
2 2012年から2015年まで毎年50作品以上で、2013年には歴代最多の作品数(少なくとも59本)を記録した。ただし『シノバズセブン』『ドットカレシ』『ドウセイカレシ』など、ボリューム的には一本を複数に分割したと思わしきシリーズもそれぞれカウントしている。
3 恋愛要素のない女児向けゲームなど、乙女ゲーム以外の女性向けゲームも含まれる。
4 角川アスキー総合研究所編『ファミ通ゲーム白書2022』(角川アスキー総合研究所、2022年)
5 『緋色の欠片』シリーズ(2006年〜)や『十三支演義~偃月三国伝~』シリーズ(2012年〜)をはじめ、個別に取り上げるべき作品も多いが、ここではその余裕がないため別の機会にあらためて整理したい。
6 パッケージより。
7 もちろん同種の作品はこれ以前にも存在するが、ここでは特定のタイトルを元祖として認定するのではなく、多くの作品が一斉に似通ったスタイルを採用したことと、その中で代表的な作品を事例として扱う。
8 何をもってクリアとするかはプレイヤーによって幅があるが、全キャラ攻略+全スチル回収などゲーム内のすべての展開を見る場合でも、プレイ時間は長くなるがいわゆる「詰み」状態になることはほとんどない。
9 物語世界の拡張においてはドラマCDの存在も無視できない。これまでもコーエーなどがメディアミックスの一環として別売りするなどしていたが、この時期以降、ゲーム1本に対し限定版・予約特典・店舗特典などで複数本のドラマCDが添付されるのが恒例になっていく(『Starry☆Sky』シリーズに至っては、ドラマCDが本編でゲームがおまけである)。
10 「乙女ゲームまとめ」(https://w.atwiki.jp/girlgame/)や「OTOMEX」(http://otomex.net/)など。
11 マジックシード(http://www.magicseed.co.jp/ 現在は閲覧不可)のように、一部のパブリッシャーは自社サイトでリリース済みタイトル一覧を公開している。
12 http://www.genki.co.jp/keitai/serenade/index.html(公式サイトは現在閲覧不可だが、こちらの記事でプレイ画面が確認できる。ケータイWatch https://k-tai.watch.impress.co.jp/cda/article/news_toppage/5189.html)
13 こうしたユニークな機能が評価され、平成17年度(第9回)文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品にも選ばれている。
14 https://www.freem.ne.jp 2000年の開設以来、無料でプレイできるゲームのみを配信している。
15 現在確認できる最古のものは『鈴木さんの優雅な学園生活』(PRAXIS、2002年)ほか。
16 一部DLsite(https://www.dlsite.com/index.html)で販売されているインディーゲームを含む。DL版とブラウザ版が分かれていたものは、集計時に可能な限り統合した。
17 ユナイト編集部編『同人誌・同人ソフト入手マニュアル』(久保書店、1995年)には、ジャンルごとに掲載作品の作者の男女比が集計されており、「アニパロ(アニメ作品のパロディ)」のように女性が8割を占めるものもあるが、全体的には概ね半々となっている。ゲーム関連の同人誌も男女比は同等だが、ゲーム制作は9対1と、圧倒的に男性が多い。この傾向は少なくとも『〜4』(1997年)まで続いている。
18 作者ページ https://www.freem.ne.jp/brand/29
19 Taylor, Emily, 2007, “Dating-Simulation Games: Leisure and Gaming of Japanese Youth Culture,” Southeast Review of Asian Studies. 29: pp. 192–208.や、lu, Yiu, 2007, “Japanese Voice Goes Global and Local Globalization and Localization of the Japanese Seiyū Culture in Hong Kong,” Master thesis, The Chinese University of Hong Kong. など。前者は美少女ゲーム、後者は日本の声優について論じている。Iuが乙女ゲームをアニメなどと並ぶotome worksの一部として挙げ、とりわけ2006年に台湾で 行われた「Neo Romance♡Festa 遙久祭 2006 in Taiwan」に紐づけるかたちで紹介しているのは興味深い。
20 Tosca, Susana Pajares, Lisbeth Klastrup, 2019, Transmedial Worlds and Everyday Life: Networked Reception, Social Media, and Fictional Worlds. New York: Routledge. など。
21 2008年12月1日付日本経済新聞夕刊。
22 アジア各国の乙女ゲーム史に関する日本語での解説はまだ少ないため、「BaiduWiki」の乙女ゲームの項目(https://baike.baidu.com/ja/item/%E4%B9%99%E5%A5%B3%E3%82%B2%E3%83%BC%E3%83%A0/1136657#after-0)のように、現地メディアも併せて参照するとよい。
23 「ただの「いい人」はゲームでも現実でもモテない。1本で1億円を稼ぐ「恋愛ゲーム」の裏側と、モテる二次元キャラの法則をアリスマティックが語る。」(「アプリマーケティング研究所」、2016年7月19日) https://appmarketinglabo.net/arithmatic/

※URLは2026年10月12日にリンクを確認済み

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