新進クリエイターの現在地 令和7年度文化庁メディア芸術クリエイター育成支援事業成果発表イベント「ENCOUNTERS」レポート[前編]

坂本 のどか

写真:小野 博史

エントランスから展示会場への通路沿いに掲出された、全クリエイターの制作の様子を集めたパネル

進行中のプロジェクトをプレゼンテーション

若手クリエイターの創作・発表を支援する「文化庁メディア芸術クリエイター育成支援事業」は、次世代のメディア芸術分野を担うクリエイターのレベルアップやそのための育成環境の整備、クリエイター同士のコミュニティ形成を目的としている。資金面の支援はもとより、プログラムにはアーティストやキュレーター、プロデューサー、エンジニアなど専門的な視点や経験値を持つアドバイザーが伴走しクリエイターの活動を支援する。

本イベントはその成果発表の場にあたるが、完成作品による作品展ではない。支援事業には「国内クリエイター創作支援プログラム」「国内クリエイター発表支援プログラム」と二つの枠があり、それぞれで支援の内容や条件が異なる。開発の途上にある作品のプロトタイプや、あるいはすでに別の会場で発表した作品を本展に合わせて再構成したものなど、プロジェクトによってその段階や見せ方はさまざまだ。

新たな挑戦を支援する「国内クリエイター創作支援プログラム」

「国内クリエイター創作支援プログラム」は5年以上の活動実績や受賞歴のあるクリエイターによる「新たな挑戦」を支援するプログラムだ。令和7年度は16組のクリエイターが採択された。

採択クリエイターには支援期間中に数回、2名のアドバイザーとの面談の機会が設けられ、技術面やコンセプトメイキングなど、創作にまつわるさまざまなサポートやアドバイスを受けながらプロジェクトを進行することができる。年度中のプロジェクトの完成は求められないため、成果発表イベントでは進行中のプロジェクトをどう伝えるかに重点が置かれ、プロトタイプやイメージ映像、活動の記録映像、デモンストレーションなどによるプレゼンテーションを試みることになる。

アナログ手法にテクノロジーを取り入れる

採択クリエイターにはもともとテクノロジーの扱いに長けたクリエイターが多いが、制作にテクノロジーを取り入れるきっかけとして本事業を活用するクリエイターもいる。木戸龍介氏と山中千尋氏は、アナログな制作手法を主としながら、本支援事業を通して新たな表現に挑戦したクリエイターだ。

木戸氏は電動工具のリューターを用いた木彫によって立体やインスタレーション作品を制作してきたアーティストだが、本支援を通してその制作プロセスにロボットアームを取り入れ、アーティストとロボットによる協働の可能性と限界を見つめるプロジェクト『Inner Light — Dialogue through Two Hands —』を実施。会場ではプロジェクトの記録映像とともに、従来の手法で施された彫刻と、アーティストの手捌きを学習したAIとロボットアームによる彫刻が比較展示された。

木戸龍介『Inner Light — Dialogue through Two Hands —』

「里山の記憶」をもとに、絵画的なアプローチと抽象表現を軸にアニメーション制作を行ってきた山中氏は、その制作にAIを取り入れることを試みた。山中氏はこのプロジェクトに取り組むまで、AIを制作に用いることはなかったが、仕事でAIの使い方を学び、制作に生かしたという。滲みや混色といった絵画ならではの表現をAIによって拡張しながら、自身のアナログ表現を重ね合わせ撮影するという独自の手法で新たなアニメーション制作に挑んだ。展示では壁面に複数のシーケンスを投影しながら、制作風景を再現した。

山中千尋『永遠に呼吸する風景 — アニメーションによる、今この一瞬にある天国 —』展示風景と山中氏

継続的なプロジェクトをさらに発展

自身で継続してきたプロジェクトを、本支援事業を通してさらに展開させたクリエイターもいる。自作装置の制作や楽器による展示、演奏を国内外で行うアーティスト、すずえり(鈴木英倫子)氏は、2022年頃から継続する可視光通信システムを用いたプロジェクトをさらに展開させ、楽器「OP-Tone」と、レーザーの光と音を用いた新たなインスタレーションという二つのプランの実現を目指した。同システムを用いた作品の開発・発表はこれまで継続的に行ってきたものの、レーザー光を取り入れたグラフィカルな展開は新たな挑戦でもあった。作品はいずれも一旦完成を見せ、会場での展示が叶った。

すずえり(鈴木英倫子)『Opto-Sonic: Reinventing VLC for Ambient Voices』。OP-Toneのデモ機と解説動画
すずえり氏。レーザーを用いたインスタレーション展示の前で

プロジェクトの進行過程で大きく変容

自ら開発したAIと協働して絵画、彫刻、インスタレーションの制作を行うアーティスト、岸裕真氏による『xoxo-skeleton』は、AI生成の動作を装着者に微細な振動として伝えるウェアラブル作品を制作するプロジェクトとしてスタートした。支援期間を経て具現化されたのは、採択当初の作品イメージ1からは想像できないような、巨大ロボットの肋骨を思わせるようなデバイスと、それに操られるかのような岸氏によるパフォーマンスであった。AIと人の関係を突きつめた先でこのかたちに行き着いた、そのプロセスが興味深い。

岸裕真『xoxo-skeleton』。岸氏によるパフォーマンスの様子

支援期間中のリサーチによるプロジェクトの深まり

伊藤道史氏による『虚影技術幽譚プロジェクト/Ghosts of Dreamed-UP Technology Project』は、「科学技術の構想の亡霊性」をキーコンセプトに、過去の技術者や科学者たちが実現しえなかった夢や妄想をもとに、総合的な知覚体験として作品化しようと試みるプロジェクトだ。採択期間中、存命の技術者や科学者へのインタビューの機会を積極的に設け作品に展開したという。会場では予約制のVR体験と大型モニターによる上映を実施。モニターに映し出されたのは、インタビューの内容をもとに3DCGで制作された語り部的なキャラクターたちだ。VRゴーグルを装着すると、キャラクターたちが展示会場に浮遊し、体験者に語りかけた。

また、会期中には「UFOを招ぶ。超能力者と集う。」と題し、同支援事業の採択クリエイター、すずえり氏、菊永絢音氏のほか、多摩美術大学教授・久保田晃弘氏やUFO研究家の比嘉光太郎氏などを迎えたトーク/ライブパフォーマンスを実施した。

伊藤道史『虚影技術幽譚プロジェクト/Ghosts of Dreamed-UP Technology Project』。VRゴーグルを持つ伊藤氏
リサーチに用いた書籍とインタビュー動画を資料として展示

創作支援プログラムにはそのほか、3DCGの考え方で実在の建造物を再構築するプロジェクトや、映像のエフェクトを物理的に再現する装置視覚効果など、ボーンデジタルなものや考え方を実空間に再現するようなプロジェクトが並んだほか、異なる言語を融合した新たな民謡の創造や多視点性を持ったゲーム、動くマンガなど、さまざまな着眼点や試行錯誤が見られた。民謡や民俗芸能といった土着的な文化・風習に加え、身体や知覚に着目したプロジェクトが多く見られたのも印象的だ。

泉田剛『Texture Displaced 解体による建築的モデルとマテリアルのズレ』展示風景と泉田氏。3DCGにおけるモデル(形態)とマテリアル(素材)の関係を現実世界で操作し、新たな意味を探求するプロジェクト。自身の祖母の小屋を解体し、部材を象徴的な構造物へ再構成した
小野龍一『VoF』。振動アクチュエーターとLEDによる点滅照射を用いて、立体物にボケや色収差といったエフェクト(映像的効果)を付与するプロジェクト。四角錐形のオブジェクトを81個並べた実機を展示した
小宮知久『合成言語「KOE語」を歌うための装置《koekko》』展示風景と小宮氏。人工合成言語「KOE語」による民謡を生成するための移動型装置「koekko」を建築コレクティブstudio9Xと協働制作。来場者がマイクを装着して実際に装置を体験することができたほか、フィンランドで行ったパフォーマンスの記録を展示。またパフォーマーによる実演「《koekko》を用いたKOE語歌のライブパフォーマンス」も行われた
鉄崎凌大『スクロールアニメーション「あしたのさんぽ」発信プロジェクト』。アニメーションとマンガ、両方の特性を持ち合わせたスクロールアニメーション作品を制作し、世界に向けて発信するプロジェクト。来場者が触って体験できる実機を複数台設置した
西原美彩『やつはな』。広島県に伝わる民俗芸能である神楽の演目をモチーフに、地域文化の持つリズムと身体性をアニメーション表現で再解釈するプロジェクト。制作中の作品の一部や取材の記録映像を上映し、あわせて中間生成物などの資料を展示した
葉山賢英『HEIMA』。兄を探す主人公エイゲンが、兄の残したロボットのニコとともに四つの並行世界を巡るアドベンチャーゲームを制作。来場者がコントローラーを使ってプレイできる体験版を展示した
HIHAHEHO Studio(代表:mgr allergen0024)『swandive』。複数の登場人物が同一の事件を異なる視点から語る、プレイヤーが多角的に物語を体験することができる「マルチウインドウ型ノベルゲーム」を制作。ゲームの一部を実際にプレイ可能な状態で展示した
冬木遼太郎『こだまはこだまにこだまする』展示風景と冬木氏。1905年の日露戦争終結時に設置された国境標石。そのレプリカをさらに複製し、オブジェクトが自律的に空間を動くインスタレーション作品をエンジニアの協力のもと制作。完成作品を展示した
まちだリな『飛行する野菜人間 ― もどかしい身体のための実録』展示風景とまちだ氏。ALS(筋萎縮性側索硬化症)や吃音といった身体的応答に関する実録を起点に、もどかしい身体や語れなさと向き合う方法としてアニメーションを制作。縦型のアニメーション作品を大きく投影した
眞鍋美祈『「視ることの触覚的な交差」に関する連作の制作・発表』展示風景と眞鍋氏。視覚における触覚的な相互作用や逆転を、複数の作品を通して鑑賞者に追体験させ、新たな感覚を立ち上げることを試みた。ベッド型の作品に座り体験できる作品をはじめ、複数の作品を展示
宮嶋龍太郎『国産次世代ピンスクリーンの開発とアニメーション制作』展示風景と宮嶋氏。ピンスクリーンは1930年代のフランスで開発されたアニメーション技法。その次世代機の開発とともに新作アニメーションを制作するプロジェクト。アニメーション作品の一部を上映するとともに、クリエイターがピンスクリーンのデモンストレーションや解説を行った

脚注

information
令和7年度 文化庁メディア芸術クリエイター育成支援事業
成果発表イベント「ENCOUNTERS」
会期:2026年2月28日(土)~3月8日(日)11:00~18:00(最終入場17:30)
   ※2月28日(土)、3月6日(金)、7日(土)のみ11:00~19:00(最終入場18:30)
会場:TODA HALL & CONFERENCE TOKYO
入場料:無料
主催:文化庁
https://creators.j-mediaarts.bunka.go.jp/encounters-2026

※URLは2026年7月23日にリンクを確認済み

新進クリエイターの現在地 令和7年度文化庁メディア芸術クリエイター育成支援事業成果発表イベント「ENCOUNTERS」レポート[後編]

1 当初のイメージは事業公式サイトプロジェクト紹介ページ(https://creators.j-mediaarts.bunka.go.jp/project/2025-ps04)を参照のこと。

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