メディア芸術分野の創作活動を支援 「クリエイター育成支援関連事業令和6年度採択企画発表会」レポート

坂本 のどか

文化庁長官都倉俊一氏と「メディア芸術クリエイター育成支援事業」の採択者たち

名から実へ 制作やプロモーション支援に舵を切る

若手クリエイターの創作や発表を支援する「メディア芸術クリエイター育成支援事業」は、平成23(2011)年度以来連綿と続く事業だが、昨年度からは創作支援プログラムと発表支援プログラムの2本立てとなり採択数もぐっと増えた。加えて今年度から始動する「クリエイター・アーティスト等育成事業(文化芸術活動基盤強化基金)」は、クリエイターを育成するプロジェクトを支援するものだ。このように文化庁は近年、直接/間接的に、クリエイターを育成支援する体制を拡充している。会の冒頭、挨拶に立った文化庁長官都倉俊一氏は、2022年にその幕を閉じた文化庁メディア芸術祭に触れ、「メディア芸術分野を全面的に応援する姿勢は変わらないが、クリエイターへの制作支援やプロモーション支援へと舵を切った。賞による名ではなく、実を重視したかたち」と、支援の継続とそのあり方の変化について語った。

過去最多の応募数のなかから採択されたクリエイター陣

本年度「メディア芸術クリエイター育成支援事業」に採択されたクリエイターは昨年度と同数の40件。創作支援プログラムが16件、昨年度からスタートした発表支援プログラムは24件と内訳も変わらずだ。両プログラムの応募件数は、過去最高を記録した昨年度の193件からさらに増え216件となった。発表会には30名のクリエイターが出席、各々企画名を発表した。

今後、創作支援プログラムの採択者はアドバイザーとの面談などを重ねながら企画を深め作品を制作、発表支援プログラム採択者は支援を生かし展示等の発表を実施する。事業の成果発表イベントは来年2月、今年11月京橋にオープン予定のTODA BUILDINGでの開催を予定しているという。

国際的に活躍するクリエイターを育てる長期プログラムの創出

続いて、「クリエイター・アーティスト等育成事業(文化芸術活動基盤強化基金)」について、採択された全29件の取り組みから、メディア芸術分野やその関連分野の7件のプロジェクトが紹介された。本年度から始動となる本事業は、独立行政法人日本芸術文化振興会に設立された「文化芸術活動基盤強化基金」を活用し複数年度にわたり実施される。日本の文化芸術の国際的なプレセンスの向上、市場の拡大、海外との文化交流と相互理解の促進を目的として、各分野のクリエイターを育成するためのプロジェクトを複数の団体が担当し、各々3〜5年の長期プログラムのもと、クリエイターの海外展開を後押しする。採択団体からは、各プロジェクトの目標や具体的な支援プラン、渡航予定の国、育成するクリエイターの人数の想定や起用するアドバイザーの選出状況などが発表された。

うち、補助型枠で採択された株式会社ドワンゴによるプロジェクトは、自社が運営するニコニコ動画を介してVOCALOID楽曲に携わる若手クリエイターを発掘・育成し、海外進出を図るというもの。ニコニコ動画のコンテンツ戦略責任者である横澤大輔氏らをアドバイザーに配置し、10組ほどのクリエイターを育成予定だ。アメリカやシンガポールで開催予定のアニメフェスなどへの出演を足がかりに国際的な活躍を後押しするという。

文化庁長官都倉氏と「クリエイター・アーティスト等育成事業(文化芸術活動基盤強化基金)」の団体代表者たち

好機を逃さず世界にチャレンジ

発表会は「メディア芸術クリエイター育成支援事業」で平成29(2017)年度からアドバイザーを務める戸村朝子氏と、「クリエイター・アーティスト等育成事業(文化芸術活動基盤強化基金)」で審査委員を務めた伏谷博之氏からの応援メッセージでしめくくられた。

戸村氏はクリエイター育成支援事業を「クリエイターが今後活躍していくうえでのカタパルトのような存在」と表現し、アドバイザーとしてクリエイターに伴走しともに成長できる喜びを語るとともに、「分類不能なメディア芸術という分野は今大きな変化のなかにあり、世界から注目される日本のユニークな歴史でもある。その支援を産官学共同で担えることが嬉しい」と、クリエイターとそれを支える産業界の面々が一堂に会したこの場を意味あるものと評した。

戸村氏

伏谷氏はクリエイター・アーティスト等育成事業について、「これまでの枠組みを超えたチャレンジングな計画が多くあり、本事業への期待値の高さを感じた」と、白熱した審査会の様子を振り返り、また現代美術家村上隆氏の言葉を紹介しながら「日本は美術の世界ではマイノリティ。世界の市場を取りに行くには、既得権が及んでいない市場をみずから見出して、そこで必死で戦い続けるしかない。そのためには優れたクリエイターのみならず、支援チームの存在が重要。この好機を逃さずチャレンジしてやり切ってほしい」と、クリエイターと支援者たちを激励した。

伏谷氏

令和6年度文化庁メディア芸術クリエイター育成支援事業 採択企画

※《採択企画》採択者(採択者名50音順)

国内クリエイター創作支援プログラム
《手描きの計算》阿部 和樹
《Giant Micro Plastic》安西 剛
《石が見る夢》(仮)池添 俊
《Self-reference microscope》石橋 友也
《「記す」アニメーション》大髙 那由子
《演画》木原 共
《歴史の終わり》榊原 寛/畳部屋
《別人電話ボックス》実験東京(安野 貴博+山根 有紀也)
《プロジェクト『ZOKU』第一弾作品 “stillhualian”》スタジオ石(代表:Mr. 麿)
《鎖に繋がれた犬のダイナミクス》藤堂 高行
《Flowers》深谷 莉沙
《野生のオーケストラが聴こえる》丸山 翔哉
《Media of Langue》Media of Langue(代表:村本 剛毅)
《群ロボットの動的配置を活用した磁性流体駆動に基づく実体ディプレイの創作》(仮)森田 崇文
《風の目たち》吉田山
《CultureHouse》渡部 恭己

国内クリエイター発表支援プログラム
《岩竹理恵+片岡純也×コレクション 重力と素材のための図鑑》(仮)岩竹 理恵+片岡 純也
《Trace 2022-2024》片桐 正義
《未自然彫刻》紀平 陸
《再来さんやー小さい芸術祭 2024 映像セクション》さんや駄々
《Is there そこにいる》芹澤 碧
《paper planes sphere》對中 優
《Efficiency of Mutualism》《Energeia Cycle 分解と循環のエネルゲイア》滝戸 ドリタ
《All is Love》辻 梨絵子
《Archival Practice for Site-Specific Works 3.0》長島 勇太
《〈Fire in Water〉の制作・展示》永田 康祐
《(実在しない)切り抜きチャンネル『20 分でわかるエマ・リーランド』》ヌマタ/沼田 友
《技術的嵌合地帯 –TCZ》花形 槙
《ドリームスケープ》原田 裕規
《AICOT 2024 in 海の中の美術館(新作展示)—水中と陸上における鑑賞体験の拡張—》韓 成南
《残波》松井 美緒
《みんなとてもあいまい》松枝 熙
《Green Diffusion》水落 大
《Echtzeitmusik Mizuki Ishikawa + Shun Momose サウンドインスタレーション》Mizuki Ishikawa + Shun Momose
《「解体」映像記録上映》持田 敦子
《Resonant Inscapes》諸星 智也
《ホットサンドメーカーズクラブ》山口 塁
《Wanderers 展》油井 俊哉
《Water City – 海面上昇想像図》吉田 裕紀
《グッドモウニング、ミクス・オアハカ/出雲 2024》渡辺 真也+宇多村 英恵

「クリエイター・アーティスト等育成事業(文化芸術活動基盤強化基金)」の取り組み紹介で取り上げられたプロジェクト

委託型
「クリエイター等育成プログラム(マンガ)」一般財団法人出版文化産業振興財団
「クリエイター等育成プログラム(ゲーム)」一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会
「クリエイター等育成プログラム(メディアアート、短編アニメーション)」公益財団法人画像情報教育振興協会
「クリエイター等育成プログラム(映画)」公益財団法人ユニジャパン

補助型
「ニコニコ動画主催企画を介した若手クリエイター発掘および海外進出プロジェクト」株式会社ドワンゴ
「グローバル・アニメ・チャレンジ」株式会社キネマシトラス
「渋谷・京都を拠点に「GAME/ 遊び」を起点としたクリエイションとグローバルネットワークを形成する 404 Not Found・art bit 連携プロジェクト「ars ● bit(仮称)」」一般社団法人渋谷あそびば制作委員会

採択企画発表会後に行われた交流会の様子

文化庁メディア芸術クリエイター育成支援事業
https://creators.j-mediaarts.bunka.go.jp/

文化芸術活動基盤強化基金 クリエイター・アーティスト等育成事業
https://www.ntj.jac.go.jp/kikin/kiban/creator/

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