アーカイブセンターは次のフェーズへ――須賀川特撮アーカイブセンター 資料整理業務 インタビュー

坂口 将史

須賀川特撮アーカイブセンターに収蔵されている井上泰幸資料

設立から5年間のあゆみ

2012年、東京都現代美術館(以下、都現美)で開催された「館長 庵野秀明 特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技」をきっかけに、ミニチュアをはじめとする特撮資料の価値が再評価された。その収蔵先として2020年11月3日に設立されたのが、福島県須賀川市の「須賀川特撮アーカイブセンター」(以下、アーカイブセンター)である。設立後もアーカイブセンターでは、さらなる特撮資料の収蔵1、収蔵資料のデジタル化2、オーラルヒストリーの収集3といった活動が行われているほか、収蔵資料を活用した須賀川市内での展覧会4や、特撮ワークショップなども実施されている5。まさに特撮資料の「資料収集」「調査研究」「教育普及」の拠点として、アーカイブセンターが効果的に機能しているといえるだろう。

そして2024年より、アーカイブセンターで新たな事業として「須賀川特撮アーカイブセンター 資料整理業務」(以下、資料整理事業)が実施されることとなった。これは「資料収集」「調査研究」「教育普及」と並んで「博物館の四大機能」として知られる「整理保管」の機能を、アーカイブセンターに拡充する試みと捉えられる。こうした機能拡充は、アーカイブセンターがこれまで果たしてきた役割にどのような影響を与えるのだろうか。そしてまたアーカイブセンターが日本でも稀な「特撮資料に特化した収蔵施設」である以上、その「整理保管」は前例のないものである。それはつまり、「整理保管」における課題と対応の事例が、特撮資料の持つメディア的特性を考える上で重要な手がかりになるということでもある。

そこで本稿では、アーカイブセンターが担う役割の変遷と、特撮資料のメディア的特性を明らかにすることを目的に、資料整理事業関係者へのインタビューを実施した。インタビュー対象者は2名であり、事業委託者サイドとして須賀川市役所の文化振興課 特撮文化推進係・学芸員の大野真実氏に、事業受託者サイドとして特定非営利活動法人アニメ特撮アーカイブ機構(ATAC)研究員の馬場裕也氏に、それぞれ聞き取りを行った。

先端分野の一つとしての特撮資料整理事業 ~須賀川市・大野真実氏インタビュー~

――「須賀川特撮アーカイブセンター 資料整理業務」がどのような経緯で始まったのか、お聞かせいただけますか。

大野 数年前、須賀川市が井上泰幸さんの資料を、遺族の東郷登代美さんからお預かりいたしましたが、それがこれまでにない大規模な資料群でありまして、なおかつまだ調査されていないところも多かったんです。ですので、お預かりしたことを受けて、その全体量を把握するところから始めようということになりました。その手段として、2024年からATACさんに資料整理事業をお願いし、市やアーカイブセンターと協力して一緒に作業を進める形としました。

須賀川市役所 文化振興課 特撮文化推進係・学芸員 大野真実氏

――井上泰幸資料が資料整理事業の最初の対象になったのは、「生誕100年 特撮美術監督 井上泰幸展6などの展覧会で体系化されているというのも一因になるのでしょうか。

大野 そうですね。「井上泰幸展」でも、ある程度は全体の把握をされていましたけれども、もう少し詳細に調べたいとか、十分に手が届かなかったところが多いと聞いていたので、収蔵するにあたって、そういったところを整理することが最初のステップになりました。また一方で、センターでの収蔵に適した形での保存をしなければならないので、この資料整理事業は、それを実現するためのものでもあります。

――須賀川市でも2023年に「井上泰幸展 円谷英二を支えた特撮美術の技」を実施されていましたよね。

大野 あの展覧会は、普段なかなか一般の方に見せることができなかった裏方作業の成果を、市民の皆さんに還元する機会となりました。先行分野であったり、類似分野がないなかで、展覧会を通じてアーカイブセンターの活動を知ってもらえる形を打ち出せたのは、今後の展開であったり、私個人としての蓄積としても大きかったかなと思っています。

――資料整理事業を通して最適な収蔵・保存方法を実現するとのことですが、一口に特撮資料といっても、平面から立体までさまざまであり、その素材も多種多様です。その意味で、他の美術館や博物館とは異なる、特撮資料アーカイブ固有の難しさもあるのではないかと思うのですが。

大野 それはありますね。文化財等であれば「このように保存しておけば、ある程度間違いない」というようなスタンダードな保存方法の研究が進んでいるとは思うのですが、特撮資料は現代資料であり、もともと資料として保存されることを予定されてなかったものも多いため、保存方法の蓄積やノウハウが少ないんです。ですので、手探りでやらなければならない難しさを、常日頃感じてるところではありますね。

「須賀川特撮アーカイブセンター 資料整理業務」の作業風景

――ある意味、博物館研究やアーカイブ研究の最先端に、特撮が位置しているとも考えられるわけですね。

大野 そうですね。戦後や現代の資料などを保存していく流れができているなかで、そのなかの一つの先端の分野だといえるかなと思います。

――博物館の四大機能として「資料収集」「整理保管」「調査研究」「教育普及」が知られています。設立当初のアーカイブセンターは、そのなかの「資料収集」に注力されてきたわけですが、この事業を通して「整理保存」にも注力していくことになるわけですね。

大野 そうですね。開館当初、アーカイブセンターは「見せる収蔵庫」、第一の目的として収蔵施設という要素が大きかったんです。ですが、開館してから非常に多くのお客さんに来館していただき、施設目的としても「いかに収蔵している資料を、来館者の人に届けていくか」という役割が、ここ数年で非常に大きくなっていると思っています。

――アーカイブセンターも、フェーズが次の段階に移行してきているわけですね。

大野 アーカイブセンターもステップアップといいますか、変わっていかなければいけないところがあるのかなと。

――今回、2024年度から引き続きの井上泰幸資料に加え、新たに特撮美術監督である高橋勲さんの資料が資料整理事業の対象となっています。資料整理の第二弾として高橋勲資料を選ばれた理由をお聞かせいただけますか。

大野 2024年度は井上さんの資料のなかでも、主に東宝作品を中心にやっていたのですが、それは基本的に1950年代から80年代後半くらいまでの劇場作品が多かったんです。一方、アーカイブセンターで今後収蔵していく資料として、平成期の劇場作品やテレビ作品の比重が高くなっていくと見込んでいまして、そういったものを整理していく上でのノウハウの蓄積が欲しいという話を、ATACさんとしていたところでした。そのなかで、高橋さんの資料は平成期の劇場作品やテレビ作品を含んだ資料群でしたし、なおかつ分量としても井上さんほど膨大でなく、1年程度で全容を把握することができるだろうと想定されましたので、今回高橋さんの資料整理をやらせていただいたという形です。

高橋勲資料の分類方法について検討が行われている様子

――今後を見据えたモデルケースとしての選択だったのですね。

大野 そうですね。加えて、井上さんとはまた違う色を持った資料の蓄積を行う目的もあります。

――これもまた博物館の機能の話ですが、「調査研究」のなかには、保存方法などに関する研究もあるわけです。今回の資料整理事業は、それに当たる機能も兼ね備えているところもありそうですね。

大野 そうですね。「資料としてどういうものが収集されたのか」、それを「適切な形で保存する」という二点は資料収蔵において一番基礎的なところなので、まずはそこができるようにということですね。それに、アーカイブセンターは市の施設なので、民間の施設と違って数年単位での職員の入れ替わりがどうしても出てきてしまいます。ですので、人が変わったとしても、技術やノウハウが変わらず継続して行えるように、ということですね。

――ちなみに、井上資料と高橋資料に関して、現在まで資料整備事業をやっていくなかで、両者の違いを実感されたところはありましたか。

大野 井上さんの場合は年数が経った資料も多いので、もろくなっているものも結構ありましたし、青焼きの図面や、フィルムや、紙焼きの写真であったりと、材質が多様だった印象があるのですが、高橋さんの場合だと現在に近いので、紙の質としてもある程度統一されており、逆に井上さんの映画資料であまりなかったファックス用紙などがあるんですね。ですので、通信技術などの、それぞれの作品の時代に身近だった生活技術に応じて、残っている資料の材質が違うところは興味深く感じています。

アーカイバルボックスに入った井上泰幸資料。青焼きの紙資料や紙焼き写真など、一口に「紙資料」といっても、その形態は多様である

――制作技術における変化だけではなく、そういった文化・習俗的なものも、資料を通して見ることができるというわけですね。ところで、資料整理事業に関する今後の展望などはありますか。

大野 どこの博物館・美術館もそうだと思いますが、アーカイブセンターの方も人手と時間といったリソースが限られていますが、いかに今保管しているものの全容を把握する作業は継続していきたいと考えています。今後も収蔵資料は増えていくと思いますが、まずは目の前のことをコツコツやりながら、収蔵資料の全容を把握し、それらの資料を公開・活用できる状態に持っていくことは、必要な業務として継続して取り組んでいきたいと考えます。

特撮資料ならではの事情とは ~ATAC・馬場裕也氏インタビュー~

――「須賀川特撮アーカイブセンター 資料整理業務」に関するATACの立ち位置について、お聞かせいただけますか。

馬場 この事業は、委託者が須賀川市で、受託者がATACという形でやらせていただいています。僕がATACの特撮担当の研究員として、アーカイブセンターに来て資料整理を行ったり、その作業のなかでつくったリストや撮影した資料の記録画像を都内のATAC事務所で整理して、それをまた須賀川市さんに共有したりしていますね。

特定非営利活動法人アニメ特撮アーカイブ機構(ATAC)研究員 馬場裕也氏

――実務面は馬場さんが主導で行われているということでしょうか。

馬場 そうですね。基本はデータの取りまとめも含めて僕がやっていますが、随時ATAC事務局長の三好(寛)にも須賀川に来てもらっています。また、アーカイブセンターの資料の実情を常に把握されているということと、長年継続して井上さんの資料整理に携わっているということで、メイキングディレクターの島崎淳さんにも、整理作業の協力をお願いしています。

――馬場さんと島崎さんが、基本的にペアで動いている形でしょうか。

馬場 そういうことが多いかなと。島崎さんは(すかがわ特撮塾講師や、須賀川で特撮の撮影が行われる作品のスタッフなどとして)須賀川市での活動をレギュラーでやられていますし、資料をお持ちだった方と直接面識があることが多いので、そういった知識・経験の面で助けていただいていますね。

――資料整理事業は、井上泰幸資料から始まったとのことですが。

馬場 そうですね。昨年度、須賀川市さんが事業化して紙資料の整理を行うにあたり、一番大きな資料群となっている井上さんの資料から始めることになりました。何万枚もある井上さんの紙資料をアーカイブセンターと市の職員だけで整理するのは難しい状況でしたし、井上さんの資料の所有者である遺族の東郷登代美さんが、継続した整理・調査と利活用を望んでいたことも大きな理由の一つです。僕もアーカイブの仕事に携わったのは、2022年に都現美で開催された「生誕100年 特撮美術監督 井上泰幸展」にあたっての資料アーカイブ作業がスタートで、そこでの働きを評価していただいてATACに声をかけてもらったところもあります。

井上さんの紙資料に関しては、都現美のときにアーカイブチームで資料リストと、それに紐づく資料の記録画像のデータをつくったんです。須賀川市の資料整理事業ではそれらを基盤としつつ、「収蔵品として管理するにはどう整理していくべきか」についての検討もしているということですね。

都現美のときは井上さんの今残っている資料のうち映画作品に関しては、たとえ一作品につき一個だとしても極力全作品展示するという方針だったんです。なので、井上さんが美術スタッフおよび特撮美術監督として関わった映画作品に関する資料は、都現美のなかで基本的な整理ができていたんですね。そういった都現美での地盤があることも、昨年度に「まず井上さんの資料」となった大きなところかと。

――回顧展を踏まえた上での資料整理事業ということは、当時のアーカイブでは未整理のままなところがあったということでしょうか。

馬場 都現美のときは、展覧会の準備とアーカイブ作業が同時並行で走っていて、展示の対象となる資料から優先してとにかくアーカイブしていく、というやり方でした。また展覧会の開幕までに一定の成果物としての資料リストを完成させるのが至上命題だったこともあり、展示候補外の資料の整理はある程度のところで見切りをつけざるを得ず、すべての資料整理まではできませんでした。2024年の資料整理事業は、井上さんが美術スタッフおよび特撮美術監督として関わった映画作品に関する資料は、都現美で展示候補外だった資料も含めてすべてリスト化し、一区切りつけることができましたね。

ただ、これは2024年度の整理事業でもまだ手を付けられなかったところなのですが、井上さんが立ち上げた造形会社の「アルファ企画」が受けた仕事の資料も残っています。アルファ企画は1970年代から90年代にかけて、非常に多くのテレビ特撮作品でミニチュアや造形物の制作を担った会社でしたが、井上さんが関わった映画作品に関する資料よりも、そちらの資料の点数の方が多いぐらいの状況なんです。要するに、井上さんの紙資料に関しては、都現美でも2024年度の整理事業でも整理を大きく進めることができたのですが、まだまだあるということなんです。

2024年度資料整理事業の様子。井上泰幸資料が作品ごとにアーカイバルボックスに入れられて保管されている

――そして続いて2025年度は、高橋勲さんの資料も事業の対象になったわけですが、井上泰幸資料と高橋勲資料の両者を「資料整理事業」という観点から比較した場合の違いはありますか。

馬場 井上さんに関していうと、都現美の前段階で既に、遺族の東郷さんが資料保管専用の文書箱、いわゆるアーカイバルボックスを作品の数だけ用意して、島崎さんをはじめとする特撮の有識者や、井上さんと一緒にお仕事された高木明法さんたちの手で、作品ごとに分類するところまでの作業がある程度進んでいたんですよ。

一方で高橋さんの場合、80年代以降の作品に関する資料が多いのですが、資料の大半がポケット式ファイルに入っているんです。今後も資料をポケットからは出さずに現在の状況を維持して、ファイル単位で保管していくのが現状の方針です。その状況でどのようにリスト化するか、資料個別のラベルをどう付けるか、資料ナンバーをどう付けるか、資料の記録画像としてどうデータを残すかなどは、井上さんのときの「箱から一枚一枚出してやっていく」ということとは状況が違うんです。同じ特撮美術の紙資料ですが、資料の保管されていた方法が根本的に違うので、それをどう整理していくかについて、島崎さんやアーカイブセンターの皆さんたちと知恵を出し合い、適切なやり方を探っていますね。

――それぞれ「井上ケース」「高橋ケース」といった感じで考えているわけですね。

馬場 そうですね。昭和後期から平成以降においては、紙資料をファイルで整理していくというのが通例だと思うので、井上さんの状況の方が、むしろ特殊なのだと思います。あとは、封筒に入れて管理している場合もあるでしょうね。アルファ企画の資料も、もともと封筒単位で高木さんが分けてくださっていたと聞いています。それを都現美のときに概ね作品ごとにアーカイバルボックスに分けました。そのように、最終的にアーカイバルボックスに入れるにしても、ファイル単位での紙資料が今後はアーカイブセンターの収蔵資料として増えていくと思います。

2025年度資料整理事業の様子。高橋勲資料はポケット式ファイルで保管される

――高橋資料を平成以降の作品に関わられた方の資料のモデルケースとして、今後のアーカイブセンターにおける資料組織化のスタンダードな方法を探っているところもあるわけですね。

馬場 そうですね。ATACが須賀川に常駐して資料整理をしているわけではないので、「こういう資料が来たときには、こう対処して、ここから先はATACや専門家の手を借りて整理を進める」とか、そういう体系化・ルール化をしていって、何ならマニュアル化までできればと思います。

――2024年度から井上泰幸、高橋勲と、特撮美術監督の資料整理という形に、期せずしてなっているわけですが、特撮資料の資料整理を行うことそのもの難しさなどはありますか。

馬場 今おっしゃったように、たまたま紙の資料整理に関しては美術監督、あるいは美術助手の方の紙資料が現状では多いのですが、とにかく物量がすごいんですね。あと、紙はミニチュアと違ってコピーも多いですし、そのコピーに関しても「同じ紙資料をコピーしたものだけれど、コピーの方にも一部にコピー元とは異なる手書きの書き込みがあって、実は違う紙資料と解釈できる」とかもあるんですよ。最終的にはリスト管理が基本なので、いろいろな情報が入っていたり、さまざまな形式があったりする紙資料を、どうリストに一元化して落とし込めるか。特撮資料の資料整理の難しさで一番大きいのは、そこかなと思います。あとは紙資料の状況・状態も千差万別なので、適した保管方法は何が現状ベストなのかの判断ですね。

――正解がわからないなかでの試行錯誤ですが、他分野における既存のアーカイブの知見を参考にすることはありますか。

馬場 特撮資料のアーカイブと美術品のアーカイブとの大きな違いとして、資料そのものが作品ではないということがあるんです。ATACがいうところの「中間制作物」、別の場では「中間生成物」と呼ばれたりもしますけど、それは「作品ではないけども、作品と同じように価値のあるもの」なんです。ただ、例えば紙資料であれば、デザイン画的なものは絵画と同じように扱うべきとも考えられますが、千枚もある紙資料に対して一つ一つ絵画と同じように扱っていたら、お金も空間も、いくらあっても足りませんよね。

もちろん、「絵画だったらこういう場合、薄葉紙をどう使う」といったことを資料の扱いに経験のある人に聞いたり、ATACでこれまでアニメ資料をどう扱ってきたかを常に確認したりと、他の分野の知見を参考にはしています。ATAC事務局長の三好ももともとジブリ美術館の学芸員だったので、資料の扱いには慣れているし、専門知識もある。それらの知識・経験や、これまでの前例を参照しつつ、特撮資料特有の状況にはケースバイケースで都度検討しながら対処しています。例えば大きさが全然違うとか、現場で扱いやすいように紙を板に貼っているとか、そういった状況があるし、時代によってもコピーが青焼きであったりとか、感熱紙コピーであったりとかいろいろあるので、さまざまな方法やデータ、知識を確認しつつ、模索しながらやっているところですね。

――リストの管理に関しては、資料ごとにカテゴリーを付けていく作業がありますが、特撮ならではのカテゴリーなどはあるのでしょうか。

馬場 本当に、特撮ならではの事情は多いですね。例えば「美術」と一口にいってもいろいろな要素があるんですよ。ミニチュアもあるし、セットもあるし、背景画もあるし。ミニチュアに関しても、造形資料と美術資料のどちらに該当するのか、とかがあるので、とにかく一度どちらかには分類しつつ、拾いきれなかったら備考に書くとか、これもケースバイケースで対処しています。

2025年度資料整理事業の様子。紙資料だけでなく、立体物についての整理も行われた

――スパッと切り分けられないのですね。

馬場 特撮は総合芸術だといわれることもありましたけど、セクションで分かれているとはいえ、そのセクションが相互に連動しているところもあるんです。特に美術は被写体そのものをつくっているので、それをどう撮るかの撮影プランとかも含めて、さまざまなセクションと連携する。その結果、いろいろな情報が紙資料に書かれている場合があるんですよ。なかなか十把一絡げにはいかないですね。

――マニュアル化の難易度も高そうですね。

馬場 2024年度の整理事業でも僕がマニュアルをつくりましたけど、補足に次ぐ補足でした。単語一つとっても、一般名詞的に使えない単語もありますし、大変でしたね。マニュアル化ということは、資料整理作業が特撮の専門知識を持った人に属人化しないように、一般的なところに落とし込むということですから。特撮固有の事情としては、似たような形式の資料なのに、呼び方が会社とか人によってまったく違うことがあるので、そういう場合はマニュアル上で、呼び方を別の一般的な単語に置き換えるなど、ある種の最大公約数的な表現方法を採ったりしましたね。

今、須賀川市さんがATACに発注している事業以外にも、森ビルさんとやっているメディア芸術アーカイブ推進支援事業7でも、特撮アーカイブに関わるいろいろなことを検討・進行しているので、それらと連動しつつ、適切な落とし込み方を常に考えています。

――これからの課題もたくさんあるとは思いますが、資料整理されていくことによって、今後必要なときに提供したり、活用したりできるようになるということですよね。

馬場 そうですね。リストにしろ記録写真にしろ、もちろんアーカイブセンターにおける保存・管理のためというのが第一義ですが、それらを利活用していくのがその後の段階で必要なんです。「アーカイブ」は、保存・整理された資料の利活用や普及啓発も達成されて初めて完成する営みだと思いますので。今後資料整理事業が終わった資料に関しては、そういったこともどんどん進めていかねばならないなというのは、ATACとしても思っているところですね。

アーカイブセンターの転換点

本節では上記の大野氏、馬場氏のインタビューを踏まえ、アーカイブセンターが担う役割の変遷と、特撮資料のメディア的特性について、それぞれ改めて整理していく。

まずはアーカイブセンターが担う役割の変遷について確認する。アーカイブセンターはもともと、資料の収集と保存に特化した「見せる収蔵庫」としての目的が第一であった8。すなわち、アーカイブセンター1階収蔵庫には数多くのミニチュアが並んでいるが、それはあくまで収蔵庫の壁面がガラス張りであるがゆえに来場者が鑑賞できるにすぎず、いわゆる博物館、美術館における「展示」を意図してはいなかった9。だが、アーカイブセンターの設立後から展開してきた活動の広がりと、アーカイブセンターへの数多くの来館者10によるニーズの可視化、そして今回の資料整理事業といったピースが集まり、アーカイブセンターは博物館、美術館と同等の役割を果たす施設へと変貌を遂げたのだ。まさに2020年の設立から5年の時を経て、アーカイブセンターが担う役割は新たなフェーズへとシフトしたのである。

続いて、特撮資料のメディア的特性について確認していく。特撮資料はミニチュア、着ぐるみ、フィルム、背景画、紙資料と、素材や大きさなど、その形態は非常に多岐にわたる。今回のインタビューでは、そのなかでも特に特撮美術の仕事にまつわる紙資料について重点的な言及が行われたが、ここで注目したいのは、複製物としての紙資料である。映像制作には数多くの人間が関わることから、コピーによる中間制作物のスタッフ間での共有が行われるが、制作過程のなかでそれらに各担当者が書き込みを入れていくため、結果としてコピーにもオリジナルとしての唯一性が生まれてくる。これまでも台本などのように、そうした複製物の「書き込み」の重要性が認識されていた資料は存在したが、その特徴は紙資料全般に対して適用できるのである。そしてその「コピー」性も、青焼きなのか感熱紙なのかといったように、時代における技術の影響を大きく受ける。映画は「複製技術時代」に生まれた芸術だが、そのジャンルの一つである特撮の中間制作物においても複製技術は大きな役割を担っているのだ。ともすれば匠の技によってつくられたミニチュアに代表されがちな特撮の議論だからこそ、こうした複製技術に対する意識は忘れてはならないだろう。

以上のように、アーカイブセンターにおける「資料整理事業」の試みは、アーカイブセンターそのものの果たす役割を進歩させる転換点となっただけでなく、特撮研究に対しても新たな視点を提供するものであった。そしてこの「資料整理事業」は、アーカイブセンターにおける今後の「調査研究」、「教育普及」機能におけるベースを構築するものであるため、さらなるアーカイブセンターの活動発展へとつながっていくものでもある。今後のアーカイブセンターの展開に期待したい。

脚注

1 「【調査研究活動紹介①】特撮美術監督 渡辺明氏が記録した撮影現場資料」須賀川特撮アーカイブセンター、2026年3月31日、https://www.city.sukagawa.fukushima.jp/tokusatsu/archive/chosa/1/3649.html
2 「【調査研究活動紹介④】背景画家 島倉二千六氏の背景画の調査・デジタルアーカイブ(前編)」須賀川特撮アーカイブセンター、2026年3月31日、https://www.city.sukagawa.fukushima.jp/tokusatsu/archive/chosa/4/3620.html
3 「【特撮レジェンドオーラルヒストリー】特殊撮影・光学撮影・視覚効果 宮西武史氏/撮影 桜井景一氏 編」須賀川特撮アーカイブセンター、2026年4月4日、https://www.city.sukagawa.fukushima.jp/tokusatsu/archive/chosa/3668.html
4 「展覧会「井上泰幸展 円谷英二を支えた特撮美術の技」須賀川特撮アーカイブセンター、2026年3月31日、https://www.city.sukagawa.fukushima.jp/tokusatsu/oshirase/3644.html
5 ワークショップ「すかがわ特撮塾」が果たす「教育普及」機能については、本サイト「「モノづくり」と「メイキング」の相互関係が特撮文化にもたらすもの 「すかがわ特撮塾」レポート」(2024年1月23日、https://macc.bunka.go.jp/3586/)に記述あり。
6 「生誕100年 特撮美術監督 井上泰幸展」については、過去のメディア芸術カレントコンテンツ「「特撮美術監督」という仕事――「生誕100年 特撮美術監督 井上泰幸展」 三池敏夫(特撮研究所・展示監修)インタビュー」の前編(2022年6月3日、https://mediag.bunka.go.jp/article/article-19703/)・後編(同、https://mediag.bunka.go.jp/article/article-19721/)に記述あり。
7 [編集者注]この取り組みについては、本サイト「お知らせ」の「令和6年度文化芸術振興費補助金メディア芸術アーカイブ推進支援事業における採択事業概要について」(https://macc.bunka.go.jp/news/6505/)内、「団体名:森ビル株式会社 事業名:日本特撮アーカイブ 補助金の額:5,000千円」に概要を記載している。
8 ATAC事務局長の三好寛はアーカイブセンターの位置づけについて、次のように述べている。「須賀川市特撮アーカイブセンターは、須賀川市も私たちも位置づけとしては保存施設と考えています。いわゆる博物館にはせず、見学が可能な状態で収蔵しているという言い方をしています。まずは残すことが大事だろう、と。展示を中心とした利活用は、いろんなところで行うことができるという考えです。」「アーカイブの場の維持について――関係性と工夫、そして課題」メディア芸術カレントコンテンツ、2024年2月20日、https://macc.bunka.go.jp/3942/
9 ATAC事務局長の三好寛はアーカイブセンターの収蔵庫と「展示」の関係について、以下のように述べている。「なんとここ[引用註:須賀川特撮アーカイブセンター]はですね、収蔵庫の中を見学できる。ガラス張りになっていてですね、全面、中が観れる。で、箱にミニチュアをしまい込まずに、あえて出して、台の上に並べて、あたかも展示をしているかのように収蔵庫の中を見て楽しむことができるという、しかもそれが無料でできる。街の図書館のように無料で入れて、無料で見学ができる。そういう施設です。」「【MAGMA sessions2023】アーカイブの「場」の維持について 関係性と工夫、そして課題」YouTube、https://www.youtube.com/watch?v=aFh2-jRHTcU(動画内28:23~29:54)
10 アーカイブセンターのXアカウント(@suka_tokusatsu)によれば、2026年5月末までの累計来館者は14万人にのぼったという。2026年6月4日、https://x.com/suka_tokusatsu/status/2062435876970648011?s=20

馬場 裕也(ばば・ゆうや)
特定非営利活動法人アニメ特撮アーカイブ機構(ATAC)研究員。1994年生まれ。埼玉県出身。東京都現代美術館で開催された「生誕100年 特撮美術監督 井上泰幸展」(2022年)に、主に資料アーカイブ担当として参加。以降、特撮関連作品の中間制作物のアーカイブ事業に多く携わる。2024年より特定非営利活動法人アニメ特撮アーカイブ機構(ATAC)に所属。

※インタビュー日:2025年9月30日
※URLは2026年7月24日にリンクを確認済み

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