企業におけるゲームアーカイブ最前線 第2回 「過去の資産」を現代のビジネスへ:セガが取り組む活用と未来

尾鼻 崇・小出 治都子

連載目次

奥成洋輔氏

1. ローカル管理からの脱却。セガの開発資料はどこにあるのか

――本日はよろしくお願いいたします。御社では、過去のゲーム開発資料をプロジェクト完了後にどのように体系的に保存・管理されているのでしょうか。

奥成 現在の弊社の状況といたしましては、基本的には開発環境も含めまして、共有サーバー上で一元管理される体制となっております。
ただ、20世紀に開発された古いデータに関しましては、当時は現在のようなネットワークではなくローカル環境での開発が主体であったこと、さらには開発部門が一時期分社化していたという歴史的経緯なども影響しておりまして、バックアップの移行は当時の各社の管理担当者の判断に大きく依存しているのが実情でした。
そのため、その時代のバックアップ状況に関しては、しっかりと残されているものもあれば、残念ながら保存されていないものもあるという状況です。基本的には、関わるスタッフの多い大規模なタイトルになるにつれて組織的なデータ保管が行われるようになる傾向がありますが、昔のタイトルについてはやはり当時の開発担当者の個人的な意識による部分も大きかったですね。例えば、1980年代のクラシックタイトルであってもソースコードが綺麗に保管されているものがある一方で、1990年代後半のタイトルでありながら保管されていないものや、2000年代に入ってからであってもバックアップ作業に失敗し、ハードディスクがクラッシュしたことでデータがロストしてしまったといったケースも過去には存在しました。

――そうしたアーカイブを専門に行う部署や、専任のご担当者はいらっしゃるのでしょうか?

奥成 会社全体を通してアーカイブのみをメインミッションとする「専任部署」は存在しておらず、現在は各事業部のサーバー管理担当部門が、それぞれの領域においてデータの保管をも担っているという形になります。現在、会社として一元管理できるような体制を整えようとデータベースを用意し、更新している最中ですが、現状でわかるのは、すべてのゲームタイトルの管理担当者までで、担当者が保管部署に依頼しデータを提供するというフローになっています。

――デジタルデータ以外の、物理的な「モノ」の保管体制はいかがですか?

奥成 アーケードゲームの筐体そのものや、基板に実装されているROMのデータ保管につきましては、アミューズメント機器の物流および保守メンテナンスを受け持つセガのグループ子会社である「株式会社セガ・ロジスティクスサービス」が永久保管の役割を担っています。ただし筐体に関しては、代表的なものごく一部となります。保管場所の管理については、通常の製品と同じように扱っています。
保管している貴重な筐体の一部は、会社のロビーに展示したりもしています。2025年の「AMUSEMENT EXPO 2025」においては、初代の「UFOキャッチャー」を展示して多くの方にご覧いただきました。
コンシューマゲームに関しては、21世紀初頭まで展開していたセガの過去のコンシューマ機向け最終データは、かつてはマスターROMの納品部門が担当していましたが、現在では、過去の資料全般を保管する私たちの部署「コンテンツプロデュース室」が引き継いで管理しています。

2. 保存の「プロセスと方針」について

――御社の開発現場において、紙の資料からデジタルデータ主体の管理へと移行したのは、おおよそいつ頃からでしょうか?

奥成 開発現場における資料の完全なデジタル移行は、おおよそ2000年代中期以降から本格化したように記憶しています。2000年の時点でもサーバーによる管理自体は行われてはいたのですが、現在ほど厳密なルールが徹底されておらず、管理体制が不十分な面も多々ありました。特に、外部の開発会社に発注して作成されたデータなどは、社内で完全に把握・管理しきれていないケースも当時は見受けられました。

――開発過程で生み出されたアナログ資料は、現在どのような環境で保管されているのでしょうか?

奥成 現在、温度および湿度に十分配慮された外部の専門倉庫に紙とディスクメディアの両方を厳重に保管しています。開発資料の他にも、取扱説明書やパッケージの化粧紙1、アンケート用の紙、さらにはパッケージやROMカートリッジに貼るシール部分などをデザインする部門がありまして、その部署が当時保管していた印刷サンプルなどもそこに残されています。物理メディアとしてすぐに出せるよう、あえて倉庫に送らず手元に残している取扱説明書などもありますね。
これらについては、単にフィジカルな状態で保管したままにするのではなく、現在はすべてスキャンしてデジタルデータ化するという作業も並行してコツコツと進めています。

スキャン作業をしている様子

――膨大な量のスキャン作業になりそうですね。

奥成 ええ、かなりの膨大な量がありまして大変です。当時のゲームは日本国内だけでなく北米向け、ヨーロッパ向けとそれぞれにつくられていたのですが、特にヨーロッパ向けの取扱説明書は、英語、イタリア語、フランス語、スペイン語、ドイツ語の5カ国語が併記されていました。当然、日本版や英語のみの北米版よりも分厚くなりますので、それを1ページずつスキャンしていく作業は本当に骨が折れます。それでも、後世に残すために地道に進めているところです。

――現在でも、手描きのスケッチやメモといった「紙の資料」が発生することはあるかと思いますが、そうした資料はどう扱われていますか?

奥成 古い紙資料については、スキャンによるデジタル化を進めつつ、原本は前述の倉庫で保管されていますが、開発過程で描かれた手書きのスケッチやメモのレベルだと個人で保管しているケースが多いですので、提供も個人から受けることがほとんどです。しかし現在は完全にデジタル環境に移行しているため、紙資料をスキャンするようなケースはありません。

――デジタルデータの長期保存において、特に古い「クラシック」な作品を扱う上での独自の工夫などはありますか。

奥成 例えば、古いEP-ROMやCD-ROMといった物理メディアに記録されているゲームデータについては、将来読めなくなるリスクがあるため、データを吸い出して、専用に改造した実機やエミュレータ上で動作できるような状態にする作業を現在進めている最中です。
これにより、データの消失を防ぐと同時に利用が格段にしやすくなります。今はちょうど、セガの過去のコンシューマ機向けに発売された数千タイトルにも及ぶソフトの吸い出し作業が完了しようとしているところで、今後はそれをハードウェア別、タイトル別に体系立てて管理していく必要があります。また、発売後に不具合の修正などでROMの差し替えが行われた更新版のデータなども、すべて余さず保管するようにしています。

――膨大な資料のなかで「残すもの」と「残さないもの」を分ける判断基準はあるのでしょうか。

奥成 私たちの基本的な考え方として、できる限り「残さない(捨てる)」という選択はしません。特に古い時代のものに関しては現在となっては非常に貴重な資産ですので、何でも保管しようと、とにかく資料をかき集めることに必死になっている状態です。
例えば、当時の開発者が描いた落書きのようなものや、当時プロモーション用に大量生産されたノベルティグッズなども積極的に収集しています。大量生産されたノベルティであっても、消費されてしまって今では手元にほとんど残っていないということが多々あるためです。ただ、近年数多くリリースされているような二次的商品(ライセンスグッズなど)の保管については、すべてを網羅するのは難しいため限定的となっています。

3. アーカイブをビジネスへ。保存の先にある「活用」の課題

――デジタルデータの長期保存や管理において、現在直面されている課題などはありますでしょうか?

奥成 昨今のタイトルの保存方法は「プロジェクトのサーバーを丸ごと保管する」という運用が主流になっているため、完成品に至るまでの「中間生成物」をあえて区別して抽出・管理するという意識は社内でも薄くなっているかもしれません。
単にデータをストレージに残しておく「保存そのもの」については、現在の技術や体制において特に大きな課題はないと考えています。課題として強く感じているのは、保管された膨大なデータに対して、いかにスムーズに「アクセス」し、ビジネスに「活用」しやすくするかという点にあります。社内向けに公開しているタイトルデータベースに情報をしっかりと盛り込み、保管場所を検索できるようにしたり、閲覧できるようにして、膨大なデータにもっとスムーズにアクセスできるようにしたいと考えています。

保存箱に入っている資料とその目録

――保存されている過去の資料は、実際に社内でご活用される機会は多いのでしょうか?

奥成 はい、保存された過去資料の社内での活用は非常に活発に行われています。例えば「メガドライブミニ」のような復刻プロジェクトをはじめ、二次商品としてのグッズ化、他社様へのライセンス事業などに頻繁に利用されています。
また、先日発売された『龍が如く 極3 / 龍が如く3外伝 Dark Ties』(2026年)といった最新作におきましても、ゲーム内で「ゲームギア」や昔の「アーケードゲーム」を実際に遊べるようになっているのですが、それが実現できたのも、過去のゲームのデータや、当時の印刷物、ゲームギア本体の画像データなどがしっかりと保管されていたからです。
さらに、過去のゲームを復刻・利用する際には、それぞれのタイトルの「契約書」を確認し、復刻利用が可能かどうかを調べる必要もあります。昔のゲームの利用や新たなビジネス展開は、こうした多岐にわたる資料保管がなされているからこそ可能になっているといえます。

――社内で、こうしたアーカイブの「価値」について議論されることはありますか?

奥成 年々、過去のクラシックゲームや、それに付随する二次的著作物に関する外部からの引き合いが非常に多くなってきています。マーチャンダイジング(商品化)の面でも、古い開発資料の価値は社内で再認識されていますね。IPを持っているだけでは活用したことにはならないので、これを利用するための環境づくりがまず何より大事であるという点においては、社内の関係者の間で意見が一致していると思います。

4. 属人化からの脱却と、ゲームアーカイブの未来

――今後、御社の開発資料をどのように保存し、活用していくのが理想的だとお考えでしょうか。

奥成 やはり一番は、もっとアーカイブへの「アクセスを容易にすること」ですね。現在保管しているものはリストとしてまとめていますが、各種データに直接アクセスできる社員が限られている状態です。現状では当時の開発者や社内事情に明るい人間を頼るなど知識が属人化してしまっている部分がありますので、社員であれば誰でも広く検索し、閲覧できる統合的なデータベースの構築を急ピッチで進めています。
今はまだテキストと静止画データが中心ですが、いずれはあらゆる情報にアクセスできる環境を整え、知識やスキルを持たない人でも容易にコンテンツを活用できるオープンな仕組みにすることが理想だと考えています。

――近年はオンライン接続を必須とするゲームも増えました。もしサービスが終了した過去の作品を残していくと仮定した場合、最低限何を残しておく必要があるとお考えですか。

奥成 運営型ゲームの保存は、データ単体にとどまらず、サーバー基盤や外部サービス、権利関係が複雑に絡み合うため、プレイ環境の完全な再現には多くの課題が伴います。 すべての体験をそのまま残すことの難しさを踏まえつつ、将来の活用や歴史的記録としてどのようなデータ・資料を残すべきかについて、今後は業界や研究機関とともに現実的なアプローチを検討していく必要があると考えています。
オンラインゲームは常に変化するため、サービス終了後に当時の体験をそのまま再現・保存することは現実的に困難です。一方で、終了後にどのような記録を残すべきかについては、消費者の関心や海外での議論も含め、社会的な論点の一つとして認識しております。

――最後に、企業内でのゲームアーカイブに関して、国や行政、研究機関に対して期待することがあればお聞かせください。

奥成 ゲーム保存に対して、もっと社会的な注目が集まるようになってほしいですね。国内でも国立国会図書館や文化庁、大学・研究機関、民間団体による取り組みが進みつつある点は非常に心強く感じております。一方で、企業が保有する開発資料やオンラインゲームなどの保存は、個別企業での対応に限界があり、取り組みにもばらつきがあるのが現状です。 そのため、ゲーム分野への直接的な支援に加え、ゲームの歴史的・文化的価値に対する社会的な認知や理解を高めるための啓発活動を強く期待しております。今後は、権利者や産業界の実情に配慮しながら、公的機関・研究機関・企業が適切に役割を分担できる協働の枠組みを構築していくことが重要だと考えています。

――過去の膨大な資産を単に眠らせるのではなく、現代のビジネスで生かすための「環境づくり」の重要性がよくわかりました。本日は貴重なお話をありがとうございました。

[まとめ]株式会社セガの事例から見えてきた、アーカイブの「活用」に向けた環境づくりの重要性

連載第2回となる株式会社セガへのインタビューを通じて見えてきたのは、ゲームアーカイブにおいて、資料を保存するだけでなく、保存された膨大なデータにどのようにアクセスし、実際の業務や新たなコンテンツへ活用できる状態にするかという課題である。

セガでは現在、開発環境を含むデータを共有サーバー上で一元的に管理する体制がとられている。一方、20世紀に開発された古いタイトルについては、ローカル環境での開発が中心であったことや、開発部門の分社化などの歴史的経緯もあり、バックアップの状況は当時の担当者の判断に大きく左右されてきた。その結果、1980年代のタイトルでもソースコードが残されているものがある一方、より新しいタイトルでもデータが失われているケースがあるという。

そうした過去を踏まえ、現在は古い紙資料やディスクメディアを専門倉庫で保管するとともに、紙資料のスキャンによるデジタル化や、古いEP-ROM、CD-ROMなどからのデータの吸い出しが進められている。過去のコンシューマ機向けに発売された数千タイトルに及ぶソフトの吸い出しも進み、発売後に修正されたROMの更新版を含め、できる限り資料を残すことが重視されている。

そして、こうして保存された資料は、単に過去を記録するためだけのものではない。『メガドライブミニ』のような復刻プロジェクト、二次商品の制作、他社へのライセンス事業、さらには最新作のゲーム内で過去のゲームを遊べるようにする試みなど、現在のビジネスに幅広く活用されている。ゲームデータだけではなく、取扱説明書や印刷物、ハードウェアの画像、さらには過去の契約書まで含めて保存されていることが、こうした活用を可能にしている。
一方、現在のセガにおいて大きな課題となっているのは、保存そのものよりも、膨大な資料への「アクセス」と、そのために必要な知識の「属人化」である。どこに何が保存されているのかを知るために、当時の開発者や社内事情に詳しい人に頼らなければならない状況を解消するため、社員が広く検索・閲覧できる統合的なデータベースの構築が進められている。将来的には、専門的な知識やスキルを持たない人でも容易に過去のコンテンツを利用できる環境を整えることが目標とされている。

また、常に内容が変化し、サーバー基盤や外部サービス、権利関係などが複雑に関係する運営型ゲームについては、サービス終了後に当時の体験をそのまま再現することには多くの困難が伴う。何を保存すれば将来の活用や歴史的記録につながるのかについては、個別企業だけではなく、業界や研究機関を含めて現実的な方法を検討していく必要がある。
国内でもゲーム保存に関する公的機関、大学・研究機関、民間団体の取り組みが進みつつある一方、企業が保有する開発資料やオンラインゲームの保存を個々の企業だけで担うことには限界がある。今後はゲームの歴史的・文化的価値に対する社会的な理解を広げるとともに、権利者や産業界の実情にも配慮しながら、公的機関・研究機関・企業がそれぞれの役割を担う協働の枠組みを構築していくことが求められる。

セガの事例が示しているのは、アーカイブとは単に「残す」ことだけでは完結しないということである。資料を見つけ、アクセスし、理解し、再び利用できる環境まで整えることによって、過去のゲーム資産は新たな価値を生み出す。保存と活用を結びつける仕組みづくりは、今後の企業内ゲームアーカイブを考えるうえで重要な課題となるだろう。

1 ゲームソフトのプラスチックケースの透明なフィルムの間に挟まれている印刷物。ジャケットとなる表面にはタイトルやイラストが、裏面にはゲーム情報などが印刷されている。

脚注

※インタビュー日:2026年1月19日

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