鴫原 盛之
1991年の設立以降、数々のレトロゲームをその時々の家庭用ゲーム機やPCで遊べるように「移植」してきたエムツー。同社設立の経緯から移植にあたってのポイント、課題などについて、代表取締役社長・堀井直樹氏に話をうかがいました。

今から30年も40年も前に発売されたレトロゲームが、Nintendo Switch 2やPlayStation 5などの家庭用ゲーム機やPCでも遊べるのは、各メーカー(パブリッシャー)が現行のプラットフォームに「移植」しているからにほかならない。
移植タイトルの開発は、権利元のメーカーに限らず、外部の開発会社によって行われることも、ゲームの世界では日常茶飯事だ。移植を請け負う、数ある開発会社のなかでも、権利元メーカーにもプレイヤーにも特に高い評価を得ているのが、千葉県我孫子市にある有限会社エムツーである。
移植するにあたり、求められる技術や商品価値を高めるポイントとは何か? 日々の業務で実感している課題などはあるのだろうか? 1991年の設立当時から、長年にわたり移植タイトルの開発を数多く手掛ける同社の代表取締役社長、堀井直樹氏にうかがった。
エムツー設立後、最初に手を付けた移植タイトルは、1985年にアメリカのアタリ社が発売し、日本ではナムコが輸入販売していたアーケードゲーム『ガントレット』であった。
本作が大好きだった堀井氏と高校時代の友人たちが、ゲームセンターから姿を消した後もずっと遊び続けたいとの強い思いから、家庭用PCで動く移植版を独自に、いわゆる「目コピー」でつくり上げた。
会社設立後にまず取り掛かったのは、アーケード版『ガントレット』の移植でした。時間が経つにつれて、ゲームセンターから『ガントレット』がどんどん撤去されて遊ぶ機会がなくなってしまったので、じゃあ自分たちでつくろうかと思って、友達とX68000というPCを使って開発を始めたのがそもそもの始まりです。
撤去されたアーケードゲームを続けて遊ぼうと思ったら、自分で基板を買うか、自分でつくるかのどちらかしか方法がないんです。『ガントレット』は開発の途中でアーケード基板を買いましたが、何年間もずっと遊び続けていましたので、どこでどんなキャラクターが出てくるのかは体で覚えていましたし、絵は雑誌の記事に掲載された写真などを見ながらトレースして描いていました。
堀井氏と友人たちのすごいところは、当初は自主制作だった『ガントレット』を、メーカー(テンゲンの日本支社)からの正式な販売という形で、メガドライブ版ソフトとしての商品化を実現せさたことだ。移植開発の途中段階のものをメーカーに持ち込んだうえで契約ができたということは、メーカー側がそのクオリティを高く評価したからにほかならない。
途中段階のものを見たテンゲンのエンジニアの方は、画面上に走っているノイズの挙動を見て、その挙動が出る理由をコードを見ずに言い当てたんです。「本来はPC上で再現できないものを、自分たちで工夫して再現しようとしている彼らは、やる気がすごくありますね」とエンジニアの方に評価していただいたことで、テンゲンの社長さんも「彼らには自由にやらせておいたほうがいいだろう」と判断されたようです。
そういった流れで、テンゲンの日本支社からメガドライブ版を発売することが決定したのですが、「もう5年も6年も前の古いゲームなので、日本国内では売ってもいいけど、アメリカ側からはそのままだといらないと言われているんだよね」と言われました。
その頃すでに『ガントレットII』(1986年)と『III』(1991年)が発売されていたのですが、そのあたりを意識しつつ好き放題に新しい遊びを追加することで、最終的には僕らのつくったものが海外でも『ガントレットIV』(1993年)としてリリースされることになりました。

エムツーの名前が、業界内にもゲームファンにも広く知られるきっかけとなったのが、2006年にセガが発売したPlayStation 2用『セガラリー2006』に収録された、アーケード版の元祖『セガラリー』(1994年)の移植を同社が担当したことである。
本作において、極めて再現度の高い移植ができた大きな要因は、以前の『ガントレット』と同様に堀井氏ほか開発スタッフのプレイ経験に加え、メーカー側からソースコードが提供されたことだった。
セガさんから、PlayStation 2版の『セガラリー2006』を発売するにあたり、元祖アーケード版の『セガラリー』も遊べるようにしたいとのご相談をいただいたことで移植を始めました。セガさんでは『セガラリー』のソースコードをはじめ、各種資料をしっかり管理されていたので、開発がスムーズにできました。
ゲームの基板上に書き込まれたコードは、プログラマーがつくったコードをコンピュータが読みやすい形に翻訳されているので、人間には読みにくいんです。ソースコードは、翻訳をする前の状態、つまり人間が読めるように書かれているものですから、ソースコードのおかげで開発に一気に弾みがつきました。
ソースコードさえあれば「鬼に金棒」、移植開発は成功したも同然なのかと言えば、実はそうではない。最新のコンピュータ上で「動くようにしただけ」では、再現度の高い移植が実現するとは限らないのも、ゲーム開発ならではの難しさだ。
ソースコードを、コンピュータ上で実行するためのアーキテクチャーも重要なポイントです。ソースコードを移植したい別の機種、すなわち異なるアーキテクチャーでも動くように書き換えれば、基本的にはそのゲームは動くことになります。
ですが、移植は過去につくられたコンピュータよりも性能の高い、未来のコンピュータに向けて作りますので、ソースコードをそのまま移植すると処理スピードが速過ぎるあまり、ゲーム内の挙動がオリジナルよりも速くなってしまうんですね。
例えば、シューティングゲームで弾がたくさん飛んでくる場面では、オリジナル版では動作が遅くなる、いわゆる「処理落ち」が発生することがあるのですが、移植したときにソースコードのまま実行すると処理落ちしない場合があります。もし処理落ちしない状態でそのまま遊ぶと、人間には速過ぎて攻略が不可能になることがありますし、そもそものゲーム体験自体が変わってしまいます。
ですから移植する際は、処理落ちなどの挙動を自分たちの手で調整する必要があるんですね。オリジナル版と同じ体験ができるように、もとのコンピュータと同じ挙動を新しいコンピュータ上でも再現するために、エミュレーターと呼ばれるプログラムを開発しています。
『セガラリー2006』のときも、まず開発したエミュレーターでPlayStation 2上でもそのまま動くようにしたうえで、いろいろな部分をソースコードと見比べ調整しながらつくりました。同じソースコードでも、アーキテクチャーが変わると挙動がまったく変わってしまうので、時間は掛かりますがなるべくそっくりになるように調整してあります。
アーケードゲームを移植する場合は、前述したソースコードによるソフトの挙動の再現だけでなく、個々のゲーム専用につくられた筐体やUIなど、ハード面をどう再現するのかも大きな課題となる。
加えてエムツーでは、タイトーから発売された『ダライアス コズミックリベレーション』(2021年)と『レイズ アーケード クロノロジー』(2023年)で、実におもしろい試みを実現している。プレイ中に、ゲームセンターの店内に響く環境音を流すことで、実際にゲームセンターで遊んでいるかのような疑似体験ができる仕組みを実装したのだ。
タイトーさんの秋葉原にあるゲームセンター「Hey(ヘイ)」にご協力をお願いして、マイクを何本も立てて店内の音を録音し、ゲーム内に実装しました。とてもたいへんな作業でしたが、おかげ様でご好評をいただきました。
アーケードゲームの場合、例えば『スペースインベーダー』(1978年)から流れる音が、実際の筐体で鳴っているものと、移植したゲーム機から再現したものとでは、体験も記憶も違ってしまいますし、筐体から鳴っている音を聞いたほうが、昔のゲームを遊んだときの記憶がより思い出せるんです。
以前に『スペースインベーダー』の筐体を何台も持っている方のところで遊ぶ機会があったのですが、すべての筐体を同時に動かしたら、まさに当時のインベーダーハウスと同じ音が再現されました。アーケードゲームの動態保存としては、この形が一番なのではないかと思いましたね。
それから『スペースハリアー』(1985年)のように、スティックの操作に合わせてコックピットが動くゲームであれば、実際に動く筐体に乗らないと本物の体験はわからないんですね。つまり、ゲームを保存するという観点で言えば、ただ移植しただけではなく、本当は筐体も含めてきちんと残すことが必要になります。
文化庁では、他人の著作物を利用するにあたり、許諾を得ようにも権利者の連絡先がどうしてもわからない場合には、文化庁長官の裁定を受けたうえで補償金を供託することで適法に利用できる、「著作権者不明等の場合の裁定制度」を設けている。
レトロゲームの移植開発にあたり、大きな壁となるのが権利問題だ。過去に発売されたゲームのなかには、すでにメーカーが倒産したため、現在では著作権を誰が持っているのか、あるいは権利を持つ個人や法人の連絡先が不明なものも少なくない。
実はエムツーは、著作権の権利者が不明な古いゲームソフトを、本裁定制度を利用して移植、発売を実現させた先駆者でもある。
もし権利者が見付からない場合は、そのご家族などを我々の手で片っ端から探すときもあります。それでも、八方手を尽くしたのに見つからないときは、文化庁さんに相談して補償金を払えば著作権が利用できる裁定制度は、本当に素晴らしいと思います。
以前に裁定制度を使って弊社から発売したタイトルの一つが『究極タイガーヘリ』(2021年)です。本作に収録したファミコン版の『究極TIGER』(1989年)の権利を、当時の発売元であるCBS・ソニーグループさんを探したのですが手掛かりがなくて文化庁さんにご相談したところ、調べ方や裁定制度の利用方法などをいろいろ教えて下さいました。


エムツーが、長年にわたりプレイヤーから高い評価を得る移植を実現させている秘密はどこにあるのか? 堀井氏は、昔のハードの知識に長ける優秀なスタッフの存在と、社内でのエミュレーション環境が整っているからだと力説する。
我々が限られた期間で移植、開発ができるのは、X68000などの古いCPUや半導体の挙動に関する知見があり、それらの挙動を再現できるエミュレーターもすでに持っていて、秘伝のタレみたいに繰り返し使えるからです。弊社では、一つのパッケージを完成させるまでに1~2年ほど掛かりますが、もしエミュレーターの開発をゼロから始めた場合は、3~4年掛かってもおかしくないと思います。
技術者を確保するのが大変なときもありますが、今では毎年弊社に一人か二人、自ら売り込んでくる若者がやってくるようになり、話を聞いてみたら確かに優秀だったので、そのまま採用した社員もいます。
エムツーが移植を手掛け、2025年8月にコナミデジタルエンタテインメントから発売された『グラディウス オリジン コレクション』には、1985年にシリーズ第1弾が登場した『グラディウス』の各タイトルに加え、完全新作となる『沙羅曼蛇III』も収録されている。
各メーカー、あるいは権利者に移植タイトルの企画を提案する際のポイントと、『グラディウス オリジン コレクション』に新作をわざわざ追加した理由を、堀井氏は以下のように説明する。
企画を通すためには、知名度が高くてファンがたくさんいて、ビジネスとして成立することをまとめた企画書を書かなくてはいけません。その企画の中の一つが、2025年でちょうど40周年を迎えた「グラディウス」シリーズだったのですが、『グラディウス』は発売当時からもともと有名でしたし、社内にも大好きなスタッフがいましたので、実は5年も10年も前から「移植をしたい、やらせて下さい!」と言っていました。
『グラディウス オリジン コレクション』に新作を入れた理由は簡単です。我々がつくった移植版は「このくらいの売上になるだろうな」と、だいたい予測ができるのですが、そこにもうひと手間を掛けて売上をさらに伸ばせれば、後々また企画書が通りやすくなるからです。
そこで、もう予算がほぼ決まったタイミングだったのですが、「グラディウス」シリーズファンの皆さんの耳目を集める方法として「新作をつくってみてはどうか?」という話をみんなでしました。学校にたとえれば、課外活動として「これだけの開発期間があればつくれるから、じゃあやろう」と。どれだけ頑張れたのかで新作が入るかどうかが決まることもありますし、これで成果が上がったことをアピールして次の企画にもつなげるわけです。
ファンの方々からのご要望ももちろんお聞きしますが、根底には我々が「グラディウス」シリーズが大好きで、開発していて楽しいと思えるからこそつくれるのではないかと考えております。
今では自分たちが提案したものだけでなく、メーカーさんから「これも移植したらどうですか?」とご提案を受けることもあります。ですが、予算や開発期間を検討した結果「厳しいですね……」と企画がボツになることもよくありますね。



ゲームソフトのダウンロード販売が当たり前になった現在では国内だけでなく、全世界に向けて販売するのが通例である。よって、移植タイトルをグローバル市場で販売するためには、同じタイトルでも国内版とは仕様が異なる、海外版の移植も同時に開発する必要が生じる。
国内版だけを移植して発売すると、海外のプレイヤーには「自分が遊んだものとは違う」と思われてしまいますので、海外版も可能な限り網羅するようにしています。
移植タイトルを遊ぶプレイヤーの皆さんは「あの頃に遊んでいたゲームを、もう1回やりたい!」という思いが強くありますので、海外の方々もがっかりさせないように可能な限り、一つのパッケージにいろいろなものをまとめて入れるようにしています。
おかげさまで、今では国内だけでなく、海外の古いゲームの資料などを持っている方からも「もしよかったら、これを使って」とお声掛けをいただけるようになったのも、自分たちの強みではないかと思っております。
若手からベテランまで海千山千、移植のエキスパートがそろうエムツー。今後は通常の移植だけでなく自社IPを開発し、自身がパブリッシャーとしてもビジネスを展開していくとのことだ。
2025年の10月に、弊社の新規ゲームタイトルとして、タイトーのアーケード作品『ナイトストライカー』の流れを汲んだ完全新作『ナイトストライカーGEAR』を配信しました。
『ナイトストライカー』のように「新作を見たい!」というファンの方がいらっしゃるタイトルはまだまだありますし、我々のほうでも「好きなものは自給自足しよう。栽培していないのであれば、自分たちの手で栽培して、ちゃんと皆さんにもおすそ分けしよう」という考え方で開発をしています。このような新規ゲームタイトルのリリースは、今後も続けていきたいですね。
30周年や40周年に合わせた移植だけでなく、「たとえ売れなくてもいいから移植したい!」と我々が考えているものもたくさんあります。皆さんが名前を聞いたら、きっと「おおっ!」と思われるものを現在も鋭意開発中ですので、続報を楽しみにしていてください。

堀井 直樹(ほりい・なおき)
有限会社エムツー 代表取締役。1970年生まれ、千葉県出身。1991年、高校時代のゲーム仲間と共に有限会社エムツーを創立。アーケード版『ガントレット』を、まだ未完成ではあったがパソコンで“目コピ移植“したものを権利元のテンゲンに持ち込み、メガドライブ版の発売に繋げたことをきっかけに、レトロゲームの完全移植だけに留まらない「復刻・創生」のスタイルを貫いている。
※インタビュー日:2025年10月27日
※URLは2026年7月16日にリンクを確認済み