「令和7年度 文化芸術振興費補助金 メディア芸術アーカイブ推進支援事業 合同情報交換会」が、2026年1月23日(金)にウェブ会議システムを用いて開催されました。メディア芸術アーカイブ推進支援事業は、国内の優れたメディア芸術作品や、散逸・劣化などの危険性が高いメディア芸術作品・関連資料の全国のアーカイブ機関・所蔵館等における保存(アーカイブ)及びその活用・公開等を支援し、メディア芸術の振興に資することを目的とします。合同情報交換会においては、第1部ではデジタルアーカイブや、文化財を例にアーカイブの活用方法についての講演、第2部で講演者と有識者によるディスカッション、第3部で令和7年度メディア芸術アーカイブ推進支援事業に採択された2団体の事業紹介と質疑応答が行われました。

デジタルアーカイブをつくる・いかす・のこす
発表者:松山ひとみ(神戸映画資料館 研究員/フィルムアーキビスト)

デジタルアーカイブとは、単にデジタルコンテンツのことではなく、情報資源を収集・保存・提供し、活用し続けるための「仕組みと活動のすべて」を指します。現代の情報社会では、デジタルアーカイブには二つの大きな期待が寄せられています。一つは、蓄積されたデータを新たなイノベーションや社会の活性化につなげるポジティブな期待。もう一つは、AIによる生成コンテンツや偽情報があふれるなかで、検証可能で信頼できる情報源としての役割です。
特に、信頼できる発信元が根拠とともに情報を公開する博物館の役割は重要で、法整備として博物館法が改正されました。また、国の戦略として「デジタルアーカイブ戦略2026-2030」の基本方針にも、マンガ・アニメ・ゲーム等の「メディア芸術」が重点を置くべき分野として位置付けられています。
デジタルアーカイブには、「所蔵品データベース」「オンライン展示(キュレーション)」「コミュニティ型の記憶保存」「ウェブサイトアーカイブ」など多様な形態があり、重要なのは誰もがアクセスして検証・活用できる点です。そして、実際にデジタルアーカイブを構築・運用するにあたっては、「何を」「なぜ」「誰に向けて」公開するのかという目的を明らかにし、コストや人手を考えながら規模を見定める必要があります。一方、技術が時代にそぐわなくなったり予算が途絶えた場合でも、データだけは救出・移行できるような柔軟なシステム設計が望ましいといえます。実践的な例として、神戸映画資料館のウェブ版「日本アニメーション映画史」の構築では、開発費と維持経費をなるべく抑えながら、常に最新の状態へ更新できる仕組みを、低コストかつ持続可能な形で実現しています。
価値のあるデジタルアーカイブとは、アクセス数や公開数では測れず、長期的に社会へどのような良い変化を与えたかで測られるべきものです。信頼性の高いメタデータ整備とアクセス可能性を維持することで、現物が災害等で失われた際にもその痕跡を未来へつなぐことができるのです。
文化財のデジタルデータ活用
発表者:村田良二(東京国立博物館 学芸企画部博物館情報課長/文化財活用センター デジタル資源担当課長)

東京国立博物館は、国立文化財機構に所属する博物館です。機構内の各施設が保有するデジタルデータを横断的に活用する取り組みのため、機構の本部事務局には文化財活用センターが設置されています。1872年の創立以来、東京国立博物館では日本・東洋の美術工芸品や考古資料を所蔵し、調査研究の一環として写真撮影を継続してきました。記録媒体は明治期の鶏卵紙やガラス乾板から、戦後のモノクロ・カラーフィルム、現代のデジタル撮影へと移り変わってきましたが、特に戦後のフィルムはほぼすべてのデジタル化を完了しています。
データの管理は、作品データの管理と展示・貸出等の業務支援を担う「所蔵品管理システム」と、画像を専門に扱う「画像管理システム」の二つで運用しています。画像管理システムは、学芸員による作品データの入力、カメラマンによる撮影、専門の職員による画像整理という一連の博物館業務のなかに画像の蓄積が組み込まれており、単なるデジタルアーカイブを超えた日々の業務を支える基盤となっています。
デジタルデータを外部に提供するためには、有償と無償の二つの枠組みがあります。有償では、DNPアートコミュニケーションズを窓口とした「TNMイメージアーカイブ」を通じて行われ、出版や放送、グッズ販売などの商業利用に対して、細かな料金設定でライセンスを提供しています。これにより、一定の自己収入が生み出されています。
一方、原則として無料で自由に利用できる「ColBase」を公開し、全所蔵品の画像と情報の提供を進めています。ColBaseには約15万レコードのデータが収録されており(うち約5万レコードには画像付き)、ジャパンサーチとも連携しています。加えて、貴重書の全ページを掲載した「東京国立博物館デジタルライブラリー」、国宝・重要文化財の高精細画像を掲載した「e-国宝」など、目的に応じたさまざまなデジタル資源も整備・公開しています。アクセスは日本国内にとどまらず、中国や米国など海外からも多く寄せられています。また活用の幅も広く、書籍やテレビ番組はもちろん、クレジットカードのデザインへの採用、VTuberによるコンテンツ制作など多岐にわたっています。
ファシリテーター:
山川道子(株式会社プロダクション・アイジー IPマネジメント部 渉外チーム)
講演者:
村田良二(東京国立博物館 学芸企画部博物館情報課長/文化財活用センター デジタル資源担当課長)
松山ひとみ(神戸映画資料館 研究員/フィルムアーキビスト)
有識者:
大坪英之(特定非営利活動法人アニメ特撮アーカイブ機構 事務局)
福田一史(立命館大学 映像学部 准教授)
三原鉄也(筑波大学 人文社会系 助教)
ディスカッションでは、デジタルアーカイブの実践の事例をもとに、運営の規模、人材、活用、データ設計といった共通課題について意見が出し合われました。まず、限られた予算と人員で運営するための工夫として、インターネットアーカイブなどの外部プラットフォームを活用したり、料金体系を公開して自己収入を確保する事例が注目されました。小規模な組織では、すべての作業を自分たちだけで完結させるのではなく、外部の専門技術や知見をうまく取り入れることが大切だと強調されました。
また人材育成について、アーカイブのためにはそれぞれの分野の専門知識、デジタル技術の理解、作品への関心が重なり合うことが必要であり、それらを兼ね備えた万能型の人材を確保するのはとても難しいという認識で一致。その打開策として、コレクションの整理や検索サービス、マニュアルなどの基盤を整え、関わる人が理解しやすい環境を作ることが育成につながるとされました。
アーカイブの活用の面では、データを無償で公開することの戦略的な意義が話されました。一例として挙げられたのが国立文化財機構の「ColBase」。本データベースでは、画像を無償で提供することでメディアや教育現場で活用される機会が大幅に増え、認知度が上がり、結果として文化財や東京国立博物館の知名度アップにつながったといいます。
さらに、認知度の向上についてはジャパンサーチやメディア芸術データベース(MADB)との連携が効果的であり、データの作り方については、世界標準のルールに則ったメタデータの構造を用いることが、長期的に存続するためにも重要だと結論付けられました。
最後に、日常業務のなかでアーカイブに時間を割くのが難しい場合でも、小さな意識を積み重ねたり、一人で抱え込まずに外部の知恵を取り入れたり、無料ツールを利用したりすることが、持続可能なアーカイブ活動の鍵だと締めくくられました。
一般社団法人日本脚本アーカイブズ推進コンソーシアム
発表者:石橋映里(事務局代表、常務理事)

日本脚本アーカイブズ推進コンソーシアムは、主に放送番組の脚本を収集・保存・公開する活動を続けています。現在までに12万6,000点を超える脚本資料を寄贈、公開してきました。特に1980年より前は、ビデオテープの上書き使用により映像がほとんど残っていません。そのため、当時の放送番組を知る唯一の手がかりとして、散逸・劣化しやすい脚本を保存することが強く求められていました。
脚本をアーカイブするための活動は、2003年、脚本家による国会での提言を端緒とし、その後文化庁や国立国会図書館と協力して体制を整備し、2012年に本コンソーシアムが設立されました。現在は、国立国会図書館に約6万冊を寄贈し公開を進めているほか、川崎市市民ミュージアム、国立映画アーカイブ等にも寄贈しています。
また各地に分けて保存された脚本は、構築した「脚本データベース」と「アニメ脚本と脚本家のデータベース」にて、検索ができるようにしています。脚本データベースには1日100名以上の新しい利用者がアクセスし、アニメ脚本と脚本家のデータベースは多くの海外の利用者もいます。
今後は、二つのデータベースを一つにまとめ、メディア芸術データベース(MADB)やジャパンサーチ、他機関のデジタルアーカイブと連携することも考えています。これにより、例えばアニメ脚本と作画後のアフレコ台本とを比べられるようになると、研究や人材育成にも役立つと期待されています。
質疑応答ではまず、ローマ字・英語タイトルの表記、脚本家のペンネームの整理、検索エンジンの更新、BOT対策といった課題が挙げられました。さらに、脚本をすべてデジタル公開した場合の著作権の問題、貴重な脚本を現物で公開することの悩み、活動を支える人材の育成についても問われました。
これらに対し、クレジット読み取りに特化したOCR技術の導入や、学生・ファンを巻き込んだ参加型の文字起こしによる精度を高めるアイデアが提案されました。また、現物公開は2冊以上ある脚本に制限し、触れる回数を減らして紙の劣化を防ぐこと。ドメイン乗っ取りのリスクを防ぐには、ドメインを使い続けるための費用をしっかりと確保しておくことが欠かせないといった指摘もありました。
有限会社タクンボックス
発表者:松尾奈帆子(事業担当)

タクンボックスは、アニメーション作家、イラストレーター、絵本作家など多彩な活動を行う古川タク氏の作品アーカイブを軸として、準備期間も含め約10年かけてアーカイブ活動を進めてきました。その背景には、戦後日本の短編アニメーションを担った作家たちのフィルム・資料が失われつつあるという危機感があります。若い世代が中心となってアーカイブ化に取り組むなかで、本事業は最初のモデルケースと位置付けられています。
これまでの活動を振り返ると、2022年度はフィルムのデジタル化や管理IDリストの整備に力を入れ、専門家の知見を取り入れた「アーカイブマニュアル」を作成しました。また、作家本人へのヒアリングを通じて創作の深層を探る取り組みや、過去の電動装置作品の修復・再展示など、もの・デジタルの両面での保存活動を並行して進めています。2025年度からは、デジタルデータベースの整備、メディア芸術データベース(MADB)やジャパンサーチなどといった外部とのデータ共有、検索サイトの画像の充実にも手を付けています。
質疑応答では、データベースサイトにおけるメタデータのライセンス表記、著作権者がわからない資料の扱い、データベース用リストの分類が適切かどうか、作家本人が対象化された資料をどう分類すべきかなどが問われました。
これに対し、分類にただ一つの正解はなく、目的に合わせてすでにある一般的な分類をできる限り活用しつつ、独自の項目はデータ作成者以外が理解しやすい内容・形式で記述するのが重要だと回答されました。また、簡潔な構造にすることや、必須項目と任意項目の整理も欠かせないとも。権利の表記については、ウェブサイトのフッターなどにライセンスポリシーをはっきりと示し、引用部分は例外であると注記する手法や、作品の著作権状態を示す「ライツステートメント」を記載することが提案されました。特に権利者がわからない場合、文化庁の裁定制度を活用したり、関係者へ確認したりすることが現実的な対応となります。作家本人が掲載された資料については、情報が切り取られてもわかるよう、個人名での記述が望ましいと提案されました。
参加団体・担当者一覧
一般財団法人大阪国際児童文学振興財団 竹内一江(総務課長)、土居安子(理事・総括専門員)[マンガ]
一般社団法人展示映像総合アーカイブセンター 脇山真治(代表理事)[メディアアート]
一般社団法人日本脚本アーカイブズ推進コンソーシアム 石橋映里(事務局代表、常務理事)、入山さと子(収集担当主任、理事)[その他]
学校法人多摩美術大学 森脇裕之(多摩美術大学 美術大学 情報デザイン学科 メディア芸術コース 教授)、石山あや子(多摩美術大学 教務部 研究支援課)[メディアアート]
学校法人明治大学 梅田順一(明治大学 図書館総務事務室 事務長補佐)、藤村剛(明治大学 図書館総務事務室 事務長補佐)、岡本由美(明治大学 図書館総務事務室 現代マンガ図書館担当)[マンガ]
学校法人立命館 毛利仁美(立命館大学 映像学部 講師)、ガラエヴァ ディナラ(立命館大学 衣笠リサーチオフィス URA)[ゲーム]
株式会社手塚プロダクション 岡崎茂(資料開発部 参与)、飯渕宏美(資料開発部)[アニメーション]
株式会社トリガー 舛本和也(常務取締役)、中山敬介(システム部)、原島友美(総務経理部 部長)、村田彩香(福岡スタジオ 総務部)[アニメーション]
国立大学法人佐賀大学 角和博(佐賀大学 芸術地域デザイン学部 客員研究員)[アニメーション]
鯖江市 丹羽陽祐(鯖江市教育委員会 文化課 主査)、西森圭祐(鯖江市教育委員会 文化課 主事)、吉野ナオコ(一般社団法人久里実験漫画工房)[アニメーション]
特定非営利活動法人ゲーム保存協会 ルドン ジョゼフ(理事長)、松田真(正会員・管理)[ゲーム]
特定非営利活動法人コミュニテイデザイン協議会 野間穣(代表理事)、明貫紘子(映像ワークショップ合同会社 代表)[メディアアート]
特定非営利活動法人プラネット映画保存ネットワーク 田中範子(専務理事)[アニメーション]
森ビル株式会社 出渕美奈子(都市開発事業部 計画企画部 計画推進部 メディア企画グループ 課長)、河合隆平(都市開発事業部 計画企画部 計画推進部 メディア企画グループ)、関根隆仁(須賀川市 文化振興課 主任主査兼特撮文化推進係長)、高橋侑大(須賀川市 文化振興課 特撮文化推進係 主査)、大野真実(須賀川市 文化振興課 特撮文化推進係 学芸員)、安齋会香(須賀川特撮アーカイブセンター 学芸員)[特撮]
有限会社さるすべり 中野純(代表取締役)、大井夏代(取締役)[マンガ]
有限会社タクンボックス 松尾奈帆子(事業担当)[アニメーション]
※URLは2026年3月24日にリンクを確認済み