アニメーション作家との出会いから海外作品の配給まで ニューディアー10年の歩み 和田淳×藤津亮太×土居伸彰座談会

タニグチ リウイチ

写真:牧野 智晃

左から、藤津亮太氏、土居伸彰氏、和田淳氏

世界のアニメーションを配給や映画祭を通して日本へと紹介し、新しいアニメーション作品をプロデュースして世界に送り出している株式会社ニューディアーは、アニメーションの評論を行っている土居伸彰が2015年4月に設立。以来、米アカデミー賞にもノミネートされたブラジルのアレ・アブレウ監督による長編アニメーション『父を探して』(2013年)を日本で配給したり、ベルリン国際映画祭短編部門で銀熊賞を受賞した水尻自子の短編アニメーション『普通の生活』(2025年)1をフランスと共同製作するなど、インディペンデント・アニメーションのシーンをけん引し続けて来た。ニューディアーはどのようにして立ち上がったのか。どのような方針でこの10年を走ってきたのか。これからどこに向かうのか。土居とともにいくつもの作品をつくってきたアニメーション作家の和田淳、『富野由悠季論』(筑摩書房、2025年)などの著書を持つアニメ評論家で、東京工芸大学アニメーション学科教授の藤津亮太、そして土居がニューディアーの10年について語り合った。

CALF立ち上げからニューディアー設立まで

――土居伸彰さんと和田淳さんは、かつてCALFというアニメーション作家のインディペンデント・レーベルを一緒に運営していました(CALFは現在株式会社化し制作スタジオ事業に専念)。お知り合いになったのはそれ以前ですか。

土居 和田さんとの付き合いはほぼ20周年ですね。アニメーション作家の山村浩二さんが、2006年、「Animations Creators & Critics」というグループをつくって若手アニメーション作家や評論家とともに勉強会をするようになって、和田さんとはそこで初めてお会いしました。毎月のように山村さんのお宅で勉強会をしていたのですが、神戸在住の和田さんは深夜バスで通っていましたね。

和田 そうです。自分も作品はつくっていましたけど、周りのことをあまり知らない状態だったので、呼んでいただいて山村さんのご自宅に行くと本当に勉強会という形で、自分と同じように短編アニメーションをつくっている人たちがいて、過去にこういう人がいてその流れで自分たちがいるといった山村さんのレクチャーを受けていました。

土居 山村さんはその後、東京藝術大学大学院映像研究科内にアニメーション専攻が2008年に立ち上がった際、教授として就任しました。和田さんはその第1期生として入学したんですよね。

和田 制作環境の整った場所で、学生という身分を利用して山村さんに指導してもらえるのはラッキーでした。

土居 東京に拠点を移した和田さんと、それまでより深いつながりが始まったのが、2010年にインディーレーベルの「CALF」をつくったことですね。このレーベルは、和田さんを売り出したいという思いで立ち上げたものでした。短編作家の作品はどうしてもお金にならない。そんななかで、和田さんを含めた作家さんたちのDVDやグッズを出していくレーベルをつくろうということになって、そこで和田さんも何年か一緒に活動しました。

和田 実質3年くらいですね。

土居 2010年8月に広島や東京でCALFの立ち上げのイベントをやりました。和田さんの場合は、シアター・イメージフォーラムでDVD『ATSUSHI WADA WORKS 2002-2010』の発売記念の特集上映も2010年9月に開催しました。

『ATSUSHI WADA WORKS 2002-2010』トレイラー

――インディペンデントの作品を商業的な流れに載せようとする意欲的な試みでしたが、反響はいかがでしたか?

土居 なんだか難しくて。DVDは日英バイリンガル仕様にして、日本だけではなく海外でも売りました。和田さんのDVDはたぶん2、3千枚は売れていると思います。自分たちでつくって売っているので全然悪くない数字ですが、そこには和田さんのこれまでのほとんど全作品が入っていて、次に出せるのはいつだとなったときに、DVD販売だけではなんともならないという、そんな途方に暮れる気持ちになりました。

――和田さんはその頃、文化庁の在外派遣制度でイギリスのロンドンに1年間滞在していて、フランスの出資で製作された『グレートラビット』がベルリン国際映画祭短編部門で銀熊賞を受賞してニュースになりました。

藤津 その頃に日本で上映会があって、イギリスから和田さんがオンラインで登壇するというので観にいきました。土居さんから最後に質疑応答があるので何か質問してくださいよと言われて、あの柔らかい動きの感じはどのような形で自分のなかで出来上がっていったのか、といったことを質問した記憶があります。

藤津氏

――藤津さんと土居さんは、いつぐらいからのお知り合いなのですか。

藤津 2009年に日本アニメーション学会が日本大学で研究会を開いたんです。そこで土居さんがロシアのアニメーションについて紹介をしていて、そのなかにはロシア版『くまのプーさん』の紹介などもあって、おもしろいなと思ったのが最初です。

土居 そのときはまだ、こんな会社をやるということは1ミリも思っていなくて、普通にアカデミックなキャリアでした。

藤津 それで、CALFを始めるということをネットで知っておもしろいなあと思って見ていました。ニューディアーができたときには、僕がやっている配信番組のゲストに出ていただいたんです。そのときのタイトルは「ニューディアーの野望」だったんですよ。振り返るとそんなに間違ってなかった気がします(笑)。

土居 カートゥーン・サルーンが2009年に『ブレンダンとケルズの秘密』をつくって、それ以来、CGではない2Dによる長編アニメーションの流れが世界のインディペンデント・シーンのなかでできあがりました。ニューディアーが最初に配給した『父を探して』もその潮流の代表的な作品ですが、僕はオタワ国際アニメーション映画祭で本作を観て、マーケット的なポテンシャルがあるのではないだろうかと思いました。問い合わせたところ、日本での配給権はどこも買っていなかったので、じゃあ会社を立ち上げて配給をしてみようと思い立ったのです。

――その後、アヌシー国際アニメーション映画祭審査員賞のセバスチャン・ローデンバック監督『大人のためのグリム童話 手をなくした少女』(2016年)や、同じローデンバック監督とキアラ・マルタ監督による『リンダはチキンがたべたい!』(2023年)、村上春樹作品を初めてアニメーション化したピエール・フォルデス監督『めくらやなぎと眠る女』(2022年)といった話題作も配給してきました。手応えはいかがですか。

土居 『父を探して』はアカデミー賞ノミネートがあったので大変話題になり、一人で運営している会社としては問題ないくらいの収益がありました。当時は長編アニメーションの配給を手掛ける会社が日本にはほぼなく、そこに使命感を感じていました『父を探して』も配給権をかなり安く買うことができました。ただ、今は状況が変わって、日本の一般的な配給会社も長編アニメーションを買い付けるようになっている。そうなるとそもそも、ニューディアーが長編の配給をやる意味があるんだろうかと思うようになり……

『父を探して』予告編

藤津 『Flow』はファインフィルムズという配給会社ですね。マイリス・バラード監督とリアン゠チョー・ハン監督の『アメリと雨の物語』(2025年)も手掛けます。アニメーション制作会社のトムス・エンタテインメントも海外の長編アニメーションを配給するようになっていて、『整形水』(2020年)や『シチリアを征服したクマ王国の物語』(2019年)をやりました。2024年の新潟国際アニメーション映画祭で上映された『マーズ・エクスプレス』(2023年)もトムス配給ですね。

土居 最近はクロックワークスが熱心で、『ロボット・ドリームズ』(2023年)という大きなヒット作もあってコンスタントにいい作品を手掛ける感じになっています。

藤津 海外の長編アニメーションの市場が、この10年で活況を呈した結果、ライバルが増えた感じですね。

土居 かつては使命感で長編アニメーションの配給をスタートしましたが、日本でこれだけ多くの配給業者が海外アニメーションをやるようになった現在では、むしろもう配給事業にこだわる必要はないなと思い始めています。プロデュースの方に活動が移っているのもそれが理由です。

アニメのプロデュースに踏み出したきっかけ

――プロデュース活動に本格的に踏み出すきっかけになったことはありますか。

土居 フランスのミユ・プロダクションとの出会いが大きかった。ミユが2013年に制作したウーゴ・ビアンベヌ監督の『Maman』(2013年)という作品が、衝撃的でした。それまでフランスの短編作品というと大人しい印象があったのが、『Maman』は急に母親が「ワーーーーッ」と叫ぶことでスタートして、その後も謎の展開が続いていく。なにか訳のわからないすごいものが出てきたと感じて、スタジオとつながりを持ちたいと思いました。それで、アヌシーに行く際に、伝手を頼ってミユのスタジオを訪問させてもらうと、ミユのプロデューサーのエマニュエル=アラン・レナールから、日本にはたくさんプロデュースしたい作家がいるから、お前がプロデューサーになれと言われたんです。そして彼と僕の好みがかなり似ていた。僕が応援したいと思う作家を彼がプロデュースしたいということだったので、じゃあプロデューサーになってみるかと思ったんです。ラッキーだったのは、この時期から、日本でも短編製作に使える補助金が増えてきたことでした。

アニメーション作家・和田淳との関わり

――ニューディアーは和田さんの『半島の鳥』(2022年)や『いきものさん』(2023年)といった短編アニメーションだけでなく、エクササイズのためのインディーゲーム『マイエクササイズ』(2020年)2もプロデュースしました。どこから出てきたアイデアだったのでしょう。

和田 自分にはまったくゲームをつくるという発想がなくて、今後もないと思いますが、土居くんからゲームをやってみないかと言われたのでやってみました。そもそもの話でいうと、短い作品をたくさんつくるシリーズもののようなものをやりたいという思いがずいぶん前からあって、その企画をメディア芸術クリエイター育成支援事業という助成金制度に申請しようとしたのですが、以前自分の新作短編の企画で出して落ちてしまった経験があり、そこで土居くんに相談したところ、そのシリーズもののパイロット版と併せてその世界観でゲームもつくるという企画にしてはどうかという提案があったんです3

土居 クリエイター育成支援は、作家にとっての新しいチャレンジがあったほうが採択されやすいのではと思い、ゲームも並行して作るというかたちの企画にすることを提案させてもらいました。

和田 自分がゲームをやるということは、まったく想像ができませんでしたが、おもしろそうだし、いろいろなことをやっていかないといけないかなと思っていたので乗っかりました。

土居 長編アニメーションがおもしろくなった頃と同時に、インディーゲームというのも非常におもしろくなったんです。CGアニメーション作家のデイヴィッド・オライリーが、『Mountain』(2014年)というただ山を眺めているだけのゲームを開発したらすごくヒットして。彼が印象的なことを言っていて、「ゲームを作ることで、初めてお客さんと出会えた」と。短編アニメーションが上映される映画祭は基本的にプロフェッショナルな人たちのものですが、ゲームにおける「短編」のようなインディーゲームだとマーケットがあるんですよね。

『マイエクササイズ』トレイラー

――アニメーションのなかだけで閉じていた壁を突破できるツールにゲームがなったという感じですね。

土居 スイス人の映像作家のミヒャエル・フライが、自分の2D短編アニメーションをゲーム化していたことが大きかった。Unityというゲーム開発エンジンを使うと、書き出しの仕方次第で、映画にもゲームにもなる。『KIDS』という作品は、ゲームのプレイ動画を編集して短編アニメーションにしている。この手法を和田さんの作品にも取り入れてみようと、現在は東京藝大院のゲームコースで助教をしている薄羽涼彌さんにプログラマーとして入ってもらって、『マイエクササイズ』をつくりました。

和田 腹筋するだけのゲームですね。

――評判はいかがでしたか。

土居 当時のインディーゲームはゲーム配信をしている有名なYouTuberに取り上げてもらうような形で評判になっていきます。和田さんの『マイエクササイズ』は、とりわけ日本のゲーム実況系の人に愛してもらえました。ただ、そこで得た新しいお客さんを和田さんの短編アニメーション作品の方に流し込もうとミニシアターで上映イベントをやったところ、会場はいつもどおりの層でした(笑)。ゲームと短編アニメーションは客層が全然違うのだな、と実感しました。

藤津 壁を乗り越えさせるのはなかなか難しいところがありますね。住み分けてしまっているんですよね。

和田 その時は点と点がつながって線にはならなかったんですが、すぐには難しいと思っていたので、いつかつながるだろうという期待は持っています。

――和田さんがアウトプットを広げて、広い範囲に自分の作品を届かせたいと思うようになったのはいつ頃からですか。

和田 ずっと短編をつくってきて、そのときはいかに自分たちがつくっているものをいろいろな人に観てもらえるかというところでやっていました。ただ、特集上映などをやっていくなかで、そうしたものを観る層の人には行き渡ってしまったんじゃないかと、限界のようなものを感じたんですよね。それで、自分もこの世界観をいろいろなアウトプットで今までとは違うところで見せていけるかということを考えるようになりました。

土居 和田さんのこの10年間は、実はオリジナルの短編作品は『半島の鳥』くらいなんです。あとはインスタレーション、インディーゲームにVR、TVシリーズといった感じで、世界観は同じだけれどアウトプット先がかなり多彩なってきている。今は和田さんの長編作品を成立させようと、プロデューサーとして頑張り始めています。

――長編アニメーションへの挑戦も今までの和田さんにはない取り組みですが、具体的な作品についての構想はあるのでしょうか。

土居 最終的にどうなるのかというのは現状ではまだ全然わかりません。僕自身が長編を企画するときのイメージとしてあるのは、東京事変です。椎名林檎という単独でも素晴らしいアーティストが、プロフェッショナルなミュージシャンと組むことによって、そのアーティストの世界観がソリッドになり大きく広がっていくような形をつくりたいと思っています。個人制作的に作るのではなくて、いわゆる「アニメ」業界の人や、実写も含めたインディー業界の人ともコラボしながら、総力戦でやっていく感じです。

藤津 短編アニメーションは絵柄が命のところがあると感じているので、それが他の人たちが入ることでどれくらい薄まるか、あるいは化学反応が起こるのかが気になりますね。『すずめの戸締まり』(2022年)の新海誠監督や『ひゃくえむ。』(2025年)の岩井澤健治監督はクリエイターですが、プロデューサー気質のところもあって、自分の絵柄に固執するというよりは自分よりも上手い人、合っている人がいるなら任せたいと考えている人たちです。和田さんの場合は、他の人が入ることで和田さんぽくないよねという方向に見えてしまわないか。そこはプロデューサーによる案配力が求められますね。

土居 自分の色を薄めない作品は、短編でやればいいじゃないか、というのが僕の考えです。短編には短編の、長編には長編のロジックや正解があるはずです。あえて「不純」にするというイメージです。他の方と一緒にやることで、和田さん自身の力も高まるようなことをやりたい。

和田 短編をベースにしてきて、短編でできることや短編のおもしろさを考えるところからスタートしてきたので、そこを失うことはないと思います。ただ、短編をつくり続けても同じことを繰り返すんだろうなという感覚はあるので、新しいことをやっていかなければならないというところですね。

和田氏

――和田さんから見て土居さんはプロデューサーとしてどのような感じですか。

和田 短編は一人でもつくろうと思えばつくれますが、きちんとお金を集めるとか、つくったものをどうするのかということも全部一人でやろうとしても、僕みたいなタイプではたぶん無理です。そういうときにプロデューサーがいて、しかも自分の作風もわかってくれていて良さもわかってくれている人がいるというのは大きいですね。

藤津 作風がわかってもらえているのは確かに大きいですね。

和田 その上で、新たなチャレンジもやっていきましょうという提案を土居くんがしてくれます。僕自身はすごく腰が重くて、一人ではあまり動かないタイプなので、そこにラッキーなことに声をかけてくれる人がいるから成り立ちます。土居君にはそういうところがあるのですごく助かっています。

アニメーション映画祭との関わり

――土居さんとアニメーション映画祭との関わりについても教えて下さい。土居さんはニューディアーの設立と前後して第1回が開催された新千歳空港国際アニメーション映画祭に携わりますが、どのような縁だったのでしょう。

土居 現在も映画祭のチーフディレクターを務めている小野朋子さんという、札幌在住のキュレーターの方がいて、CALFを始めたときに札幌でイベントを開きたいと言ってくれてつながりができたんです。同時に、新千歳空港が、空港を新たなエンターテイメントの場所にしたいという思いを持っていて、その流れで「空港内映画祭」を作ることになった。そこにお声がけいただいた感じです。

藤津 ミユ・プロダクションの作品と出会ってフランスまで会いに行って、そこでプロデューサーをやれと言われたことも考えると新千歳は重要ですね。

土居 配給だけだと心もとないのですが、映画祭の仕事があるのであれば会社としてやっていけるのではと思って、ニューディアーを立ち上げたところはありますね。でも結局、映画祭という場所は国際的なネットワークを作るためにとても重要で、ここで作られたつながりがあったからこそ、国際共同製作・制作もスムーズに取り組めました。

藤津 映画祭で顔見知りになっておいて、お前は今何を考えているんだと聞かれるような関係になって、それでこういうことを考えていると言えるようになったあとに、ようやく共同製作のような話になるわけですね。

土居 新千歳の仕事でそうした下地がつくれたおかげで、今の自分はプロデューサーをできている感じです。新千歳はとにかく、コンペティション選出の質を重視しました。そうすると、作家さんは選ばれたことを喜んでくれる。そういう映画祭をやっているような人物であれば信頼できる、と考えてもらえるようになった。

土居氏

――藤津さんはいろいろな映画祭に参加したり、東京国際映画祭ではアニメーション部門のプログラミングアドバイザーとして運営に携わったりしていますが、新千歳はどのように見ていましたか。

藤津 今はもうありませんが広島国際アニメーションフェスティバルという存在が、日本にとってはすごく大きかったんです。この1985年に始まった広島は、60年代に成立した世界のアニメーション映画祭の流れのなかにあって、一方で新千歳はかなりの変わり種という感じでした。何でもありというか、実験映画的なものから、テレビアニメの上映とトークまでありで、空港だけに「ウイングが広い」印象でした(笑)。

土居 (笑)。藤津さんが言われたことは僕もほぼ同じ認識です。新千歳を始めたときにはまだ広島があって、日本における海外のアニメーションの受容にあたってのベースになっていました。ただ、僕自身が世界のいろいろな映画祭に行くようになったとき、広島が見せている作品とは違ったタイプの優れた作品がたくさんあるのだということが見えてきた。そうしたなかで、新千歳は広島へのアンチテーゼとして始まったところがあります。広島では取り上げないものを取り上げたいという、猛烈に広島を意識していた映画祭でした。

藤津 保守本流があるからこそカウンターが成り立つ。

土居 結局いまは僕も新千歳を離れ、広島国際アニメーションフェスティバルがリニューアルされたひろしまアニメーションシーズンに関わっています。僕の意識のなかでは、きっちり堂々と保守本流をやる、という意識があります。今は日本にもいろいろなアニメーション映画祭があって、うまい住み分けができている気がします。

――土居さんは2026年2月開催の第4回新潟国際アニメーション映画祭(NIAFF)にアドバイザーとして携わります。長編アニメーションを対象とした映画祭です。世界で長編アニメーションが増えてきた流れをどのように見ていますか。

土居 2000年代は「アートアニメvs商業アニメ」みたいな対立項でアニメーションが語られることが多かった。でも、2010年代、その中間領域のようなものが出てきた感じがあります。2013年に宮﨑駿監督の『風立ちぬ』と高畑勲監督の『かぐや姫の物語』が相次いで公開されたときに、21世紀における海外のアニメーション・ドキュメンタリー的な流れの文脈で位置づけられる作品に思いました。その後、2016年、個人作家だった新海誠監督が『君の名は。』で大ブレイクして、山田尚子監督の『映画 聲の形』(2016年)もかなり実験性の高いことをやっていて、片渕須直監督の『この世界の片隅に』(2016年)は僕がそもそも研究の対象としていたユーリー・ノルシュテイン監督のアプローチに近いと思いました。そんななかで、自分自身も新たなインディペンデントの手段として「長編アニメ」をやりたい、という思いが芽生えてきたのかもしれません。

土居氏のCALF立ち上げから現在までの活動。映画祭関連=緑、アニメーション作品のプロデュース・配給関連=黄色

脚注

1 [編集者注]『普通の生活』はアニメーション作品と展示作品の2種類を制作。このプロジェクトは令和5年度(2023年度)文化庁メディア芸術クリエイター育成支援事業に採択され、展示版の方は2024年3月から4月にかけてスペインにて発表された。事業公式サイト(https://creators.j-mediaarts.bunka.go.jp/project/ordinary-life)に制作過程の詳細も。
2 [編集者注]『マイエクササイズ』については、過去の「メディア芸術カレントコンテンツ」内、「アニメーション作家・和田淳インタビュー 「気持ちいい動き」の正体」(安原まひろ、2021年1月5日、https://mediag.bunka.go.jp/article/article-17268/)でも取り上げている。
3 [編集者注]文化庁メディア芸術クリエイター育成支援事業では、「いきものさん」というプロジェクトとして平成29年度(2017年度)に採択された。詳細は事業公式サイト(https://creators.j-mediaarts.bunka.go.jp/project/ikimonosan_2)参照。

和田 淳(わだ・あつし)
アニメーション作家。2002年頃からアニメーションを制作しはじめ、「間」と「気持ちいい動き」を大きなテーマに制作を続けている。短編作品に『グレートラビット』(2012年)、『半島の鳥』(2022年)などがあり、ベルリン国際映画祭短編部門銀熊賞をはじめ国内外で受賞している。またゲーム『マイエクササイズ』(2020年)、映像インスタレーション『私の沼』(2017年)、テレビアニメシリーズ『いきものさん』(2023年)など、映画制作以外での活動も増えている。

藤津 亮太(ふじつ・りょうた)
アニメ評論家。1968年、静岡県生まれ。2000年よりアニメに関する原稿を手掛けるようになる。主な著書に『ぼくらがアニメを見る理由』(フィルムアート社、2019年)、『アニメと戦争』(日本評論社、2021年)、『増補改訂版「アニメ評論家」宣言』(筑摩書房、2022年)、『富野由悠季論』(筑摩書房、2025年)がある。東京工芸大学芸術学部アニメーション学科教授。

土居 伸彰(どい・のぶあき)
ニューディアー代表、ひろしまアニメーションシーズンプロデューサー。1981年、東京都生まれ。ロシアの作家ユーリー・ノルシュテインを中心とした非商業・インディペンデント作家の研究からスタートして、執筆やイベント開催を通じた世界のアニメーション作品を広く紹介する活動にも精力的に関わる。2015年にニューディアーを立ち上げ、『父を探して』(2013年)など海外作品の配給を本格的にスタート。国際アニメーション映画祭での日本アニメーション特集キュレーターや審査員としての経験も多い。プロデューサーとして国際共同製作によって日本のインディペンデント作家の作品製作も行っている。著書に『個人的なハーモニー ノルシュテインと現代アニメーション論』(フィルムアート社、2016年)、『21世紀のアニメーションがわかる本』(フィルムアート社、2019年)、『私たちにはわかってる。アニメーションが世界で最も重要だって』(青土社、2021年)、『新海誠 国民的アニメ作家の誕生』(集英社、2022年)。プロデュース作品に『マイエクササイズ』(監督:和田淳、インディーゲーム/短編アニメーション2020年)、『I’m Late』(監督:冠木佐和子、短編アニメーション、2020年)、『不安な体』(監督:水尻自子、短編アニメーション、2021年)、『半島の鳥』(監督:和田淳、短編アニメーション、2022年)など。

※インタビュー日:2025年11月6日
※URLは2026年3月18日にリンクを確認済み

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