令和6年度メディア芸術連携基盤等整備推進事業報告会が、2025年2月25日(火)に国立新美術館にて開催・配信されました。メディア芸術連携基盤等整備推進事業では、産・学・館(官)の連携・協力により、メディア芸術の分野・領域を横断して一体的に課題解決に取り組むとともに、所蔵情報等の整備及び各研究機関等におけるメディア芸術作品のアーカイブ化を支援しています。また、アーカイブ化した作品・資料等を活用した展示の実施に係る手法等を開発・検討することにより、貴重な作品・資料等の鑑賞機会の創出、インバウンドの増加を図るとともに、アーカイブ及びキュレーションの実践の場として提供することで、今後のメディア芸術の作品等の収集・保存・活用を担う専門人材の育成を図っています。報告会では、本事業の一環として実施した4分野の分野別強化事業の取り組みが報告され、有識者検討委員からの質疑や助言が加えられました。また、事務局調査研究等の報告、「マンガ・アニメ等中間生成物の保存活用事業」の紹介も行われました。本稿では分野別強化事業のうちの「ゲームアーカイブ所蔵館の連携強化に関する調査研究2024」を取り上げます。
報告者:立命館大学ゲーム研究センター 客員協力研究員 尾鼻崇
日本のデジタルゲームは1980年代以来、世界中で強い経済的・社会的・文化的影響力を持ってきた。それとともに、デジタルゲームについての研究や教育に対する需要は日々高まっており、ゲームの保存に対する取り組みも国内外で着手されている。しかしながら、多くのゲームが技術的な陳腐化や物理的劣化によって危機にさらされており、ゲームソフトやハードの収集・保存、アーカイブの規模、質、持続可能性などはいずれも未成熟な状況にある。
こうした状況を解決するため、本事業では、調査実施主体である立命館大学ゲーム研究センターを中心に複数の組織と協力しながら、ゲーム所蔵館の連携枠組みの構築と、ゲームアーカイブを実現するための利活用の取り組みを通じて、ゲームアーカイブ保存環境の整備を図っている。
今年度は、ゲーム分野固有の課題を検討した。まず「ゲームはプレイするもの」である前提とした際の、動態保存の具体的な課題を整理した。加えて、コンシューマ用、アーケード用、PC用、ネットワーク用など種類に応じて保存方法が異なる点。さらに、何を保存すれば「ゲームを保存した」と言えるのかを重要課題として事業を進めた。
2024年の主要な活動は、次の三つを柱とした。まず、①「ゲームアーカイブ推進連絡協議会の活動強化」においては、オンライン形式でのカンファレンスを開催し、ゲームアーカイブに関する相談窓口を開設。これに伴い、本協議会の公式ホームページを再編し情報発信を推進した。加盟団体も新たに3団体が増加し、多様な専門性を持った所蔵館の連携がさらに強化された。また、相談窓口の設置後、4件の相談を受け付け、アーケードゲームの筐体や基板の保存方法、寄贈先、ゲームアーキビストのキャリア形成に関する質問に対応した。
本協議会のカンファレンスでは、「アーケードゲームをのこす・いかす」をテーマに、ナツゲーミュージアム、OBSゲームリサーチ、日本ゲーム博物館の3団体が登壇し、アーケードゲーム保存の現状と課題について知見を共有した。特にゲームの動態保存に関して、学術的保存と営業的保存の区別があり、ゲーム保存の多義性を明確化できた点は重要な成果であった。
次に、②「ゲーム産業界との連携強化」については、ネットワークゲームや開発関連資料のアーカイブにあたって課題がどの点にあるか、コストや権利関係について解決策を模索した。また、産業界との連携強化のため、調査、ヒアリング、情報交換、協働、連携のプロセスを段階的に進めている。今年度は、株式会社タイトーへの調査を実施し、「SIGGRAPH ASIA 2024」での開発資料展示を基に、ゲーム企業における資料保存の現状と活用事例をヒアリングした。
続いて、③「ゲームアーカイブ利活用のためのアウトリーチ」に関しては、データベースの充実化と未リスト化資料の公開に向けた取り組みを進めた。今年度は、一般社団法人日本インディペンデント・ゲーム協会と連携し、「BitSummit」出展作品のデータ整理を行った。また、マンガ、アニメ、ゲームの保存・利活用のための総合展に協力し、過年度の調査結果や動態保存の知見などを提供した。特に「スペースインベーダー」のゲーム開発関連資料の出展や、ゲームプレイの操作履歴記録装置など、本事業のこれまでの成果が活かされた形となった。
中間報告の際の有識者からの意見を踏まえ、ゲームアーカイブ事業における課題と方向性を整理し、ゲームアーカイブの持続的発展と産業・文化・学術への貢献は、保存、企業連携、利活用、人材育成の四本の柱によって実現できる可能性があることが確認された。ゲーム分野の強みとしては、学術との連携、所蔵館のネットワーク構築、アウトリーチが挙げられるが、保存体制の確立や産業界との連携体制、オンライン系ゲームの保存といった点では他分野と比較すると課題が残る。
次年度以降の計画としては、ゲームアーカイブ推進連絡協議会の機能強化、ゲーム資料の収集・保存ノウハウの策定、ネットワークゲームのアーカイブ調査、他分野との知見共有を重点的に進める方針である。
※URLは2025年9月24日にリンクを確認済み