令和6年度 報告会・実施報告書「アニメ作品連絡調整会の浸透とOCRシステム適用領域の拡張への試行」一般社団法人日本アニメーター・演出協会

事業の概要と目的

報告者:一般社団法人日本アニメーター・演出協会 事務局長 大坪英之

日本のアニメ産業は、文化的・産業的に極めて重要な位置を占める一方で、クリエイターやプロデューサーなどの人的情報が体系的に把握されておらず、新たな作品制作や国際展開に役立てられていない現状がある。そこで、本事業では日本のアニメ産業における人的情報を体系化しオープンデータ化することで、作品制作や流通に関与した方々の称揚と、次の新しい作品を世に送り出す源泉となるよう国内の制作環境を後押ししている。

事業体制は、日本アニメーター・演出協会(JAniCA)とアニメ特撮アーカイブ機構(ATAC)、リスト制作委員会が中心となり、平成29年度以降、テレビアニメを網羅的に録画し、アニメーション研究家によるスタッフリスト採録活動や、テレビ放送された映像からクレジット情報を抽出するOCR技術の試行を行ってきた。しかし、これらの取り組みでは、網羅性や即時性、データ収集体制、効率化と精度向上などに課題が残っていた。こうした背景を踏まえ、本事業ではOCR技術の高性能化やメタデータ処理の自動化を行うとともに、JAniCAとATACが共同で運営する「アニメアーカイブ連絡調整会(AACC)」を設立した。

事業方針と実施内容

事業推進の方針としては、①アニメ産業に携わる人材情報の網羅的な把握と記録化およびメディア芸術データベース(MADB)との連携を最優先目標として設定、②OCR技術によるクレジット情報自動抽出とメタデータ処理技術の高度化、③制作・製作企業との協力体制強化により、産業側からの正確なデータ収集が可能となる仕組みづくりを推進、④毎月の定例会議で成果物や課題解決状況を検証、⑤開発したシステムの効率的な運用体制と財政基盤の確立が挙げられる。

本年度の実施事項については、2系統の録画システムを使用し、それぞれ約1万7,000件、約1万6,000件の録画を行った。その録画実績から年間約1万6,000件の作品情報をMADBに提供した。

一方で、機械的な不調への対応や、EPG情報の確認で録画漏れがないように注意を払い、作品情報を「つづきみ」と連携することで双方の情報補完を行った。また、UI(ユーザーインターフェース)の改良により、クレジット画面上の文字ブロック認識の精度向上を図った。さらに、クレジットがエンドロールとして表示される映画作品からのテキスト抽出も試行。エンドロールのスクロールによって文字列が重複検出される問題をAIの導入で解決できるめどがたった。

5年間の成果、今後の課題

5年間の取り組みで得られた成果と知見は、大きく分けて3点になる。①データ収集環境の確立では、全録サーバによる体系的な録画環境の整備により、年間約1万3,000本以上の番組を安定的に記録。新作アニメ作品のみならず再放送や関連番組のデータ取得も実現し、録画失敗時のリカバリー運用の知見、人的体制や費用面のめどを立てられた。②分析基盤の強化では、クレジット情報の取得について技術的なめどが確立。データ処理の負担を大幅に削減した。③アニメ産業界や学術領域との接続では、AACCを相談窓口とした連携がスタート。学術領域では大規模データセットの存在が認知されておらず、アニメ分野の研究職について今後需要が高まる感触を得た。

次年度以降の中長期的課題としては、①AI活用とアニメ専用の専門辞書構築、②配信プラットフォームや劇場作品など、多様な映像メディアへの対応拡大、③MADBを活用したキャリア証明や制作現場における人材育成などの産業基盤強化、④AACCの拡充などが挙げられる。

最後に、本事業がアニメ業界全体や学術領域に良い影響を与えられるよう、情報共有やノウハウ提供、各種連携に取り組むとともに、オープンデータ化を通じてクリエイター同士が切磋琢磨できる環境構築や、より魅力のある作品づくりの一助となることで、日本アニメの未来に貢献していきたい。

大坪英之氏

実施報告書(PDF)

※URLは2025年9月24日にリンクを確認済み

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