文化庁ではメディア芸術の研究の発展のため、2012(平成24)年度より「研究マッピング」と称する事業を展開してきました。本稿ではこの研究マッピングの変遷を振り返り、さらには2024(令和6)年度の実施状況について紹介します。
「研究マッピング」は「メディア芸術情報拠点・コンソーシアム構築事業」の一環として行われ、立ち上げ当時はマンガ・アニメーション分野のみを対象としていた。日本のマンガ・アニメーション研究の現状を体系的に整理し、国内外に対して日本のマンガ・アニメーション研究についての情報発信を行うとともに、国内においてマンガ・アニメーションを振興する機関・施設関係者に向けて、さらには今後の研究を支える若き初学者たちに向けてのガイド作成を目的とする。両分野研究チームの代表者の合同協議から、ベースとなる情報を収集・整理(リスト化)することになり、報告書としてまとめられた。
なお、このプロジェクトの成果発表と今後の展望が、2013年2月17日(日)六本木ヒルズにて開催されたトークイベント「マンガ・アニメーション研究を可視化する!」で語られた。
報告書:『マンガ・アニメーション研究マッピング・プロジェクト 報告書』
事業紹介記事:https://mediag.bunka.go.jp/article/mapping-report-917/
トークイベント紹介記事:https://mediag.bunka.go.jp/article/mapping-724/
次年度もマンガ・アニメーションの2分野が研究マッピングの対象となったが、それぞれの分野での活動内容は異なる。マンガ分野は前年度のリストをもとに、文献の内容が簡略に理解でき、かつ将来的にこれらの情報をデータベースとして運用するための分類項目とタグ付けを想定したキーワードを作成した。アニメーション分野は、前年度の「アニメーション研究初学者のためのブックガイド」とは趣向を変え、『アニメーション研究』と『Animation: An Interdisciplinary Journal』に掲載された抄録付き学術論文の書誌情報を収集、また抄録を翻訳して日英バイリンガルとした。
実施報告書:『マンガ研究マッピング・プロジェクト 実施報告書』
『アニメーション研究マッピング・プロジェクト 実施報告書』
紹介記事:https://mediag.bunka.go.jp/article/25-2945/
2015年度からは「メディア芸術情報拠点・コンソーシアム構築事業」ではなく、「メディア芸術連携促進事業」のプロジェクトとして実施された。また、対象にゲームとメディアアートが加わり4分野となる。
マンガ分野は、最初に立ち返り土壌づくりから行う方針とし、国内・海外のマンガ研究の文献情報をアップデートし、文献管理ツール「Mendeley」を利用して整理。アニメーション分野は、これまでの文献情報をもとに、日本アニメーション学会のサーバー内に立ち上げたウェブサイト「アニメーション研究のためのデータベース」を改良し、「アニメーション研究のための論文と書籍のデータベースサイト」として再構築。ゲーム分野は、国内外のゲーム研究の重要文献をピックアップした文献リストを作成し、日本デジタルゲーム学会2015年度年次大会において発表、オンラインでも公開した。メディアアート分野はまずは様子見として、オブザーバーとして参加。
2015年12月1日(火)国立新美術館にて中間報告会が、2016年3月13日(日)京都国際マンガミュージアムにて最終報告会が行われた。
実施報告書:『研究マッピング マンガ領域 実施報告書』
『アニメーション学会のマッピング・プロジェクト 実施報告書』
『研究マッピング(ゲーム領域) 実施報告書』
マンガ分野報告記事:https://mediag.bunka.go.jp/article/h27_rep_mapping_manga-4396/
アニメーション分野報告記事:https://mediag.bunka.go.jp/article/post_4-4339/
ゲーム分野報告記事:https://mediag.bunka.go.jp/article/h27_rep_mapping_games-4395/
マンガ分野は前年度に引き続き国内・海外の文献情報を収集しながら、近年出版されているマンガ研究の入門ブックガイド等との差異化を図るためのあり方を検討した。アニメーション分野は「アニメーション研究のための論文と書籍のデータベースサイト」の運営体制の整備とサイトのマイナーチェンジ、推薦文献リストの拡充を実施。ゲーム分野は初学者向けに、ゲーム研究の歴史と現状を概観的にまとめるべく、冊子『ゲーム研究の手引き』を作成・配布した。メディアアート分野は引き続きオブザーバーで参加。
マンガ分野報告記事:https://mediag.bunka.go.jp/article/manga-mapping2017/
アニメーション分野報告記事:https://mediag.bunka.go.jp/article/animation-mapping2017/
ゲーム分野報告記事:https://mediag.bunka.go.jp/article/game-mapping2017/
マンガ分野は最新のマンガ研究の国内・海外の文献情報を収集し、リストの更新を進め「Mendeley」上のデータベースには、約250件の文献情報を登録するに至った。アニメーション分野は、これまでも「アニメーション研究のための論文と書籍のデータベースサイト」に登録している『アニメーション研究』『Animation: An Interdisciplinary Journal』収録論文の情報を継続的にサイトに掲載。ゲーム分野は、2015年度に作成した文献リストを拡充・構築していくための枠組みの定義を目標とし、検討会議を3回行った。メディアアート分野は、研究状況の調査と、前年度の「日本のメディアアート文化史構築研究事業」の成果となるデータベースウェブサイト「メディアアート文化史インターフェイス」の、公開に向けてのメンテナンスを行った。
マンガ分野報告記事:https://mediag.bunka.go.jp/article/article-14414/
アニメーション分野報告記事:https://mediag.bunka.go.jp/article/article-14408/
ゲーム分野報告記事:https://mediag.bunka.go.jp/article/article-14419/
メディアアート分野報告記事:https://mediag.bunka.go.jp/article/article-14400/
2019年2月23日(土)国立新美術館にて、4分野合同の「平成30年度メディア芸術連携促進事業 研究プロジェクト 活動報告シンポジウム」が開催された。
シンポジウムではまず各分野の成果・課題の報告が行われた。マンガ分野は、マンガ研究の文献収集を進めるとともに、2019年1月13日(日)京都国際マンガミュージアムにて、公開研究会「アジアのマンガ/コミックス研究を知る」を開催した。アニメーション分野は、引き続き「アニメーション研究のための論文と書籍のデータベースサイト」の拡充を図った。ゲーム分野は「ゲーム研究資料目録」という文献データベースの構築を目指すべく文献を収集。分野のタグ付けや、文献とキーワードのリストも作成した。メディアアート分野は、日本語文献を収集し、報告/レポート、教育論、歴史/美学、技術論/工学、作品論という五つの分野に分類。続いて、4分野の代表者らによるパネルディスカッションが行われ、メディア芸術全体の研究マッピングの構築等について意見が交わされた。
マンガ分野公開研究会紹介記事:https://mediag.bunka.go.jp/article/article-14315/
活動報告シンポジウム報告記事:https://mediag.bunka.go.jp/article/article-14940/
2015年度からの5年間にわたる研究マッピングの区切りとして、2020年2月16日(日)国立新美術館にて「2019年度メディア芸術連携促進事業 研究成果マッピング シンポジウム」が開催された。会場では成果として制作された『研究の手引き』も配布。
シンポジウムの前半では各分野の5年間の成果が、それぞれ「マンガ研究の地図を描く ―メディア芸術連携促進事業の5年間―」「“アニメーション研究”と“Animation Studies”を架橋する」「学際研究としてのゲーム研究」「メディアアートの研究対象とは?」と冠されて報告された。後半では4分野の代表者とコメンテーターらでディスカッション「メディア芸術のための『新しい地図』作りに向けて」が行われた。『研究の手引き』制作から明らかになったこと、メディア芸術の発生、4分野の連携で生まれるもの等について、それぞれの立場からの知見が述べられた。
研究の手引き:『メディア芸術・研究マッピング マンガ研究の手引き』
『メディア芸術・研究マッピング アニメーション研究の手引き』
『メディア芸術・研究マッピング ゲーム研究の手引きⅡ』
『メディア芸術・研究マッピング メディアアート研究の手引き』
マンガ分野報告記事:https://mediag.bunka.go.jp/article/article-16272/
アニメーション分野報告記事:https://mediag.bunka.go.jp/article/article-16275/
ゲーム分野報告記事:https://mediag.bunka.go.jp/article/article-16279/
メディアアート分野報告記事:https://mediag.bunka.go.jp/article/article-16283/
ディスカッション報告記事:https://mediag.bunka.go.jp/article/article-16287/
https://mediag.bunka.go.jp/article/article-16293/
2019年度で一区切りとなっていた研究マッピングだったが、2020年からの5年間の研究の動向を明らかにするため、各分野の文献情報が文献管理ツール「Zotero」に登録された。登録数はマンガ972件、アニメーション223件、ゲーム6,410件、メディアアート3,155件の合計10,760件だった。
また、2020(令和2)年度より「メディア芸術連携基盤等整備推進事業」の一環として実施されている、4分野のアーカイブについて考える「MAGMA sessions」において、2025年3月26日(水)に「研究成果マッピング座談会~メディア芸術分野の研究のいま~」が公開。2019年度から2024年度にかけての各分野の研究状況を振り返るとともに、研究マッピングの意義やあり方について議論された。
※URLは2025年3月24日にリンクを確認済み