令和5年度メディア芸術連携基盤等整備推進事業報告会が、2024年2月21日(水)にウェブ会議システムにて開催されました。メディア芸術連携基盤等整備推進事業では、産・学・館(官)の連携・協力により、メディア芸術の分野・領域を横断して一体的に課題解決に取り組むとともに、所蔵情報等の整備及び各研究機関等におけるメディア芸術作品のアーカイブ化を支援しています。また、アーカイブ化した作品・資料等を活用した展示の実施に係る手法等を開発・検討することにより、貴重な作品・資料等の鑑賞機会の創出を図っています。本事業の実施を通じて、アーカイブ及びキュレーションの実践の場の提供や今後のメディア芸術の作品等の収集・保存・活用を担う専門人材の育成に寄与することを企図しています。報告会では、本事業の一環として実施した五つの分野別強化事業の取り組みの主旨や進捗状況の報告がなされ、有識者検討委員からの質疑や助言が加えられました。本稿ではそのうちの「マンガ刊本アーカイブセンターの実装と所蔵館ネットワークに関する調査研究」を取り上げます。
報告者:国立大学法人 熊本大学文学部 准教授 鈴木寛之
マンガ原画と同様、マンガの単行本や雑誌は日本のマンガ文化を支える貴重な資料である。そのマンガ刊本を、全国の複数の関連施設で連携して保存していくという趣旨のもと、本事業はマンガ刊本アーカイブセンター(MPAC)の実装化と所蔵館ネットワークに関する調査研究に取り組んでいる。マンガ刊本アーカイブに関する全国的なネットワークを構築するとともに、マンガ原画アーカイブセンター(MGAC)との間で、情報・知見・人材を共有・公開する機会を計画的に創出し、統合的かつ体系的な「マンガのアーカイブ」の連携基盤整備を推進している。事業体制は、熊本大学と各地のマンガ所蔵館の研究者らがメンバーとして参画している。
今年度の事業内容は、主に4項目に分けられる。まず、①「MPACの実装及び刊本資料のさらなる利活用推進のための調査研究」では、2023年12月にMPACを設立したことが大きな成果である。MPACの機能には、刊本に関わる相談窓口、専門人材の育成、刊本アーカイブネットワークのハブ拠点、刊本の収集・保存・活用の計画立案があり、刊本の収集を直接行うわけではない。過去の本事業における森野倉庫を中心とした実証実験に基づいた複本利活用モデルや刊本利活用BOXの開発、熊本県内各地での文化資源利活用の実験から得た知見を、「熊本モデル」として他地域でも応用可能なモデルとし、一地域だけでは解決できない問題も全国的ネットワーク内でなら解決可能との見地から、MPACの開設に至った。すでに相談窓口には3件の問合せや依頼が入っており、期待された効果を挙げつつある。
次に、②「刊本ネットワーク所蔵リストの構築準備」として、本年度中に2回開催した刊本ネットワーク会議を通じて、メンバーシップ主要館のメタデータサンプル項目の比較・検討を行い、単行本や雑誌などの分類や書誌管理項目名、書誌と館での管理情報の区分について調査・研究を進めている。第1回の会議では、刊本のメタデータの分析結果や検討案を中間報告としてまとめ、今後も引き続き検討していく。
また、③「刊本プール資料の仕分と移送に関する作業実験と検証結果の報告」については、これまで森野倉庫を中心に刊本プールが行われてきたが、資料の増加で肥大化し、管理不足による飽和状態と不可視化を招くなど問題が発生した。そのため約18万点の資料を森野倉庫から分散して保管することを決定し、各地域に移送した。大量の未整理資料の全体像をつかみやすくする分類方法、収納用の特注箱の製作、さらに「正複チェック」という正本の抜き出し作業や複本(ダブリ本)の利活用の知見を得られた結果、資料が可視化し、より小回りが利く形となった。また、育成された人材によって資料整理の生産性、効率性も向上している。
最後に、④「原画・刊本両事業一体化の準備」としては、両事業の合同会議を「マンガアーカイブ協議会」という名称で年度内に6回開催。それとは別に「紙の保存修復に関する合同研修会」も行った。先行するMGACとの協議を重ねながら、2023年10月には情報発信を兼ねたシンポジウムを開催するなど、MPAC開設の詳細や刊本事業の成果について報告した。
現在、関連施設のネットワーク構築に資する所蔵リスト、雑誌・単行本の整理や保管に便利な刊本利活用BOXなど、マンガ刊本アーカイブの基盤整備を進めている。また、分散収蔵の実験を介して得られた知見とともに、MPACの相談窓口を通じ、全国に点在する連携機関や出版社、個人コレクターなどへ、本事業の調査結果の発信・応用が今後の課題となっている。その延長線上として、マンガ原画アーカイブ事業との合流・一体化を目指している。
※URLは2024年7月1日にリンクを確認済み