令和5年度 報告会・実施報告書「マンガ原画アーカイブセンターの実装と所蔵館連携ネットワークの構築に向けた調査研究」一般財団法人 横手市増田まんが美術財団

報告者:一般財団法人 横手市増田まんが美術財団 横手市増田まんが美術館 館長 大石卓

事業の概要

日本のマンガ文化の資産である貴重なマンガ原画の保存・整理を担い、相談窓口として機能するマンガ原画アーカイブセンター(MGAC)。本事業では、MGACを中心として、全国のマンガ所蔵館、マンガ関連施設に関わる学芸員や研究者などの参画により、所蔵館連携ネットワークの構築、人材育成、収益事業及び支援体制構築の調査を実施している。事業の実施体制は、MGAC運営協議会、マンガ原画アーカイブネットワーク部会、マンガ原画アーカイブマニュアル検討部会、収益・支援体制構築部会の4部会を設置し、メンバーがいずれかの部会に所属して研究や事業の推進を図っている。

実施内容と成果

今年度も六つの事業目的を掲げ、事業を実施した。まず、①「相談窓口の開設活動」では、横手市増田まんが美術館に隣接する地域にある漆蔵資料館の内蔵を活用し、相談窓口を設置。プール原画の保管と整理、MGACの活動紹介を行っている。相談受付では、令和4年度から引き継いだ協議案件が26件、令和5年度は13件の新規相談案件があり、13件が解決済み。引き続き26件の協議案件に対応している。原画プールの状況としては、石ノ森萬画館9万9,000枚、北九州市漫画ミュージアム1万枚、横手市増田まんが美術館が28万2,500枚、3カ年の合計で39万1,500枚をプールしている。

次に、②「所蔵館連携ネットワークの構築」として、ネットワーク会議を年2回開催し、うち1回は東京で対面開催。原画プールについての継続的な情報交換を行い、保管施設が拡大している。また、高知県が原画プール事業に参画を表明し、同県運営の「高知まんが BASE」が正式にプール原画の保管施設となる予定。マンガ関連施設においても、北九州市漫画ミュージアムで収蔵原画数が増加、京都国際マンガミュージアムでも原画収蔵が強化される見込みである。

続いて、③「専門人材の育成」の成果として、「マンガ原画保存の手引き」を作成。専門施設・団体・企業・個人が実践しているアーカイブの内容を紹介し、マンガ原画保存の実務的な手引きとして、マンガ施設や個人が実践できるようにする。手引きの内容も、高コスト、中コスト、低コストの三つに分け、保管・格納手法を紹介する。

また、④「収益事業及び支援体制構築の調査」の成果としては、「ゲンガノミカタ展」の応用として、京都国際マンガミュージアムで村上もとか展、北九州市漫画ミュージアムで文月今日子展が各館によって開催され、「ゲンガノミカタ」展解説テキストを展示に活用した。事業外として「ゲンガノミカタ展」の解説内容を紹介する冊子を作成し、原画保存の理解者を増やす活動にも取り組んだ。

さらに、集英社マンガアートヘリテージ(SMAH)が展開する原画整理とアートブロックチェーンを活用した高精細プリント作品の製作販売事業と、MGAC事業との連携に向けた意見交換を行った。

最後に、⑤「原画・刊本事業の合同会議開催」では、原画事業と刊本事業の早期合流に向けて、年6回の合同会議を開催。2023年12月には、マンガ刊本アーカイブセンター(MPAC)が開設されたことを受け、両センターの合流に向けた本格化な調整に入る基盤及び体制が整備された。

今後の課題

原画保存を担う連携館の確保が課題となっている。プール原画の整理作業は、今年度約7万点の整理を終え、さらに進行中であるものの、その整理原画の受け入れなど原画保存を担う連携館の確保が依然として大きな課題であり、継続して連携拡大に努めていく。もう一つ、産学官連携のアーカイブ体制構築も課題となっている。2023年5月、一般社団法人マンガアーカイブ機構が設立され、産学官連携のアーカイブ体制構築の下地が整ったこともあり、原画・刊本事業の特性を活かした運営と両事業の早期合流について、それぞれの分野が抱える課題を整理し具体的なゴールラインを設定、中長期的な視野に立った協議が急務となっている。

大石卓氏

実施報告書(PDF)

※URLは2024年7月1日にリンクを確認済み

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