令和5年度 メディア芸術連携基盤等整備推進事業 中間報告会

クレジット情報のメタデータ処理向上とアナログ映像素材へのOCR適用と連絡調整会の組成

報告者:一般社団法人 日本アニメーター・演出協会(JaniCA) 事務局長 大坪英之

事業の概要

日本のアニメ作品は、年間の制作本数が膨大で、制作に携わる全スタジオ・全スタッフのデータを正確に把握するのは難しい。本事業では、放映された全アニメ作品を録画し、OCRを使って文字情報を抽出した上で、メタデータとして記録する作業を自動化する仕組みを構築した。さらにAI等を活用した高精度な分類機能の開発、メタデータ処理の汎用化にも取り組んでいる。アニメ作品のクレジット情報を収集することで、新しい作品の創造や各制作者の適切な評価、研究や産業領域に寄与することが期待できる。

進捗状況

今年度はメタデータの高精度な取得を目標とし、低コストでの運用手法の開発と高精度な自動化の実現に向けて事業を実施した。また、リスト制作委員会が保有するアナログ映像素材の一部をサンプルとしてデジタル変換し、その映像素材を用いて開発済みのOCR機能への適用と品質評価を行った。昨年開催した(仮称)アニメ作品情報連絡調整会も継続的開催に向けて準備中である。今年度のトピックとしては、テレビ局の業務知識が豊富な「北海道アーカイブセンター」の斉藤之夫氏に協力を得られたこと、横手市増田まんが美術館の大石卓氏との面談、学術領域の研究者との交流、「つづきみ」(アニメPV一気観イベント)事務局との連携がある。課題としては、故障や災害を見据えた全録サーバの安定稼働、AI技術の進展と陳腐化への対応、産業領域での手応えのなさ、マンパワー不足と活動資金の確保が挙げられる。

大坪英之氏

マンガ刊本アーカイブセンターの実装と所蔵館ネットワークに関する調査研究

報告者:国立大学法人 熊本大学
    熊本大学大学院 人文社会科学研究部(文学系) 准教授 鈴木寛之

事業の概要

日本の文化資源であるマンガ刊本(単行本・雑誌)を、全国の複数の機関で連携しながら後世に残していくという趣旨のもと、本事業では2023年12月に相談窓口として「マンガ刊本アーカイブセンター(MPAC)」を創設する。現在、MPACの実装および刊本資料のさらなる利活用推進のための調査研究を行うとともに、先行するマンガ原画アーカイブセンター(MGAC)とのあいだで情報・知見・人材を共有し、統合的かつ体系的な「マンガのアーカイブ」の連携基盤の整備を進めている。MPACは、刊本に関わる相談窓口、専門人材の育成、ネットワークのハブ拠点として機能し、刊本の収集は直接行わないと位置付けている。

進捗状況

今年度の事業は、①MPACの設置準備と刊本資料アーカイブに関する調査、②刊本ネットワーク所蔵リストの構築準備、刊本ネットワーク会議の開催とメディア芸術データベース(MADB)との連携体制構築、③育成人材や刊本利活用BOX等の知見を生かした、大量の刊本プール資料の仕分け・移送実験、④原画・刊本の両事業一体化の準備である。また、③の活動により、効率的な整理や再編成にあたって資料の可視化が可能な小回りの利く形での運用の重要性がいっそう明らかとなり、自治体との連携が進んだ。今後の課題としては、全国複数箇所のネットワークで刊本を扱っていくための体制構築に向けた準備活動、出納作業に有益な複本の蔵書リスト作成とネットワークによる共有化、出版社・作家との連携、刊本資料を活用した収益事業の創出、海外との連携の強化が挙げられる。

鈴木寛之氏

マンガ原画アーカイブセンターの実装と所蔵館連携ネットワークの構築に向けた調査研究

報告者:一般財団法人 横手市増田まんが美術財団 横手市増田まんが美術館 館長 大石卓

事業の概要

本事業は、文化資源としてのマンガ原画の保存を担い、相談窓口として機能する「マンガ原画アーカイブセンター(MGAC)」の業務を継続して実施している。今年度は特に保存体制の強化と施設間の連携に力を入れており、刊本事業との将来的な合流に向けて準備も進めている。実施体制は、MGACを中心に全国の所蔵館・マンガ関連施設に関わる学芸員や研究者などが参画し、連携機関と各部会を設置して事業を推進している。

進捗状況

具体的な取り組みは、①MGACの実装として、保存の相談窓口の設置およびMGACの普及宣伝活動、②所蔵館ネットワークの構築とプール原画保管の協力施設の拡充、③専門人材の育成ならびに「原画保存者別マンガ原画アーカイブマニュアル」の検討、④「ゲンガノミカタ展」を主とした収益事業および支援体制構築の調査、⑤原画・刊本事業の合流に向けた合同会議「マンガアーカイブ協議会」の開催がある。MGACへの保存の相談は、新規案件も含め現在38件に対応中で、原画プールに関する相談が最も多いが、将来的な保存の相談や自身が原画保存に取り組む手法等、多岐にわたる。原画プールは、昨年度までの約22万6,000枚に加え、今年度は10万8,000枚の原稿を各施設でプールする予定である。また、2023年9月30日時点で3万8,000枚超の原画が整理を完了している。所蔵館ネットワークの具体的な取り組みとしては、原画保存事業に前向きな団体にアプローチを行い、今年度は高知県や熊本県山都町と協力を図っている。

大石卓氏

ゲームアーカイブ所蔵館の連携強化に関する調査研究2023

報告者:学校法人立命館 立命館大学ゲーム研究センター
    立命館大学 先端総合学術研究科 授業担当講師 尾鼻崇

事業の概要

ゲームという特性上、本事業は多角的な展開とならざるをえないため、主要な連携機関と役割を明確化しつつ、産業界との連携強化、情報のアウトリーチを行っている。まず調査実施主体である立命館大学ゲーム研究センターを中心に、ゲームアーカイブ利活用調査を大阪樟蔭女子大学と連携し、ヒアリング調査やオンライン展示を行うと同時に、他分野との横断型企画なども実施。また、MADB利活用推進では、大阪国際工科専門職大学と共同でMADBの登録情報拡充を進めている。さらに国際ではストロング博物館等との協働、国内ではゲームアーカイブ推進連絡協議会を核とした連携強化を図っている。

進捗状況

主な事業として、①ゲームアーカイブ所蔵館との連携を強化し「日・韓ゲーム研究カンファレンス」を開催。韓国をはじめとするアジア諸国との情報交換を推進し、②データベースの充実化を目的とした組織化活動と未リスト化資料のオープンデータ化を進め、ゲーム開発者の講演資料集であるCEDiLの掲載情報やCESA AWARDなどのデータをマッピング。③ゲームアーカイブ利活用調査を進め、ゲーム資料保全や「コトのアーカイブ」に向けた展示企画を強化。過去のゲーム展をメタ的に展示する「ゲーム展TENⅡ」を京都と東京で実施した。さらにマンガ分野との横断型企画として、日本ゲーム博物館、横手市増田まんが美術館、京都国際マンガミュージアムの協力を受けて「ゲーム分野からみるメディア芸術保守展(仮)」の準備を進めている。

尾鼻崇氏

メディアアート分野でのコミュニティネットワーク構築準備と作品調査とデータ整備

報告者:特定非営利活動法人 コミュニティデザイン協議会 理事長 野間穣

事業の概要

昨年度から継続して、三つの主要な事業に取り組んでいる。まず、①メディアアート史を軸としたデータ収集とMADB連携のテストとして、昨年度までのメディア芸術祭のデータ作成を行い、ウェブ版メディアアート史年表を更新予定である。次に、②MADB登録情報の整備とデータ作成として、MADBのデータクレンジング作業を継続しており、作品ビューワーを利用して重複データや誤データを抽出、データの出典調査を行っている。続いて、③ネットワーク構築のための準備作業として、「PMA(Platform for Media Art Production=メディアアート作品制作研究のためのプラットフォーム)」の改善作業と入力テストを実施している。

進捗状況

MADB連携のテストでは、MADB Labで公開しているSPARQLを活用して項目の時系列配置のテストを行ったが、年表のような表現で見せることが難しかったため、作業を中止した。一方で、札幌国際芸術祭と連携し、ウェブ版メディアアート史年表のプロジェクション展示を行う準備を進めている。また、MADBデータの出典の調査として、実際の出典資料を所蔵する国立新美術館などで資料確認作業を行い、誤ったデータを修正した。PMAについては、ネットワーク構築に資するように、入力ツールの試験的な配布、それを基にした議論や改善を実施している。さらに追加事業として、これまでの事業成果を紹介し、それに対する意見、メディアアート分野内での協議やヒアリングを実施したい。

野間穣氏

事務局調査事業報告

報告者:メディア芸術コンソーシアムJV事務局 桜井陽子

アーカイブ機関保有データの調査や課題抽出として、連携館におけるマンガ原画プール資料整備に取り組み、内容や数量の把握を行い、加えて、沖縄県内のローカルマンガ原画プールの体制構築支援も行う予定である。また、ネットワーク構築・強化を目的とした自治体連携会議、アーカイブ機関同士の合同情報交換会を本年度に開催。AI・データサイエンス教材作成やメディア芸術データベース活用コンテストも推進し、メディア芸術の将来的な利活用に資するためにマンガ・アニメ・ゲームの中間生成物調査を行う。人材育成や事業成果の公開・普及、情報発信としてMAGMA sessions、メディア芸術カレントコンテンツ、MADB Labの取り組みも実施。事務支援を担っているメディア芸術アーカイブ推進支援事業では、採択された23件について支援業務を進める。

有識者検討委員会主査による全体総括

有識者検討委員会主査:立命館大学 映像学部 教授 細井浩一

それぞれの組織や団体の事業は、個別の取り組みとしては努力の限界値まで来ていると感じる。各事業をさらに高い到達点まで持ち上げていくためには、分野内の横の連携に加えて、メタなポジションから縦の力学を導入する必要があり、かねてより目的としている自走化・収益化を、分野ごとだけではなく分野を越えた全体として本格的に考えていく段階にある。と同時に、事業内容と仕組みを明確化することを通じて、収益化になじまない部分や自走化・持続化へのハードルとなる部分を可視化することも重要だ。ナショナルセンター構想は、そうした部分に対して大きな力学をもって広く担保していくことが期待される。今後の展望を見出していく議論を続けていきたい。

※URLは2024年3月5日にリンクを確認済み

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