「令和5年度 メディア芸術連携基盤等整備推進事業 文化芸術振興補助金 メディア芸術アーカイブ推進支援事業 合同情報交換会」が、2023年12月14日(木)に大日本印刷株式会社DNP市谷加賀町ビル会議室およびウェブ会議システムにて開催されました。メディア芸術アーカイブ推進支援事業は、国内の優れたメディア芸術作品や散逸、劣化などの危険性が高いメディア芸術作品の保存及びその活用・公開等を支援することにより、国内のメディア芸術の振興に資することを目的としています。合同情報交換会では「アナログ媒体資料の整理・保存」「メタデータの作成・保存・整備・公開」「デジタルコンテンツの作成・保存・整備・公開」「利活用に向けた権利処理」という四つの課題テーマが掲げられ、それぞれについてメディア芸術連携基盤等整備推進事業タスクチーム員の講演による情報共有・事例紹介と、参加者による座談会が行われました。
講演「アナログ媒体資料の整理・保存」
講師:山川道子(株式会社プロダクション・アイジー IP マネジメント部 渉外チーム)
アーカイブ管理において、アニメーション制作会社の経験を通じて得られた知見と事例を紹介する。まず、アナログ媒体にはさまざまあるが、紙ベースが主体であり、保管において水や日光に弱いことが挙げられる。湿度や温度の管理が重要で、湿度を下げて暗所で保管することで劣化を防ぐ。紙を変色させないLEDライトの使用も考慮したい。特にアニメーションの作画用紙の保管については、空気に触れると黄ばみが生じるため、OPP袋に入れて封をし、ダンボール箱に収めて空気を避ける方法が有効である。また、金属製品は空気に触れると錆びやすい。例えば、作画用紙を留めた金属クリップにサビが出て色移りした事例があるため、クリップは必ず外し、透明なOPP袋を活用している。一方、建物内の保管での水没事例も紹介したい。大雨で排水溝が詰まり、水があふれて作画用紙が濡れた経験から、定期的な排水溝の点検も必要だと感じた。ダンボール箱の保管場所に関しても、床にスノコを敷いたり、棚の一番下に棚板を入れたりと、床から数センチ離す工夫が重要である。ガムテープは箱の端をIの字で、裏面を王の字で貼ると長期保管に役立ち、荷崩れも防ぐ。なお、ダンボール箱やハードディスクのラベリングにはバーコードを貼って管理している。
座談会「アナログ媒体資料の整理・保存」
ファシリテーター:山川道子
参加者:舛本和也(株式会社トリガー 常務取締役)
原島友美(株式会社トリガー 総務経理部)
中山敬介(株式会社トリガー システム部)
岩澤秀樹(株式会社トリガー 制作部)
丹羽陽祐(鯖江市教育委員会文化課 主査)
瀧健太郎(特定非営利活動法人ビデオアートセンター東京 代表理事)
山下義文(有限会社劇団かかし座 企画営業部)
中野純(有限会社さるすべり 代表取締役)
大井夏代(有限会社さるすべり 取締役)
アナログ媒体資料の保管について、アーカイブ管理に携わる方々に意見をうかがったところ、人材と倉庫が足りていないという回答が共通して多かった。倉庫に関しては、作業内容によって現物を近くに保管しなくても、外の倉庫に移動することが可能なケースがあった。また、捨てずに歴史的資料として残しておきたいという声も聞かれた。人材不足については、単に人材プールなどを想定し、未経験の人を教育していくことだけで解決できるレベルの問題ではないことが、今回はっきりと認識できた。人材として、いわゆる有識者が求められている。具体的には、専門知識を有しアナログ資料を一目見ただけでわかる人、その分野に人生を賭して携わってきた専門家、往年の機材を使った経験をもつ年代の人などである。さらに学芸員資格も必要とされている。今後は、アーカイブの意識知見を有する人と、各分野で特性をもつ有識者とをマッチングする方法が重要になっていくだろう。このような場で、アナログ媒体資料のアーカイブ情報を共有し、「あの人が適任では?」と互いに紹介できる機会もあるのではないか。人材不足は難しい課題だが、今回の合同情報交換会を通して、アーカイブの未来に希望を感じられた。
講演「メタデータの整備・公開」
講師:三原鉄也(筑波大学 人文社会学系 助教)
現在、メディア芸術データベース(MADB)の仕事に携わっているので、メディア芸術アーカイブ推進支援事業を通じて現場の方々にメタデータとは何かを理解していただき、メタデータについて具体的にやるべきことをお伝えしたい。メタデータとはルールに基づくものであり、「メタデータ流通ガイドライン」「メタデータ情報共有のためのガイドライン」等にその規定がある。ガイドラインにはメタデータを作成するように書いてあるが、メタデータ整備の目的を4段階で説明すると、①組織内での業務管理・利用、②資料リストの公開、③資料へのアクセス提供、④より高度な資料・データの利活用、となる。つまり、私蔵されていた資料を公共化する作業とも言える。特に④の段階では統計的な分析が可能で、MADBを活用した新サービス「MADBダッシュボード」も公開予定だ。最終的にはデジタルアーカイブ社会の構築を目指し、国全体のデジタルアーカイブを一つにまとめる「ジャパンサーチ」も推進されている。最後に、デジタルアーカイブ活動のための自己診断ツールを紹介し、レベルごとに行うべきメタデータの整備ポイントをリスト化した。具体的な実務は、管理単位の定義から国際標準の活用まで多岐にわたるため、メタデータに関する悩み事など個別相談にも応じている。
座談会「メタデータの作成・保存・整備・公開」
ファシリテーター:三原鉄也
参加者:木田幸紀(日本脚本アーカイブズ推進コンソーシアム 副代表理事)
石橋映里(日本脚本アーカイブズ推進コンソーシアム 事務局代表/常務理事)
入山さと子(日本脚本アーカイブズ推進コンソーシアム 収集担当主任/理事)
矢野恵子(明治大学学術・社会連携部図書館総務事務室 事務長補佐)
信濃潔(明治大学学術・社会連携部図書館総務事務室〔現代マンガ図書館〕)
田中範子(プラネット映画保存ネットワーク 専務理事)
松山ひとみ(神戸映画資料館 研究員)
佐野明子(同志社大学文化情報学部 准教授)
入江清佳(長崎市文化観光部長崎学研究所 学芸員)
メタデータに関する話題が年々具体的になり、メタデータの作成に理解のある参加者が増えている。特に今回お話をうかがった四つの団体の共通点として、物を集める行為からメタデータを通して情報を世に届けることをミッションとして位置付け、実際の整理を進められていることが印象的だった。課題としては、技術的な問題がある。まず、メタデータ項目として、内容と物を切り分けて管理する必要がある。物の容態から中身を判断する基準の確立や整備性の向上が大きなテーマとなっている。また、データの正しさや確かさをどう証明していくかも重要なトピックである。プロジェクトが出しているデータの信頼性や、自分たちが参考にしているものをどのように情報提供していくかが議論されている。データの正確性を示すためには、データの由来や作成者の情報提供が必要不可欠であり、これは事業体の成熟とデータの価値向上を表している。つまり、より精緻で厳密なデータを出していくことは、国の事業として、各団体の取り組みとして重要であるという共通見解がある。その上で、データの由来や作成者に係る情報を収集するMADBにも、情報の掲載・発信をしてほしいという連携機関からの期待が寄せられている。データの検索においては、内容に基づくタギングが重要であり、AIの活用やWikidataなど既存のリソースを使用してデータ作成の手間を減らす取り組みが今後注目される。
講演「デジタルコンテンツの作成・公開・保存・整備」
講師:嘉村哲郎(東京藝術大学芸術情報センター 准教授)
デジタルコンテンツについて五つほど伝えたい。①データ作成:収集・整理したモノ(資料)をデジタル化することを指し、現物のデジタル化と、既にデジタルで存在するデータを新たにデータ作成することも含む。データの種類は画像、映像、音響、三次元、数値など。データ品質に関しては、最高の技術と機器によるデジタル化が望ましいが、現場の判断で妥協も必要である。②データ公開:通常、ウェブサーバ上にデータを配置して公開する一般的な方法と、ポータルサイトを含めた公開がある。メタデータを統合的なサイトから検索し、その検索結果を通じて組織のサイトにアクセスする方法も広がっており「ジャパンサーチ」などはポータルサイトを経由した公開方法の代表例。③コンテンツ作成:データ作成だけでは使いづらいためコンテンツ化が必要で、目的設定型と探索型・アジャイル型のコンテンツ作成がある。④データの保存:保存対象はデジタルデータやデータベース、ウェブサイト、アプリケーションなどで、保存先としてローカルストレージやクラウドストレージがある。⑤データの整備:システムメンテナンスとして、アクセス権限管理やデータ保存装置の定期的な確認、セキュリティ対策やシステムの更新の中長期的な計画も重要である。
座談会「デジタルコンテンツの作成・保存・整備・公開」
ファシリテーター:嘉村哲郎
参加者:土居安子(一般財団法人大阪国際児童文学振興財団 理事・総括専門員)
毛利仁美(大阪公立大学 非常勤講師、立命館大学ゲーム研究センター 客員協力研究員)
鎌田優(株式会社ドーガ 代表取締役)
明貫紘子(映像ワークショップ合同会社 代表)
松尾奈帆子(有限会社タクンボックス アーカイブ事業担当)
大きくわけると、コンテンツの公開に伴う権利的な問題、公開システムの課題、そしてデータの永続的な保存について、議論に焦点が当たった。まず、コンテンツ公開に関する権利問題では、データの二次利用を制限するような仕組みに関して問題提起がなされ、データ追跡や真贋性の確認などに効果的な対策が模索されている。次に、データの公開において、データのデジタル化は進んでいるが、公開するシステムを構築できる専門家が不足しているという問題が取り上げられた。提案としては、ウィキメディア財団が提供するデータベースの利用が挙げられたが、独自のウェブサイトを運営する人材不足も指摘されている。最後に、データの保存に関する問題が取り上げられた。多くの組織がUSBメモリやSSDに保存しており、データを複数に分散して保存している状況がある。データの長期保存に適したLTOには高額な装置が必要なため、代替案としてクラウドストレージのコールドストレージの利用も挙げられる。また、将来にわたって残していくべき文化的なコンテンツやデータを保存するためのストレージの仕組みについては、共同調達のような形や、小規模組織向けのデータ保存サービスが求められている。
講演「利活用に向けた権利処理」
講師:山内康裕(レインボーバード合同会社/一般社団法人マンガナイト 代表)
まず、作品の「物」としての側面と「著作物」としての側面を区別することが重要で、利活用に向けた権利処理の相手方は、基本的に著作権者や著作権を管理する者・法人であることをおさえておきたい。作品現物と著作権の関係を述べると、「物」は所有できる有体物で所有権の対象、「著作物」は思想や感情の創作的表現である。また、著作権は著作者人格権と財産権に分かれ、後者は譲渡可能で法人も権利者となり得る。著作権には複製権、上演・演奏権、上映権、公衆送信権、公の伝達権、口述権、展示権などさまざまな権利が含まれるが、なかでも二次的著作物の利用権が重要になる。権利処理の相手方は分野によって異なり、マンガはマンガ家やプロダクション、アニメーションは製作委員会など、ゲームはゲームメーカーなどで、権利者への許諾取得は窓口を通じて行い、そのプロセスは多岐にわたる。一方、美術館が作品の所有権を有する場合、現物の展示と入場料の取得は可能だが、著作権はないため複製や二次利用、観覧者の複製を促す行為はできない。権利処理において、著作権者より使用許諾を受けることで企画展や商品化ができ、その条件には範囲、期間、具体的な利用内容、著作物の貸与、監修の方法、許諾料などがある。また、著作権者が一定の条件で限定的に使用許諾を出すオープンライセンスもある。
座談会「利活用に向けた権利処理」
ファシリテーター:山内康裕
参加者:脇山真治(一般社団法人展示映像総合アーカイブセンター 代表理事)
渡邉朋也(山口情報芸術センターアーキビスト/ドキュメントコーディネーター)
石田美紀(新潟大学アジア連携研究センター センター長、アニメ・アーカイブ研究チーム 共同代表)
アルバナ・バロリ(新潟大学 技術補佐員)
ルドン・ジョゼフ(特定非営利活動法人ゲーム保存協会 理事長)
細谷滝音(特定非営利活動法人ゲーム保存協会 正会員)
松田真(特定非営利活動法人ゲーム保存協会 正会員)
千島守(日本アニメーション株式会社 経営企画部 部長)
平林延康(寺田倉庫株式会社 アーカイブ事業グループ)
私たちのチームは、マンガ、アニメーション、ゲーム、メディアアートの四つの分野に平均的にばらけた、異なるバックグラウンドを持つ多様なメンバー構成である。その意味では、利活用に関する話題を共有することは難しいかと思ったが、案外、分野の異なる業界からの視点が互いに参考になった。議論の中心は、作品の利活用においてどのような手段を取るかに焦点を当てており、再現が難しい作品をどのように再現し同一性を保つか、プラットフォームになり得る個人情報を含む作品をどういう形で活用するか、著作権者不明の作品はどのように活用するかなど、複雑な問題がいろいろと浮上した。メンバーはそれぞれの知見を共有し、アドバイスしながら進行した。今後の課題と展望については、特に権利処理に関する窓口を一元化されているとありがたいという意見が出された。これは、研究対象について非営利的な申し入れを窓口に問い合わせる際、通常のライセンス業務の範疇外になりなかなか受け入れられ難いところがあるためである。そのときに、業界団体や業界共通のルールがあれば、研究者が問い合わせをしやすくなる。また、研究のためのゆるやかな著作権対応ルールというものがあれば、広く利活用も促進される。これらが今後取り組むべき課題として挙げられた。
※URLは2024年2月25日にリンクを確認済み