北海道ゆかりのマンガが集う 札幌市中央図書館所蔵資料特別展「北海道とマンガのミライ」レポート

竹内 美帆

会場入口

展覧会開催に至った二つの理由

内容に入る前に、まず、本展の位置付けについて確認しておく。本展は、北海道出身のマンガ家や北海道を舞台にしたマンガなど、北海道ゆかりのマンガに焦点を当てた特別展である。企画・実施に携わる札幌市中央図書館利用サービス課調査相談係の山本航平氏によれば、同館では普段目にすることのない貴重な資料などを活用した特別展を毎年行っているが、以下の理由により、今年の特別展では「マンガ」をテーマに取り上げることとなったという。

1点目としては、郷土資料として、今までも北海道が舞台のマンガを収集してきたが、あまり知られていないため、図書館にも少ないながらもマンガが所蔵されていることを知ってもらい、読書を楽しむきっかけにしてほしいという思いである。今回の展示にあわせて同館2階の郷土資料が並ぶ一角に北海道マンガを集めたコーナーも設置された。

2点目としては、札幌市のマンガを含むポップカルチャーによるまちづくりの動きである。本展にも協力しているマンガ家である大和和紀と山岸凉子を中心として、数年前から北海道にマンガミュージアムの設立を求めるマンガ家たちが集まり「北海道マンガミュージアム構想」が立ち上がった。同団体がマンガの文化的価値の発信や観光資源としての可能性を提案したことが一つの契機となり、札幌市もまちづくりの一環として、「図書(マンガ)を核としたライブラリー、ミュージアム及びビジネスの展開に関する可能性調査」1を実施するなど、「マンガ等のポップカルチャーに関する取組」を進めている。こうした札幌市側の動きもあり、今回の特別展開催の運びとなった。

札幌市中央図書館が中心となり、札幌市まちづくり政策局のプロジェクト担当も企画に携わった。

会場風景

本展示は内容ごとに6つのパートに分かれている。以下ではそれぞれのパートの内容を紹介しよう。

「マンガの源流をたどって」

冒頭の「マンガの源流をたどって」では、『国宝 鳥獣戯画巻』(便利堂、1960年)や葛飾北斎『初摺 北斎漫画』(小学館、2005年)、岡本一平『一平漫画』(1924年)、田川水泡『のらくろ漫画全集 少年倶楽部名作選 別巻』(1967年)、手塚治虫『新宝島 手塚治虫漫画全集 281』(1984年)などを展示し、歴史的に現代のマンガと関連付けられる機会の多い作品を紹介する。

「マンガの源流をたどって」。左上から時計回りに、田河水泡『のらくろ漫画全集 少年倶楽部名作選 別巻』、清水勲『日本の漫画本300年』(2019年)、葛飾北斎『初摺 北斎漫画』、『国宝 鳥獣戯画』、岡本一平『一平漫画』、手塚治虫『新宝島 手塚治虫漫画全集 281』

「マンガで描くアイヌの世界」

続く、「マンガで描くアイヌの世界」では、アイヌと関連の深い作品が新旧揃う。幕末期に蝦夷地を探査し、「北加伊道(のちの北海道)」の名付け親でもある松浦武四郎が1859年に出版した、『蝦夷漫画』の原本も展示された2。その他、石坂啓著、本多勝一原作、萱野茂監修『ハルコロ』(1992~1993年)や、有光涼『北の残響 シャクシャイン伝』(2018年)、そして大英博物館でのマンガ展でもキービジュアルとして使用された野田サトル『ゴールデンカムイ』(2014~2022年)が並置されている。

アイヌ関連のマンガや『ゴールデンカムイ』が表紙に掲載された図録や雑誌

「北海道ゆかりのマンガ家」

一番奥の大きなショーケースに展示されているのが、「北海道ゆかりのマンガ家」のコーナーである。ここでは、「北海道ゆかりのマンガ家マップ」3のタペストリーが設置され、道内ゆかりのマンガ家が多数紹介されており、そのなかから「北海道マンガミュージアム構想」の発起人18名のマンガ家とその作品が、マンガ単行本と作中の一コマを拡大したパネルで展示される。

見どころは、大和和紀『あさきゆめみし』(1979~1993年)と山岸凉子『日出処の天子』(1980~1984年)のカラー複製原画。本展のために特別に借用したというこの複製原画は、原画をデジタル処理し高度な技術で印刷した複製原画であり、色鮮やかさが目を引く。

「北海道ゆかりのマンガ家」と「北海道ゆかりのマンガ家マップ」
大和和紀『あさきゆめみし』と山岸凉子『日出処の天子』のカラー複製原画

「札幌・北海道が舞台のマンガ」

つづく「札幌・北海道が舞台のマンガ」では、二つの展示ケースの中に札幌と北海道を舞台としたマンガの単行本がディスプレイされる。

札幌を舞台としたマンガおよび関連書籍。左上から時計回りに、佐々木倫子『チャンネルはそのまま!』(2008~2013年)、いがらしゆみこ『おーい!動物キャラバン』(2012年)、河原和音『青空エール』(2008~2015年)、梅津有希子『ブラバン甲子園大研究』(2016年)、沙村広明『波よ聞いてくれ』(2014年~)
北海道を舞台としたマンガ。左上から時計回りに、東元俊哉『プラタナスの実』(2020~2023年)、はた万次郎『北海道青空日記』(1998年)、荒川弘『百姓貴族』(2006年~)、安島薮太『クマ撃ちの女』(2019年~)

「北のマンガの黎明期」

北海道における昭和初期のマンガ文化を振り返る「北のマンガの黎明期」では、昭和初期の北海道出身のマンガ家たちの作品に迫る。1934年の井崎かずを・百合三郎による『札幌観世音参詣(商店案内)漫画双六』や、北海道出身のマンガ家・画家として知られるおおば比呂司の作品、北海タイムスで漫画記者としても活躍した加藤悦郎の漫画集などが陳列され、北海道にも昭和初期から独自のマンガ作品が根付いていたことが示される。

『札幌観世音参詣(商店案内)漫画双六』とおおば比呂司の4コママンガ『ひのみ一家』が掲載された「北海道消防新聞」
北海道出身のおおば比呂司、清水祐幸、加藤悦郎の作品や、終戦後に札幌で創刊された『漫画タイムス』

「マンガで知る札幌の行政」

最後の「マンガで知る札幌の行政」では、札幌市が行っているマンガの形で表されたパンフレットや冊子など、多様な取り組みが披露される。

札幌市が発行したマンガを活用したパンフレットや冊子

本展の開催が意味する北海道のミライ

本展は、小規模ながらも、今後の北海道におけるマンガ文化の振興に重要な意味を持つ展示であるといえる。単に図書館で所蔵するマンガ作品を展示するだけでなく、「北海道におけるマンガ文化」という視点からその歴史や現在、未来への広がりを視野に入れる。各地でマンガ関連ミュージアムの設立が相次ぎ、マンガ展の開催も珍しくなくなってきたが、営利目的ではない、マンガの「文化」としての価値を問う公的施設での企画はそれほど多くはない。札幌市中央図書館という公的施設を拠点として、これからのマンガの可能性に目を向ける展覧会が開催されたことは意義深い。

本展でもふれられたように、北海道は、多くのマンガ家を輩出してきた土地として、そして多くのマンガの舞台になった土地として、ポテンシャルを秘めている。さらに、これまでにないマンガとまちづくりのあり方を模索する余地を残している。

今後も、本展を皮切りとして、2024年2月には「妖怪・もののけ」を扱うポップカルチャーを取り上げた展示が、そして3月には、大和和紀、山岸凉子両氏の二人展の開催が決定している4。本展をきっかけとして、多くの人がマンガを介してつながり合う場や機会が北海道の随所に増えていく、そのゆくえが楽しみに感じられる展示であった。

脚注

1 「[マンガ複合施設構想書]図書(マンガ)を核としたライブラリー、ミュージアム及びビジネスの展開に関する可能性調査」https://www.city.sapporo.jp/somu/machikiso/documents/r4_machikiso9_honsyo.pdf
2 『蝦夷漫画』は、札幌市中央図書館が運営するウェブサイト「デジタルライブラリー」でも閲覧できる。http://gazo.library.city.sapporo.jp/shiryouInfo/shiryouInfo.php?listId=1&recId=528&thumPageNo=1
3 原版は「三原順の世界展~生涯と復活の軌跡~」(2021年7月22日(木・祝)~8月15日(日)、札幌市民交流プラザ1階 SCARTSコート)に合わせムーンライティングが作成したものに、本展のためにまちづくり政策局側で修正を加えたもの。
4 「妖怪・もののけ展(仮)」(2024年2月3日(土)~2月14日(水)、北海道・白い恋人パーク内コレクションハウス)、「『あさきゆめみし』×『日出処の天子』展 ─大和和紀×山岸凉子 札幌同期二人展─」(2024年3月9日(土)~24日(日)、北海道・東1丁目劇場)https://www.city.sapporo.jp/kikaku/shomu/pop-culture_2.html

information
札幌市中央図書館所蔵資料特別展「北海道とマンガのミライ」
会期:2023年10月12日(木)~12月12日(火)
会場:札幌市中央図書館 1階展示室
https://www.city.sapporo.jp/toshokan/gyoji/chuo/20231012-1212hokkaidotomanganomirai.html

※URLは2023年11月1日にリンクを確認済み

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