翻訳版が各国で読まれている日本のマンガ。海外のファンが増えていき、その興味の対象は作品だけにはとどまらず、日本のマンガ家、さらにはマンガ業界へと広がっているようです。そんななかフランスでは、現地のマンガ愛好者と日本のマンガ文化の橋渡しとなるような用語解説集『Le Japonais du Manga』が2015年に出版されました。2023年に新版が出版されたことをきっかけに、執筆者の門倉紫麻氏、柿崎・ライヤール・深里氏に、初版からアップデートしたことやフランスのマンガ受容についてお話をうかがいます。
――『Le Japonais du Manga』(マンガの日本語)は日本でマンガ分野を中心にライターをされている門倉紫麻さんとフランス在住で主にマンガを日本語に翻訳する翻訳家である柿崎・ライヤール・深里さんとの共著で、フランスの語学専門の出版社Assimilから刊行されました。2015年の初版から8年ぶりに、2023年の春に新版が出たそうですね。どういった経緯で出たのか、どういった内容なのか教えていただけますか?
門倉 私たちは従妹同士なのですが、偶然にもフランスと日本で20年ほどそれぞれマンガの仕事に携わってきて。フランスで2006年にマンガ雑誌『COMIC CUE』(イースト・プレス)のフランス語版を出すなど、これまでも一緒に仕事をしてきたのですが、2014年にAssimilから柿崎さんにオファーがあって、私にも声をかけてくれました。
柿崎 マンガに関する語学の本をつくれないか、とAssimilの編集者のニコラ・ラゴノ(Nicolas Ragonneau)さんから提案がありました。それなら、マンガの世界で活動してきた私たちならではの用語集のようなものがつくりたいね、と門倉さんと話をしました。
門倉 それで、フランス語圏のマンガ好き・日本のカルチャー好きの方たち向けの、日本のマンガ用語・マンガ業界用語を解説した本にしよう、と決まった感じです。
柿崎 どうやってマンガ家になるか、マンガ家は日々どうやってマンガを描いているのか、流通はどうなっているのかがわかる用語や、「吹き出し」のような基本的なマンガ用語を収録しているのはもちろんですが、日本のマンガ業界でしか使われていないような言葉も解説しているのが特徴です。当時、フランスでは、今ほどマンガに関する日本語が浸透していませんでした。
門倉 基本的なマンガ用語やフランスのマンガ事情に関する用語は柿崎さんが執筆して、日本のマンガ業界用語は私が日本語で執筆して、柿崎さんが翻訳しています。
柿崎 Assimilはマンガの出版社ではないので、マンガがどういうものかを説明することは大事にしつつ、この本にしかないもの、オリジナルなものをいれられたのがよかったと思います。出版社の営業の人たちには、「日本で暮らす人も知らない日本語や、普通とは違う使い方をする日本語が入っている本です」と伝えました。例えば「カンヅメ」とか。
門倉 締め切りギリギリのマンガ家さんをホテルや出版社の会議室に閉じ込める=「カンヅメ」にして原稿を描かせる、という意味ですね。あと『週刊少年ジャンプ』をあえて道具として解説したりもしています。実際に私が取材現場で知ったことなのですが、「ジャンプを何冊か重ねたものに板を立てかけると、原稿を描くちょうどよい傾斜になる」と(笑)。収録する単語の選定は、二人で自由にやらせてもらったんですが……実際、Assimilの編集さんたちはどう思っていたのかな?
柿崎 担当のニコラさんは「その時代を写した『ポラロイド写真』みたいですごくいい」と言ってくれていたよ。ポラロイド写真だとすると、新しいものにしていかないといけないということで、ただ重版するのではなく新版を出そうという話になりました。ニコラさんは少し加筆するくらいのイメージだったようですが、コロナ禍で大きくマンガ事情が変わったので、たくさん加筆することになりました。
――新型コロナウイルスの流行によって、アナログからデジタルに制作が変わってきたことや流通の変化などについての単語も多く追加されていそうですね。
門倉 そうですね。制作のデジタル化の話と、流通のデジタル化の話は分けて加筆しました。流通については、用語の追加だけでなく、少し長めのテキストでコロナ禍でマンガの売り上げが過去最高になったこと、そのうち60%以上が電子書籍の売り上げだったことなども書きました。
柿崎 「ネット書店」という単語はもともと収録していたのですが、今回は「リアル書店」とか「紙の本」などを追加しています。
門倉 デジタルの勢いが増していくなかで、「『リアル』の本屋さんで買った」とか「『紙で』読んだ」とか、昔は言う必要のなかった言葉を付け加えるようになったのがおもしろいなと。
柿崎 描き方のデジタル化に関しての単語で追加したのは、「リモートワーク」などですね。2015年版からあった「漫画家の一日」というページには、新たにアシスタントさんがリモートワークをしているイラストを、前回に続いて渡邉佳純さんに描き下ろしてもらいました。
門倉 このページでは、2015年版のときから、「飯スタント」がごはんをつくっていたり、「2段ベッド」でアシスタントが仮眠をとっていたりと、あえて昔ながらのスタイルをイラストにしてもらったんですよ。ただ2023年版でもこのままでは古く感じるので、「リモートワーク」のイラストは絶対に入れたかった。アシスタントさんたちが、自宅でそれぞれのスタイルで作業しているところが描かれているんですが、渡邉さんのアイデアでバランスボールに座って作業している人がいたりして、すごく楽しいんです。実際、腰を悪くするマンガ家さんは多いので、バランスボールに座って作業するのは有効だと思います。
柿崎 「腰痛」ももともと収録してたよね?
門倉 うん、マンガ家の職業病として入れた。それに伴ってマンガ家御用達の、腰に負担の少ない高価な椅子として「アーロンチェア」も入れたね(笑)。新版では「作業通話」を、コロナ禍以降注目された言葉として入れました。アシスタントさんがリモートになり、マンガ家さんが一人で作業することが増えましたよね。これまでのように作画中に話せる相手が近くにいないのもあって、プロに限らず描き手の方たち同士が自宅で作業をしながら通話をする、という話をよく聞くようになった。コロナ禍前にもされていたことですが、専用アプリが充実してより当たり前のものになったと思います。通話と言っても、特に何も話さず、ほかにも作業している人がいるという気配だけ感じながら描くこともあるそうで。すごくいいなあと思いました。
柿崎 今回、新たに「猫」を入れたのもおもしろかったよね。
門倉 そうそう! 表紙は前回に続いて、フランス在住のマンガ家・かわかみじゅんこさんが描き下ろしてくださったんですが、メインのイラスト以外に猫のイラストを単体で描いて送ってくださったんですよ。それを見て「マンガ家といえば猫だ! 猫を用語として入れよう!」と思いつきました(笑)。統計をとったわけではないのですが、体感として猫を飼っているマンガ家さんがたくさんいて。一人で根を詰めてやる時間、孤独な時間が多いお仕事だと思うので、癒しになるのではないでしょうか。
柿崎 猫がマンガ家さんのモチベーションアップの役に立っている。フランスでも作家さんが猫を飼っている話はよく聞きますね。
門倉 原稿の上に横たわるなど仕事の邪魔されることも多いようなので(笑)、それをエッセイマンガに描いているのもよく見かけます。
――深いですね……「猫」という言葉をきっかけにマンガを描くことが孤独な作業であるということもわかります。コロナ禍で孤独が深まる中ではより大事な存在でもありますね。
門倉 実際のところはわからないのでお遊びではあるのですが……おっしゃるように「猫」や「腰痛」のような一見マンガと関係ない言葉をおもしろがりながら、この本を通して読んでいくうちに「マンガ家はこんなにも工夫と努力をしてマンガをつくっているんだ」とわかってもらいたい、という気持ちが強くありました。新版には「デジタル化が進んでも、マンガ家の負担は減ってなどいない。むしろどこまででも細かく描けるようになって大変になっている」と書き加えておきました。
――すでに収録されている用語で、加筆・修正したのはどんなものですか?
柿崎 「壁ドン」などがそうですね。
門倉 2015年当時は「壁ドン」がときめく行為として流行していたと思うのですが、「怖い」という声も聞くようになったし、私も確かにそうだなと感じるようになりました。単純に流行が終わったというだけではなくて、そういう意味でもあまり使われなくなってきている言葉だと思います。なので「壁ドン」という用語自体は残しつつ、そういった説明を加えました。「旦那・嫁」のところもそうですね。マンガでは今もわりと使う表現だと思いますが「メディア全体では上下関係を連想させるので、『夫』『妻』に置き換えられることが多い」と加筆して。時代の変化や私たち自身の意識の変化も取り入れるようにしました。
――すごくおもしろいですし、ジェンダー観など現代の社会を反映するのは大事なことですね。
門倉 そう思います。もっと細かくチェックすれば、さらに加筆すべきものがあったとは思うので、次の版があればさらにブラッシュアップしたいです。
――柿崎さんは、大学生の頃からマンガのフランス語訳をされてきたそうですね。
柿崎 はい。日本のマンガをフランス語に翻訳して出版する動きが始まった頃から関わっています。1996年にDARGAUDという出版社の日本のマンガシリーズ「kanaコレクション」の立ち上げ時から翻訳に参加して、『聖闘士星矢』(1986~1990年)、『アオハライド』(2011~2015年)、『3月のライオン』(2007年~)、『BORUTO-ボルト- -NARUTO NEXT GENERATIONS-』(2016年~)などを担当してきました。
――フランスの現在のマンガ事情についておうかがいしてもよいでしょうか。
柿崎 2022年に売れた日本のマンガは8,500万冊で、過去最高でした。フランスにはBD(ベーデー=Bande Dessinée:バンド・デシネ)というマンガが古くからあるのですが、フルカラーで凝った絵柄のものが主流で、アートとして捉えられることも多かった。でも日本のマンガを読んで育ったBD作家が増えたので、作品にも反映されるようになっている。日本のマンガと同じということではなくて、BDと日本のマンガ、さらにアメリカンコミックスともミックスされた新しいものが生まれているなと感じます。
門倉 韓国のウェブトゥーンも、きっとすぐそこに加わるね。
柿崎 うん、若い世代を中心にウェブトゥーンもたくさん読まれているからね。マンガやアニメで見て憧れた日本に、実際に足を運ぶ作家さんもいます。彼らはそこで見た日本をそのまま描くのではなく、日本のイメージを膨らませて作品にすることがあって。BD作家がシナリオを描いて、絵は日本のマンガ家さんに描いてもらう制作スタイルの作品も出てきています。
――そんなふうに複雑な文化交流が起こっているのですね。
柿崎 これからさらに、いろんなスタイルのものが出てくると思います。ニコラさんとも話したのですが……今70代くらいのフランス人が若い頃憧れて、行きたいと思っていた国はアメリカでした。しばらくそれが続いて、90年代、私が20歳ぐらいの頃にはたまに「日本に行きたい」と言う人が出てきた。でも今の若い人に聞くと、多くの人が日本、そして韓国に行きたいと言います。今回、『Le Japonais du Manga』のサイン会をいくつかやったのですが、親がマンガ好き日本好きで、子どもたちのクリスマスプレゼントとして買ってくれる人がいたり、逆に子どもがマンガが好きだから親も日本に興味を持つようになったという人がいたりしました。それと親にとっては、「日本に行こう」と誘えば、高校生や大学生ぐらい大きくなった子どもでも一緒に旅行してくれるというメリットがあるみたいです(笑)。
――日本ではビジネスや教育にもマンガを活用するほど、マンガが社会のなかに溶け込んでいる、と書かれていましたね。フランスの方たちはそれをどんなふうに受け止めているのでしょう。
柿崎 いろいろな場面でマンガが使われることは、以前は不思議で目新しかったと思うのですが、今は理解が深まって、そう珍しくは感じなくなったと思います。あ、教育現場でのマンガの活用については、一つお話したいことがあって……。
――ぜひ教えてください。
柿崎 フランスでの話になるのですが、中学校に通っている私の13歳の息子が「読書感想文を書く」という課題を出されたそうなんです。その課題図書のなかに『ベルサイユのばら』(1972~1973年)のフランス語版が候補として入っていたんですよ。
――フランスの中学校ですよね?
柿崎 そうです。先生の考えとしては、子どもたちにフランスの歴史を教えたい、そして子どもたちはマンガが好き……だから『ベルばら』だ、ということだったようです。マンガを読んで育ってきた世代の人たちが、今先生になっているということですよね。
門倉 しかもフランス語版の『ベルサイユのばら』は柿崎さんが訳したんですよ。
――そうなんですか!
門倉 自分のお母さんが翻訳したマンガが課題図書になっていた、ということだね(笑)。
柿崎 息子が先生にそれを言ったらすごくびっくりしていたそうです(笑)。
――日本人が描いたヨーロッパの歴史のマンガが、フランスで歴史を学ぶ本として課題図書になっている。これもまた複雑な文化交流で、とてもおもしろいですね。
柿崎 ビジネスの分野では、日本のように何かをマンガで説明するようなことはまだないと思いますが、若い人たちの興味を引くために、マンガとは関係のないメガネのブランドが、マンガ風のイラストを使用したりはしています。
門倉 近いうちに、マンガで説明する手法が使われるようになるかもしれないですね。
――この本で特にユニークだなと思ったのは、マンガ家や編集者などマンガのつくり手側についてのことはもちろん、「オタク」など受け取り手について、ファンカルチャーについての章も設けられていることです。どんなことが書かれているのか説明していただけますか。
門倉 先ほど話に出たように、教育の現場でも使われるくらい日本ではマンガが当たり前のものになっているんだよ、ということを前提としつつ、さらに深くマンガを愛好する人たち=オタクがどんなことをしているのか、ということに触れています。
柿崎 「コミケ」や「コスプレ」はもちろん、あまり知られていない「オンリー(イベント)」なども入っています。新版には2015年には今ほどメジャーではなかった「推し」も追加しました。
門倉 日本のマンガ好きがマンガを熱く楽しんでいるのを知ったら、フランスのマンガ好きの人たちにも「だよね、わかる」と思ってもらえるんじゃないかと思ったんですよ。
柿崎 フランスにもオタク同士がワイワイ楽しく集まる場があるので、感覚が共有できると思います。「JAPAN EXPO」という、マンガやアニメだけではなくて日本のアイドルがライブをしたりもする、日本文化のお祭りみたいなものがあるんですが、2022年には25万人の来場者がありました。フランスのイベントとしてはすごい数です。つい先日は、パリ郊外のサンモールデフォセという町でもマンガのイベントがあったんですよ。私も『Le Japonais du Manga』を置くブースを出したんですが、そこで知り合った若い人たちの熱にとても心を打たれて……。先ほど話したような、日本のマンガの影響を受けてマンガを描いているプロの方もいれば、『ドラゴンボール』(1984~1995年)専門の有名なYouTuberで同人誌を描いている方たちもブースを出していたりして。「ミニコミケ」のような感じですね。みなさん、子どもの頃からマンガが好きで活動してきて、そのまま大人になっても活動を続けている。純粋にマンガを愛していることが伝わってきました。ファッションタトゥーのブースもあって、その場でマンガやアニメのキャラのタトゥーをいれている人もいました。
――言語が異なっても同じ気持ちを共有できるのだろうか?ということが気になっていたのですが……共有できるのだということがよくわかりました。
柿崎 フランスでは、日本のマンガは「感情」を上手に表現してるから強いのだ、と言われれていて。だからフランス人もマンガで描かれている感情を受け取ることができるし、ファン同士も同じ気持ちを共有しやすいのだと思います。
門倉 マンガに限らず、エンタメにはそういう力がありますよね。何年か前に、2.5次元ミュージカルのパリ公演の舞台裏映像を観たんですが、現地の観客の方たちが、舞台を見つめながら、両手で口元を覆って、肩をすくめて息を飲むようなしぐさをされていて。私も感動したときによくやりますし、たぶん何かのオタクなら「わかる!」と思っていただけるはずなのですが、表情も含めてまったく同じリアクションだったんですよ。そのことにすごく感動して……同じ感情を共有できる!と心底思ったんですよね。
――素敵なお話ですね。
門倉 素敵ですよね。スコットランド人の友人がいるんですが、彼とも初対面で同じマンガが好きだとわかった瞬間に距離が一瞬で埋まって。マンガって、エンタメってすごいなあ、とそのときも思いました。ただ……ここから先は今日腑に落ちたことなんですが(笑)、マンガを愛している者同士「だから」同じ気持ちを共有できるという話ではないんだなと。もともと持っていた同じ気持ちが、マンガなどのエンタメによって可視化されるというか……オタクであるかどうかに関係なく、違う国にいても、どんな言語を話していても、もともと同じ感情を持っている人が当然たくさんいて、共通の話題によってそれがブワッと表に出てくる。だからどこか遠くで暮らしている、マンガを読んでいない知らない誰かのなかにも今、私と同じ感情を持って生きている人がきっといるんだなとリアルに考えられて、すごく嬉しくなりました。
――とても前向きで、明るいご発言ですね。
門倉 2015年版を書いたときにはこんなふうには考えていなくて。子どもの頃からマンガが大好きでしたが、仕事の中心がマンガになったので、いちオタクとして楽しめてはいないと思っていたんです。すごく個人的な話ですが……ここ数年でプロレスとK-POPアイドルという別のカルチャーにはまりまして。仕事とまったく無関係というわけではないですが、いちオタクとしての喜びを毎日味わっていますし、今言ったように逆に「オタクだけの話ではないのでは?」と考えを深めることもできました。
――ご自身が別のカルチャーにはまったなかで、ほかにどんな発見がありましたか?
門倉 先ほどは2.5次元ミュージカルの観客の方たちのしぐさが同じ、と言いましたが、言葉もどの国でもびっくりするくらい同じなんですよ。英語圏のK-POPファンのTwitterをよく見ているのですが、特にそれが顕著で。
柿崎 例えばどんなものなの?
門倉 推しの素晴らしい映像を観たときなどに日本語だと「ここから動けない」とか言うんだけど、英語圏の人が「I cannot move on from this.」と言っているのをよく目にするんですよ。直訳したみたいに同じでしょう(笑)。別のツイートでも、フランス語とイタリア語で同じ単語を使って興奮を表しているのも見たことがあって……そういう表現に触れるたび、みんな同じ気持ちなんだ!とぐっときています。ここ2年くらい、趣味で「オタクの語彙」というフォルダをつくって言葉を収集しています(笑)。
柿崎 今思ったんだけど、次は『世界のオタク共通言語集』を出すのはどうかな?
門倉 推し活で使うために外国語を学ぼうという切り口の、良い本がすでにいくつかあるんだけど……それとは違う切り口で私たちも何かやれるかもしれないね。考えてみようか(笑)。
――お話をお聞きしていると、また『Le Japonais du Manga』をアップデートする必要が出てきそうですね。
門倉 次は8年後では遅すぎるくらい、日本のマンガ界は劇的に変わっていくと思います。それがとても楽しみです。韓国のウェブトゥーンがさらに定着すると思いますし、日本でも最初から縦スクロールでマンガを描く人が急増するはず。当然アナログならではの良さもあるので、なくなるということはないと思いますが、多くの作品は流通面でも制作面でもさらにデジタル化されていく。新版を出すにあたって、アナログの道具の写真や説明も削除せずに見せよう、という話を柿崎さんともしたんですが、この本を読むことで、ダイナミックに変化する時代に立ち会えるというか、過渡期ならではの混沌としたおもしろさを体感できると思います。
――第3版が出ることによって、定点観測的に「この時代にはこういうマンガ文化があったんだ」と時代ごとの日本のマンガ文化をパッケージしていく役割も見えてきますね。
門倉 ぜひどんどん出していきたいです!
柿崎 ニコラさんに話しておきます(笑)。
――日本のマンガの現場にいらっしゃる門倉さんの視点はもちろん、フランスで日本のマンガをフランス語に移し替える作業をする中で生まれる、柿崎さんの客観的な視点があることも、この本の重要なポイントなのだと思いました。だから日本に住んでいてマンガを知っているはずの私にとってもおもしろい発見がいろいろあるのかなと。日本でもネットなどで『Le Japonais du Manga』を購入できるのでしょうか?
門倉 Amazon.frで買うのが今のところ一番確実だと思います。
柿崎 今後、デジタル版で出せるといいなと思っています!
門倉 紫麻(かどくら・しま)
1970年、神奈川県生まれ。Amazon.co.jpエディターを経て、2003年よりフリーライターに。主にマンガに関する記事の企画・執筆を行う。著書に『週刊少年ジャンプ』作家の仕事術を取材した『マンガ脳の鍛えかた』(集英社、2010年)、宇宙飛行士、宇宙開発関係者に取材した『We are 宇宙兄弟 宇宙を舞台に活躍する人たち』『We are 宇宙兄弟 宇宙飛行士の底力』(ともにモーニング編集部編、講談社、2012年)、2.5次元ミュージカルの制作に関わる人へのインタビュー集『2.5次元のトップランナーたち 松田誠、茅野イサム、和田俊輔、佐藤流司』(集英社、2018年)、日本のマンガ業界用語を網羅したフランス人マンガファン向けの語学書『Le Japonais du Manga』(共著、Assimil、2023年〔改訂版〕)。
柿崎・ライヤール・深里(かきざき・らいやーる・みさと)
1974年、フランス・パリ生まれ。現在はノルマンディー在住。25年間、主にマンガや小説の翻訳、アニメの字幕を手掛ける。マンガや日本をテーマにした本も執筆。著書に、日本の自然を紹介する『Shizen : L’art de vivre Japonais』(共著、Hachette Pratique、2018年)、日本旅行のガイドブック『Bienvenue au Japon !』(共著、Assimil、2021年)、日本のマンガ業界用語を網羅したフランス人マンガファン向けの語学書『Le Japonais du Manga』(共著、Assimil、2023年〔改訂版〕)など。
※インタビュー日:2023年6月15日
※URLは2023年9月7日にリンクを確認済み