浅野 靖菜
墨と筆で一気に描き上げるスタイル画で人気を博した森本美由紀。没後10年を記念する「伝説のファッション・イラストレーター 森本美由紀展」が、弥生美術館で2023年4月1日(土)から6月25日(日)まで開催中です。ファッションや音楽といった若者たちのカルチャーに浸透するスタイリッシュなアートワークは、今も多くの支持を集めています。約30年の画業を展観する展覧会の様子をレポートします。
1979年にセツ・モードセミナーに入学、在学中にイラストレーターとしてデビューした森本美由紀。1980年代より『Olive』『an・an』(ともにマガジンハウス)といった時代を牽引するファッション誌で活動をはじめ、1990年代にはピチカート・ファイヴなどの渋谷系アーティストにアートワークを提供するなど、当時の若者の感性を大いに刺激した。2013年に54歳の若さで逝去したが、以降も展覧会や書籍の刊行などが断続的に行われ、その人気と影響力は未だ健在だ。
会場では森本の約30年の軌跡が、2フロアに分けて紹介されている。1階では、森本を代表する筆と墨を使ったファッション・ドローイングに焦点が当てられた。このスタイルが確立されたのは1990~2000年頃で、スラリとした手足ときゅっと上がった目尻、ふっくらとした唇は、バブル当時のリッチな空気感にもマッチした。必要最低限の線による表現ながら、墨の溜まりやかすれを生かした緩急のあるタッチは、モデルのしなやかな動きを伝えている。
アートワークとともに愛用の筆や墨汁、鉛筆なども展示され、書き文字や小物のカットからは変幻自在の筆捌きが見て取れる。実際にモデルを前にしてのクロッキーも見もので、1分から長くて10分程度の時間で描くことで、簡潔な線を選び取る目が養われた。
2階は、ファッション雑誌の連載、海外ミステリー小説や少女小説の装丁・挿絵、CDジャケットやステーショナリーといったコラボレーションワークが中心だ。個性的なショップや劇場などが立ち並ぶ下北沢に住み、若者の好みを知り尽くした森本のイラストは、背伸びをしたい年頃の少女やキャリア志向の女性の心を掴んで好評を博した。
1980年代後半になると、森本の分身でもあるタマネギの妖精タマちゃん1が『mc Sister』(現・ハースト婦人画報社)の誌面に登場する。おしゃれと恋に一直線なタマちゃんは、最新の海外ブランドの動向を紹介するイラスト・レポート、マンガ『レモンエイジは…マナーのお年頃』(井出千昌・作、森本・画)で、読者を憧れのレディへと導く存在となった。
1998年頃からは、海外のファッション雑誌にてカット・イラストの仕事をスタートさせる。墨で描くスタイルを貫いてきた森本だが、アメリカ側からは色彩との組み合わせを要求された。現地の担当者とやりとりしたファックスの文面をみると、愛らしいイラストを添えて「あなたの助けがなければうまくいかなかったわ」と相手への感謝や敬意を示しながらも、自分のイラストが最も映えるのは白バックだ、どこがダメで描き直すのか教えてほしい、とハッキリと主張している。森本の描く女性と同様に、チャーミングで芯の通った人柄が浮かび上がる。
森本は自身のファッション・ドローイングについて、こう語っている。
私の考えるファッション・イラストレーションは、女の子が服を着ておしゃれをしている絵を描くことで、女の子のなりたいイメージを具現化したもの。服そのものを見せる絵ではありません。描きたい世界を無駄のないシンプルな線で表現するスタイルを追求しながら、さらにリファインされた普遍的な絵を目指してきました。2
森本のおしゃれに敏感で自信に満ちたスタイルは、いつの時代にも女性たちの共感を呼ぶことだろう。
脚注
information
伝説のファッション・イラストレーター 森本美由紀展
会期:2023年4月1日(土)~6月25日(日)10:00~17:00
休館日:月曜日
会場:弥生美術館(東京・本郷)
入館料:一般1,000円、大・中学生900円、中・小学生500円
※竹久夢二美術館にも入場可
https://www.yayoi-yumeji-museum.jp/yayoi/exhibition/now.html
※URLは2023年5月22日にリンクを確認済み