加賀市の湖畔で紡ぐ新たなコミュニティとストーリー グローバルクリエイティブイベント「THU Storytelling 2025」レポート

坂本 のどか

会場の様子。約300人のクリエイターがレクチャーに聞き入る

起床から就寝まで、クリエイティビティを共有できる仲間とともに

THUは2013年、ポルトガルのCGスクールによる学生と企業のマッチングイベントとして始まった。その名称は「Trojan House was Unicorn(=トロイの木馬はユニコーンだった)」に由来し、アートが力を発揮できる仕組みづくりと、領域横断的な交流を世界規模で創出することを目的とし、世界規模のクリエイティブコミュニティへと成長している。

2025年の会場となったのは石川県加賀市の宿泊施設、ホテルアローレ。柴山潟を臨む高台に立つアローレは、参加クリエイターたちを市街地の喧騒から切り離しTHUに没頭させてくれる。期間中、約300人の参加者やスタッフ、ゲストらは起床から就寝まで多くの時間をともにする。クリエイティブなプログラムはもちろんのこと、食事や朝の瞑想、ラジオ体操、夜のバータイムまで、さまざまなプログラムを通して交流が自然に生まれるよう設計されている。

期間中はホテル全体がTHU仕様に様変わりする
瞑想やランニング、ラジオ体操などさまざまなアクティビティプログラムも

著名な「Sensei(センセイ)」らによるプログラム漬けの4日間

プログラムの中心となるのは国内外13名の「Sensei(センセイ)」による講義やワークショップ、上映会などで、すべてのプログラムには日英通訳が付く。ハリウッド映画で活躍するクリーチャーデザイナーのサイモン・リー氏、近年Netflixのアニメシリーズ『ラブ、デス&ロボット』(2019年)を手掛けたティム・ミラー氏、ゲーム『風ノ旅ビト』(2012年)などを生んだジェノヴァ・チェン氏など、領域を横断し多彩な面々が登壇。期間中、参加クリエイターたちとの交流も楽しんだ。

なかでも注目を集めたのが、映画監督ジョージ・ミラー氏とゲームクリエイター小島秀夫氏の対談だ。創作における哲学などを話しながら、物語が情報伝達・理解のための重要な手段であることを語り合った。登壇者は日中のメインプログラムのほか、Late Night Talk(夕食後のトーク)にも登場し会場を盛り上げた。

日本のクリエイターは小島氏のほか、新川洋司氏、見里朝希氏、寺田克也氏らがセンセイとして登壇した。

レクチャー「魂を宿すデザインとは:キャラクター創作におけるストーリーテリング」に登壇するサイモン・リー氏
レクチャーでは質疑応答も活発
ジェノヴァ・チェン氏とティム・ミラー氏によるLate Night Talk
ジョージ・ミラー氏と小島秀夫氏による対談

伝統文化と先端技術が融合するまち・加賀市

前回2023年に引き続き、2度目のTHU開催地となった加賀市だが、単に収容人数の多い宿泊施設があることで選ばれているわけではない。加賀市は伝統芸能や工芸など、歴史ある文化とクリエイティビティが息づくまちだ。また、多くの地方自治体と同じように人口減少といった問題を抱えながらも、人口減少下でも維持できるコンパクトシティを目指し、顔認証による公共サービス利用やAIを用いた配車サービスなどの仕組みづくりが進められるなど、伝統文化と先端技術が同居するユニークさを持つ。前回のクロージングでは、THUと加賀市はともに「クリエイティブシティ宣言」に調印している。

今回のTHU開催にあたっては、市民にボランティアスタッフとしての参加を呼びかけたほか、毎朝のラジオ体操や最終日のレクリエーションに向けた盆踊りのレクチャラーなどには積極的に地元からの参加者を起用したという。また連日午前に開講されたメインプログラムには計100名の市民無料参加枠が設けられた。全日程を通して言えば日本からの参加者の割合は少なく見えたが、ジョージ・ミラー氏と小島氏の対談をはじめメインプログラムには無料参加枠の目印であるリボンを腕につけた参加者も多く見受けられた。世界各国から集うクリエイターを受け入れるホストとして、また参加者の一人として、加賀市の人々もTHUから刺激を受けたことだろう。

オープニングセレモニーでは、加賀市長(中央)も揃いの浴衣を着て、鏡開きを行った

民謡で紡ぐストーリーとクリエイティビティ

また、参加クリエイターたちも加賀市から多くの刺激を受け取ったはずだ。世界のトップクリエイターたちに加わり、加賀市で活動する人物もセンセイとして登壇した。

加賀市にまつわるコミュニティ・アーカイブに取り組むアーキビスト/キュレーターの明貫紘子氏は、メインプログラムの一つに登壇し、加賀温泉郷の一つ、山中温泉に伝わる伝統芸能、民謡「山中節」の歌詞に着目したレクチャーを実施した。山中節はその昔、日本海を南北につないだ交易船「北前船」が北海道からもたらしたものであることや、その歌詞が現代に至るまで新たにつくられ続けていることなどを紹介。伝統ある民謡が持つストーリーとクリエイティビティを参加者に伝えることで、THUのテーマと加賀市をつなぐ役割を担った。「レクチャー後に海外からの参加クリエイターと話し、ローカルな話題でも世界へ伝わるという手応えを感じました。私も含めて、加賀市民にとっては地元の伝統文化に込められた歴史観や世界観の再発見につながったと思います。歌詞の英訳プロセスは山中節を多面的に解釈する機会となり、どのように後世へ創造的に伝えていくか、考えるきっかけにもなりました」と明貫氏。

もう一人、加賀市からのセンセイは山中温泉の老舗旅館で企画広報を担当する山田真名美氏だ。山田氏は、歴史ある旅館が紡ぐストーリーを紹介するとともに、参加者らと旅のプランを考案することで新たな物語を紡ぐワークショップを提供した。

明貫紘子氏による山中節の歌詞に着目したレクチャー「ストーリーとヒストリー」

ここでしか生み出せない没入体験

加えて、初日のオープニングセレモニーでは山代大田楽(平安・室町の時代に流行した芸能「田楽」を再生・創造された祝祭の舞)や獅子舞が会場で披露されたほか、ランチやディナーのメニューには積極的に郷土料理が盛り込まれた。最終日の夜には参加者全員で揃いの浴衣を着て、山中温泉で毎年開催される「こいこい祭り」に参加し出店や伝統的な盆踊りなどを体験。4日間を通して、加賀市でしか得られない体験がつくり上げられた。

加賀市といういにしえのクリエイター魂が根付く土地で、世界各地で創作に勤しむクリエイターたちが集い、日々の喧騒から離れクリエイションと仲間との交流に没頭する。晴れた日に、ベンチを並べた庭園で実施されるカンバセーションプログラムの様子はユートピアのようだった。物事の密度の高い都市部ではつくり得ない没入体験が、そこにはあった。

寺田克也氏とのカンバセーションの様子
オープニングセレモニーで披露された山代大田楽
最終日の夜、山中温泉で地域のお祭り「こいこい祭り」を味わう

information
THU Storytelling 2025
開催日:2025年9月17日(水)~20日(土)
会場:ホテルアローレ(石川県加賀市柴山町と5-1)
https://www.trojan-unicorn.com/ja/bootcamp/thu-storytelling-2025
公式インスタグラム(日本語):@thu_japan

[次回THU 2026開催予定]
開催日:2026年9月28日~10月3日
場所:ポルトガル・トロイア半島
https://www.trojan-unicorn.com/main-event/thu-2026
公式X(英):https://twitter.com/Trojan_Unicorn
公式インスタグラム(英):@thu_official

※URLは2026年2月16日にリンクを確認済み

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