令和5年度 報告会・実施報告書「ゲームアーカイブ所蔵館の連携強化に関する調査研究 2023」学校法人 立命館 立命館大学ゲーム研究センター

報告者:立命館大学 先端総合学術研究科 授業担当講師 尾鼻崇

事業の概要

日本のデジタルゲームは1980年代以来、世界的な影響力を持ち、研究や教育の需要が高まっている。しかし、多くのゲームが技術的な陳腐化や物理的劣化によって危機にさらされており、ゲームの収集・保存やゲームアーカイブの規模、質、持続可能性などにおいて未成熟な状況にある。そこで本事業では、調査実施主体である立命館大学ゲーム研究センターを中心に、複数の団体と協力しながら、ゲーム所蔵館の連携枠組みの構築とゲームアーカイブの保存環境の整備を行っている。具体的には、収集と物理保存環境構築に関する調査、ゲーム資料メタデータ集約のための調査、アーカイブ利活用の推進のためのアクション・リサーチの施策を並行して進めている。

実施内容と成果

今年度の事業は、昨年同様、主要連携先ごとにテーマを設定して行った。国際所蔵館連携では、アジア地域の組織化活動や連携強化を目的に国際カンファレンスを実施し、国内所蔵館連携では、カンファレンス等を通じて国内所蔵館の連携をさらに強化した。ゲームアーカイブ利活用調査については大阪樟蔭女子大学と共同で、産業界におけるゲーム資料の取り扱いやゲーム機器の動態保存に関するヒアリングを行った。メディア芸術データベース(MADB)利活用推進については大阪国際工科専門職大学と連携し、MADB連携先開拓を一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会(CESA)、一般社団法人日本インディペンデント・ゲーム協会(JIGA)の協力を得て進めた。また本事業のアウトリーチとして、2回のゲーム展を実施している。

主な成果は次の3点である。まず、①「ゲームアーカイブ所蔵館連携強化及びアウトリーチ」としては、アーカイブ基盤の構築・育成のための試みとして、収集と物理保存環境構築に関する調査研究を進め、各所蔵館が保存・活用のために行っている先進的・効果的な取り組みについて知見共有や連携化を行った。2024年1月には第二回ゲームアーカイブ推進連絡協議会カンファレンスをオンライン開催。活動成果や問題意識、今後の指針を共有したほか、ゲストプレゼンターとしてハーバード・イェンチン図書館のマクヴェイ山田久仁子氏から同館のビデオゲームコレクションの利活用に関する講演が行われた。また、同年2月にはゲームアーカイブ推進連絡協議会のセミナーを、展覧会のギャラリートークという形で実施した。

次に、②「データベース充実化を目的とした組織化活動と未リスト化資料のオープンデータ化」では、MADBをはじめとする公開型データベースの充実を目的に、新たな協力団体の開拓を進めた。また、CEDiL(Computer Entertainment Developers Conference Digital Library)の講演資料やCESA関連のデータのマッピングに加え、日本インディペンデント・ゲーム協会との連携を開始し、BitSummitの出展作品全データのリストを作成した。

さらに、③「ゲーム資料保全や「コトのアーカイブ」に向けてのゲームアーカイブ利活用調査とアウトリーチ」では、アーケードゲーム筐体の動態保存に関する調査やゲーム資料利活用事例について日本ゲーム博物館及び株式会社カプコンへのヒアリングを実施した。加えてアウトリーチとして、博物館等におけるゲーム展の調査をまとめ再構成し、メタ的な展示へと昇華した「ゲーム展TENⅡ」、保守が危機的な状況にあるアーケードゲームを中心にマンガ原画の保存方法についても並列展示した「ゲームを・マンガを守る「コト」、守る「モノ」展」をオンライン開催したことで、より広く本事業の成果が公開できた。

今後の課題

本事業はゲームという急速に拡大するメディアを対象としているため、扱う範囲を再検討する必要が生じてきた。新たな連携策の策定やアウトリーチ、窓口業務やマニュアル化などの業務を強化・効率化すれば解決に向かうと考える。オンラインゲームのアーカイブ等の課題についても改めて検討し、産業界とのネットワークや学術的基盤がどこまで生成可能かを探っていく必要がある。またメディア芸術事業の分野横断に関しては、ゲーム資料の開発関連資料や動態保存など重複する課題も多いため、そのハブ的役割をゲーム分野が担えるよう準備を進めていきたい。

尾鼻崇氏

実施報告書(PDF)

※URLは2024年7月1日にリンクを確認済み

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