令和5年度 報告会・実施報告書「クレジット情報のメタデータ処理向上とアナログ映像素材へのOCR適用と連絡調整会の組成」一般社団法人 日本アニメーター・演出協会

報告者:一般社団法人 日本アニメーター・演出協会 事務局長 大坪英之

事業の概要

アニメは日本が世界に誇る文化であり、重要な産業である。どのような人材によりどのような環境で作られてきたかを知るうえで、とくに作品のクレジット画面に記載されたスタッフ名は最重要な情報であることから、本事業では平成29年度よりテレビアニメ作品を網羅的に一時保存し、その映像に記録されたスタッフ情報を収集して、データベースに持続的に採録を行うシステム構築と体制づくりを実施してきた。この取り組みは、アニメ作品の制作関与者やその貢献を正しく評価し、次の新しい作品を生み出す源泉となる。事業体制は、日本アニメーター・演出協会(JAniCA)とアニメ特撮アーカイブ機構(ATAC)、リスト制作委員会を中心に、今年度の進展として北海道アーカイブセンターの協力が得られ、アニメ作品情報連絡調整会も正式に発足した。なお、著作権法を専門とする弁護士に確認のうえ、著作権への配慮のもと本事業を実施している。

実施内容と成果

今年度の事業内容は、主に4項目である。まず、①「全録サーバの安定稼働」については、経緯上、テレビアニメ作品限定となるが、杉並サーバは約1万2,700件の録画、千代田サーバでは約1万3,900件の録画を行った。慢性的なハードディスクの不足や浸水被害、電力超過による停電などの問題が発生したが、安定稼働に向けて努力を重ね、協力者の増加やシステムの多層化による安定性向上を図った。

次に、②「クレジット情報のメタデータ処理向上」として、一枚の画面の複数箇所に表示されることがあるクレジットを、位置関係から個別のブロックごとにひとかたまりのものと判断し、解析を行ってテキスト化する技術をほぼ確立。これにより役職名・人名・団体名などの関連性がわかる状態でのテキストデータ抽出・閲覧が可能になった。汎用のOCRとして、昨年度同様にGoogle Colaboratoryを利用してクレジット情報のOCR技術を改善し、昨年度よりも高い精度でテキスト化を行った。また、差分識別機能の向上、操作の簡易化、再配布可能なシステム化の作業を行うとともに、ChatGPTを試験的に使用するなどAI活用の試行も進めている。

続いて、③「アナログ映像素材へのOCR適用の試行」では、作業を北海道アーカイブセンターが担当し、アナログ映像素材はリスト制作委員会を主宰する原口正宏氏宅に保管されているビデオテープ類を用いた。その結果、アニメ番組を録画したビデオテープをデジタイズし、OCR処理を経てクレジットデータを採録できることが判明、今後の本格的な作業へ向けた道筋が確認できた。ただし、本事業で手掛けたデジタイズは大量に保管されたビデオテープの一部であり、今後どれだけの確率で個別対応が必要な素材が出てくるかは不明である。磁性体など素材の劣化も想定され、作業に要する労力も膨大なため、まだ課題は多い。

さらに、④「連絡調整会の組成」については、製作委員会の主幹事会社、制作会社、公的・私的団体が情報を相互補完し合う関係を築くための「アニメ作品情報連絡調整会」を組成する準備を進め、2024年1月にオンラインで第1回会合を開催、正式に発足させた。また、2024年2月にJAniCA内に宣材受入れ窓口を開設。収集対象を、過去に公開・未来に公開予定のアニメ作品とし、作品制作の初出情報、パッケージ販売情報、配信情報などを求めていくことを告知した。一方で、新作アニメのプロモーション映像をまとめて視聴できる「つづきみ」との相互連携、京都「メカデミア国際学術会議」での講演発表をはじめ学術領域との交流も進めている。

今後の課題

挑戦的試みを行うものについては「メディア芸術連携基盤等整備推進事業」で実施、ビデオテープのデジタイズ作業など着実に成果を積み上げていくものについては、団体で「メディア芸術アーカイブ推進支援事業」等の補助金を活用しながら実施できるように事業を切り分けたい。次年度は、クレジット抽出システムの普及、AI活用による機能向上、連絡調整会への参加者の拡充と周知、映画やパッケージの作品情報の集約システム化も検討していく。

大坪英之氏

実施報告書(PDF)

※URLは2024年7月1日にリンクを確認済み

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