執筆:松尾 奈々絵(一般社団法人マンガナイト)/編集:鈴木 史恵(一般社団法人マンガナイト)/収録:中山 英樹/編集:坂本 麻人(Whole Universe)
現在の商業アニメーションの世界ではみられなくなりましたが、かつてアニメーションは、セルと呼ばれる透明シートの画材に描かれた絵を重ねて撮影することで制作されていました。セル画はアニメーションの歴史を伝える貴重な資料でもありますが、制作会社にとっては完成するまでに使われる中間素材にすぎず、産業廃棄物にあたります。今後、アニメーションのアーカイブをしていくうえで、セル画をどのようにとらえ、どのように考えるべきでしょうか。
東京藝術大学大学院美術研究科文化財保存学専攻保存科学教授の塚田全彦さん、国立映画アーカイブ客員研究員、フィルムアーキビストのとちぎあきらさん、新潟大学教育研究院自然科学系生産デザイン工学系列准教授の三俣哲さんをゲストに、セル画保存の現状とこれからについてトークセッションを行いました。(ファシリテーター:山川道子)
(※テキストでは一部抜粋してお届けします。全トーク内容は動画にてご覧いただけます)
山川 私は2001年にProduction I.Gに入社して制作進行の仕事をしていましたが、翌年に社内で広報部署が立ち上がり、そこで会社の資料の整理に奔走するようになりました。アニメーションのアーカイブには、映像のマスターデータや、「カット袋」という、カットごとにレイアウトや原画、動画、タイムシートなどの素材を入れたものなどがあります。素材の多くは紙やプラスチック、磁気テープですが、中にはセル画やフィルムもあります。セル画やフィルムは、アセテート・フィルムという素材でできており、専門知識がないと扱えませんし、保管環境もシビアに考えないといけません。
今回は先行研究をされている皆さまの知恵をお借りして、これから先、どのように保管するのがいいのか、今後の研究に結び付けられたらと思っています。まずは皆さまの研究内容を教えてください。
塚田 東京藝術大学大学院の美術研究科文化財保存学専攻で、保存科学研究室に所属しています。私の研究室では文化財の保存のために、自然科学の方法論や知識を用いて、研究開発や実践、普及を図っています。
研究では、材料や技法など、美術品がどのようにつくられているのかを調べ、美術品を保管していくうえでどのような環境がいいのか、修復する際には具体的に作品にどのような処置が行えるのか、どのような処置であれば影響が少ないのか、何か問題があったときにそれを取り去ることができるのか、などを研究しています。
私は大学院の研究室で学んだ後、国立西洋美術館や東京国立博物館、メトロポリタン美術館で働く機会を得て、現在はかつて自分が学んだ研究室に戻ってきました。博物館、美術館での仕事のなかで掲げてきたメインテーマとしては、「Preventive Conservation」が挙げられます。劣化や変質の条件は作品ごとに違いますが、美術館や博物館のコレクション全体を見て、全体として影響を与える可能性のあるリスクを排除または低減させる-、そのためにリスクをもたらす要素をコントロールしようというのが「Preventive Conservation」の考え方です。どんな要因がコレクション、美術品に悪影響を与えるかを考えると、ざっと挙げるだけでもこのようなものが考えられます。
●温湿度
●光(可視、紫外、赤外)
●汚染物質(空気汚染、建築材料)
●生物
●(火事、地震)
●人間(ヴァンダリズム、不適切な取り扱い)
これらを考えるためには、まずは作品の材料や技法を知る必要があり、美術品の調査分析をしています。
とちぎ 私は40代半ばにして、現在の「国立映画アーカイブ」である東京国立近代美術館フィルムセンターから、なぜかお声掛けいただき、こちらに就職してから初めてアーカイブや映画の保存に関わるようになりました。
フィルムアーカイブは、ほかのいわゆる「アーカイブズ」と呼ばれている分野、文書系の領域を中心に発達してきた分野とは、大きな違いがあると感じています。フィルムアーカイブでは、「保管」と「保存」という二つの概念を区別して考えていくのが、長年のアーカイブ活動の実践の中で行われてきました。国立映画アーカイブにも、その考え方が根付いていると思います。
「保管」はあくまで現物である映画フィルム自体の延命を図るもので、「保存」はフィルムのコンテンツの長期再現性を保証するもの。保存という言葉を使う場合は、何らかの複製行為を伴うことも含めて、長期再現性を保証することが必要になります。つまり、保管と保存の二つを同時に実現させるためにはどのようにフィルムを取り扱うべきなのか、どのような施設や設備が必要になるのかという観点で検討された保存庫の仕様や、その中でのフィルムの取り扱い方法が、フィルムアーカイブの世界で培われてきたものです。
国立映画アーカイブでは、相模原に映画保存棟を3つ設けています。専門家の知見をいただき、どのような設備をつくればいいのかを学びつつ、実際に保管活動をしています。
映画のフィルムには100年以上の歴史がありますが、ベースに使われた素材によって大きく三つの世代に分かれます。ナイトレート・フィルム、アセテート・フィルム(主にトリアセテート)、そしてポリエチレンテレフタレート・フィルムが使われてきており、それぞれの材料に固有の劣化特性や、推奨される保管環境が保存科学の観点から提言されてきています。乳剤面は銀や色素、ゼラチンで構成されており、これらも劣化が起こります。
保存棟はマクロな視点で設計されていて、全体を低温低湿で管理し、すべてのフィルムに対して均等に冷気を送る仕組みなど、いろいろな工夫があります。一方で、個別のフィルムをおさめている容器などのミクロな環境についても、どのような材質でつくるか、どのような形で棚置きをするのかを考えています。
同時に、フィルムの複製や上映など、運用面を考える場合のいろいろなルール決めも必要です。代表的なものに「ならし作業」があります。上映や複製のためにはフィルムを温度・湿度がまったく違う環境に移動させる必要がありますが、この出し入れによって「結露」が起こるリスクがあります。できる限り結露を防ぐためにならし作業があり、それに関しては「ならし室」、いわゆるバッファスペースを設けています。時期によって温度設定を変えて対応しているのは、長期再現性を保つために行っていることのひとつの例になるのではないかと思います。
三俣 「くっついてしまったアニメーションのセル画と紙をきれいに剥がす方法を探してほしい」という依頼を受け、研究を始めたのが数年前です。もともと私の研究室では、ソフトコンポジットという、やわらかい材料にいろいろな複合材が入ったもの、プラスチックやゲル状の物質の研究をしており、私は「刺激応答性高分子材料」の研究をしています。温度、溶媒、pH、電磁場によって、物質が可逆的に変化する材料です。
例えば紙おむつは、水を含ませるという「刺激」を与えると、その「応答」として体積変化が起きます。こうした現象から、磁界を与えると弾性率が変化する、つまりかたくなったりやわらかくなったりする材料を開発しました。磁石に近づけると瞬時にかたくなり、磁場をかけると、酸化鉄の粒子が磁力線上に棒状に並んで梁のような働きをし、500倍かたくなる、といった性質の素材です。
一見、上記はアニメーションのセル画とは関係がない話ですが、新潟大学アジア連携研究センターからお誘いを受けて、「セル画と紙」の研究をすることになりました。というのは、セル画の保存過程では、紙とフィルムを交互に挟んで保管し、そのまま30年以上経過していたりするものがある。そうなると、紙と絵具がくっついてしまい、きれいに剥がせない。特に有名な作品のセル画は貴重なので何とかしてほしい、というお話でした。
セルロース樹脂由来のフィルム、その上にアクリル樹脂の絵具、紙が乗っている。紙と絵具とフィルムは、それぞれ全然違うものだと思っていたのですが、よくよく考えると、セルロース、つまり同じ木からできる天然高分子なんですね。「セル画と紙がくっついている」というのは、化学的には、木と木が絵具という接着剤でくっついているという構造です。
紙と絵具界面、絵具とフィルム界面、この二つの界面があります。紙とセル画をきれいに剥がすためには、絵具とフィルム界面はそのままで、紙と絵具界面の相互作用だけを弱くすることができれば理想的だと考えています。
この問題を解決するために、各材料の物質の同定(単離した化学物質が何であるかを決定すること)から始めました。各界面の接着メカニズムを考察していくのが、私の研究対象です。
通常、化学分析というと溶媒に溶かすなどの方法が一般的ですが、そうするとサンプル自体がなくなってしまうため、何かいい方法がないかと考えました。当研究所は電気物性や磁気物性を専門としており、硝酸セルロースと酢酸セルロースの同定なら、電気物性でわかるだろうと測ったところ、物質(フィルム)が、酢酸セルロースだとわかりました。赤外吸収スペクトルでも確認し、セル画やアニメカラーの化学構造が判明しました。
そこから、接着量の測定として、90度剥離試験を行います。フィルム、絵具、紙の順に重なったものを用意して、紙の端をひっぱり、その時の力を測ります。
わかったのは、紙と絵具界面の接着力は、紙繊維の結合力よりも大きいということ。エタノールは紙と絵具界面の接着力を低減させます。含水すると、紙繊維の結合力自体が激減しますが、結局紙の中で崩壊しているため、剥離するという点ではよくありません。
まとめとしては、セル画の素材分析には誘電率が有効ではないかということです。紙の剥離方法としては、ウェット状態で、紙の力学強度を低くすることと、逆に高くすることの2つの方法があると考えています。低くするというのは、くっついた紙を取り除くというよりは、ふやかして除去すること。紙の分解です。
紙は化学結合してくっついているのではなく、繊維の絡み合いでできています。それをほぐすことで取れるのではないかと。一方、高くする方法というのは、カルボキシメチルセルロースを塗布することによる高強度化。かたくしてまるごと取り除くという、逆の発想です。あるいは、エタノールによって絵具をやわらかくする。そうすると絵具は伸びることができるので、直接紙に力を加えることができる。こういう方法もあるのかなと考えています。
山川 塚田先生は、学生さんがセル画に興味を持ったことがきっかけで研究を始められたと伺いました。最初に手元に資料がない、素材がないなかでどのように研究テーマを決め、進めてきたのかを教えてください。
塚田 セル画はどんな材料でつくられているのかを、まずはアニメーションの歴史や発展に関する書籍から調べました。
どのような劣化の現象が認知されているのかについては、セル画の保存に関しての先行研究からわかりました。ディズニーアニメーションのフィルムの研究で特に注目されていたのは、フィルムの撓みや黄変、フィルムからのガスの放出、絵具の剥離、ひび割れです。一方、国内で問題視されていたのは、フィルムの変形、三俣先生のお話にもありましたセル画の他資料との癒着、絵具の剥離・変色、トレス線の退色などでした。これは国内外で保管されている物に何か違いがあるのかもしれないと感じ、そこから研究がスタートしました。
まず同僚の先生が個人的に持っていたセル画の数点をお借りしたところ、すでに刺激臭や変形が生じていたり、ほかのセルとくっついていたり、トレス線が薄くなっているものもありました。そこから分析をし、酢酸セルロースベースのセルから酢酸が外れていくと刺激臭が生じ、赤外線を使って分析すると酢酸セルロースのグラフが、刺激臭のするものでは紙(セルロース)のものに近づいていくこと。絵具には可塑剤と言われるものが複数含まれていて、それはフィルムからうつってしまった可能性もあること。また、赤外線で写真を撮ると、輪郭線が黒く見えるところと、透明に見えるところがあり、これはもしかしたらカーボンが入っている物と、そうではない物の違いがあるのではないかということなどが見えてきました。
今後は、フィルムと絵具が互いにどのように影響を与えうるのか、実際に使われていたものは今はなかなか入手しづらいですが、同じような素材の材料でサンプルをつくり、いろいろな実験をしたいと考えています。
山川 一般で手に入るセルの中でもそうした違いが生まれるというのは、非常に驚きです。さきほど主線の色が黒く残るものと透明になるものがあるというお話がありましたが、当時の仕上げさんに話を聞くと、線が消えてしまっているものは、墨汁を使って上からなぞっていた人もいると。共通認識として、色彩設定や仕上げの方全員がやっていたのか、あるいは禁止しているスタジオもあるのかはわかりませんが、そうしたことが違いに現れているのかもしれませんね。「とある色の上に乗っている主線だけが消える」というお話も聞いたことがあります。
塚田 へえ、おもしろいですね。
山川 これはもしかすると、紫外線が当たったときに、下の物との反応が起こることで劣化を進めているのかもしれないし、酢酸の影響の可能性もある。こうした業界内で語り継がれてきた雑学のようなものも、皆さまの研究によって明らかになるのかもしれないと感じました。
実際に使われていたものが今は手に入りづらいというお話がありましたが、新潟大学ではアニメスタジオ提供の絵具や、セル画の現物もお手元にある状況だと思います。三俣先生はそのあたり、どのようにお話をお聞きになりましたか。
三俣 コレクションはありますが、やはり接着の実験で原画は使えませんので、市販の酢酸セルロースのフィルムを買い、それに絵具と紙をくっつけて試験しています。
山川 あくまで非破壊での実験ということで、実は研究環境としてはあまり大きく違いはないのですね。ちなみに、セル画を破壊できるとしたら、違った研究の幅がありましたか。
三俣 そうですね。ちぎったり、燃やしたり、いろいろな試験ができるかと。それができないので、プラスチックの電気物性は耐熱性樹脂の研究が盛んに行われています。
山川 今後、アニメーション資料の保管場所を考えると、破棄していかなければいけないものが生まれていくので、せっかく破棄するなら研究に使っていただきたいですね。
とちぎさんからは、映画フィルムの保管環境として、アセテート・フィルムを保管するときの温度環境のお話がありました。セル画の場合も今後、保管する際の適切な温度環境を考えていかなければならないのかなというところですが、とちぎさんは、お二人の発表を踏まえてどう思われましたか?
とちぎ とてもわくわくしながら聞いていました。映画フィルムの世界と、いろいろと類縁的なところもありますし、違っているところもあり、それも含めておもしろいなと思います。
三俣先生から、セル画そのものが三つの材料が接合面を持って接着されているという構造だ、というお話がありました。映画フィルムの場合は、ベースのセルロース部分と、ゼラチン質で、そこに銀や、カラーフィルムの場合は色素が含まれる乳剤部分がある。このうち、ベースや乳剤の劣化については考えますが、接合の部分がどのように劣化に対して相互作用を持っているのかは、なかなかわかりにくいところです。まだアーカイブの現場に、明確な根拠を持って届いていません。
それから、破壊による分析のお話もありましたが、当然ながら我々も作品を文化財として保護するので、作品そのものには手をつけられない。ただ、映画のフィルムの材料自体が、すでに現在では製造されていないものがほとんどです。かつ、これまでつくられてきた映画のフィルム自体はすべて企業の製品のため、製品情報はある程度出ていますが、劣化の分析に必要になるような情報の開示は充分になされていません。これは映画という芸術を支えている材料が持っているある種の産業性、商業性がジレンマになっているところだなと思います。
もう一つお話ししたいのは、昔のアニメーションの映画にはフィルムで現存しているものがありますが、オリジナルでは35ミリフィルムを使って撮られたものでも、現在では16ミリフィルムのものしか残存していない、というようなことがあります。作品本意で材料が残っているわけではなくて、あくまで今あるものは、「残っている」ものの材料として考えなければいけないな、と。製作された年代で単純に区分はできないということにもなります。
山川 残っているというだけのことであって、それがスタンダードだったわけではない。別途のこととして考えなければならないですね。重要なご指摘をいただきました。
山川 二つめのテーマとして、今後の研究についてお話ししていただけたらと思います。大学においてセル画はまだ研究対象にしている人は非常に少ないと思います。これからアニメーションを文化として守っていくのであれば、ひとりふたりの研究者ではなく、より多くの方に対象にしていただくべきだと思いますが、どのような分野から結びつきがありそうでしょうか。研究を進めるうえで、コネクションを持っておきたい対象などはありますか。
塚田 今、実際にセル画が保管されている現場を、できるだけ拝見したいと思っています。現実としてどういう状態なのか、それに対して自分に何ができるのか、現状を知りたいな、と。
山川 三俣先生は依頼を受けたことから研究が始まったというお話でしたが、例えばセル画研究にこういう専門の方の知見を入れるべきではないかとか、そういったご意見はありますか。
三俣 材料科学的には接着という問題で、そうした研究をしている方はたくさんいます。そのうえで私は、実際に困っている現場があるということに非常に価値があると感じています。何に役立つのかわからない研究よりも、目の前にある「セル画から紙を剥がしてほしい」という一言で伝わりますから。そういう意味では学生の教育にとっては非常にいいことだなと思いますし、アニメーションに興味を持つ人はとても多いです。全世界どこにいっても、アニメーションは日本の文化の一つですし、それは間違いないと思います。
山川 とちぎさんからは保管施設についてのお話がありましたが、保管されるものを研究されている立場としては、どのように思われますか。
三俣 温度や湿度が細かく管理されているとは知らなかったため、おもしろかったです。アセテートのフィルム、高分子のフィルムは素材によって吸水率が全然違います。水を吸う高分子と吸わない高分子があり、出し入れする際に水を吸ったり吐いたりしているため、まさに変形が起こりやすい状況だと思います。現物はプラスチックに絵具が塗られている状況ですから、塗っている場所と塗られていない場所では生じる変化が違う。そういう点と結び付けて考えると興味深く、実際の保管に生かせることができるのではないかと考えています。
山川 アニメーションのセル画を保管するにあたって、どういう研究がまだ足りていないか、すでに映画のフィルムを残されている視点から、とちぎさんのご意見もお聞かせください。
とちぎ 課題はまだまだ山積みだと感じています。研究という分野もそうですし、それ以外の分野でも、たとえば設備にしても、相模原の映画保存棟は常に問題を抱えています。何しろ映画フィルムというものは国立国会図書館に納められる対象になっていないということもあり、どこにも実質的に機能している法的なバックグラウンドがありません。
アニメーションでいえば、私が日大藝術学部でフィルムアーカイブの授業を担当していたときに、学生へのアンケートで「あなたが映画を国宝に指定するなら、どんな作品を選びますか」と聞いてみたことがあります。すると、半分以上の学生がアニメーション作品を挙げていました。自分が文化遺産として残したいものを考えたときに、アニメーションがまず浮かぶんですね。それがすごいなと思いました。
それから、さきほど「保管」と「保存」の違いについて話しましたが、上映や公開、配信などがなぜ大事かといえば、そうしたものを通してしか、保存の意味が伝えられないからです。価値があることをより多くの人に認知してもらうための大きな手段として、何らかの形で「見られる」体験をつくるのが重要だと考えています。ここ10年くらいの間に、クラシック作品に今の映画と同じようにアクセスできる環境が整ってきたことで、作品を保存するべきだという意識が高まってきました。そうした循環があることを踏まえて、アーカイブ機関が考える保存というものを、もう一度問い直す、見つめ直すことが必要である。これはアニメーションの世界でも通じることかなと思います。
山川 デジタル化が進むことで、作品が見直され、セル画やフィルムの保管にも興味を持っていただける、研究も含めて予算を割いていただけるのは、これからセル画の保管をしていかなければならないと思っているなかでは非常に大きな追い風になると思います。業界としても皆さまの力、知識をお借りして、進めていかなければならないと感じました。本日はありがとうございました。
※詳細の議論は動画をご覧ください
登壇者プロフィール(敬称略)
塚田 全彦(つかだ・まさひこ)
東京藝術大学 大学院美術研究科 文化財保存学専攻保存科学 教授
国立西洋美術館学芸課 保存科学室、国立博物館東京国立博物館 文化財部保存修復課 環境保存室、メトロポリタン美術館 科学研究部などを経て、2014年より現職。文化財の予防保存(Preventive Conservation)、有機物材料の分析、を中心に研究を行っている。
とちぎ あきら
フィルムアーキビスト/国立映画アーカイブ客員研究員
ジャパン・ソサエティ(ニューヨーク)フィルムプログラム・アシスタント、『月刊イメージフォーラム』編集長などを経て、2003年より東京国立近代美術館フィルムセンター(現・国立映画アーカイブ)主任研究員(後に主幹)として、映画の収集・保存・復元・アクセス対応に従事する。現在、国立映画アーカイブ客員研究員として、ウェブサイト「関東大震災映像デジタルアーカイブ」「フィルムは記録する ーNFAJ歴史映像ポータルー」に携わるとともに、一般社団法人日本映像アーキビスト協会の代表理事を務めている。
三俣 哲(みつまた・てつ)
新潟大学大学院自然科学系(工学部)准教授
博士(理学)。1999年北海道大学大学院理学研究科博士後期課程修了。高分子材料の物性探求と応用について研究を行っている。天然素材であり高吸収性材料として注目を浴びているサクランの物理的性質の解明と応用、建造物の耐震性を高めることに寄与するゴム材料の開発、鉄道の快適な乗り心地を実現する車軸材料の開発、バイオ由来プラスチックの液晶ディスプレイなどへの高効率な応用を実現する研究など幅広い分野・材料を対象としている。これらの経験を活かして、貴重なアニメのセル画を保存する研究に参画した。絵具やフィルムの吸水率や温度などの条件を変えて剥離試験を行い、セル画を傷つけることなくきれいに剥がすための条件を模索している。
http://mitsumat.eng.niigata-u.ac.jp/index.html
山川 道子(やまかわ・みちこ)
株式会社プロダクション・アイジー IPマネジメント部 渉外チーム
2001年株式会社プロダクション・アイジーに入社し、制作進行、広報を経てアーカイブ担当へ。 平成28年度文化庁メディア芸術アーカイブ推進支援事業に採択され、アニメ資料のアーカイブについて考えをまとめた「アニメーション・アーカイブの機能と実践」を発表した。 平成30年度デジタルアーカイブ推進コンソーシアム デジタルアーカイブ産業賞 貢献賞受賞 日本動画協会データベース・アーカイブ委員会 アーカイブワーキンググループ座長 。デジタルアーカイブ学会 理事。