日本初開催 京都国際マンガミュージアム「アフリカマンガ展 -Comics in Francophone Africa-」レポート

ユー・スギョン

展覧会の入り口
以下の会場写真すべて、撮影:衣笠名津美

日本初の「アフリカマンガ展」

2000年代以降、フランス語圏アフリカ諸国を中心にマンガ関連のフェスティバルが複数実施され、出版される作品やマンガ家も増えるなど、アフリカのマンガ市場が活性化している。アフリカ出身の作者による作品がフランスやベルギーで出版され、人気を博すことも珍しくなく、アフリカマンガ関連の展示やイベントも増えてきた。

しかし、これまで日本ではアフリカ出身作家のマンガ作品が紹介された例はほとんどなく、アフリカでもマンガが読まれ、制作されていることすらあまり知られていない。このような状況のなか、本展はアフリカのマンガ文化と市場を理解するための初めの一歩として企画されたという。アフリカのなかでも、ヨーロッパで最大のマンガ市場を持つフランスの影響を大きく受けた、フランス語圏アフリカ諸国のマンガに注目し、15名のフランス語圏アフリカ人作家によるマンガ作品の複製原画(デジタルプリント)、書籍、雑誌、ファンイベントの写真などを通じ、アフリカのマンガ文化を紹介している。

「アフリカマンガ展 -Comics in Francophone Africa-」キービジュアル

てんごりとブリコラージュ(Bricolage)からなる展覧会

「アフリカマンガ」という珍しいテーマにふさわしく、本展の展示会場も一風変わったスタイルで構成されている。額装された作品を壁にかける一般的な展示方法ではなく、京都で手に入った廃材を使い、ブリコラージュ(Bricolage)1的な形で什器を製作し、会場をつくり上げており、独特な雰囲気が味わえる。また、会場は京都府の京北地方に残っている「てんごり=労働を交換し合う文化」からヒントを得て、京都の人々が力を合わせてつくったという。ただアフリカらしい空間を模倣・再現するのではなく、京都の手法でアフリカの世界観を表現することを目指した展示構成が印象深い。

フランス語圏アフリカについて説明する導入部

フランス語圏アフリカ

本展は大きく三つのパートに分かれている。アフリカのマンガ文化を理解するための予備知識の導入部と、フランス・ベルギーのバンド・デシネの影響を受けた作品群を紹介する第1章、そして日本のマンガのスタイルで書かれた作品が中心となる第2章である。

導入部の内容は、普段あまり馴染みのないアフリカのマンガ文化を理解するための予備知識で構成されている。アフリカにある54の国と地域のうち、22カ国がフランス語圏であることや、これらの国でフランス語が公用語として使われるようになった背景などに触れている。次のコーナーでは現代アフリカのストリートで見られるイラストレーションが語られ、マンガともつながるアフリカの視覚文化について知ることができる。導入部の最後では、フランス語圏アフリカにおけるマンガの歴史が時系列で述べられており、第一次世界大戦後から現在までの大きな流れがうかがえる。

第1章「マンガ(コミックス)in アフリカ」

マンガ(コミックス)in アフリカ

フランス語圏アフリカでは、フランスとベルギーの影響から、「マンガ」を指す一般的な言葉としても、フランス語のマンガの総称「Bande dessinée(バンド・デシネ)=Comics(コミックス)」が使われ、日本の、もしくは日本スタイルで描かれたマンガは、「Manga」と呼ばれるという。展覧会の第1章「マンガ(コミックス)in アフリカ」では、この区別に基づき、「コミックス」として分類される作品、そのなかでもアフリカの市場が活気付いてきた2000年代以降に発表された作品が展示されている。第1章の展示作品は、コートジボワール出身の原作者マルグリット・アブエ(Marguerite Abouet)とフランス人作画者クレマン・ウブルリ(Clément Oubrerie)により制作され、フランスで出版された『恋するヨプゴンガール』(Aya de Yopougon)から始まる。コートジボワールの少女たちの暮らしを描いた本作は、2005年にフランスで初めて発表され、大きな反響を呼んだほか、アフリカ出身の作家によるマンガ作品が注目される一つの契機をつくった。ほかにも、1980年代からマンガ作品を発表しているコンゴ民主共和国出身の作家バーリー・バルティ(Barly Baruti)の作品や、フランス語圏アフリカでは初めてクラウドファンディングで作品を制作・発表したカメルーンのマンガ家エリヨンズ(Elyon’s)の『エベーヌ・デュタの日常』(La vie d’Ebène Duta、2014年)などが会場を飾った。出展作品はすべて上に日本語訳を載せた形で展示されているため、作品のストーリーが一部うかがえる。日本語訳がついているフィルムをめくると、原文も見られるようになっている。

日本語訳がついているフィルムをめくると、原文も見られる

第1章では、作品展示のほかにフェスティバルの紹介もされている。2008年から開催されているアルジェリアのアルジェ国際マンガフェスティバル(Festival International de la Bande Dessinée d’Alger=FIBDA)、2010年にカメルーンで誕生したンボアマンガフェスティバル(Mboa Bande Dessinée festival)、2016年より行われているコンゴ共和国のビリリーマンガフェスティバル(Bilili Bande Dessinée festival)、セネガルとマリのプラネット・ア(Planète A)の様子を写真で見ることができる。

メディアや出版に関する言及もある。フランス語圏アフリカ諸国の場合、ヨーロッパやアジア諸国と比べても、マンガを発表できるメディアがさらに少なく、出版社も多くないという。そのため、ほとんどの作家は自費出版、クラウドファンディング、外国の出版社に頼っていることなど、出版にまつわる状況が説明されている。

会場に並ぶマンガフェスティバルの写真
会場ではアフリカのマンガを出版物の形で見ることもできる

マンガ(Manga)in アフリカ

第2章はフランス語圏アフリカにおける日本のマンガ文化の紹介から始まる。アフリカでは1990年代から日本のマンガの存在が知られるようになったが、それは日本のアニメの登場と深い関係があるという。フランスの民間有料テレビ局で、なかには日本のアニメを放送するチャンネルもあったCanal+がこの時期にアフリカで順次サービスを開始したことが一つのきっかけになったと本展は説明している。アニメの人気で、一部の原作マンガがヨーロッパ経由でアフリカの書店にも並ぶようになり、2000年代以降は、スキャンレーション(マンガをスキャン・翻訳・配布すること)された海賊版マンガをオンラインで読む人々も増えているそうだ。

近年は日本マンガの影響を受けた作家も増えており、彼らのなかには、自分の作品を「マンガ」(Manga)と呼ぶ人もいるという。本章では、このように、日本のマンガのスタイルで描かれたアフリカ産マンガ作品も展示されている。まず目に入るのは、ナツ(Natsu)やフェラ・マトゥギ(Fella Matougui)など、2007年設立の日本スタイルのマンガを専門とするアルジェリアの出版社ゼット・リンク(Z-LINK)を中心にマンガを発表している作家の作品だ。彼らのマンガにはアルジェリア革命やイスラム教の祝日、犠牲祭が題材に使われることもある。ほかにも、昔セネガルにあったカヨール(Cayor)王国を舞台にした作品を発表しているセイディナ・イッサ・ソウ(Seydina Issa Sow)や、コートジボワールのマンガ家グループユルティム・グリオ(Ultimes Griots)などのマンガも見ることができる。また、カメルーンで生まれたあと、日本で成長し、現在マンガ家として活躍している星野ルネの作品も紹介されている。

第2章「マンガ(Manga)in アフリカ」
ゼット・リンクから出版されたフェラ・マトゥギの『革命』(La Révolution)。左から右へ読む日本マンガの読み方向で制作されている

アフリカマンガ登場の意義

「アフリカマンガ展」の出展作品を見ていると、アフリカ人作家による作品には、アフリカ人が主人公として登場し、アフリカの話が描かれるものが多いことに気づく。本展は、長い間、アフリカ人たちはマンガの世界において「脇役」に過ぎなかったと指摘する。過去にはマンガを消費するか、マンガの中でただ描かれ、消費されるかといった二つの選択肢しかなかったのが、アフリカマンガの登場により、アフリカの読者たちもやっとマンガを自分の話として、自分の文化として、身近に楽しめるようになっているという。アフリカ人ではない読者にとっても、マンガを通じてこれまで外側から見ていたアフリカを内側の視点から見ることで、アフリカ人たちの考え方を知ることができるなど、アフリカマンガの登場には、ただマンガ市場が広がる以上の意味があることが伝わってくる。

マンガは未知の世界を疑似体験できる優秀なツールである。多くのアフリカ人が日本のマンガを読んで日本を知ったように、アフリカのマンガが今後日本の私たちに新たな刺激をもたらし、アフリカと日本の距離をさらに縮めてくれることも考えられる。少なくとも、「アフリカマンガ展」からは、そのような可能性を感じることができた。

脚注

1 「あり合わせのものや道具を使い自分でつくる、修繕する」ことを意味するフランス語。

information
アフリカマンガ展 -Comics in Francophone Africa-
会期:2023年10月26日(木)~2024年2月18日(日)
休館日:毎週水曜日、11月16日(木)、年末年始(12月26日~1月4日)
会場:京都国際マンガミュージアム 2階 ギャラリー1・2・3
開館時間:10:30~17:30(最終入館は17:00まで)
入場料:無料 ※ミュージアムへの入場料(大人900円、中高生400円、小学生200円)は別途必要
https://kyotomm.jp/ee/africamanga/

※URLは2023年11月22日にリンクを確認済み

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