タニグチ リウイチ
『鉄人28号』(1963年)、『マジンガーZ』(1972年)、『機動戦士ガンダム』(1979年)といった、日本のアニメ作品に登場する巨大ロボットに着目した展覧会「日本の巨大ロボット群像-巨大ロボットアニメ、そのデザインと映像表現-」が2023年11月12日(日)まで、福岡市中央区の福岡市美術館で開かれています。会場では、『鉄人28号』を始まりとして、脈々と受け継がれてきたアニメの巨大ロボットが、クリエイターによってどのようにして生み出されてきたのかが紹介されています。
ロボットアニメというと真っ先に浮かぶのは、手塚治虫のマンガを原作にした『鉄腕アトム』(1963~1966年)だが、今回の展覧会では、人工知能(AI)をもったヒューマノイド・ロボットではなく、人間がリモートコントロールしたり、乗り込んで操縦したりするような「機械」としてのロボットをピックアップ。人間をはるかに上回る大きさで、強大な力を持った巨大ロボットを通して、つくり手たちが何を見せようとしたのかに迫っている。
第1章の「日本各地で“現実化”した巨大ロボットたち」では、神戸市長田区に設置された鉄人28号の立像や、横浜・山下ふ頭で開催中の「GUNDAM FACTORY YOKOHAMA」に「動くガンダム」として設置されている全高18mのガンダムなど、日本各地に置かれている巨大ロボット像を現地で撮影した映像で紹介している。
続く第2章では、「巨大ロボットの元祖『鉄人28号』の変遷」と題して、横山光輝がマンガとして生み出した鉄人28号が、実写ドラマやテレビアニメ、実写映画などで幾度も映像化されて来た歴史を振り返っている。ユニークなのは、これらの鉄人28号を操縦するリモコン装置を、それぞれの鉄人たちの展示に添えて紹介していること。リモコンを扱う人次第で善にも悪にもなる存在で、正義の側に立てば頼もしいが、敵に回れば恐ろしい巨大ロボットの特徴を示すものとなっている。
第3章は「搭乗、強化、合体、変形――70年代巨大ロボットの想像力」と題して、1970年代に続々と登場してきたロボットアニメのロボットたちを並べている。『マジンガーZ』では、パイロットがホバーパイルダーやジェットパイルダーに乗り込んだ上で巨大ロボットに「合体」し、操縦する仕組みを紹介。これが、自分の身体を大きく拡張してくれる巨大ロボットの魅力につながっていることを感じさせている。
『ゲッターロボ』(1974~1975年)や『超電磁ロボ コン・バトラーV』(1976~1977年)のような、複数のメカが合体して巨大ロボットになることのかっこよさ、『勇者ライディーン』(1975~1976年)のようにひとつのロボットがさまざまな形に変形する楽しさも紹介。こうした合体や変形のアイデアが、その後の巨大ロボットにも受け継がれ、多彩な作品が生まれていったことがうかがえる展示となっている。
このコーナーには、マジンガーZの内部図解を手掛け、コン・バトラーVやライディーンのデザインに携わったメカニックデザイナーで、スタジオぬえ所属の宮武一貴氏が描き下ろした3体の巨大ロボットが登場する絵も展示している。ロボットたちからは金属のカタマリには見えない生命感が漂っていて、道具を超えたキャラクターとしてロボットたちが愛された背景が感じ取れる。スタジオぬえにスポットを当てた展示もあって、ガンダムのモデルになったと言われるロバート・A・ハインラインによるSF小説『宇宙の戦士』(矢野徹訳、早川書房、1967年)に登場する機動歩兵が描かれた、加藤直之によるイラストの展示も行われている。
第4章は、「ロボットが現実に『いる』世界――『機動戦士ガンダム』」で、18mもの高さを持つガンダムが床一面にプリントされ、その上を歩くだけでサイズを体感できる。
続く第5章も、「『大きさ』から巨大ロボットのリアリティを実感する」コーナーとなっている。宮﨑駿監督が別名義で脚本・絵コンテ・演出を手掛けた『ルパン三世PART2』(1977~1980年)の第155話「さらば愛しきルパンよ」に登場するロボット兵ラムダ、『メガゾーン23』(1985年)でバイクが変形してロボットになるガーランド、『装甲騎兵ボトムズ』(1983~1984年)のスコープドッグなどが実寸大のパネルとなって壁に貼られていて、大きさを実感できる。
第6章は、「ロボットの『内部メカ』、1980年代以降の大発展」で、外観だけでも威容を誇っている巨大ロボットの内部が、どのような構造になっているかを内部図解によって示すことで、現実に存在しそうなリアリティを巨大ロボットに与え、より強く関心を持たせていったことがわかるようにしている。
永野護という新しい世代のメカニックデザイナーの仕事にも着目。『重戦機エルガイム』(1984~1985年)、『ファイブスター物語』(1989年)、『花の詩女 ゴティックメード』(2012年)といった作品のデザイン資料を並べ、内部構造にも配慮された緻密なロボットデザインが持つかっこよさを感じさせている。
マジンガーZのような巨大でありながら、派手なアクションを見せてくれるスーパーロボットが、ガンダムを経て現実に存在してもおかしくない雰囲気を持つリアルロボットへとと変化していった先で、改めて原点回帰していったことを紹介しているのが、第7章の「荒唐無稽なロボットたちの帰還――アニメ本来の楽しさとは?」だ。宮﨑駿監督の最新作『君たちはどう生きるか』で助監督を務めた片山一良監督の『THE ビッグオー』(1999~2003年)、テレビアニメ『機動戦艦ナデシコ』(1996~1997年)の中で登場人物が楽しんでいる往年のロボットアニメとして描かれた『ゲキ・ガンガー3』などを展示している。
さらに、マンガ『鉄人28号』(1956~1966年)を描いた横山光輝が残したもう一つの巨大ロボット『ジャイアントロボ』(1967~1968年)を基にして、横山キャラ総出演の形でつくられた『ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日』(1992~1998年)についても紹介している。
最終章の「巨大ロボットについて語る――60年の旅路の終わりに」では、『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』(1995年)の押井守監督や、『天元突破グレンラガン』(2007年)の脚本を手掛けた中島かずきらが巨大ロボットについて語ったパネルを展示。日立建機で2本の腕を持った建機「ASTACO NEO」を設計した小俣貴之、前田建設でマジンガーZの地下格納庫を検証した岩坂照之といった、企業活動の中に巨大ロボットからの影響を取り入れたエンジニアたちのコメントも紹介して、巨大ロボットが多方面に影響を与えたことを示している。
展示の最後には、この展覧会にゲストキュレーターとして企画に携わりながら、開幕前に亡くなったライターの廣田恵介氏について触れるパネルを置いて、巨大ロボットアニメの理解につながる展示をつくり上げた功績を偲んでいる。
展覧会は2024年2月10日(土)から4月7日(日)に神奈川県横須賀市の横須賀美術館へ巡回、その後京都での巡回展開催も2024年夏に決まっている。
information
日本の巨大ロボット群像-巨大ロボットアニメ、そのデザインと映像表現-
会期:2023年9月9日(土)~2023年11月12日(日)
開館時間:午前9時30分~午後5時30分
※10月の金・土曜日は午前9時30分~午後8時
※最終入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日
会場:福岡市美術館特別展示室
観覧料:一般 1,600円 高大生 800円 小中生 500円
主催:福岡市美術館、西日本新聞社、西日本新聞イベントサービス、テレビ西日本、チケットぴあ九州、LOVE FM
https://artne.jp/giant_robots/
※URLは2023年11月1日にリンクを確認済み