アートとゲームはいかに共鳴させうるか 企画展「art bit – Contemporary Art & Indie Game Culture -」のあゆみから[後編]

中川 大地

2021年より京都にて毎年開催されている、現代アートとインディーゲームを組み合わせた企画展「art bit – Contemporary Art & Indie Game Culture -」。過去2回の展覧会を振り返った前編に続き、後編では2023年7月から9月にかけて開催の「art bit – Contemporary Art & Indie Game Culture – #3」に焦点を当てます。

「art bit #3」ギャラリー展示全景

art bit展に携わるにあたっての課題意識

こうしてコロナ禍の行動制限の間隙をつきながら実施された過去2回の「art bit – Contemporary Art & Indie Game Culture -」(以下、同展覧会全体を表す場合は「art bit展」、最初の展覧会を指す場合は「art bit #1」)を受けて、「art bit – Contemporary Art & Indie Game Culture – #3」(以下、「art bit #3」)が2023年7月5日から9月2日にかけて行われている。前年の「art bit – Contemporary Art & Indie Game Culture – #2」(以下、「art bit #2」)から筆者は外部アドバイザリーとして展示主旨の解説文の寄稿1やギャラリートークへの出演等で関わるようになってはいたが、本展からはコンセプト監修役としてキュレーション段階から参画し、“中の人”の立場で主催責任者の豊川の壁打ち役を務めるようになっている。その立場から、3年目のart bit展では何を目指したのかについて、率直なところを記しておきたい。

まず、筆者が批評者の立場で「art bit #2」を観覧したときに痛感したのが、アート作品とビデオゲーム作品を実空間で並置することの思った以上の難しさだ。この点については本稿でも先述したとおり、ギャラリー空間では現代アートの絵画やインスタレーションとインディーゲームの紹介映像を対置し、中奥のバーラウンジや客室に各タイトルのプレイアブルスポットを設けることが基本的なソリューションとなっているのだが、やはりギャラリー空間内において「実物」としてのインパクトや可触性をもつアート側のインスタレーションに比して、モニターやプロジェクターで投影される短い映像でしかないインディーゲーム側のインパクトはどうしても見劣りするため、両者のコンセプトや意味性の共鳴を鑑賞者になかなかイーブンには感得させづらい。

この点、さまざまな表現フレームの展示を共存させてきた文化庁メディア芸術祭の受賞作品展などでは、2018年にエンターテインメント部門の大賞を受賞した『人喰いの大鷲トリコ』(2016年)の国立新美術館での展示にあたって、巨大な大鷲トリコのオリジナル映像を等身大に近いサイズでプロジェクションしつつ、トリコの餌になる樽を実物大モックアップで再現してゲーム中の体験を鑑賞者に体感させるといった工夫がなされていた先行例も存在するが、あくまでホテル運営の付帯事業であり予算も空間も限られているart bit展で、そのような手の込んだ展示手法は望むべくもないため、展示空間における両者のパワーバランスをどう拮抗させるかという課題は依然大きいように思えた。

加えて、現代アート側の選定や展示方法においても、出展作品のバラエティが増えていくにつれ、限られた空間内でそれぞれの醍醐味を十全に鑑賞者に伝えるためのハードルも高くなる。例えばコンセプチュアルな絵画やノンインタラクティブの立体造形を無戦略にインタラクティブ系のインスタレーションやビデオゲームと並べるだけでは、鑑賞者のインパクトが後者に引きずられがちになる傾向が避けられなくなる。

さらに、原則的に現代アート作品とインディーゲーム作品を1対1対応で展示していた「art bit #1」のスタイルに比して、「art bit #2」ではインタラクティブ系のインスタレーションを核に全体をゲームセンター的な空間イメージでまとめていたため、「現代アートのゲーム性とインディーゲームの芸術性を合わせ鏡のように展示する」というコンセプチュアルな体験性は、直観的には受け取りづらいという印象だった。

以上のような個人的感触を豊川にフィードバックし、初年度と2年目の達成を生かしつつ、アートからボードゲームまでさまざまな鑑賞フレームの作品が混在する展示空間の最適化をどう目指せばよいかという問題設定を行いながら、我々は3年目のart bit展のキュレーションに望むことになった。

「art bit #3」で試みた二つのドリームタイム

本展の理念的なコンセプトの策定経緯については、会場で配布している展示フライヤー掲載のステートメント・テキストで詳細に論じているのでそちらを参照されたい2 が、若干の紆余曲折の果てに〈ホモ・ルーデンスの夏休み、夏の夜の夢〉というテーマが導き出されるに至った。

つまりは、第二次世界大戦前後のデュシャン以降の現代アートの成立期に溯りながらゲームとの関係に着目した「art bit #1」、1940〜50年代の抽象表現主義から1960〜70年代のフルクサスまでをフィーチャーした「art bit #2」の流れを受け、今回は1980〜90年代の風景をモチーフとしたアート作品群を基軸に選定。まさにファミコンをはじめとするビデオゲーム産業が成立するこの時代、かつて歴史家のヨハン・ホイジンガが説いたホモ・ルーデンス(遊ぶ人間)としての人間の本性、ないし人類学者のクロード・レヴィ゠ストロースが説いた野生の思考のような原初的なクリエイティビティが高度消費社会の前面に立ちあらわれてくるというイメージで、展示空間の基幹的な世界観を構築することを試みた。

ここで豊川が白羽の矢を立てたのが、毛原大樹の《ビデオゲーム傍受者の受像機「Telephono Scope」》(2023年)、やんツーの《遅いミニ四駆》(2022年)、おおしまたくろうの《ぼくのDTM》(2016年)および《滑琴+響筐+擬似耳》(2017年)、Funny Dress-up Labの《Mask Series》(2023年)という4アーティストによる作品群である。いずれもファミコンやミニ四駆、プラレールといった1980年代に誕生・発展した玩具ギミックをブリコラージュしながら、その本来の機能性を脱構築して別の遊び方や表現に流用するといったタイプのインタラクティビティと視覚的な強度を伴ったインスタレーションで、「art bit #2」でのゲームセンター的な展示傾向の成否をふまえてのセレクションだ。

「art bit #3」展示風景。毛原大樹《ビデオゲーム傍受者の受像機「Telephono Scope」》
やんツー《遅いミニ四駆》
撮影:木奥恵三 写真提供:NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]
「art bit #3」展示風景。おおしまたくろう《ぼくのDTM》
「art bit #3」展示風景。おおしまたくろう《滑琴+響筐+擬似耳》
「art bit #3」展示風景。Funny Dress-up Lab《Mask Series》をなす造形物たち

こうして現代アート側の作品が出そろってみると、特に今年40周年を迎えたファミコンに原体験を持つ世代にとってみれば、まるで幼い頃の夏休みの自由工作を彷彿とさせるような少年性に満ちたラインナップになっていたことから、〈ホモ・ルーデンスの夏休み〉のテーマ設定が浮上することになった。

では、こうした空間的な強度のあるインスタレーション作品に対し、インディーゲーム側のチョイスはどうあるべきか。art bit展の出展ゲーム作品の選定にあたっては、最初に豊川が起草する大まかなイメージの提示に沿ってSkelton Crew Studioの村上雅彦と石川武志(および今回からは筆者)が過去のBitSummit出展作等のなかから候補ゲームの提案や仲介を行うかたちで参画し、チームでキュレーションを行ってきているのだが、数多の候補タイトルを吟味するなかで、予算の許す範囲で過年度よりも多くのタイトルをピックアップしよう、という方針が固まってきた。

そして、インディーゲーム側の有力候補の傾向として、子どもたちが抱く野生の感覚や自由な創造性の発露に重点を置く「夏休み」的な世界観を体現するタイプの作品群と、アダルトないしダークなテイストで人間的な身体や常識的な秩序の変容・解体をともなうホラーチックな作品群とが浮上する。この後者の傾向について、豊川が新たにシェイクスピアの『夏の夜の夢』や映画『ロッキー・ホラー・ショー』(1975年)のような狂騒的なイメージを連想したことからテーマの輪郭が確定し、出展作品全体を〈夏休み〉編と〈夏の夜の夢〉編という二つにグルーピングして設営しようという展示戦略に落とし込まれていく。

これは過年度のart bit展の展示方針に照らし合わせてみると、アートとゲームを1対1〜2タイトルの対応で小テーマ別に対置した「art bit #1」のスタイルと、全体テーマに包摂しながらゲームセンター的にアート/ゲームを配置した「art bit #2」のスタイルの折衷にあたる。

すなわち、エントランスに近いギャラリー主要部を現代アート側の作品が展開する〈夏休み〉サイドと位置づけて、『テトリス』の幾何学性をバンジーのひもでくくられた動物キャラクターたちがかき乱すパズルアクション『TopplePOP: Bungee Blockbusters』(2023年)や、ユーザーが描いた絵がAIによって命を吹き込まれバーチャル惑星をテラフォーミングしていく『トイフォーミング』(2023年)、繰り返される引越しの荷ほどきと新しい部屋を飾り付けていく過程で新たな自分を再発見していく『Unpacking』(2021年)など、インディーゲーム側の7タイトルを配分。各タイトルの紹介映像を1本の大きなプロジェクションスポットにまとめて流すことで、極力リアルなインスタレーション群と拮抗的な体験につながる鑑賞動線を心がけた。

「art bit #3」展示風景。エントランス側に配置された〈ホモ・ルーデンスの夏休み〉サイドのデモ映像投影

対して、ギャラリーからバーラウンジやレストラン側につながる境界的な空間に、〈夏の夜の夢〉サイドのインディーゲームのプロジェクションスポットを設定。痛みとともに崩壊する自身の身体を駆使しながら親友のゆくえと自らの真の姿を探求していくSWERYによる横スクロールアクション『The MISSING -J.J.マクフィールドと追憶島-』(2018年)、さまざまな海洋生物の身体を次々と移り変わりながら生と死の根源性を垣間見る山根風馬の『Whale Fall』(2023年)、1984年にシミュレーションゲーム『ボコスカウォーズ』を世に送り出して以降、現代美術家・マンガ家・仮面ダンサーなど表現領域を侵犯する活動を続けてきたイタチョコシステムのラショウの新作『Difficult Moon(むづかしい月)』(2023年)など6タイトルの紹介映像が、薄暗がりのなかに次々と浮かび上がるようにした。

「art bit #3」展示風景。ギャラリー奥のバーラウンジとレストランの中間スペースに配置された〈夏の夜の夢〉サイドのデモ映像投影

このようにして全体テーマを二極化しつつ、両サイドを複数のインディーゲーム群によってキュレーティブに構成することでそれぞれの世界観を明確化するとともに、現代アート側とのパワーバランスを数量的に解決しようというトライアルが、ここでは試されているのである。

多彩なアート/ゲームの表現形態が複合するクロスオーバーの場を目指して

その他、アナログゲームの展示については、単純な実物陳列しかできなかった「art bit #2」での反省を踏まえ、気鋭のゲームデザイナーによる実験的アナログゲームの企画展「これはゲームなのか?展」のプロデュースによるボードゲームバーをバーラウンジにて週末にかけて開催。また、レストランスペースでは、音からつくり音のみでプレイ可能なゲームの制作・展示を行う「Audio Game Center」によるワークショップや、規格化されないハンドメイド型のコントローラーを用いたゲームイベントを主催する「make.ctrl.Japan」によるデモンストレーション展示を、BitSummit最終日の翌日に後夜祭的な夏祭りイベントとして実施している。

さらに、前年には立命館大学ゲーム研究センターと文化庁の主催で先述の「上村雅之の「遊び」の世界」展を行った客室に続く回廊スペースでは、これまでに国内の美術館等で開催されたゲーム展の歴史的変遷を10の代表的な展覧会でたどったメタ的な展覧会「ゲーム展TEN」(2018年)の5年ぶりのアップデートとなる「ゲーム展TEN2」のパネル展示を併催。ここで現時点においての最終ランナーとして、2021年スタートのart bit展が最後に記されている。

「art bit #3」展示風景。立命館大学ゲーム研究センター・文化庁共催のパネル展示「ゲーム展TEN2」

このようにホテルの複合的な施設構成を利用することで、常設展示型の出展には向かない多様なゲーム作品の特性に即した展示形態を模索し、さまざまなジャンルのクリエイターや研究者たちが持続的にクロスオーバーするハブとなることもまた、毎年恒例の季節展になりつつあるart bitに見出された本展ならではの役割と言えるだろう。

あくまでBitSummitから派生したホテルの付帯事業であり、プロパーな学芸員やキュレーター等のいない手弁当の試みではあるが、アートとゲームの交錯のなかから新たな文化の発信拠点となることを目指し、次年度以降も環境が許すかぎりの試行錯誤を継続していきたい。

脚注

1 次のウェブ記事としても転載している。中川大地「【特別掲載】art bit展が投げかけるもの──世紀をこえた「20年代」のリフレインに向き合うために」PLANETS、2023年8月15日、https://ch.nicovideo.jp/wakusei2nd/blomaga/ar2161372
2 次のウェブ記事としても転載している。中川大地「【特別掲載】ホモ・ルーデンスの夏休み、夏の夜の夢──アートとゲームの野生を解放する二つのドリームタイム」PLANETS、2023年8月22日、https://ch.nicovideo.jp/wakusei2nd/blomaga/ar2162012

information
|art bit展|art bit – Contemporary Art & Indie Game Culture – #3
会期:2023年7月5日(水)〜9月2日(土)
会場:ホテル アンテルーム 京都 GALLERY9.5
入場料:無料
https://www.uds-hotels.com/anteroom/kyoto/news/17075/

※URLは2023年8月21日にリンクを確認済み

アートとゲームはいかに共鳴させうるか 企画展「art bit – Contemporary Art & Indie Game Culture -」のあゆみから[前編]

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