坂本 のどか
聞き手:高橋 裕行
文化庁メディア芸術祭アート部門、エンターテインメント部門で受賞を重ねたライゾマティクスのクリエイターの真鍋大度氏とエンジニアの石橋素氏。彼らにとってメディア芸術祭とはどのような存在だったのでしょうか。25回にわたって開催された同芸術祭の記録集『文化庁メディア芸術祭 1997–2022 25年の軌跡』(CG-ARTS、2023年)から、二人のインタビューを再編集してお届けします。
――お二人が文化庁メディア芸術祭で受賞しはじめるのは第11回(2007年度)あたりですが、それ以前にも、メディア芸術祭は見に行かれていましたか?
真鍋 初期の頃から、わりと見に行っていましたね。
石橋 僕も見に行った記憶があります。当時はまだ、東京工業大学の制御システム工学科の学生でしたから、初期だと思います。同じような時期に、岩井俊雄さんと坂本龍一さんがコラボレーションしたパフォーマンス作品『MPI X IPM(Music Plays Images X Images Play Music)』(1997年)を恵比寿で見て、メディアアートという領域を知りました。当時、岩井さんが情報科学芸術大学院大学[IAMAS]でレジデンス1 をされていたこともあり、大学院には行かずにIAMASに行ってみることにしたのです。
――ライゾマティクス(以下、ライゾマ)は会社としての設立が2006年で、石橋さんの正式な加入はさらに少し後ですね。そもそも、お二人が出会ったのはいつ頃ですか。
石橋 僕が務めていた東京藝術大学の講師を、IAMASを卒業した大度くんに引き継いだときなので、2004年です。IAMASでは在学時期がずれているので、それまで会ったことはなかったですね。
――世の中の技術的な動向を重ねながら、メディア芸術祭でのお二人の活躍をたどっていきたいのですが、まず、iPhoneがアメリカで発売されたのが2007年です。同年に制作された『SONIC Floor』は、第11回アート部門で審査委員会推薦作品に選出されていますね。メディア芸術祭において連名で作品が取り上げられたのは、これが最初でしょうか。
真鍋 それ以前にも自分の名前がクレジットされた『path─インスタレーティブ・コンサート』という作品が受賞したことはありましたが、石橋さんとの共作はこれが最初ですね。
――同年は本作以外にも、ダンスパフォーマンス作品『true/本当のこと』2の制作や、アピチャッポン・ウィーラセタクンの映像インスタレーション作品『Unknown Forces』での協働もあります。この時期がお二人の共同制作の始まりのようですね。『true/本当のこと』ではとてもテクニカルで凝った舞台装置をつくられていて、後に舞台演出という方向に展開するきっかけになったプロジェクトのように感じます。
真鍋 そうですね。とはいえ、舞台という点では僕は以前からその方面の仕事はしていたので、そこに石橋さんたちが加わったのがこの時期ですね。共同制作という意味では2004年がスタートですね。初期の頃は商業施設のエントランスやイベント向けのインタラクティブなインスタレーションをつくっていました。
――次に、第13回(2009年度)で再び、『Pa++ern』で審査委員会推薦作品に選出されます。
真鍋 『Pa++ern』は独自性のあるおもしろい作品になりましたね。工業用ミシンをハッキングして、Twitterの投稿から生成したパターンで刺繍入りのTシャツをつくるというプロジェクトでした。2006年にTwitterがスタートして徐々にAPI3 が使えるようになり、広告界隈でもSNSを活用したいわゆる参加型のプロジェクトが2008年頃から発表されはじめ、流行っていた頃でした。
――本作ではお二人それぞれ、どのような役割を?
真鍋 難解プログラミング言語という読解語をさらに顔文字のようにして、さらに読みづらいプログラミング言語をわざとつくるというハッカーの文化がありました。当時僕がそれにハマっていて、言語の設計と実装は僕が担当しました。言語自身の見た目にもこだわりました。例えば、
!!<^o^>!!o(?*v*?i),,
*?^(<i)….!<<<+(v),(>^>^)^^<^ (>)…+(v), >> +(^),< vvv+ >>vv>+(^), >>+>> <+(v), (>^),(v<)..v+vi(>>v???),.. (<<?),,!!!!+(<<v??*),,
のような感じですね。
石橋 Twitterの投稿が大度くんの難解言語でパターン化されるのですが、僕はそれをミシンのデータにコンバート(変換)する部分を担いました。工業用ミシンというのは、昔のパンチカードの名残で三進数によってプログラムされているのですが、情報が非常にクローズドで全然拾えず……。でもたまたま、データ構造を解説しているページを発見できたのです。生成されたパターンの確認やTシャツの購入手続きができるサイトもつくりましたが、そこは外部の凄腕のFlash4 コーダーにも入ってもらいながら、ライゾマのウェブチームでつくりました。
真鍋 ちなみにこの年、名義には代表として僕の名前しか入っていませんが、2008年に石橋さんと僕を中心に立ち上げたハッカーズスペース「4nchor5 La6(アンカーズラボ)」による『the Way Sensing GO +』と、僕個人のプロジェクト『Face visualizer, instrument, andcopy』も審査委員会推薦作品となっています。DIYやハッキング流行りで、ハッカーズスペースも世界的にちょっとしたブームになっていました。『the Way Sensing GO +』はまさに、おもちゃや楽器をハックしてチェーンリアクションを起こすワークショップの結果生まれた作品です。僕たちもそういうことをおもしろがっていた頃ですね。
――第15回(2011年度)では『particles』でアート部門優秀賞を受賞します。かなり大掛かりな作品で、受賞作品展での展示も大変だったのでは。
石橋 そうですね。国立新美術館の展示では会場に合わせてレールの高さなどを調整しました。空間に合わせてカスタマイズできるのもこういった作品の良いところだなと思います。メディア芸術祭とアルスエレクトロニカ両方で受賞したので、海外を含めその後の展示の機会も多かった作品です。この作品以外でも、メディア芸術祭では地方展や海外展にも呼んでもらいましたね。
――翌年、第16回(2012年度)には『Perfume “Global Site Project”』で、ついにエンターテインメント部門で大賞を受賞されます。さらに第17回(2013年度)でも『Sound of Honda/Ayrton Senna 1989』で同賞を立て続けに受賞。PerfumeやMIKIKOさんとのコラボレーションも始まり、一般にも認知され勢いづいてきた時期ですね。それぞれの作品のエピソードなどお聞かせいただけますか。例えば『Perfume “Global Site Project”』では、モーションキャプチャデータの配布などもされていました。
真鍋 その少し前の2008年には、Radioheadが楽曲「House of Cards」のミュージックビデオに用いた3D5データやProcessingのソースコードを二次創作可能なものとして公開し話題になりました。作品やミュージックビデオで使用されたデータのオープンソース化という流れが出てきたその時期に、Perfumeの新しいプロモーション企画の相談を受けたのです。当時ニコニコ動画などにはすでに、Perfumeの振付を真似たモーションデータで3DCGキャラを踊らせるといった、二次創作の文化がありました。そこで、公式自らモーションキャプチャデータを配布してしまおうと。Perfume関連で初めて自分で企画した案を通して実現したプロジェクトだったので、思い入れがあります。『Sound of Honda/Ayrton Senna 1989』は、大まかな全体像はできている状態で、さらに何かできることはないかと相談を受けました。その段階では音の要素のみだったので、走行経路をLEDでサーキットに設置することで可視化する企画を提案して、企画が通った後はそのまま実装を担当することになりました。
石橋 僕はこのとき現場には行かなかったのですが、中国の通販サイトで大量に注文していたLEDが設営の直前に通関で止められて。何かバックアップ案がないかと大度くんから連絡を受けて、「そんな急に1,000台も用意できないよ」と返したのを覚えています(笑)。
真鍋 今だから言える話ですが結局購入した大量のLEDは届かず、設営の前日にサウンドハウスの成田の倉庫まで行って、あるだけ買ってそのまま車で鈴鹿サーキットに向かいました。とにかく物量が多かったので作業が大変でしたが、会場のレンタル費用が高かった分、限られた時間のなかで効率よく作業する必要があり、配線や設置のシミュレーションをかなりしっかりしました。加えて例えば、イーサネットやDMXを使うとケーブル類が非常に高額になるので、電線を使って通信する場所をつくるなどコストを下げるといった工夫もしました。
――ちなみに、Perfumeのプロジェクトは、『Perfume LIVE@東京ドーム『1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11』』も、第15回でエンターテインメント部門の審査委員会推薦作品に入っていますね。作品の名義とは別に、クレジットとして4nchor5la6とライゾマの名前があります。
真鍋 そうですね。ちなみに、『Nike Music Shoe』(第14回エンターテインメント部門審査委員会推薦作品)や『The Museum of Me』(第15回エンターテインメント部門優秀賞)にもライゾマとして制作に関わっていますが、クレジットされていなくて。企画主体によっては参加しているにもかかわらず自分たちの名前が残らないこともあり、納得のいっていない部分も実はあります。コラボレーションが多い僕らとしては、応募する際にも、いつも悩ましかったです。
――『The Museum of Me』のトレーラー映像にはロボットアームが登場しましたね。ロボットアームを使った作品といえば、さらに少し後、第19回(2015年度)エンターテインメント部門審査委員会推薦作品『YASKAWA×Rhizomatiks×ELEVENPLAY』もあります。その時期意識して取り組まれていたのでしょうか。
石橋 『The Museum of Me』と同じ、2011年に制作したやくしまるえつこメトロオーケストラ「少年よ我に帰れ」のミュージックビデオを見て、安川電機さんから記念式典のオファーがあり、2015年に実施したという流れでしたね。第19回の頃にはもう意識はドローンに向かっていて、いろいろな開発を進めていました。NHKの紅白歌合戦で使ったのも2014年で、『24 drones』という群体ドローンとELEVENPLAYのダンスパフォーマンスを組み合わせた作品は第20回審査委員会推薦作品に選んでいただいています。
真鍋 モーションキャプチャのシステムは2012年頃に入手していて、位置情報や姿勢をトラッキングしてドローンを制御できるようになったので、舞台に取り入れ出しました。さらにARを得意とするメンバーも加入し、できることの幅がさらに広がりましたね。
――少し戻り、第18回(2014年度)アート部門優秀賞の坂本龍一さんとのコラボレーション作品『センシング・ストリームズ─不可視、不可聴』についてもうかがえますか。
真鍋 札幌国際芸術祭6での発表を前提にした作品で、「都市と自然」がお題としてありました。坂本さんとやりとりをするなかで、山口情報芸術センター[YCAM]のチームが樹木の電位を計測して音に変換していたので、それの都市版を考えるということ、情報通信に使用される電磁波を扱うことに話がまとまりました。この頃はハード面ではドローンをやりながら、ソフト面の興味は機械学習に移っていて、この作品でも電磁波からパターンを見つけ出すようなことができたらと試してみたものの、データに特徴が少なく難しかったですね。当時はまだ簡単なルールベースの認識くらいしかできなかったのです。まだディープラーニングを扱う前の段階でした。
――アート部門とエンターテインメント部門にまたがる活動も、ライゾマの特徴と言えますが、意識されていることなどありますか。
真鍋 つくるときには意識していないので、毎年応募の時期になると何をどちらに出そうかと相談していましたね。
石橋 その点では、第22回(2019年度)はおもしろい年です。アート部門優秀賞に『discretefigures』、エンターテインメント部門優秀賞には『Perfume×Technology presents “Reframe”』と2作品が2部門で受賞しました。
真鍋 どちらも演出や振付はMIKIKOさん、テックの企画は僕、開発や制作はライゾマで、いずれもドローンや機械学習を扱うなどテーマも近かった。ただ、『discretefigures』は数学と身体というモチーフから始まっていたこともありコンセプト重視でした。対して『Perfume×Technology presents “Reframe”』は作品の背景云々よりも、観客が見たものがすべてです。テキストも最小限で、この棲み分けになった。とはいえ後者も、過去のデータを再構築して新たなショーをつくったという点ではとてもコンセプチュアルです。アート部門に出しても違和感はなかったと思います。個人的な感想ですが、見る側としてはエンターテインメント部門が一番おもしろかったですね。ゲーム部門やミュージックビデオ部門など、細分化したコンペはほかにもありますが、メディア芸術祭は全部ごちゃまぜななかで、その年にすごく話題になったもの、社会現象になったものが代表作として出てくる。それがよかったのだと思います。対して、これは応募する側からの視点ですが、アート部門は審査委員の顔ぶれによって受賞作品の傾向が変わる気がしていたので、応募の際も審査委員を見ながら考えましたね。意見交換会ではアルスエレクトロニカなどの事例を紹介しつつ審査委員の年齢や人種、ジェンダーの多様性を考慮した方が良いということは伝えていました。とはいえ僕らとしては受賞を目的に作品をつくるわけではないので、基本的には年に一度、恒例行事のようにその年の作品を応募する、それがメディア芸術祭でした。
――お二人、あるいはライゾマというチームで作品をつくる際、それぞれどのような役割を担っていらっしゃるのでしょうか。
真鍋 僕が言い出しっぺになることは多いですね。ただ、皆からのフィードバックを聞きながらどんどん変えていくので、結果的、あるいは現場的には、コンセプトワークから皆でやっているものが多いです。
石橋 例えば『particles』のレールは、ライゾマのメンバーであり建築を専門とする坂本くんが設計を担当していますが、8の字型のスパイラル構造というごくシンプルな形にしたいと言ったのは僕でした。当初はより複雑な構造を想定していたのですが、ボールを転がすことが決まり、光の点滅などの技術的な実現可能性も見えてきた段階で、ボールだけが際立って空中に浮かんでいるように見せたい、そのために構造はごくシンプルにした方がいいだろうと思ったのです。大度くんは制作のきっかけとなるお題を出すのがとてもうまい。今のライゾマがもう少し頑張ったら到達できそうなチャレンジングなラインを提示してくれるので、そこを目指してジャンプできると、とてもいいプロジェクトになる気がしています。
真鍋 メンバーのスキルやリソースを考えながら、何か新しいことができないか、お題を探すような感覚でいます。今のメンバーであれば、システムもコンテンツも、ハードも全部自分たちでできる。それがライゾマのおもしろいところだし、お題を探すのがすごく楽しいのです。
――今後手掛けてみたい、今興味のある技術は何ですか?
石橋 気になりながらも手をつけられていないのが、AIや機械学習によってメカを制御したり、動きのパターンをつくったりということです。お掃除ロボットを筆頭に、産業分野では活用されていますが、表現の方にはまだあまり取り入れられていないように思います。
真鍋 確かにそのあたりは、ハードとソフトの両輪であるライゾマの今後のお題と言えそうです。今、ChatGPTやMidjourney7などジェネラティブ系のAIがさまざまなブレークスルーを起こしていますが、それらが今後、石橋さんが言ったようなハード面の制御にまで影響を及ぼしてくるのは間違いないという気がしています。ChatGPTもMidjourneyも誰でも使えるサービスなので、それを使うだけだとコンテンツに関するおもしろさを競う形になってしまいますが、僕らとしてはコンテンツ制作だけでなく仕組みを開発するところもやりたいですね。ただ何でもそうですが、最初は仕組みでおもしろいことができても、すぐにコンテンツの土俵になってしまうんです。2010年頃にopenFrameworks8が広まりを見せ、Kinect9 なども出てきたことで、インタラクティブな仕組みは誰でも手軽につくれるようになった。つくり手が増え、以降のインタラクティブアートはまさにコンテンツの争いになりました。いろいろな意味で、大きな転換期でしたね。
――ライゾマは常に、その技術が先端と言われる時期、仕組みを新鮮におもしろがれる時期をねらっているわけですね。
真鍋 そうですね。皆が同じ土俵に上がってコンテンツの争いになったら、もうライゾマでやる意味はない気はしています。
――メディア芸術祭について、一言いただけますか。
石橋 メディアアートの発表の場は今後も何かしらあってほしいですね。インスタレーションやパフォーマンスは、発表できる機会も場所もなかなかないので。あと、マンガやアニメーションには知らない作品も多かったので、僕とは逆にそちらを目的に来た人がアートやエンターテインメントを見るということもあったのだと思います。互いにいいきっかけの場だったのではないでしょうか。マンガは特にそうだと思いますが、メディアアートなどよりも、時代や世相が強く反映されるメディアですよね。4部門全体を見て回ることで、今を如実に感じられる。一鑑賞者としてそう感じていました。
真鍋 以前はインタラクティブアートに対してどう振る舞ったらいいのか戸惑う鑑賞者も多かったですが、今では皆当たり前のように受け入れています。この25年で、メディア芸術やメディアアートは一般に認知されるものになりました。日本は現状、アジア圏のなかではメディアアートを学べる学校や学部も多く、工学系の学部で作品を制作しているところも多い。アートもエンターテインメントも両方手掛ける僕らとしては、メディアアートの裾野が広がって、よかったと思います。
脚注
真鍋 大度(まなべ・だいと)
ライゾマティクス主宰、株式会社アブストラクトエンジン取締役。アーティスト、インタラクションデザイナー、プログラマ、DJ。1976年、東京都生まれ。東京理科大学数学科、国際情報科学芸術アカデミー[IAMAS]卒業。2006年株式会社ライゾマティクス設立。身近な現象や素材を異なる目線で捉え直し、組み合わせることで作品を制作。アナログとデジタル、リアルとバーチャルの関係性、境界線に着目し、デザイン、アート、エンターテインメントの領域で活動している。メディア芸術祭での受賞歴は大賞2回、優秀賞5回、審査委員会推薦作品12回。
石橋 素(いしばし・もとい)
ライゾマティクス主宰、株式会社アブストラクトエンジン取締役。エンジニア、アーティスト。1975年、静岡県生まれ。東京工業大学制御システム工学科、国際情報科学芸術アカデミー[IAMAS]卒業。デバイス制作を主軸に、数多くの広告プロジェクトやアート作品制作、ワークショップ、ミュージックビデオ制作など精力的に活動を行う。メディア芸術祭での受賞歴は優秀賞3回、審査委員会推薦作品8回。
『文化庁メディア芸術祭 1997–2022 25年の軌跡』
第1回文化庁メディア芸術祭が1997年度に開催され、2022年度に幕を下ろすまでの25年間。デジタル技術の発展とともに育まれたメディア芸術を紹介し、国際的なフェスティバルに成長していった軌跡をまとめた800ページ超の記録集。
発行日:2023年3月31日
価格:5,000円(税別)
判型:B5判
協力:文化庁
発行:公益財団法人 画像情報教育振興協会(CG-ARTS)
https://www.cgarts.or.jp/archives/3599
※インタビュー日:2022年12月15日
※URLは2023年5月1日にリンクを確認済み