50作品と振り返るメディア芸術祭の25年 文化庁メディア芸術祭25周年企画展「A Quarter-Century of Japan Media Arts Festival」レポート

写真:小野 博史

2023年2月4日(土)から14日(火)まで、寺田倉庫B&C HALLとE HALLを会場に開催された、文化庁メディア芸術祭の25周年を記念した企画展「A Quarter-Century of Japan Media Arts Festival」。全25回の受賞作品から本展のために出展された50作品が並び、メディア芸術という名のもとで四半世紀にわたり紡がれた歴史を俯瞰する展示となりました。本稿では、3日(金)に行われた内覧会からその様子をレポートします。

B&C HALLのエントランスでは、ライゾマティクスによるキービジュアルが来場者を迎える

25年のアーカイブをぐるりとめぐる

本展に並ぶのは、文化庁メディア芸術祭全25回において受賞した作品約700作品のうちの50作品1。各回から1〜4作品、部門ごとの内訳はデジタルアート(インタラクティブ)部門2が5作品、アート部門が16作品、エンターテインメント部門が7作品、アニメーション部門が14作品、マンガ部門が7作品となった3

B&C HALLの1階では会場を反時計回りにぐるりと一周するかたちで作品を時系列に展示。一部の実物展示を除きほぼすべての作品が、個々に設けられた展示壁付きの展示台という同一フォーマット上で展開され、ブース展示のようなその形式がアーカイブやクロニクルを思わせた。各ブースに用いられたモニターも基本的にすべて同一機種のため、初期の作品と近年の作品の解像度の違いを筆頭に、技術面の変化も感じ取りやすい。アニメーションやマンガ部門ではおなじみの原画展示をはじめ、資料やパネル展示のほか、モニターではダイジェストや記録映像、作家インタビューなど作品関連のコンテンツを上映した。

開催年度順に作品が並ぶB&C HALL。天井から吊るされたバナーには各年のニュースがピックアップされ、過去の出来事とともに作品を鑑賞できる構成となっている
同じ形式で統一され、整然と並ぶ作品ブース
エリアによってブースの並び方はさまざま。互い違いに配置されたエリアでは鑑賞者はジグザグと縫うように動き、一作品ずつじっくりと見ることができる

部門の垣根を外して

部門ごとの展示が常だった受賞作品展に対し、本展では各部門の作品が時系列で混在。テクノロジーの発展が時系列で示されたのはもちろんのこと、『Wii Sports』(第11回エンターテインメント部門大賞)や『TikTok』(第22回エンターテインメント部門優秀賞)など、エンターテインメント部門はその時々の流行をわかりやすく提示し、また東日本大震災からの日々を綴った『あの日からのマンガ』(第15回マンガ部門優秀賞)を筆頭に、マンガ部門やアニメーション部門は当時の世相を映す。そして25年を経た今も変わらず鑑賞者に新鮮な驚きと喜びをもたらす『KAGE-table』(第1回デジタルアート(インタラクティブ)部門大賞『KAGE』関連作品)の実物展示は、アート部門、ひいてはメディア芸術全体が持つ魅力の普遍性を示した。異なる性質を持つ各部門が互いに視点を補完し合い、さまざまな観点から25年を俯瞰させた。

実物展示のあった作品などをピックアップし、会場ごとに紹介する。まずはB&C HALL会場。第1回デジタルアート(インタラクティブ)部門大賞のplaplaxによる『KAGE』関連作品『KAGE-table』は、作品を触って体験することができる
第3回デジタルアート(インタラクティブ)部門優秀賞『明和電機ライブパフォーマンス』展示風景
第3回デジタルアート(インタラクティブ)部門大賞『エンターテインメントロボットAIBO(ERS-110)』の展示では、2017年に登場した後続機aibo(ERS-1000)と触れ合える
第6回アニメーション部門優秀賞の山村浩二氏『頭山』の展示には原画が並ぶ
第11回マンガ部門奨励賞『天顕祭』と作者の白井弓子氏
第12回エンターテインメント部門大賞の岩井俊雄氏、『TENORI-ON』開発チーム(代表:西堀佑氏)による『TENORI-ON』の展示では実機を体験可能
第13回エンターテインメント部門大賞『日々の音色』と作者の一人、川村真司氏(編集部撮影)
第18回エンターテインメント部門優秀賞の近藤玄大氏、山浦博志氏、小西哲哉氏による『handiii』。展示から開発過程が垣間見える
第18回アート部門優秀賞『これは映画ではないらしい』と作者の五島一浩氏
第19回アート部門優秀賞『(不)可能な子供、01:朝子とモリガの場合』と作者の長谷川愛氏
第21回アニメーション部門大賞『この世界の片隅に』と作者の片渕須直氏。ちなみに、原作者のこうの史代氏による第8回マンガ部門大賞『夕凪の街 桜の国』も展示された(編集部撮影)
第25回アート部門優秀賞『四角が行く』と作者の石川将也氏、中路景暁氏、杉原寛氏、武井祥平氏(右から)

デジタルアート/アート部門のE HALL B&C HALL2階にはマンガライブラリーも

デジタルアート部門およびアート部門受賞作のいくつかは、先述の『KAGE-table』を筆頭にB&C HALLの各所とE HALLにおいて実物(あるいは受賞作の関連作品)を展示。6作品が展示されたE HALLには、薄暗闇の中あちこちから作品の音が漏れ聞こえ、アート部門おなじみの雰囲気が漂う。また、マンガ部門についてはB&C HALLの2階に歴代の受賞作品が並ぶ「マンガライブラリー」を設置。本展出展作品以外も会場で手に取り読むことができた。

続いてE HALL。第5回デジタルアート(インタラクティブ)部門大賞の児玉幸子氏と竹野美奈子氏による『突き出す、流れる』と児玉氏による関連作品『モルフォタワー』の展示風景
第10回アート部門大賞の木本圭子氏『Imaginary・Numbers 2006』展示風景(部分)
第13回アート部門優秀賞『Braun Tube Jazz Band』と作者の和田永氏(右)。来場者と演奏を楽しむ様子。会期中にはライブパフォーマンスも実施された
第14回アート部門優秀賞のクワクボリョウタ氏による『10番目の感傷(点・線・面)』展示風景(部分)
第20回アート部門優秀賞の石黒浩氏、池上高志氏らによる『Alter』。目の前の鑑賞者の動きを真似て腕を動かすが、その際、過去の学習内容も参照して動きを判別しているという
第22回アート部門優秀賞の平川紀道氏による『datum』の展示風景
受賞作品展でもおなじみのマンガライブラリー。歴代の受賞作品が並ぶ

充実の資料展示と次世代クリエイターによる「ENCOUNTERS」

このほか会場の各所には資料展示として、歴代受賞作の一覧、審査委員会推薦作品(受賞作品以上に多くの作品が選出されている)の作品名を連ねたパネル、海外展や地方展をはじめ国内外で展開された関連事業の一覧、2会場をつなぐ通路には歴代の受賞作品展や関連事業の告知ポスターを掲出。また、マンガライブラリーの一角では歴代の受賞作品集を含む関連資料を手に取ることができたほか、大賞のトロフィーも飾られ、さらには受賞作家をはじめさまざまな関係者によって寄せ書きされたサイン色紙がずらりと並ぶ一角も設けられた。

加えてB&C HALL2階では、関連事業であるメディア芸術クリエイター育成支援事業の令和4年度採択者による成果プレゼンテーション展示「ENCOUNTERS」を同時開催。新進気鋭のクリエイターたちによる新たな表現のプレゼンテーションや、海外で研修を行った次世代文化プロデューサーによる活動報告がなされた。

B&C HALLエントランス付近に設置された「文化庁メディア芸術祭歴代受賞作品」の一覧
審査委員会推薦作品のパネル展示
海外展開と国内展開でそれぞれまとめられた、関連事業の一覧
マンガライブラリーの一角に設けられた、歴代の受賞作品集や関連資料の展示。手前には大賞のトロフィーも
受賞作家など、さまざまな関係者によるサイン色紙も並ぶ
B&C HALL2階で同時開催された、メディア芸術クリエイター育成支援事業の成果プレゼンテーション展示「ENCOUNTERS」。新進気鋭のクリエイターたちによる試行錯誤のプロセスの紹介や、海外で研修を行った次世代文化プロデューサーによる活動報告が行われた
1 50作品のうち3作品は、受賞作品の関連作品が展示された。
2 第1回から第6回はデジタルアート(インタラクティブ)部門、デジタルアート(ノンインタラクティブ)部門、アニメーション部門、マンガ部門という部門分けだった。
3 各部門に属する作品49作品に加えて、特別賞を受賞した1作品も展示された。

脚注

information
文化庁メディア芸術祭25周年企画展
A Quarter-Century of Japan Media Arts Festival
会期:2023年2月4日(土)~14日(火)
※7日(火)は休館
会場:寺田倉庫B&C HALL / E HALL
入場料:無料
主催:文化庁
https://j-mediaarts.jp/

※URLは2023年2月15日にリンクを確認済み

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