MACCメインビジュアルプロジェクト 「メディア芸術データベース」からデータビジュアルを生み出す——原淳之助さんインタビュー

メディア芸術データベース」(MADB)のデータを、ファッションという別の芸術表現に変化させることを試みました。
モデルの萬波ユカさんが、熱中したコンテンツを「メディア芸術データベース」で検索 。アーティスト原淳之助さんがその検索結果をデータビジュアル化。そのビジュアルをもとに、MACCのクリエイティブディレクターで本企画の全体ディレクションを担当する小田雄太さんが、ハトラ(HATRA)と共同で洋服をデザインし、最後に完成した衣装を纏った萬波さんを、奥脇孝典さんが撮影しました。
今回はデータビジュアル化を担当したアーティストの原淳之助さんにお話を伺います。データビジュアライズにあたって、どのような点を意識したのか、制作の背景を教えていただきました。

PRD/CD/AD: Yuta ODA(COMPOUNDinc.)
WEB: HANDSUM
MODEL: Yuka MANNAMI(DONNA)
COSTUME: HATRA
DATA VISUAL: Junnosuke HARA
PHOTO: Takanori OKUWAKI
HAIRMAKE: Tomomi SHIBUSAWA

データビジュアルとは

データビジュアライズにもいろいろな種類があり、プレゼンの資料で何かのデータを棒グラフや円グラフで表すことも、データビジュアライズの一つです。データを単純にグラフにするのではなく、ビジュアルとしての表現に落とし込んだものが、データビジュアライズの「作品」だと考えています。

「どの値をどのように見えるようにするのか」が作品の肝ですね。データビジュアライズ作品の中でも、あくまで値をわかりやすく見せる方法もあれば、とにかく格好良さを優先させる方法までさまざまです。

今回のプロジェクトで大切にしたこと

一般的には、データをもとに図柄を生成すると幾何学形態のビジュアルになり、無機質なイメージになることが多いです。同じことをしても既視感が生まれてしまうため、今回の企画ではあえて有機的な形状になるように考えました。

情報が引き出せるのが、データベースの役割の一つであり、フワッとした記憶やキーワードから、正確な記録として残っている情報につなげていけるのが、データベースの良いところだと思っています。そのため、萬波さんがコンテンツをどのように検索して、情報を絞り込んでいったのか。ある作品の中でも、特に何巻に思い入れがあったのかなど、彼女の記憶がつながって、掘り下がっていく様子をグラフィックに落とし込みました。イメージは、シナプスのような、細胞のつながりです。

©︎Junnosuke HARA
(左)『ONE PIECE』7巻のデータから生成/(右)『ゼルダの伝説 時のオカリナ』のデータから生成

絞り込んで出てきたものは、ジャンルごとに色分けした粒になっています。ゲームが緑、マンガがオレンジ、アニメーションがピンク、メディアアートが青です。外側のたくさんの粒から内側に向かうにつれて、徐々に情報が絞り込まれていき、中心の形状がたどり着いた作品の詳細な情報になるようになっています。

軸となる言葉を『ONE PIECE』にするのか、『ゼルダの伝説』にするのかによって、それぞれ違った見え方が現われます。分野横断したデータベースでなければ、このような見せ方にはなりませんでした。

苦労した点

最初のルールを決めるところです。どのような情報をもとに、どのような図柄が出るようにするのか、というアルゴリズムを決める作業が、今回の制作の肝でした。フォーマットさえ決まっていれば、あとはプログラムとして生成していく作業になるので。

もともとは、データベースのデータを全て使ったビジュアライズもイメージしていましたが、本企画の全体ディレクションの小田さんとの擦り合わせの中で、誰もが使えるウェブサービスである「メディア芸術データベース」を活用することが重要だというお話になり、「萬波さんへのインタビューで情報を掘っていく作業」自体を視覚化する方向で考えがまとまりました。

「メディア芸術データベース」では、作品ごとに公開年月日やページ数、大きさなどのデータが含まれています。ビジュアルにするにあたり、全ての数値を入れるとパラメーターの量が膨大になってしまいます。そのため、データの取り扱いを考えるのが難しいところでもありました。情報量が多ければいいというわけではなく、目的に関係のない情報が入っていると、情報としてはわかりにくくなってしまうので。

データビジュアライズは、「ただ、図を作る」のではなく、どのような情報からどういうビジュアルができるのかが面白いところです。データをもとにしているのが大事な部分なので、データと関係なく格好よければいいという話ではなく、かといって、わかりやすさを求めてありきたりなグラフになっても、面白くない。データを扱う部分とビジュアルに起こす部分、その両立を熟考しました。

完成した洋服とその撮影作品を見て

レタッチ前の段階ですが、作品を見て、自分の作ったグラフィックが服として形になっていて、テンションが上がりましたね。

今回はデータから生成したグラフィック、服、さらにそれを着用した写真がグラフィックとして、各段階で作品になる。いくつもの「経由」がある企画です。データビジュアルの作品は、映像作品や平面の作品が多いため、どうなるのかは心配でもありましたし、ワクワクもしていました。普段なかなか関わらない方々と作品作りをご一緒できて嬉しかったですね。

普段のアーティスト活動

プログラムを活用した作品を制作しています。今の世の中では、やりとりが直接の会話から、通信を介してデータ化され、別のフォーマットに変換されるようなことが普通になっていますよね。SNSだったり、オンライン会議だったり。「変換」は「翻訳」ともいえると思います。この「変換」「翻訳」をモチーフに作品を作っています。

「≃#workout#girl」2019 Junnosuke HARA,  Photo by Aya Suzuki

5~6年前に、誰かがインスタグラムに投稿した写真を介して見るものなど、「あの作品、見たことはあるけど、直接見たことはない」という体験が多いなと感じました。そこから、ある一定のカメラの視点から見た作品を作ったりするうちに、この「変換」「翻訳」への関心が生まれていきました。

メディア芸術・メディアアートに対して

多摩美術大学の情報デザイン学科メディア芸術コースを卒業しているので、「何がメディア芸術なのか」といった論争を耳にする機会は多いです。「メディア芸術」という枠の中にマンガやアニメーション、ゲーム、メディアアートが含まれているのは日本独特な文化ですよね。「メディア芸術」と聞いた時に、マンガやアニメをイメージする人もいれば、インスタレーションの作品だと言う人もいて、人によって言葉に対するイメージが違うのも面白いなと思っています。

プログラマーの間では、「ハッカー文化」――情報や技術を独占せずに、多くの人に共有する文化が盛んで、「これはこうしたやり方で実現できる」といった技術を、制作者間で共有していっているんです。

データとして残っていくことは、マンガ・アニメーション・ゲーム・メディアアートの全ての分野において大事だと思っています。どれも石の彫刻作品のように残りやすいものではないですし、その時代ごとの媒体やフォーマットで作られているので、どのように残していくのか、記録するのかも考えていかないといけないところだな、と。

「メディア芸術データベース」は、しっかりとしたデータに基づくデータベースだからこそ、今回のような企画ができて、自分自身、作品を作りながら、「こんなマンガがあったんだ」と、新しいことを知ることができました。そんなふうに、それまで自分が知らなかったところにアクセスできるのも、データベースの良いところだと、今回の企画を通じて改めて感じました。

萬波ユカさんへのインタビューはMACCサイトで、データビジュアルから洋服になっていく様子は美術手帖ウェブ版にてご覧いただけます。

※URLは2023年3月1日にリンクを確認済み

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