怪獣映画という特定ジャンル作品に特化した自主映画のコンテスト「全国自主怪獣映画選手権」は、2014年11月の「第四次米子映画事変」より始まり、これまでに19回(第17回はコロナ禍による開催中止で欠番)開催されてきました。近年多くの特撮現場の若手スタッフたちがこの「全国自主怪獣映画選手権」への作品出品を経験しており、今後の特撮史において外せないトピックとなるであろうコンテストです。そんな「全国自主怪獣映画選手権」が、2022年7月18日についに「特撮の神様」円谷英二の故郷である福島県須賀川市で開催されることとなりました。本稿では「全国自主怪獣映画選手権」の発起人であり、『ウルトラマンZ』(2020年)などでメイン監督を務める田口清隆氏に、開催に際しての思いや自主制作映画に関する自身の考え、現在須賀川市で開催中のワークショップ「すかがわ特撮塾」との関係についてお話しいただきました。
――今回のインタビューでは「全国自主怪獣映画選手権 須賀川傑作選」および「すかがわ特撮塾」についてお話をうかがいたいと思います。まず「全国自主怪獣映画選手権」(以下、「自怪選」)がどのような経緯で始まったのか、お聞かせください。
田口 発端は地方映画祭でのコーナー企画だったんです。「米子映画事変」という地方映画祭で「トークショーか何かやっていいよ、内容は自由で」という形で、3時間くらいの枠をもらったんですね。それで最初の年(2012年「第二次米子映画事変」)は、僕の自主映画の『大怪獣映画 G』(2007年)を上映したんですよ。それが割と好評だったので、その後も第三次、第四次と「米子映画事変」に呼ばれたんですが、「自分の自主映画ばっかり流してもな」と思って、一度「怪獣が出ていれば何でも良いから、自主映画をつくった人はDMをください」というツイートをしてみたんです。すると予想以上に作品が集まって、それを選抜して上映会をやってみたら、それが好評だったんですよ(2014年「第四次米子映画事変」)。これが「自怪選」の始まりです。それ以来、一年に2、3回くらい各地方で行われる映画祭に呼ばれるようになったので、呼ばれた先で「何か企画ありますか?」と言われるたびに「時間が許すなら『自怪選』をやりませんか」と提案していったところ、各地で次々と開催されるようになっていったということです。
――「自怪選」への出品を経て、商業作品の特撮現場へと進まれた方も数多くいらっしゃるとうかがっています。田口さんはそういった若手の才能発掘のようなことを、開催当初からやはり意識されていたのでしょうか。
田口 そこは、必ずしもそういうことではないんですよね。僕自身、怪獣が出てくる自主映画を撮っていましたが、そういう作品って、「PFF(ぴあフィルムフェスティバル)」に代表されるようなコンペ系の映画祭に送っても、大体箸にも棒にもかからないんですよ。でも僕は「きっと自分と同じ気持ちの人がほかにもいるだろう」と思っていたし、「PFF」系へのちょっとした対抗意識もあったので、逆に「怪獣映画しか上映してはいけない映画祭」を立ち上げて、コンペとかに構ってもらえない怪獣系作品の発表の場をつくろうと思ったんです。ですから「育成」というよりも、「場の提供」であり、「自主映画で楽しもう」というのが最初の動機でしたね。「若手」の育成といっても、そもそも「自怪選」には年齢制限がありませんからね。これまでも、下は小学生の子どもから、上は50代のおじさんまで参加しています。
ただ、自主映画はお金や時間の関係から大学生が条件的に一番つくりやすいので、参加者も結局大学生が多くなるんですね。そして、彼らのなかには大学卒業後に現場に入りたいという人もいる。それで「自怪選」の仲間が集まってきてだんだん組織化してきたある時期から、若い子を次々に現場に紹介していったんですよ。
――今回の「自怪選」は、街を挙げて特撮の文化振興を行っている福島県須賀川市で実施されたわけですが、これまでの「自怪選」とは何か勝手が違うことはありましたか。
田口 驚いたこととしては、客層がこれまでと違ったということです。今までの「自怪選」は、僕らと同じタイプの怪獣映画好きが集まる上映会でしたが、今回は市主催のイベントということもあってか、子どもや年配の方も多かったですね。
――子どもは特撮好きの子が来ているんだなという感じはありましたが、年配の方が来ているというのは特に印象的でした。やはりそれは須賀川市民交流センターtette1で開催されたということも大きいのでしょうね。
田口 そうでしょうね。あそこではよく映画の上映会をやっているそうなので、「怪獣の自主映画上映会だから」ということで来た人だけではなくて、「市でやっている映画上映会にいつも来る」というお客さんが結構いたのだと思います。アンケートを見ると、上映作の感想として「映画としてどうか」っていう目線で書いてくれる方が多くて驚いたんですよ。普段、「自怪選」のアンケートって、基本怪獣好きな人たちの書く感想なので、「あの怪獣いいね」とか、自分の好きを語る感じのものが多いんですよ。今回は、きっと映画が好きな市民の方々が来てくれたんだろうなと。「市のイベント」として、自怪選を楽しんでもらえたのが新鮮でしたね。
――入口のところに、撮影用のミニチュアを使った特撮ジオラマが展示されていましたが、小さい子どもだけでなく、年配の方もセットを楽しそうに覗き込んでいらっしゃいました。あれも呼び込み効果としては大きかったのではないでしょうか。
田口 スタッフと一緒に、前日の夕方に1時間半くらいで組んだんですが、楽しんでもらえたみたいですね。東京で自分たちで主催大会をやるときには、いつも武蔵野美術大学の自主特撮チームの学生たちに、ああやってミニチュアセットを組んでもらうんですよ。記念撮影スポットにもなるし、楽しいじゃないですか。今回は特に須賀川で初めての開催になるので、市民の方の目にとまることが大事だなと。市民の皆さんに「楽しそう」と思ってもらわないと広がっていかないと思うので、特撮イベントの盛り上げ方の提案としてやりました。取材で取り上げていただくうえでも、画になりますからね。
――一時期、「自怪選」の内容が特撮専門誌の『宇宙船』(ホビージャパン刊)で連載記事として紹介されていたことがありました。その最初の記事で、ご自身の『大怪獣映画 G』や『長髪大怪獣ゲハラ』(2009年)、『ウルトラゾーン』(2011~2012年)といった作品のメイキング映像が「自主怪獣映画のテキストになる」と紹介されていましたね。メイキング映像を後進の参考になるものにしようという意識は、当時からあったのでしょうか。
田口 もともと僕はメイキングが好きで、90年代のvsゴジラシリーズとか平成ガメラシリーズのメイキング映像を見たり、メイキングが載っている本を読んだりしていました。ですから自分で編集した『大怪獣映画 G』や『長髪大怪獣ゲハラ』のメイキングに関しては、後進の育成というより、自分がメイキング好きだからこそ「皆がメイキングで見たいのはこういうもののはずだ」ということに注意してつくったものですね。『ウルトラゾーン』に関しては、今「自怪選」を一緒にやっている島崎淳がメイキングを撮っています。彼とは『長髪大怪獣ゲハラ』の頃に知り合って、『ウルトラゾーン』当時は『宇宙船』のライターだったんです。そのときに「田口組に密着取材してもいいけど、ベタ付きで映像メイキングも撮りなよ」と僕が誘ったんです。それが島崎にとっての最初の特撮メイキングです。その後の『ウルトラマンギンガS』(2014年)や『ウルトラマンX』(2015~2016年)、『ウルトラマンオーブ』(2016年)、『ラブ&ピース』(2015年)など、僕の関わる特撮のメイキングは大体島崎が撮っているんですよ。
――今回の「全国自主怪獣映画選手権 須賀川傑作選」では、自主怪獣映画作品の本編を上映した後、その作品の監督やスタッフのトークを、メイキング画像・映像を交えながら行うという形式を採られていましたね。そうしたプログラム構成にも、ご自身のメイキングに対する思いが影響しているのでしょうか。
田口 あのプログラムは島崎が考えたものですが、自主映画の場合、映画自体の完成度が必ずしも高いわけではないので、むしろ「どんな人がつくったのか」、「どんな風につくったのか」というのも楽しみの一つなんですよ。「ああ、こういう人が苦労してつくったのね」というのも自主映画の味わい方の大事な部分なんです。ですから監督のトークとセットになっているというのは自主映画の上映会では結構多いんですよ。それは怪獣映画に限らずです。
――なるほど。「自怪選」ではそこに特撮メイキングが加わるということになるわけですね。
田口 特撮は特にトリックみたいなところがあるので、メイキングが見られたほうがおもしろいに決まっていますからね。
――手品の種明かし的な感じですね。会場で特撮メイキングが流れることで、「こうすればできるんだ」という知識を参加者同士が共有し、各々の技術を切磋琢磨していくというようなものもありそうです。
田口 プロの映画のメイキングを見て、それをマネするのは大変ですけど、自主映画は素人にもやれることをベースにしますからね。「『大怪獣映画 G』のメイキングを見て自主映画を撮りました」なんていう子もいましたし。そういうマネしやすいという意味では自主映画のメイキングは、作品をつくりたい人にとって役に立つものなんじゃないかなと思いますね。
――今回の「須賀川傑作選」に関しても、大阪芸術大学の佐藤高成監督作品である『海鳴りのとき』では、水の表現に砂を使うといったものがありました。単純な工夫でありながら映像表現に大きな効果を与えていて、会場も大きく盛り上がっていましたね。
田口 水を珪砂で表現するというのは、特撮で昔からやっていることで、監督の佐藤君もそれを知っていてやっていますよ。自主制作作品のスタッフたちって、本物の特撮のメイキングとかを見て研究して、「これはマネできる」と思ったものは皆自分の作品に取り入れるんですよね。逆に素人では手に入らないものや、マネできない技術でやっているとしたら、素人が可能な手段でその表現を何とか再現できないかと知恵を絞るわけですが、そのアイデアがおもしろいと「ああ、なるほど!」となりますよね。
――現在、須賀川市では、市内の中高生を対象とした人材育成ワークショップ「すかがわ特撮塾」(以下、「特撮塾」)が実施されていますが、その「特撮塾」でつくられた怪獣のスーツも、今回の「自怪選」のなかでサプライズ登場しましたね。
田口 そうですね。そもそも「特撮塾」は、「第二の円谷英二を」というスローガンで、「新たな映像クリエイターを育成したい」という須賀川市の文化振興の取り組みなんですね。つまり市の予算でやっているわけなので、やはり市の皆さんに「何をやっているのか」をプレゼンしなければならないというのは意識していました。今回の「自怪選」はその発表の場として一番良いので、「特撮塾」の様子を見せるというのは必須でしたね。
――後に「ヨロイガー」と名付けられる怪獣が登場したわけですが、制作途中でしたので、ラテックスや塗料を塗る前のウレタンのままの姿で出てきていました。素材むき出しの怪獣をお客さんに見せるというのは、それこそメイキング的な感覚からするとかなり新鮮だったのではないかと思います。私自身も「怪獣がウレタンでつくられている」というのは耳に挟んだり、本で読んだりしてはいたものの、この目で見たのは初めてでしたし。
田口 そこは、意識的にやりました。最近、特に怪獣の裏方を隠す風潮があって、スーツの造形中の様子だったり、中に人が入っていたりというのを見せない。(スーツが)半分脱げている状態も、特撮ヒーローものをつくっている各社は絶対見せないです。でも、僕らが子どもの頃は、ゴジラから体を半分出している中島春雄さんや薩摩剣八郎さんを見て憧れたわけで、「あれをやりたい」ってスーツアクターになった若い人も実際いるんです。だから、怪獣の裏方を隠すことには個人的には疑問を持っています。だから、せっかく何のしがらみもないウチの映画祭なんで、「大手では見せられない特撮の舞台裏をどんどん見せてやろう」という明確な意図をもっていました。
――まさに自主制作ならではの試みですね。会場で上映された『ガンキリュウ 超特報』に登場したガンキリュウのスーツが展示されていたのもあいまって、「ウレタンむき出しの怪獣の原型から、ラテックスを塗ったり塗装をしたりすることで、こういう風になる」という工程が伝わっていて、興味深かったですね。
田口 完成したスーツの展示はどこでもやっているんですよ。それよりもむき出しの怪獣を出したというのは、ちょっとした対抗意識です。それしかないのもつまらないから、できあがっている怪獣のガンキリュウがあったほうがそれはもちろん良いんでしょうけど、それは会場のアイキャッチとしてですね。
――ここからは、そんな「須賀川傑作選」でも活動が紹介された「特撮塾」の話題へ移りたいと思います。田口さんはメイン講師として携わられていますが、これはどのような成り立ちのワークショップなのでしょうか?
田口 須賀川市さん、もっと言うと「須賀川特撮アーカイブセンター」が主催する通年の連続ワークショップで、対象は市内の学校に通う中高生たち。初年度の今年は、24名の塾生が集まってます。
――24名というと、もう1クラス分ですね。
田口 想像以上に人数が集まって正直驚きました。当初は15人程度を想定していたのですが、ここから絞り込むのもかわいそうなので、ここは頑張って全員受け入れようということになりました。全員の名前と顔を覚えるのがまず大変なんですが、予想よりいろんなタイプの塾生が集まったのがおもしろいですね。
――実際に中学1年生から高校3年生までの学生が参加していましたし、男女比もかなり分散していたように思います。「特撮」と言うと「男の子向け」というイメージがあるので驚きました。
田口 「ウルトラマンや特撮が好きだから来た」という子ももちろんいるんですが、実は全体の半分くらい。男女含めて、「おもしろそうだから」とか、「興味があって来ました」みたいな人が多かったですね。須賀川では、円谷英二監督時代から映画の背景を描いていらっしゃる島倉(二千六)さんのワークショップを2021年にやっていて、そこに参加していた美術部の女の子たちも来てくれました。
――島倉さんに教わりながら、雲を描くワークショップだったそうですね。
田口 特撮映画の背景画と思わなければ、普通に風景を描くワークショップなんですよね。須賀川では、そんな風に男女を問わずアカデミックというか、芸術のひとつとして特撮を捉える土壌があって、その感覚で「特撮塾」に興味を持った子たちも多いみたいです。
――「市の上映会」として「自怪選」が受け入れられたのとつながるところもありますね。
田口 そうなんですよ。須賀川は、街中にウルトラマンやウルトラ怪獣のモニュメントが立っていて、ウルトラマンの生みの親である円谷英二の故郷の街であるというのを市民の皆が何となく知っている。ほかの街より、特撮に対して興味を持つ入口が多いので、そういう土壌があるんでしょうね。
――須賀川市のこれまでの試みの延長線上に「特撮塾」があるわけですね。田口さんは「特撮塾」にメイン講師という形で携わられていますが、先生役というのは、監督業とはまた違ったお仕事だったのではないでしょうか。
田口 大勢の若者を相手に連続ワークショップをするというのは初めてで、それになりに苦労はあったんですが、一応勝算はあったんですよ。以前にも、「自怪選」スタッフの島崎と『ウルトラマンX 超全集』(小学館、2016年)の記事企画で、小学生と一緒に家で怪獣映画を撮ってみようというワークショップをやったことがあるんです2。その後も島崎とは、「ゾイドワイルド」3やバンダイのウルトラソフビ4で、子どもたちとの特撮ワークショップの動画企画をやっていて、教えるうえでの経験値はある程度あったんです。これまでは、相手が小学生だったんですが、今回は中高生相手ということでレベルを上げていけばいいのかなと。
――動画企画の特撮ワークショップでの積み重ねの上に「特撮塾」があるわけですね。
田口 「特撮塾」も島崎とやっていく体制なので、役割分担としても経験を生かせそうだと思いました。もともと、島崎が「須賀川特撮アーカイブセンター」の開館前後から、仕事で須賀川市さんに出入りしていて、その頃から子ども向け特撮ワークショップの話があったんですね。実際、その段階で個人的には相談も受けていて。アーカイブセンターが開館して2年、コロナも少しは落ち着いてきたということで、ようやく数年越しで話がまとまって、正式にオファーをいただいてスタートしたということです。
脚注
information
全国自主怪獣映画選手権 須賀川傑作選
開催日:2022年7月18日(月・祝)
会場:須賀川市交流センターtette 1階たいまつホール
入場料:無料
https://amateurkaijucontest.wixsite.com/index
※URLは2023年2月17日にリンクを確認済み