パペトゥーン:カートゥーンとしての人形アニメーション

小倉 健太郎

ジョージ・パル『Good Night Rusty』1943年

人形アニメーションにも、さまざまな作品とその制作者が存在します。実際の昆虫を使ったスタレヴィッチ(Ladislas Starevich, 1882-1965)、表情の変化しない人形を用いて情緒豊かに物語を紡いだトルンカ(Jiří Trnka, 1912-1969)、伝統を受け継いだ様式の人形劇を確立した川本喜八郎(1925-2010)。今回の記事で取り上げるのはハンガリー出身のパル(George Pal, 1908-1980)が、1930年代から1940年代にかけて制作したシリーズ「パペトゥーン(Puppetoons)」です。今日ではあまり振り返られることのないシリーズですが、アニメーションという概念の成立を考える上で、そして今日の3Dアニメーションを考える上でも貴重な示唆を与えるシリーズともなっています。

アニメイテッド・カートゥーン

今回の話の前提となるのは、アニメーションとアニメイテッド・カートゥーンの違いです。「アニメイテッド」という語は「動きを与えられた」といった意味を持ち、19世紀末から20世紀初頭にかけてはアニメイテッド・フォトグラフィといった形で実写映画を指すこともありました1。映画それ自体がアニメイテッドなものであったわけです。しかしながら、1910年代以降アニメイテッド・カートゥーンという分野が繁栄し、独自の地位を築くようになると、これがアニメイテッドという語を占有するようになっていきます。今日の米アカデミー賞では「アニメイテッド・フィルム」部門が存在しますが、これはコマ撮りのようにコマごとの技術で制作されたものが対象になっており、実写映画はそこから除外されています。

アニメイテッド・カートゥーンという語は、もともとは紙媒体のマンガ作品、いわゆる「カートゥーン」を映像化した作品を指す語でしたが、やがてオリジナル映像作品を含めて指す語となっています。マッケイ(Winsor McCay, 1871-1934)やフライシャー兄弟(Max & Dave Freischer: Max Fleischer 1883-1972; Dave Fleischer, 1894-1979)、さらにはディズニー(Walt Disney, 1901-1966)といった制作者たちによって映像文化において大きな位置を占めるようになりました。基本的にコマ撮り2で制作され、平面の絵/画が想定されていました。アニメーション史家ピアソン(Ryan Pierson)は、20世紀の大半において観客が知っていたアニメイテッド・カートゥーンは、セルに描かれたもので、滑稽や子ども向けの要素を持つものだったと指摘しています3。こうした作品は今日ではアニメーション作品の一部と見なされますが、20世紀前半には「アニメーション」という語は作品のジャンルを指すものとしては一般的には用いられず、アニメイテッド・カートゥーンをつくるための技術を指す用語として用いられていました4

人形を用いたコマ撮り作品(今日で言う人形アニメーション)も、早くから制作されていましたが、20世紀前半においては一般に人形映画などと呼ばれていました。アニメイテッド・カートゥーンと人形映画を包括する「アニメーション」という概念は一般的には意識されていなかったのです5。メディア研究者フリアソン(Michael Frierson)は、そもそも20世紀前半の米国において人形アニメーションをはじめとした立体アニメーションは無視されていたと指摘しています6。こうした状況を一変させたのがパペトゥーンです。

ジョージ・パルのパペトゥーン

パペトゥーンの制作者であるパルは、1908年にハンガリーで生を受け、青年期に米国のアニメイテッド・カートゥーン作品に触れています。大学で建築を学んだのち、欧州各国で職を求め、ドイツの映画会社UFA(Universum Film AG)でタバコをコマ撮りした作品などの広告作品の制作を行います。しかし、当時のドイツは国民社会主義ドイツ労働者党、通称ナチスが台頭する時代でした。1933年、パルはドイツを離れます。1934年、オランダのフィリップス・ラジオ社のために人形をコマ撮りした短編シリーズの制作を開始し、パルドール(pal-doll)の特許を取得。この短編シリーズがのちにパペトゥーンになります。さらに1938年、パルは欧州を離れ米国に移住、パラマウント社と契約し、本格的にパペトゥーン・シリーズの制作を開始します。

パペトゥーンという語は、「人形(puppet)」と「カートゥーン(cartoons)」を組み合わせた造語7で、パルはパペトゥーンを「三次元のカラー・カートゥーン」8とも呼んでいました。実際、パペトゥーンはカートゥーンという語に相応しい滑稽さや子ども向けの要素を含んでおり、技術面を見てもアニメイテッド・カートゥーンに近い側面がありました。例えば同じ人形アニメーションでも、粘土を用いたクレイ・アニメーションでは手で粘土を少しずつ変形させ、それをコマ撮りしていくことで動きを表現するのですが、パルが用いたのは木製の人形でした。形の異なる木製人形とそのパーツを数多く用意し、それらを取り替えながらコマ撮り撮影を行うという方法で動きを表現していたのです。これは、図柄の異なるセルを取り替えながら撮影するセル・アニメーションの技法に近いものだと考えられます9。取り替え式のため、コマごとに人形やパーツの大きさや形などを大きく変化させることが可能で、身体をゴムのように伸縮させて描くディズニーの技法「潰しと伸ばし」のような表現も可能でした(図1)。

図1 ジョージ・パル『Sky Pirates』1938年

映画学者ギーセン(Rolf Giesen, b.1953)は、パルは2Dアニメーションの手法や美学を立体アニメーションに移したと評し、こうした方法によってパルが目指したのは風変わりな「カートゥーン性」だったとしています10。これは、のちに「私は新しい映画を作る場合に、それが人形映画でなければできない、という事を常に念頭におきます」11と述べたトルンカとはまったく異なる方向性の人形映画だといえるでしょう。

こうした制作方法は、パペトゥーンの米国における受容にも影響を与えます。雑誌広告などではパペトゥーンはアニメイテッド・カートゥーンと同じ枠で紹介され12、さらに1941年から1947年まで米アカデミー賞の「短編カートゥーン部門」に計7作品がノミネートされています。作品自体の受賞はならなかったものの、パルはパペトゥーンの開発が評価され1943年にアカデミー賞特別賞を受賞することになります。

一方、パペトゥーンはカートゥーンではないという見方も存在していました。1941年、撮影監督ワイコフ(Alvin Wyckoff, 1877-1957)は「パペトゥーン」を「アニメイテッド・ピクチャー」ではあるが、「カートゥーン」ではないと明言しています13。このように、パペトゥーンをカートゥーンであるという立場とカートゥーンではないという立場が交錯したとき、アニメーションという語が米国の映画業界で用いられるようになります。

Showmen’s Trade Review誌では、映画館主の投票によってその年の作品や人物のランキングを決める企画において1946年度の投票から短編部門を「ライブ・アクション」と「アニメーション」に分類。このとき、編集部が出したコメントは「数年前にパペットの新商品や「動物たちのおしゃべり」シリーズ14が登場するまでは、現在「アニメーション」と記述される短編は「カートゥーン」作品と呼ばれていた」15というものです。パペトゥーンはこの年にはランクインしていないものの、分類が行われる前年と翌年にはランクインしています(図2)。

図2 『Showmen’s Trade Review』(第47巻、第26号、1947年12月27日)より

こうした事情から、「パペットの新商品」がパペトゥーンを指していることは明らかです。三次元のカートゥーンとして提示されたパペトゥーンは、その商業的な成功によって、このようなランキングにおいては分類上の問題を突きつける存在でもあったでしょう。そうしたとき、コマ撮りという共通点に目が向けられることになり、その技法を指すために用いられていたアニメーションという語がジャンルを指す語として立ち現れることになったというのが私の考えです。

パペトゥーンの後

大量の人形を必要とするパペトゥーンはコスト面の問題を抱え、1949年には配給を打ち切られることになります。またパルがキャラクターとして用いた黒人少年ジャスパーはステレオタイプの描写がなされており、人種差別的だという批判もなされていました16。1950年代以降のパルは特殊撮影作品に携わり、その方面で大きな足跡を残しています17。パルが構想したカートゥーンのような人形アニメーションは主流にはなりませんでした。

デジタル時代に入り、コンピュータ上でアニメーションが制作されるようになると様相は変わります。ディズニー出身のラセター(John Lasseter, b.1957)が行ったことは、「潰しと伸ばし」をはじめとしたディズニー・アニメーションの原則を3DCGアニメーションに応用することでした18。これはパルがパペトゥーンで行ったことを連想させます。ラセターとパルの間に直接的な影響関係は見られませんが、ギーセンは「ユーモアは大きく異なるが、『トイ・ストーリー』シリーズのようなCGI映画にはパルのパペトゥーンの影が見られる」19としています。私は、半世紀の時を越えて立体的なカートゥーンがアニメーション制作の中心に踊り出たような感覚を覚えます。

脚注

1 Frederick Arthur Talbot, Moving Pictures: How They Are Made And Worked, Philadelphia: J. B. Lippincott Co., 1912.
2 一コマ一コマごとに図柄の異なる画やポーズの異なる人形を撮影する技法を指します。
3 Ryan Pierson, “On Styles of Theorizing Animation Styles: Stanley Cavell at the Cartoon’s Demise,” The Velvet Light Trap, no. 69, Spring 2012, pp. 17-26.
4 例えば、1949年に出版されたWebster’s New Collegiate Dictionary(Springfield: G&C Merriam)では「アニメーション」について簡単に「アニメイテッド・カートゥーンの作成」と記しています。
5 映画評論家ポタムキン(Harry Alan Potamkin, 1900-1933)は1930年代初頭の段階ですでにコマ撮りという観点からアニメイテッド・カートゥーンや人形映画などを「アニメーション」というジャンルの一部として考えていましたが、この考えは定着していませんでした(小倉健太郎「アニメーションという語はいつから作品ジャンルを指すようになったのか:H.A.ポタムキン(1900-1933)のアニメーション観」『成城美学美術史』第30号、2024年、1~21ページ)。
6 Michel Frierson, Clay Animation: American Highlights 1908 to the Present, Revised ed., New York: Twayne Publishers, 1994.
7 Gail Morgan Hickman, The Films of George Pal, South Brunswick: A. S. Barnes, 1977.
8 Motion Picture Herald, vol. 130, no. 11, March 12, 1938, p. 44.
9 人形のパーツを取り替える方法自体はすでに行われていました。
10 Rolf Giesen, Puppetry, Puppet Animation and the Digital Age, London: Routledge, 2018.
11 おかだえみこ『人形アニメーションの魅力』河出書房新社、2003年、218ページ。
12 Showmen’s Trade Review, vol. 42, no. 19, May 26, 1945, pp. 26-27.
13 Alvin Wyckoff, ““Puppetoons”—George Pal’s Three-Dimensional Animations,” American Cinematographer, vol. 22, no. 12, December 1941, p. 563.
14 Speaking of Animals:大部分が動物の実写で構成されているものの、口をコマ撮りすることで、あたかも動物たちが話しているように見えるシリーズです。1946年度の分類ではアニメーションに入っていたものの、コマ撮りがわずかにしか用いられていないことなどから翌年にはライブ・アクション部門に移行しています。
15 Showmen’s Trade Review, vol. 46, no. 1, January 18, 1947, p. 46.
16 Sondra Gorney, “The Puppet and the Moppet,” Hollywood Quarterly, vol. 1 no. 4, 1946.
17 製作した『宇宙戦争』(バイロン・ハスキン、1953年)などで米アカデミー賞の特殊効果部門を受賞。1980年に行われた手塚治虫、石ノ森章太郎、松本零士の鼎談では、石ノ森が「パルからSF映画の楽しさを教えてもらった」とし、松本が「ぼくらの世代はパルのSF映画を見て育ってきている」と述べています(『手塚治虫漫画全集388別巻6 手塚治虫対談集①』講談社、1996年、170ページ)。
18 John Lasseter, “Principles of Traditional Animation Applied to 3D Computer Animation,” ACM SIGGRAPH Computer Graphics, vol. 21, no. 4, 1987, pp. 35-44.
19 Giesen, op. cit.

関連人物

Media Arts Current Contentsのロゴ