メディアの記憶を訪ねて 第2回 米澤柊作品編

作品

米澤柊コメント

「1つでも、2人でもなく」

米澤柊

今回石巻の漫画のアーカイブセンターである、石ノ森萬画館へ行き滞在をした。
SF的な建物はずっと前から気になっており、良い機会となった。
二日目、泊まったフタバインは光が綺麗で来て良かった…と思いつつ朝9時までの朝食をいただいた。美味しかったのでなんとなく午前中は大きなベッドで二度寝をした。 午後は海の近くの川沿いをゆっくり散歩する。音が少なくて気持ちがいい。雲もほとんどなくて天気が良かった。 独特な太陽感を感じていた。色々な海や色々な空がある。

その後、アートスペースのキワマリ荘とART drag centerを回った。2022年のリボーンアートフェス以来だった。展示を見ていると、奥のスペース兼畳部屋でスペースを作った有馬さんと展示している現地の作家さんが何人かいて、しばらくお話しした。
その日は展示替えだったらしく、一部前の展示と次の展示が見れた。運がいい。
スペースの時間が終わると、展示をしていた守さんがキワマリ荘のとなりの電気屋さんに連れて行ってくれた。電気屋さんはほぼ本屋とレコード再生設備に全振りしたような場所で、たくさんのレコードがあり、坂本龍一や細田晴臣、ゆーみん、椎名林檎、忌野清志郎、ジャズなどを聴く。当たり前だけど全然イヤホンと違う…。 その他にも知らない人やすごくたくさんのレコードがある。津波で被害にあった後、被害にあってもレコードを捨てられないひとがとても多く、この電気屋さんに集まってきた話が印象的だった。

私はここに来て何を作るのか、それはきっと二次創作であったりレポ漫画であったり直接的なことではないのだろう。人が表現したこと、人が話していたこと、場所が物語るものは記憶となって受け継がれたり、違う形となってそのまた違う人に反映されていく。それはもう、言葉で言い表せないものなのだと思う。

今回は、おはようとおやすみをモチーフにした仮の身体のループアニメーションを制作する。その間には断片的な記憶や景色、アニメが誰か未満の形となって滑り込む。

生きていると、嬉しいや悲しいが起きる。自分で良かれと思った言葉で誰かを傷つけたり、誰のせいでもない理不尽が自然発生することもある。アーカイブを通して「何があったか」の前提について私は考えたい。この形になる前の気持ちたちとどう向き合うのか、そして記憶を残すことでどういったコミュニケーションが進化していくのかを模索したいです。

米澤 柊(よねざわ・しゅう)
東京生まれ。アーティスト、アニメーター。現在のデジタルアニメーションにおけるキャラクターの身体性と、現実空間の生き物が持っている心の身体性と感情について、またそれらアニメーションが生きるための空間の空気を制作している。
主な作品/個展に「ハッピーバース」(PARCO museum tokyo , 2023)、「うまれたての友達」(BLOCK HOUSE, 2023)、「名無しの肢体」(Tokyo arts and space本郷[OPEN SITE7], 2022)「絶滅のアニマ」(小高製本工業跡地[惑星ザムザ], 2022)、「劇場版:オバケのB′」(NTT ICC, 2022)。また音楽イベント「自然の中で起きている美しい現象すべて」を企画。

PRD/CD/AD: Yuta ODA(COMPOUNDinc.)
取材協力:石ノ森萬画館

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