MACCでは、メディア芸術4分野(マンガ/アニメ/ゲーム/メディアアート)のアーカイブの現在とこれからに焦点を当て、課題や意義、その面白さを発信しています。メディア芸術連携基盤等整備推進事業の一貫として実施しているMACCビジュアルプロジェクトは、メディア芸術のアーカイブを題材に、その専門領域に止まらないジャンルのコラボレーターとともに別の芸術表現に変化させることを試みます。
今回コラボレートをしたのは、アーティスト・雪下まゆさんと米澤柊さん。二人は実際にアーカイブ施設を訪問。MACCクリエイティブディレクター小田雄太さんディレクションのもと、場所から受けたインスピレーションを「メディアの記憶・記録」をテーマにし、作品にしました。訪問したのは、国内有数の「マンガ」のアーカイブ施設のひとつである石ノ森萬画館です。
本記事では、写実的かつ独特なタッチで描かれた人間を描き、広告や挿画、音楽など様々な業界を通じて人々の視線を惹きつけるアーティスト・雪下まゆさんの作品を発表します。
テーマがアーカイブということで、これまでの自分自身の作品制作について焦点を当てました。
10枚に重ねたアクリルは、過去から現在を表しています。
奥から、デッサンで表現をしていた過去、デジタルで作品を制作し始めた過去、そして3Dを技法として取り入れた現在です。
横から見た作品は、時間が一方向に流れ続け、過去と未来は切り離されたものだという固定的な概念を表しています。
しかし、前から見た作品は、全ての時間が重なった偶発的な瞬間が今で、過去も未来も切り離されていないということを表わしています。
夢中で制作に取り掛かり始めた頃、描くことに迷いはなく、生き生きと作品を作っていましたが、今はAIなど美術を取り巻く時代の変化に困惑し、絵は自分にとってどういう意義を持つのか改めて考えるターニングポイントにあります。
今は冬枯れしている木も、また青々と茂る木に変わるという意味も込めて自分の「記録」に自然を取り入れました。
石巻に行ったとき、高台に被災前の写真と、未来への取り組みが書いてある風景をいくつか見ました。現在の景色とそれらを重ね合わせることで、多くの人たちの思いや取り組みがあることで今この瞬間があると改めて実感しました。
自分にとって無ければならない大切な存在だった絵との向き合い方に、戸惑いがある今だからこそこれまでの歩みを振り返ることが大切だと感じ、作品を作りました。
雪下 まゆ(ゆきした・まゆ)
アーティスト/ファッションデザイナー
1995年12月6日生まれ 多摩美術大学デザイン卒業。写実的でありながら、個性的なデフォルメとラフなタッチを残した画風で人気を集める作家。
装画・音楽業界などからの注目も高く、 タイアップ作品も多くてがける。
これまでに、2022年本屋大賞受賞作品「同志少女よ、敵を撃て」 本屋大賞候補作品「6人の嘘つきな大学生」、東京モード学園TVCM、SUMMERSONIC2022オフィシャルグッズ、TOKYO CREATIVE SALON (東急電鉄)、といった広告・装丁などその活動は多岐に渡る。又、2020年に立ち上げたファッションブランド 「Esth.」のデザイナーを務める。
PRD/CD/AD: Yuta ODA(COMPOUNDinc.)
取材協力:石ノ森萬画館