創造と生成のあいだで新たな表現を模索し続ける作家たち 「MOTアニュアル2023 シナジー、創造と生成のあいだ」レポート

坂本 のどか

荒井美波《シナジー、あるいは創造と生成のあいだ》2023年

人による創造とデジタルテクノロジーによる生成、そのあいだを問う

本展は、人の想像力や手仕事による「創造」と、コロナ禍を経てより身近になり、また今後ますますの発展が予想されるデジタルテクノロジーによる「生成」とそのあいだについて、11歳から39歳(展覧会スタート時)の11組、19名のアーティストによる表現を通して考察する。出展作には同館の空間を生かした新作インスタレーションが多数あり、また屋外にも大型立体作品を展開するなど、見応えのある展示となっている。

展覧会にはその冒頭から、「創造と生成のあいだ」を鑑賞者に問う仕掛けが組み込まれている。挨拶文として掲げられているのは、本展の挨拶文を書くことをプロンプト(指示、質問)として入力された、生成AIによる回答だ。列挙された三つのパターンはいずれも非常にもっともらしく、文末のクレジットを見過ごせば、生成AIによるものとは気づかないだろう。

また、各作家の解説パネルには、「創造と生成のあいだ」についての質問に対する作家の返答が掲載されている。これらを読むのも本展の楽しみの一つだろう。

作家に対しての質問内容を示したパネル。それぞれ作品の傍らに作家のアンサーが添えられる

展覧会タイトルを作品に

以後、出展作の一部を取り上げ、展覧会の様子をレポートしたい。

パソコンやスマートフォンの普及による「文字を書く」行為の変化に着目し、文学者らの直筆文字を書き順通りに針金で立体化するという緻密な作品を制作する荒井美波。本展の入り口に大きく表示された展覧会タイトルの文字は、実は荒井が本展のために制作した新作だ。原稿用紙サイズの本作がどのように入り口に掲げられたか、ぜひ足を運んで確かめてほしい。

続く暗室では、原初的な映像メディアと現代のテクノロジーによって、動きや時間を内包する立体表現に取り組む後藤映則1の作品を展示。後藤は3Dプリントによって、人や物の動きを一塊の立体に封じ込め、光の投射によって躍動させる。後藤氏は今回、屋外にも動く大型立体作品を設置している。

荒井、後藤の作品はいずれも、テクノロジーを意識し、あるいは活用しながらも、手技による創造性を強く感じさせる。

後藤映則《Energy #01》2017年
(euglena)による《watage20220616》(2022年)は、種子にならなかったタンポポの綿毛で構築された、非常に静謐で繊細な作品2。その姿は、鑑賞者を内的な時間へと誘う
画像ダウンロードページより

実空間から広がるバーチャル空間

本展の主な会場は同館3階フロアだが、その展示はバーチャル空間にも展開している。コロナ禍におけるステイホームのただなか、リアルな空間に紐づくバーチャル空間の拡張を目論み組織されたUnexistance Gallery(本展におけるメンバーは原田郁/平田尚也/藤倉麻子/やんツーの4名)による《今日の新しい実存》は、細長い通路である会場の壁を仮想的に取り払い、ネットワーク上の広々とした空間にインスタレーションを展開する。

Unexistance Gallery(原田郁/平田尚也/藤倉麻子/やんツー)《今日の新しい実存》2023年3。会場ではインターネット上の仮想空間の様子を壁面に2Dの平面作品として展開。来場者はQRコードを読み込むと、この空間を鑑賞することができる
やんツー4による新作《TEFCO vol.2 ~アンダーコントロール~》(2023年)は、デジタルテクノロジーに必須の電気を生み出す「発電」に焦点を当てた、大型重力発電装置でもある
花形槙5《still human》(2021年)は、テクノロジーによる新たな身体を模索する作家による、本来目のないところにカメラを装着し視覚の位置を転移させ、人の動きの再構築を試みるプロジェクト。関連映像やドローイング、写真資料などを展示
菅野創6+加藤明洋+綿貫岳海《野良ロボ戦隊 クレンジャー》(2023年)は、お掃除ロボット5体が活躍する戦隊モノを模した映像作品

次世代のメディアアーティスト

今回、11歳という最年少で参加のZombie Zoo Keeperは、コロナ禍、そしてNFTアートが盛り上がりを見せた2021年の夏休み、自由研究としてアーティストである母・草野絵美とともにNFTアートプロジェクト「Zombie Zoo」を始動。ゾンビと動物を掛け合わせたドット絵はコレクターの注目を浴び、瞬く間に世界的なNFTアーティストとして知られるようになった。本展には「Zombie Zoo」シリーズによるインスタレーションやゲーム作品を展示。

Zombie Zoo Keeperによる作品。左:《Zombie Zoo Collection》2021年、右4点:《Zombie Cat #01 Devon Rex》《Zombie Cat #02 Savannah》《Zombie Cat #04 Ragdoll》《Zombie Cat #08 Mike》いずれも2022年
石川将也/杉原寛/中路景暁/キャンベル・アルジェンジオ/武井祥平《四角が行く》(2021年)7は、一見するとランダムに動いているように見える「四角」が、実はルールに則って動いているという状況をシンプルに表現。見えないルールの存在に気づかせる
デジタルシャーマンプロジェクトで知られる市原えつこ8は、コロナ禍のステイホームのなか制作した《「自宅フライト」完全マニュアル》(2022年)、新作《ディストピアの美食》(2023年)の2作を展示
本展のラストを飾る、スライム状の物質と人形・人間という有機的なモチーフが絡み合う独特な質感を持つ油彩を描く、友沢こたおによる新作《slime CLXXXIX》(2023年)

プレスレクチャーにて森山氏は、出展作家とその作品について、各作家との出会いのエピソードを交えて紹介。本展の構成は、長年メディアアート領域に並走し続けてきた森山氏と作家たちとのシナジー(相乗効果)の一つの結実とも言える。

メディア芸術隆盛の30年サイクルを概観する資料展示

また、同館2階の一室では、1923年からの約100年における創造と生成の流れをさまざまな資料展示で紹介。森山氏いわく、メディア芸術には30年ごとの隆盛サイクルがあり、資料展示はその流れを概観するものとなっている。「1920年代にはマヴォ、1950年代に実験工房、1980年代がダムタイプ、そして2010年代にはチームラボやライゾマティクス、落合陽一がいます。そして今、プログラミング教育も普及し、次が非常に楽しみになってきました。2040年に活躍しているのはおそらく今10代の子どもたちです」と森山氏。資料展示の一つにZombie Zoo Keeperによる作品が並ぶのは、その期待を込めてのことだ。

さらに、12月9日(土)からは同館地下2階アトリウムにて関連事業として「MOTアニュアル extra」(入場無料)を開催。本事業は、「MOTアニュアル2023」の関連事業として、東京大学、東京藝術大学、大阪芸術大学、パナソニック株式会社デザイン本部 FUTURE LIFE FACTORY、日本テレビ開局70年「日テレイマジナリウムアワード」など、XR領域の試みを紹介している。

森山氏は本展を通して、メディアアートの領域に抱く「古いアナログに対する、新しいデジタル」という二項対立的、進歩主義的な捉え方を問い直す手がかりを掴んでもらえたらと話す。作品や、作家たちの「創造と生成のあいだとは何か」という問いに対する応えを見れば、彼らがすでに二項対立の世界にはいないことがわかるだろう。彼らは自らの手で創造と生成を繋ぎ、その狭間から生み出す新たな表現によって私たちの想像力を掻き立てる。彼らの視点を借り、人とテクノロジーの共創によってますますおもしろく、自由になっていく未来を想像したい。

脚注

1 [編集者注]第20回文化庁メディア芸術祭アート部門にて《toki-》が、第22回文化庁メディア芸術祭アート部門にて《Rediscovery of anima》が審査委員会推薦作品に選出された。
2 [編集者注]本作のシリーズ作品である《watage》は、第22回文化庁メディア芸術祭アート部門にて新人賞を受賞した。
3 [編集者注]前作の《新しい実存》(やんツー/平田尚也/松見拓也/原淳之助/李明喜)は第25回文化庁メディア芸術祭アート部門にて審査委員会推薦作品に選出された。
4 [編集者注]第20回文化庁メディア芸術祭アート部門にて《形骸化する言語》(菅野創/やんツー)が審査委員会推薦作品に選出され、第21回文化庁メディア芸術祭アート部門にて《アバターズ》(菅野創/やんツー)が優秀賞を受賞した。
5 [編集者注]第22回文化庁メディア芸術祭アート部門にて《Paralogue》(花形槙/古田克海/筧康明)が審査委員会推薦作品に選出され、第25回文化庁メディア芸術祭アート部門にて《Uber Existence》が新人賞を受賞した。
6 [編集者注]第13回文化庁メディア芸術祭アート部門にて《Jamming Gear》(菅野創/西郷憲一郎)が審査委員会推薦作品に選出され、第15回文化庁メディア芸術祭アート部門にて《SENSELESS DRAWING BOT》(菅野創/山口崇洋)が新人賞を、第22回文化庁メディア芸術祭アート部門にて《Lasermice》が優秀賞を受賞した。
7 [編集者注]同作は第25回文化庁メディア芸術祭アート部門にて優秀賞を受賞した。
8 [編集者注]第18回文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門にて《妄想と現実を代替するシステムSR×SI》が審査委員会推薦作品に選出された。

information
MOTアニュアル2023 シナジー、創造と生成のあいだ
会期:2023年12月2日(土)~2024年3月3日(日)
休館日:月曜日(1月8日、2月12日は開館)、12月28日~1月1日、1月9日、2月13日
会場:東京都現代美術館 企画展示室 3階 ほか
入場料:一般1,300円/大学生・専門学校生・65歳以上900円/中高生500円/小学生以下無料
https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/mot-annual-2023/

関連事業「MOTアニュアル extra」
会期:2023年12月9日(土)~2024年3月3日(日)
休館日:月曜日(1月8日、2月12日は開館)、12月28日~1月1日、1月9日、2月13日
会場:東京都現代美術館 企画展示室地下2階アトリウム、ホワイエ
入場料:無料
https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/mot-annual-2023/#section4

※URLは2024年2月7日にリンクを確認済み

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