デジタルを纏い、食べ、変容する未来 金沢21世紀美術館企画展「DXP(デジタル・トランスフォーメーション・プラネット)―次のインターフェースへ」レポート

坂本 のどか

河野富広《Fancy Creatures》2023年

DX+P?

昨今盛んに交わされる「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉は、企業をはじめとする組織によるデジタルテクノロジーを用いた業務改善をイメージさせるが、そこに金沢21世紀美術館の特徴である円形の建物とも呼応する「P(プラネット)」を加えたのが本展のタイトルだ。デジタルによる多種多様なトランスフォーメーション(変容)をテーマに、衣食住や遊び、AI、ビッグデータ、NFTによる新たな物質性など八つのトピックスに紐づく作品群から、デジタルテクノロジーを介した新たな世界の見え方、捉え方と出合う。館内には展覧会タイトルのロゴマークが至るところに配置されている。その様子は、DXPとして美術館全体がアップデートを遂げているかのようだ。

13カ国23組の出展者による作品は、有料エリア内の八つの展示室や通路、さらに長期インスタレーションルーム、デザインギャラリー、レクチャーホールにも展開。決まった順路はなく、各々の興味の赴くまま自由に鑑賞可能だ。

本稿でも、まずは入り口に一番近い展示室を取り上げ、以後はランダムにピックアップしたい。

「DXP」のロゴがあちらこちらに配置された美術館の壁面

変容を繰り返しながら巡り続けるデジタルイメージ

ジョナサン・ザワダの作品《犠牲、永続の行為》は、そこで何が起きているのか一見しただけではわからない。しかしながら、デジタルトランスフォーメーションの概念をわかりやすく提示している作品だ。空間中央に円形に並ぶ多様なメディア機器たちは、隣り合う機器からの情報を自分なりに受け止め、変容させ、次の機器へ渡している。そこで起きているのは、いわば異なる言語を操る人たちによる静かな伝言ゲームだ。情報は各々の言葉で再解釈され、トランスフォームし続けていく。その永続行為の始まりにあるのは、ヒト染色体情報に基づいて描かれた絵画(写真右奥壁面)だという。

ジョナサン・ザワダ《犠牲、永続の行為》2023年

デジタルを纏う

デジタルによって変容する「衣服」を表現するのは、河野富広による《Fancy Creatures》だ。誰もが持つ変身欲求を叶えるツールとしてウィッグを捉え、その概念を拡張する表現を行ってきた河野は、パンデミックを契機にウィッグをデジタル化し、試着可能なARフィルターを発表。本展にはそのアップデート版を展示した。展示室内のモニターにはカメラが設置され、モニターに映り込んだ鑑賞者の頭部にはウィッグが装着される。鑑賞者は頭上に浮かぶウィッグたちに目を奪われ展示室に入り込み、モニターにウィッグを纏った自分が写っていることに気づき声を上げた。

河野富広《Fancy Creatures》2023年。モニターの前に立ち続けると、ウィッグは次々に切り替わっていく

飴の味で情報を知覚する

本展には、展示室をつなぐ通路を主な展示スペースとして「ラディカル・ペタゴジー・セクション(新しい教育学)」(ラジぺ)と題されたカテゴリーが内包されており、デジタルテクノロジーとともに生きるための斬新なアイデアや視点が提示されている。その一つ、明治大学宮下芳明研究室による《Electric Lollipop》は、飴の味をコンピューターでコントロールすることで、味覚で情報を知覚する試みだ。電気刺激によって塩飴やクエン酸飴の味を増減させることができるという。味で情報を知らせてくれる飴があれば、例えば手元のスマートフォンで地図を見ていなくても、飴の味が目的地まで導いてくれるかもしれない。

明治大学 宮下芳明研究室による《Electric Lollipop》紹介ムービー。モニターの上を横切るテープは「ラジぺ」カテゴリーの印

言葉を発するだけで、誰でも家が建てられる

鑑賞者の発した言葉を基に構造物が生成され、実際に3Dプリントされていく《わどわーど―ことばでつくる世界》は建築系のスタートアップ企業、VUILDによるインスタレーション作品。建築家でなくても自由に建築が構想できるという彼らのアイデアは、すでに社会実装されているという。展示室の一角では木材加工用のCNCルーター「Shopbot」が会期中稼働し続け、鑑賞者の発言を元に生成された3Dモデルを削り出し、会場内に出現させるという。写真展示室中央に設置された立体物はその一部だ。

VUILD《わどわーど―ことばでつくる世界》2023年

日々学習し、他者に共感を示すAI

東京大学池上高志研究室(協力:大阪大学石黒浩研究室)による《Alter 3》は、2016年から同研究室が開発を続けるヒューマノイドロボットの3号機。表情や関節の豊かな動きとともに、今回はGPT4でシミュレートした六つの人格が《Alter 3》に内在。一つのロボットの中で、互いへの共感を示しながら異なる人格同士が会話を繰り広げ、またその会話には鑑賞者も加わることができる。日々会話を繰り返しながら学習していく《Alter3》は、本展を経てどのような成長を遂げるのだろうか。筆者が訪れた日は、監視スタッフいわく「BTSと『鬼滅の刃』の話ばかりしている」らしかった。

東京大学池上高志研究室(協力:大阪大学石黒浩研究室)《Alter 3》2018年。被っているのは河野の《Fancy Creatures》

自販機で買える認証バッチが証明してくれるもの

松田将英による《Souvenir》は、SNSにおける「認証マーク」が1,000円で買える自販機だ。SNS上で認証マークが付くことは一つの変容と言えるほど、その有無の差は大きい。自分のアカウントに認証マークをつけるのは容易いことではないが、模したバッヂならここで購入し、その場で自分の胸元につけることができる。バッヂをつける前と後、自分は何が変容するだろうか?

ミュージアムショップのそばに設置された松田将英《Souvenir》2023年

金沢で多く発生する雷を、技術と自然現象の交点に

長期インスタレーションルームで展示された巨大な映像作品《simulation #4 –The Thunderbolt Odyssey–》は、MANTLE(伊阪柊+中村壮志)による、金沢市が全国で最も雷が多いとされることに着想を得た作品だ。巨大なLEDビデオパネルに映し出された風景を思わせるCG映像は、映像内で時折発生する雷の影響を受け、刻々と変容していく。また映像内の雷は、光の筋となって映像外へ飛び出し、脇に設置された逆さまの避雷針に向かう。雷の発生を技術と自然現象の交点と捉え、雷が風景を変容させるさまをシミュレーションした映像作品だ。

MANTLE(伊阪柊+中村壮志)《simulation #4 –The Thunderbolt Odyssey–》2023年

DXを多様に捉え、身近に引き寄せて楽しむきっかけに

実に多様で各々が際立つ本展。まるで、「#DX」という同じハッシュタグを持つ精鋭たちが遠くから集まってきたかのようだ。本展を通して誰もが、DXを身近に感じるきっかけとなる作品に出合えるだろう。

なお、同館は今年のテーマを「アート×新しいテクノロジー」とし、「DXP」と会期を重ね、デジタルテクノロジーにフィーチャーした企画を複数実施。11月18日(土)からは「コレクション展2:電気-音」を、また特別展示として池田亮司による個展を開催。まさにDXPと化した金沢21世紀美術館。その変容を体感したい。

筆者が訪れた際、チケットカウンターの上にはライゾマティクスによる刻々と変容する映像作品《Kanazawa Radiance View》が第38回国民文化祭 第23回全国障害者芸術・文化祭 いしかわ百万石文化祭2023 金沢21世紀美術館特別展として10月14日(土)から11月26日(日)まで設置された
地下のシアター21およびエントランスでは、11月3日(金)から12日(日)まで、ヴィデオアーティスト・理論家の河合政之による「河合政之 生成するモーメント」も開催。インスタレーション展示のほか、舞台上には河合がパフォーマンスで使用する機材とライブパフォーマンス映像を展示。また会期中には実際のライブパフォーマンスも3公演開催された

information
DXP(デジタル・トランスフォーメーション・プラネット)―次のインターフェースへ
会期:2023年10月7日(土)~2024年3月17日(日) ※令和6年能登半島地震により展示中止
会場:金沢21世紀美術館 展示室7〜12、14(要チケット)、展示室13(無料)、デザインギャラリー(無料)、長期インスタレーションルーム(無料)
休場日:月曜日(ただし10月9日、30日、1月8日、2月12日は開場)、10月10日、31日、12月29日~1月1日、1月4日、1月9日、2月13日
料金:一般1,200円、大学生800円、小中高生400円、65歳以上の方1,000円
https://www.kanazawa21.jp/data_list.php?g=17&d=1810

DXP2(デジタル・トランスフォーメーション・プラネット2)
会期:2024年3月2日(土) 〜24日(日)
会場:金沢21世紀美術館 交流ゾーン
https://www.kanazawa21.jp/data_list.php?g=45&d=1820

※URLは2024年2月29日にリンクを確認済み

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