アニメ版「グリッドマン」シリーズをめぐって――特撮のアニメ化と、アニメで表現される「特撮らしさ」

坂口 将史

『グリッドマン ユニバース』ポスター

アニメ×特撮の前例

2015年、「日本アニメ(ーター)見本市」において『電光超人グリッドマン boys invent great hero』(2015年)が公開された。同作は円谷プロの特撮作品『電光超人グリッドマン』をアニメ化したものであり、旧作を再現したグリッドマンの変身バンク1や怪獣とのバトル、スーパーロボット的な演出が組み込まれた合体バンク、雑誌『てれびくん』で連載された誌上企画『電光超人グリッドマン 魔王の逆襲』(1994年)に登場するヒーロー・グリッドマンシグマの初の映像化などで、大きな話題を呼んだ。

そして2018年、『電光超人グリッドマン』を原作とするテレビアニメ『SSSS.GRIDMAN』が放送される。監督は『電光超人グリッドマン boys invent great hero』で監督・原画を担当した雨宮哲が引き続き務めた2。同作はアニメファンのみならず特撮ファンをもムーブメントに取り込み、2021年に続編である『SSSS.DYNAZENON』の放送、2023年にはついに劇場版『グリッドマン ユニバース』が公開されることとなる。

特撮作品を原作とするアニメがこれほど大きなシリーズへと発展することは稀有な例だが、特撮的な要素を持つアニメ作品そのものは、前例がないわけではない。

『SSSS.GRIDMAN』ポスター

まず『SSSS.GRIDMAN』と同様に円谷プロの特撮ヒーローがアニメ化した作品として、『ザ☆ウルトラマン』(1979~1980年)や『ウルトラマンUSA』(1989年)が挙げられるだろう。特撮を主として展開してきたウルトラマンシリーズがアニメとしてつくられた背景には、アニメのほうが特撮よりも低コストで作品を制作できるという予算事情が絡んでいる3。しかしそういった側面はありつつも、二次元の作画表現というアニメの特性を生かし、三次元空間の物理的な制約に縛られない自由自在な空中戦や、ウルトラマンよりも巨大な怪獣など、特撮では困難な映像表現が、この二作品では試みられた。ちなみに、『ザ☆ウルトラマン』の企画書では、実写特撮とアニメーションそれぞれの強みを以下のように説明している。

実写作品での目玉商品とも言える部分は、「迫力」でした。確かに、ビルの壊れ、大怪獣の大暴れ、ウルトラマンと怪獣の肉弾戦等は迫力がありました。しかし、今の時代、ただそれだけでは子供たちは満足してくれません。もっともっと作品的に奥深い何かがなければ駄目なのです。そこで新しい目玉商品的部分として、作品の「神秘性」にポイントを置きました。この「神秘性」の面では過去の実写作品では決して満足の行く出来上りではなかったと思います。実写では表現上で物理的な限界があるからです。「新・ウルトラマン」はアニメーション手法を採用して神秘のベールに包むことにしました。4

当時の特撮では技術的に困難だったウルトラマンや怪獣の超常的な力の表現は、その後合成技術や3DCGの発展によって、徐々に実写特撮のなかにも組み込まれていくことになるが、当時はその「神秘性」を、手描きアニメーションで表現しようとしていたのである。これは、クライマックスの戦闘シーンに手描きアニメーションを用いることで、超人的な必殺技表現を可能にした円谷プロの特撮ヒーロー作品『プロレスの星 アステカイザー』(1976~1977年)という先例を踏まえてのアプローチと言えるだろう。

講談社編『ウルトラ特撮PERFECT MOOK vol.32 ザ★ウルトラマン』(講談社、2021年)表紙

一方、『ザ☆ウルトラマン』の企画書で言うところの実写特撮の「迫力」をアニメ作品に組み込む試みがなされたのが、円谷プロの『恐竜探険隊ボーンフリー』(1976~1977年)や『恐竜大戦争アイゼンボーグ』(1977~1978年)である。これらの作品では、特撮作品においては通例「本編」と呼ばれる人物キャラクターのドラマパート部分が作画のアニメーションで表現され、「特撮」と呼ばれるヒーローやメカ、怪獣の活躍パート部分がモデルアニメーション5や特撮で表現された。こうした映像表現の試みは円谷プロ作品だけでなく、ミニチュア特撮で表現された船の炎上シーンが挿入された『紅三四郎』(1969年)の第1話や、水槽に絵の具を垂らすという特撮手法で表現された爆発煙のカットが挿入された『科学忍者隊ガッチャマン』(1972~1974年)の第1話などにおいても確認できる。これらの作品は、アニメ部分と特撮部分のあいだで画面の情報量に大きな差があり、それ故の違和感がぬぐえない部分はあるものの、「迫力」という点では一定の成功を収めるものとなっていた。

講談社編『ウルトラ特撮PERFECT MOOK vol.34 恐竜探険隊ボーンフリー/恐竜大戦争アイゼンボーグ』(講談社、2021年)表紙

こうしたアニメ作品に特撮カットが組み込まれる事例とは逆に、特撮作品に作画的な要素が組み込まれるものも存在する。例えば日本初のカラー特撮作品である『マグマ大使』(1966~1967年)では、宿敵ゴアの円盤をはじめ、作画によるアニメーションが部分的に使用されている。また、『日本誕生』(1959年)においては、絶命した日本武尊の魂が白い鳥に変身するが、その鳥は作画合成によって表現され、実写空間の中に組み込まれている。こうした作画と実写の共存という意味では、ウルトラマンのスペシウム光線をはじめとする光線作画もその一種に数えられるだろう。

では、このような特撮とアニメの相互関係によって表現される映像作品がいくつか存在するなかで、アニメ版「グリッドマン」シリーズは「特撮」をいかに「アニメ化」していったのだろうか。

アニメで再現される「特撮の現場」

アニメ版「グリッドマン」シリーズにおいて、「特撮らしさ」を表現するために「“動きや撮影の仕方をマネる”」6というアプローチが試みられた。例えば巨大感を演出するためのアオリのカットや、ビルの隙間からヒーローや怪獣を捉えるカットの多用、通常スピードでつけたアクションをスローモーションで再生する疑似ハイスピード撮影7など、特撮キャメラマンの仕事を再現したものがそれにあたる。だが本稿で特に注目したいのは、特撮キャメラマンの役割とは異なる部分における「特撮らしさ」へのアプローチである。

怪獣の巨大感を表現するアオリのカット。現行のテレビウルトラマンシリーズ(「ニュージェネレーションヒーローズ」シリーズ)においても多用される
「グリッドマン ユニバース【GRIDMAN UNIVERSE】本予告|2023年3月24日(金)全国公開!」(https://www.youtube.com/watch?v=Q1BmA_2Zj-k)より

まずアニメ版「グリッドマン」シリーズにおけるキャラクター表現について見ていく。本シリーズにおいては、ヒーローや怪獣が「スーツアクターが入っている着ぐるみ」としてデザイン・3DCGモデリングされている。そのため、デザイン・モデリングにあたってスーツを構成する布やウレタンの素材感8、覗き穴などが意識された9。四つ足の怪獣に至っては中に入っている人間の人体構造の問題を反映して、後ろ足の膝が立った状態になっている10。このように、着ぐるみを使用しているがゆえに起きていた特撮現場での制約が、同シリーズではキャラクター表現に活用されているのである。

着ぐるみの再現という点で特に興味深い事例が、『SSSS.DYNAZENON』第10話に登場する怪獣ガルニクスである。ガルニクスは「『SSSS.GRIDMAN』第9話に登場する怪獣バジャックの着ぐるみを改造した怪獣」という想定でつくられている。特撮作品においては、古くは『モスラ対ゴジラ』(1964年)のゴジラの着ぐるみを『ウルトラQ』(1966年)第1話登場怪獣のゴメスに改造するといったように、予算削減の観点から着ぐるみの改造はたびたび行われる。そうした特撮現場の裏事情を、物理的な造形物が存在しないアニメにおいて再現したのがガルニクスなのである。

バジャック(左)とガルニクス(右)。ガルニクスはバジャックの「着ぐるみを改造した怪獣」であるため、腹や尻尾の内側にある五角形のディテールが共通している。また、四つ足怪獣なので、「着ぐるみに入るスーツアクターの人体構造」の関係上、後ろ足後ろ足の膝が立った状態になっている
「「SSSS.DYNAZENON」3Dメイキング #10」(https://www.youtube.com/watch?v=yO-N_F2xdHE)、「「SSSS.GRIDMAN」3Dメイキング #09」(https://www.youtube.com/watch?v=va4knVYDsrY)より

このような特撮現場の裏事情への視点は、最新作『グリッドマン ユニバース』においても確認できる。同作には、巨大な人間型キャラクターが着ぐるみのようにパーツを着込むことで誕生する怪獣サウンドラスが登場するが、サウンドラスの体の最上部に配置されているシャッター部分、すなわち着ぐるみであればスーツアクターの頭が位置する部分から「中の人」の顔が現れる。これはスーツアクターと怪獣の着ぐるみの関係そのものを「怪獣デザイン」に落とし込んだものと言えよう。

アニメ版「グリッドマン」シリーズにおける「特撮らしさ」の表現は、上記のようなアニメ上での造形物の再現だけではない。特撮の撮影における仕掛けもまた、アニメ上で再現されている。

例えば『SSSS.GRIDMAN』第1話で怪獣グールギラスにグリッドマンが飛び蹴りするカットについては、「火花の出るタイミングは特撮のようにスイッチで起爆させている事を意識し攻撃のヒットからワンテンポ遅らせる」11という演出がなされている。これは特撮の撮影現場における特殊効果技師の仕事をアニメ上で再現したものである。また『SSSS.DYNAZENON』第4話の怪獣ディドラスが仰向けの状態から起き上がるカットでは、ディドラスがワイヤーで引っ張られているかのような動きが付けられているが、こちらは特撮においては操演技師がピアノ線などを用いて行う仕掛けを、アニメ上で再現したものである。

ワイヤーで引っ張られているかのような動作で仰向けの状態から起き上がるディドラス
「「SSSS.DYNAZENON」3Dメイキング #04」(https://www.youtube.com/watch?v=Bao4nD102As)より

こうした実写特撮を彷彿とさせる演出は、特撮現場でスタッフが「段取り通りに」撮影した特撮シーンを再現したものだけではない。『SSSS.GRIDMAN』第1話のグリッドマンのグールギラスへの飛び蹴りの動きについては、「ワイヤーが切れて、落ちた足がたまたま当たるような感じにしてください」12というオーダーが雨宮から出されたという。また、同話でグールギラスの攻撃による爆風で街が破壊されるカットに関しても、「火薬量を間違えてセットの台座が持ち上がる位、派手にふっ飛ばしました」13と語られている。前者の「ワイヤーが切れる」トラブルは、『空の大怪獣ラドン』(1956年)のラストシーンの撮影時、溶岩を再現するために使用した溶鉄の熱でピアノ線が溶けたために、吊っていたラドンが予想外の哀愁漂う動きをしたことを思い出させる。また後者の「火薬量を間違え」るトラブルは、『メカゴジラの逆襲』(1975年)でメカゴジラが街を破壊する際、仕掛ける火薬量のミスのために街が地面ごと吹き飛ぶ大迫力のカットが撮れたことを思い出させる。アナログな特撮の現場ではこのようなトラブルが発生することもあるが、前述の二作品のようにそのトラブルが幸いし、撮影スタッフの想定以上の映像効果を生むこともある。

首の取れたグールギラスに飛び蹴りをくらわせるグリッドマン(Initial Fighter)。ワイヤーが切れて、落ちた足が偶然当たるという演出となっている。また、特殊効果技師の点火の再現として、飛び蹴りがヒットした瞬間と火花が飛び散る瞬間のあいだにタイムラグをつけている
「「SSSS.GRIDMAN」3Dメイキング #01」(https://www.youtube.com/watch?v=bFPwO8S0_L4)より
「火薬の量が多過ぎて、想定以上の爆発になってしまった」カット
「「SSSS.GRIDMAN」3Dメイキング #01」(https://www.youtube.com/watch?v=bFPwO8S0_L4)より

以上のように、アニメ版「グリッドマン」シリーズでは、アニメというメディアを用いて、あえて物理的制約に縛られるアナログ特撮の現場を再現するという試みが行われている。そしてそれは、特撮現場において「意図して構築される」ものだけではなく、ある種の偶発性を持ったものさえも再現するものであった。これは池田憲章が「計算して生まれるドラマティックさと、撮影現場で突然撮れてしまった偶然のダイナミックさがある」14と説明する特撮の両義性を、アニメに取り込む試みであったと言える。

そして特撮の仕掛けをアニメ上で再現することは、実写特撮と同様に、視聴者に「ここはきっとこうやって撮影しているに違いない」という、撮影の裏側に対する意識を(アニメのため疑似的にではあるものの)喚起させることにも繋がる。特撮のこうした視聴のあり方について、自主特撮映画『海鳴りのとき』(2021年)を監督した佐藤高成は次のように述べている。

ミニチュアが画面に現れると、驚きとともに、どうやって撮っているんだろうという『メイキング脳』が働く。受動的な観る側を、『能動的に驚く』存在に変えてしまえることこそ、ミニチュア特撮が持つ魅力じゃないでしょうか。15

佐藤が「メイキング脳」と語るような、映像の制作手法に対して思いをはせるメタ認知的な視聴体験については、社会学者の真鍋公希により、トム・ガニングが初期映画を研究するなかで提示した「アトラクション」概念、つまり目の前の映像を「『錯覚にすぎないという事実を意識』したうえで、『分かってはいるけれど確かに見えるという、知的な否認の限界を試す』『だまし=だまされの遊戯』に興じ」16るという映画の受容との関係性が指摘されている。すなわちアニメ版「グリッドマン」シリーズは、アナログな特撮作品における撮影手法の痕跡さえもアニメのなかに疑似再現することで、作品世界のなかに没入しつつも、あくまでそれを撮影されたものとして「どのようにしてつくられているのか」を推測しながら楽しむという、特撮作品の視聴体験そのものをアニメのなかに取り込んだのである。同シリーズの3DCGをメインで担当したグラフィニカが、自身のTwitter(現:X)アカウント上でメイキングを積極的に発信していたのも、こうした特撮独特の視聴体験を促進することにつながったと言えるだろう。

グラフィニカの公式Xで公開されたメイキングのなかには、キャラクターでもアクションシーンでもない、ビルのCGモデルを紹介したものも存在する。背景に過ぎないはずのビルがキャラクターのモデルと同じ重要度でSNS上でピックアップされるというのも、ミニチュアが時にキャラクターと同じくらいに視聴者の興味関心を喚起する特撮の特徴をなぞらえたものと言えよう。ある意味で、特撮現場の「美術」への視聴者の目線を再現する試みである
「「SSSS.GRIDMAN」3Dメイキング #05」(https://www.youtube.com/watch?v=txCF9HiT1co)より

3DCGの「硬さ」/手描きの「柔らかさ」

前章で確認したとおり、アニメ版「グリッドマン」シリーズでは、仕掛けも含めた特撮の撮影現場そのものがアニメのなかで再現された。こうした試み自体は、『トップをねらえ!』(1988~1989年)をはじめとする庵野秀明作品などで行われており17、本作はそれらの延長線上に位置づけられるものである。なかでも本作の独自性として注目すべきは、そうした特撮をアニメ上で再現するにあたって、特撮とアニメの中間項として、3DCGの性質を意識的に使用している点である。

本作において、ヒーローや怪獣の描写は、合体バンクや止め画、極端なパースがついたクローズアップのカットなどを除く、いわゆる「特撮的」アクションシーンの大部分で、3DCGが使用されている。アニメ版「グリッドマン」シリーズすべてで監督を務める雨宮哲は、特撮をアニメで再現する際に3DCGが果たした役割を、以下のように説明している。

雨宮:僕は特撮のなかで、物理的に存在する“実際にあるモノ”が特に好きなんです。形の変わらない着ぐるみやスーツなどの“モノ”は、むしろ手描きでは不得意な部分なので、特撮っぽさを考えたうえでの選択だったのかなと思います。3DCGでモノが動く質感がいちばんほしかったといいますか。手描きにするとキャラクターになりすぎてしまうので、3DCGという“モノ”に見えたらうれしいなと思ったんです。どこからどう見てもいつも同じ顔をしているというのが、3DCGの何よりの強みですから。18

こうした「着ぐるみ」や「モノ」といった特撮の要素をいかにして画面の中で表現するかについては、『SSSS.GRIDMAN』ラインプロデューサーの竹内雅人も次のように述べている。

竹内:今作は特撮をアニメで描くという大きな目標がありました。個人的な意見ですが特撮作品のアニメーション化で一番嫌な部分は、マスク(お面、着ぐるみ)のキャラクターに表情がついてしまうことです。これは1枚1枚手で描いている以上、仕方のないことなのですが、どうしても認められない部分でして…。19

手描きのアニメーションは人間の手によるドローイングである以上、動画一枚ごとに描かれる対象の形状に多少の揺らぎが出てしまうことは避けられない。逆に、デジタル空間上で立体を仮想的に生成し、その「被写体」を撮影している3DCGの場合、現実のモノを撮影している場合と同様に、そうした揺らぎは発生しない20。この3DCGでつくられる「被写体」の「硬い」形状が、着ぐるみやミニチュアといった造形物を使用して撮影を行う特撮の画面を再現するにおいて重要な役割を果たしているのである。このことは一方で、手描きのアニメーションに用いられる絵が「柔らかい」線によって構成されているということでもある。

『SSSS.GRIDMAN』オープニングにも見られる、グリッドマン(Primal Fighter)の着地カット。3DCGで表現されているため、激しい動きのなかでも形状の揺らぎはない
「「SSSS.GRIDMAN」3Dメイキング #09」(https://www.youtube.com/watch?v=va4knVYDsrY)より

こうした手描きアニメーションにおける線の「柔らかさ」は、アニメーションの「原形質性」という性質と大きく関係するものである。

「原形質性」とは、映画監督のセルゲイ・エイゼンシュテインが提唱した概念であり、それは手描きアニメーションで描かれる対象が持つ「永久に割り当てられた形式の拒絶、硬直化からの自由、いかなるフォルムにもダイナミックに変容できる能力」21のことを指す。エイゼンシュテインが「原形質性」を説明する際、ディズニーの『人魚の踊り』(1938年)における、縞模様の魚が虎の姿を真似る、タコが象の姿を真似る描写を紹介しているが、このようにアニメーションでは実写のように被写体の形状や物理的な制約に縛られることなく、描写対象の形状をいかようにも変形することができるのだ22

この「原形質性」概念を踏まえて、雨宮と竹内の発言を改めて考えてみたい。ここで「原形質性」を、『人魚の踊り』のような描写対象の大々的なメタモルフォーゼを伴うものというよりも、「線の柔らかさ」がもたらす微妙な輪郭の揺らぎといった小規模な変形まで含むものとして捉えれば、3DCGは逆に、そうしたわずかな「柔らかさ」さえない「硬さ」を持ったモノとしての対象描写を可能にする技術と位置づけられる。すなわち、アニメ版「グリッドマン」シリーズでは、「原形質性」の画面からの排除によって、特撮的な画面が再現されていったのである。

では、アニメ版「グリッドマン」シリーズのすべての画面において、「原形質性」を生み出す「柔らかい線」による表現が排除されているのかと言われれば、等身大の人間キャラクターや、ヒーローの決めのカット、合体バンクなどが作画で表現されている以上、そうではない。なかでも特に「原形質性」の観点から注目したいのが、合体バンクである。

ここまでの議論を踏まえれば、ロボットという「硬い」存在を、形状の違和感なく正しく変形合体させるにおいて、3DCGはその表現に適したメディアと言える。また、本シリーズにおいてはヒーロー(およびそれと合体するロボット)はアクションシーンにおいて3DCGで表現されていることから、前後のつながりを踏まえても、合体バンクも3DCGで表現することが妥当とも考えられる。これに対し、同シリーズの合体バンクの原画を多数務めた浅野元は、以下のように述べている。

浅野:(引用者註:ダイナゼノンの合体バンクについて)正直、「こういうカットこそ、3Dでやればいいんじゃない?」と思われるようなところではあるんです。(中略)でも、ラッシュ(チェック用の映像)で観たとき、雨宮さんも「不思議だけど、こういうのって作画でやった方が感動するんだよな」と言っていて。自分も、凄くわかるんですよ。たぶん作画だと、どこかが不完全になると思うのですが、その不完全さが魅力になるというか……。合体バンクを描く時、自分的には合体するまではメカで、合体した後はキャラクターという感覚なんです。23

ここで浅野が発言している内容こそ、まさに「原形質性」の働きである。個々のパーツ単位でのメカニズム的な形状変化とともに、「合体するまではメカで、合体した後はキャラクター」という描写対象の質的変化が、アニメーションのなかで起きているのだ。そしてエイゼンシュテインは、こうした「原形質性」の働きによる変形が、「人を引き付ける」24性質を持つとも述べていることを踏まえると、雨宮が浅野に語った、合体を「作画でやった方が感動する」というものは、こうした手描きアニメーションが持つ「原形質性」の作用によるものと考えることができるだろう。

変形合体途中のダイナゼノン。「メカ」から「キャラクター」への切り替わり
「4/2(Fri) 放送開始 『SSSS.DYNAZENON』PV3」(https://www.youtube.com/watch?v=qzZB6Z1YbSs)より

特撮とアニメ、二つの「アトラクション」

アニメ版「グリッドマン」シリーズでは、特撮現場における「キャメラ」「造型」「操演」などといった各部門の仕事がアニメ上で再現されることにより、「特撮らしい」映像表現が実現された。そしてその「特撮らしさ」は3DCG技術の活用により、アニメの映像は「モノ」としての実在感を伴うものとなり、特撮における「だまし=だまされの遊戯」という視聴体験さえも喚起するものとなった。一方で合体バンクでは3DCGではなく手描きアニメーションが用いられ、映像のなかでその「原形質性」が効果的に発揮された。以上のように、アニメ版「グリッドマン」シリーズでは、特撮の性質とアニメの性質を的確に使い分けることにより、特撮・アニメ双方の人を引き付ける力(アトラクション)を最大限に発揮させる映像表現を実現したのである。

『SSSS.GRIDMAN』以降、『ULTRAMAN』(2019~2023年)や『ゴジラ S.P〈シンギュラポイント〉』(2021年)、『GAMERA -Rebirth-』(2023年)など、特撮をアニメ化した作品が次々と放送・配信されている。アニメ版「グリッドマン」シリーズのように、3DCGと手描きアニメーションを組み合わせ、そしてそのなかでの「特撮」の要素を的確に活用する作品が今後も増えていくのか、あるいはまた異なるアプローチが登場するのか。今後もこうしたアニメ、3DCG、特撮のハイブリッド的な作品に注視していくとともに、その発展に期待したい。

脚注

1 別の話数、別のカットで使い回すことを前提につくられる映像のこと。アニメや特撮作品における変身シーン、合体シーン、必殺技シーンなどに利用される。
2 なお、『電光超人グリッドマン boys invent great hero』と『SSSS.GRIDMAN』は、企画としては別物である。雨宮は「日本アニメ(ーター)見本市」の話が来る以前からTRIGGER社長の大塚雅彦に「『ウルトラマン』をアニメ化できませんか?」と相談しており、それを受けて大塚が円谷プロに打診をしたことがあるが、『SSSS.GRIDMAN』の企画はそれが発端である。ただ、『電光超人グリッドマン boys invent great hero』の反響が、『SSSS.GRIDMAN』の「後押しには」なったとのこと。『SSSS.GRIDMAN』でラインプロデューサーを務める竹内雅人や、ヒロイック作画チーフを務める牟田口裕基などは、『電光超人グリッドマン boys invent great hero』を以前に視聴していたことが『SSSS.GRIDMAN』への参加の一因となった旨をインタビューで語っている。
粕谷太智「アニメ「SSSS.GRIDMAN」特集 監督・雨宮哲(TRIGGER)、脚本・長谷川圭一インタビュー」コミックナタリー、2018年9月25日、https://natalie.mu/comic/pp/ssss_gridman
谷村康弘編『ホビージャパンMOOK917 宇宙船別冊 SSSS.GRIDMAN』ホビージャパン、2019年、86ページ
木村斉史編『サンエイムック 完全保存版 SSSS.GRIDMAN&SSSS.DYNAZENON大解剖』三栄書房、2023年、62ページ
3 『ザ★ウルトラマン』、『ウルトラマンUSA』における予算事情については、以下を参照のこと。
『(引用者註:ウルトラマン)80』の場合、実写としては1975年の3月に終了した『ウルトラマンレオ』から5年のブランクがあったわけですが、実は我々円谷プロとしては、その間も絶えず新しいウルトラマンの企画を考え、TBSさんに相談していたんですよ。
 とは言え、向こうにも番組制作予算というものがありますから、「実はこれだけの予算しか出せないんですよ」と、具体的な数字を示してくる。すると僕たちとしては「ああ、その予算ではとても特撮ものは作れないな」と。それで妥協というわけではないんですけど、「ではアニメだったらいかがでしょうか?」と提案し、実現したのが1979年の『ザ☆ウルトラマン』だったわけです。
村瀬直志編『宇宙船vol.128』ホビージャパン、2010年、112ページ


円谷プロにとって、この企画(引用者註:『ウルトラマンUSA』)は映画制作のみならず、アメリカにおけるウルトラマンのキャラクター展開をも見据えて、アメリカにウルトラ・コムという現地法人を設立しての取り組みであったが、制作予算やプロモーションなど、さまざまな条件を考慮した結果、アメリカでの「ウルトラマン」の制作はコストの大きい実写特撮ではなく、まずはアニメーション作品から始めようということになったようである。
講談社編『ウルトラ特撮PERFECT MOOK vol.37 ウルトラマンゼアス/ウルトラマンUSA』講談社、2022年、21ページ

4 澤村信編『NECO MOOK 2872 エンターテインメント アーカイブ ザ★ウルトラマン ウルトラマン80』ネコ・パブリッシング、2019年、8ページ
5 ミニチュアのモデルを被写体とし、その位置や形を映像の1フレームごとに少しずつずらしながら撮影することで得られるアニメーションのこと。ストップモーション・アニメーション、コマ撮りアニメーションとも呼ばれる。
6 三村ゆにこ「WHY 3DCG? 〜3DCGが支えるコンテンツ制作の現場〜第1弾:アニメーション業界編」CGWORLD、2021年4月30日、https://cgworld.jp/feature/202104-why3dcg-anime.html
7 尾形美幸「どこに行けば、キャラクターをつくれますか? No.13(後編)>>グラフィニカ」CGWORLD、2019年4月11日、https://cgworld.jp/regular/201903-c-graphinica3.html
8 尾形美幸「どこに行けば、キャラクターをつくれますか? No.13(前編)>>グラフィニカ」CGWORLD、2019年4月9日、https://cgworld.jp/regular/201903-c-graphinica1.html
9 高橋克則「「SSSS.GRIDMAN」“特撮愛”に溢れたアニメーションはいかに生まれたのか? スタッフがこだわりを解説」アニメ!アニメ!、2019年4月2日、https://animeanime.jp/article/2019/04/02/44613.html
10 谷村康弘編『ホビージャパンMOOK917 宇宙船別冊 SSSS.GRIDMAN』ホビージャパン、2019年、52ページ
11 グラフィニカ公式X、2018年11月15日、https://x.com/graphinica/status/1062987266673364992?s=20
12 尾形美幸「どこに行けば、キャラクターをつくれますか? No.13(中編)>>グラフィニカ」CGWORLD、2019年4月10日、https://cgworld.jp/regular/201903-c-graphinica2.html
13 グラフィニカ公式X、2018年11月15日、https://x.com/graphinica/status/1062986002489208833?s=20
14 池田憲章「円谷特撮の黄金時代へ!~スクリーンに夢を描いた独創の視点~」、東宝ゴジラ会『特撮円谷組 ゴジラと、東宝特撮にかけた青春』洋泉社、2010年、18ページ
15 『東京人』no.464、都市出版、2023年、80ページ
16 真鍋公希『円谷英二の卓越化 特撮の社会学』ナカニシヤ出版、2023年、211ページ
17 庵野秀明によれば、『トップをねらえ!』では、「浮いているものは操演で表現されたもの」「宇宙船が落ちるときは、ピアノ線が切れた感じにして落とす」といった特撮技法、「背景はベニヤ版で作っている」といった特撮的な造型素材のアニメ上での再現が行われたという。
18 五所光太郎「雨宮哲監督の「SSSS.GRIDMAN」制作スタイルと“白飯”からはじまった「SSSS.DYNAZENON」」アニメハック、2021年4月1日、https://anime.eiga.com/news/113211/
19 『SSSS.GRIDMAN SPECIAL NOTE VOL.3』ポニーキャニオン、2018年、115ページ
20 ただし、パースのついた形状にするなど、演出として行われる3DCGモデルのカットごとの意図的な変形は、ここでは考慮しない。あくまでも作画であるがゆえにどうしても揺らいでしまうという状況を検討の対象としている。
21 セルゲイ・エイゼンシュテイン、今井隆介訳「ディズニー(抄訳)」、『表象』07、表象文化論学会、2013年、160ページ
22 エイゼンシュテインはディズニー作品から「原形質性」を見出したが、当のディズニーではやがて「自分の意志で考え、決断し、行動しているように見える」キャラクターの創造が目指されていき、その結果、「原形質性」の典型的な例であるキャラクターの極度な形状の変形は抑えられていくこととなる。そのなかでディズニーのアニメーターたちがキャラクター表現において追及したのが、「可塑性」を持った形状である。「可塑性」もまた「原形質性」と同様に、「柔らかい線」からなる描写対象の不定形さを指す概念であるが、「原形質性」のような大胆なメタモルフォーゼを伴うものではない。それは現実の生物が動作をする際に発生する皮膚や筋肉の伸縮、歪みといった身体の柔軟性を、時にデフォルメをかけつつアニメーション上で再現するためのものである。この「可塑性」を伴う身体表現により、現実の生物が有する「量感はあるが柔軟さもあり、強さはあるが生硬さのない形」がアニメ上で実現可能となるのだ。
フランク・トーマス、オーリー・ジョンストン、スタジオジブリ訳『Disney Animation 生命を吹き込む魔法 The Illusion of Life』徳間書店、スタジオジブリ事業本部、2002年、13・71~72ページ
土居伸彰「柔らかな世界 ライアン・ラーキン、そしてアニメーションの原形質的な可能性について」、加藤幹郎編『アニメーションの映画学』臨川書店、2009年、84~85ページ
23 『SSSS.DYNAZENON SPECIAL NOTE VOL.2』ポニーキャニオン、2021年、92~93ページ
24 エイゼンシュテイン、前掲論文(註18)、160ページ

information
『SSSS.GRIDMAN』
テレビアニメ
2018年10月6日~12月22日
放送30分、全12回
監修:塚越隆行
脚本:長谷川圭一
監督:雨宮哲
https://gridman.net/

『SSSS.DYNAZENON』
テレビアニメ
2021年4月2日~6月18日
放送30分、全12回
監修:塚越隆行
脚本:長谷川圭一
監督:雨宮哲
https://dynazenon.net/

『グリッドマン ユニバース』
劇場アニメ
2023年3月24日公開
上映時間118分
監修:塚越隆行
脚本:長谷川圭一
監督:雨宮哲
https://ssss-movie.net/

※URLは2023年10月3日にリンクを確認済み

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