坂本 のどか
2023年7月19日(水)から10月15日(日)にかけて、東京都写真美術館にて開催されているコレクション展「TOPコレクション 何が見える? 「覗き見る」まなざしの系譜」。同館の収蔵品の中から、18世紀のヨーロッパで、あるいは江戸時代で用いられた視覚装置をはじめ、それらによって生まれたイメージ、さらには「覗き見る」をテーマにした作品が展示されました。「覗き見る」とはどういうことか、展示を通して改めて考えます。
覗き窓があいた箱や、黒いカーテンがかかった箱……、展示の冒頭には、一見しただけでは正体がわからない、思わず覗き込みたくなる木箱が並ぶ。東京都写真美術館でスタートした「TOPコレクション 何が見える? 「覗き見る」まなざしの系譜」は、同館の所蔵品を主とした、「覗き見る」ことをテーマにしたコレクション展だ。
今日の光学装置の源流となる視覚装置の歴史をたどる本展は、2018年に同館で開催された、プロジェクションの歴史から映像文化を紐解く展覧会「マジック・ランタン 光と影の映像史」と対になる企画として捉えられる。プロジェクションの歴史を「みんなで見る」ことの歴史と捉えるならば、本展のテーマである「覗き見る」は、「一人で見る」行為だ。それゆえ、今回の展示品には、実際に覗いてみないとその仕組みがわからないものも多い。展示の随所にはレプリカによる体験も織り混ぜられているため、ぜひ実際に体験してほしい。
展示は5章で構成され、1章から4章では各章のテーマに沿って、覗き見る視覚装置と、それによって生み出されたイメージの歴史を紐解く。1章ではその始まりとして、18〜19世紀にヨーロッパで広く流行した、箱の中につくられた景色を覗き窓から楽しむ「ピープショー」と呼ばれる装置の数々やその中に使われたイメージを展示。合わせて、同時期の日本(江戸〜明治期)における動向も紹介する。
「覗き見る」装置は人々を楽しませるだけではなく、人の目では捉えることのできないイメージを掴み、記録することも可能にした。続く2章には、顕微鏡や望遠鏡、そしてカメラの眼を通して捉えられた、遥か彼方の光景やミクロの世界、瞬間のイメージなどが並ぶ。
3章で取り上げるのは、19世紀中頃に高まりを見せた立体視の試みだ。平面のイメージを立体視できるようつくられたステレオカードと、それらを立体的に見るためのステレオスコープ(ビュワー)を展示。立体感を求めてステレオスコープを覗くさまは、映像体験により一層のリアリティや没入感を求めてVRゴーグルをかける、現代の我々の姿にも重なる。
19世紀にはさらに、静止画を動く絵へと変容させる試みも多くなされ、多種多様な視覚装置が発明された。4章ではそれら原始的なアニメーション装置の実物やレプリカを展示し、合わせて同館開発のアプリ「マジカループ」を紹介。本アプリでは、本章の展示品にも含まれるおどろき盤(フェナキスティスコープ)の動きをデジタルデバイス上で再現できる。会場のほか、インターネット環境があればどこでも体験可能だ。
そして展示を締めくくる5章では、歴史の先にある現代の表現を紹介。「覗き見る」装置の最たるものであるカメラが、最早覗くという行為を必要としなくなり、またデバイスの一機能として誰もがごく手軽に持てるようになった現代、覗き見るまなざしの行方は複雑化している。現代のまなざしをどう捉え、どんな可能性を見出すか。奈良原一高、オノデラユキ、出光真子、伊藤隆介、4名の作家による作品を通して考える。
本展を通して感じたのは、「覗き見る」は「一人で見る」行為でありながらも、覗き見ている当人しか楽しめないわけではないということだ。中に仕込まれたコンテンツの鑑賞という点では、確かに本展で紹介された装置は、視点や見方が限定された「一人で覗き見る」装置だが、創意工夫が凝らされた装置群は、その姿かたちから仕組みを想像するだけでもおもしろく魅力的だ。それは本展の随所にある、装置を覗き見る様子を描いた絵が語るところでもあるだろう。人が「覗き見る」そのまなざしの先を、ともに想像しながら楽しみたい。
information
TOPコレクション 何が見える? 「覗き見る」まなざしの系譜
会期:2023年7月19日(水)~10月15日(日) ※会期中に展示替えを実施
休館日:毎週月曜日(月曜日が祝休日の場合は開館し、翌平日休館)
会場:東京都写真美術館 3階 展示室
入場料:一般700円、学生560円、中高生・65歳以上350円
https://topmuseum.jp/contents/exhibition/index-4536.html
※URLは2023年8月31日にリンクを確認済み