デジタル時代の感覚を表現する たかくらかずき

森川 もなみ

3DCGやピクセルアニメーションなどのテクノロジーを使用し、東洋思想による現代美術のルールの書き換えとデジタルデータの新たな価値追求をテーマに作品を制作しているたかくらかずき。2023年に東京と山梨で行われた個展では、明治生まれの画家で詩人でもあった米倉壽仁の作品にインスピレーションを得たことを一つの契機として、シュルレアリスムの手法を用いた作品が発表されました。本稿では、展示の鑑賞体験を紹介しながら、急速に技術革新が進む現代をたかくらがどのように捉え、作品のなかで表現しているのかを探っていきます。

「みえるもの あらわれるもの いないもの / AI Yokai Summoning Ritual」より
Photo: masahiro muramatsu

人間と非人間の境界

2023年5月13日(土)から6月4日(日)にかけて、東京・日本橋のNEORT++にて、たかくらかずき1の個展「みえるもの あらわれるもの いないもの / AI Yokai Summoning Ritual」2が開催された。まずはこの展示の鑑賞体験について紹介したい。

階段を上がり展示室に入ると、さまざまな色の文字や光が壁や床で明滅している。入口から向かって正面の壁面には、九つの正方形の絵画が掛けられている。描かれているのは、1980年代に流行したビックリマンシールなどの「おまけシール」に登場するようなキャラクターで、粗いドットで描写されている。間近で見ると、平面作品でありながら、小さな四角いドットが重なって立体的な表現になっていることがわかる。

部屋の中央には富士通の古いデスクトップパソコンFMV-DESKPOWERが置かれている。鑑賞者はこのパソコンに表示されている単語から任意のものを選び、俳句をつくる。例えば私がつくった俳句は「リンゴジャム ポストモダンが 刺繍する」だ。すると画面上に「あなたの後ろに妖怪が召喚されました」と表示され、後ろを振り向くとやはり古そうなテレビ画面にキャラクター(妖怪)が映し出されている。いろいろなパーツが組み合わさり生き物めいた形になった妖怪には、全体の調和が感じられず、妙な気味の悪さがある。しかし自分が選んだ言葉から生成されたキャラクターだと思うと、何とも言えない不思議な愛おしさも感じられてくる。しばらくのあいだ、壁面には先ほどつくった俳句の文言が大きく流れ、この妖怪と見比べながら、言葉が生まれては消えていくのを眺める。自分の行為によって引き起こされた空間の大きな変容に、驚きつつも高揚感を感じる。

展示室に記載されている解説から、この作品が次のプロセスをたどっていることがわかる。まず、たかくらかずきがテキスト共同制作者である武田俊と108種類の連句をつくり、それを一度単語に分解する。そして来場者がパソコン画面上で任意の単語を選び取って俳句をつくり、ChatGPTがこれを50単語の英詩に書き換える。さらにこの詩が、たかくらの作風を模した画像生成AIに読み取られ、新しい妖怪が生成される。この妖怪は、俳句の名を冠したNFTとなってオンライン上に解き放たれるという。

「みえるもの あらわれるもの いないもの / AI Yokai Summoning Ritual」より
Photo: masahiro muramatsu

たかくらはこの展示を「作者・鑑賞者・AIが共同し、俳句によって新たな妖怪を召喚する儀式」とし、さらに「現在のAIの在り方からシュルレアリスムが追っていたテーマを再考する展示」であるとする。たかくらは、今、世界中でその画期性や功罪が語られているChatGPTなどの生成AIが、世界中の人々が生み出してきたインターネット上のアーカイブデータを学習し、テキストや画像を作成するプロセスが、人間の無意識の領域を探求したシュルレアリスムの表現に近似しているのではないか、と問いかける。

シュルレアリスム(超現実主義)とは、第一次世界大戦後のヨーロッパで詩人たちが始め、やがて美術界にも広がった芸術運動で、理性によって統制された人間の意識上ではなく、無意識や夢のなかにこそ人間の本質が現れるとする考え方によって、理性や合理性に立脚した伝統的な芸術を一新しようとした。無意識下の想像力をはばたかせるために、シュルレアリスムにはいくつかの代表的な技法があるが、たかくらはこの展示の随所にそれらを採用している。ひとつはシュルレアリスムの提唱者である詩人アンドレ・ブルトンが始めた自動筆記(自動記述、オートマティスム)である。これは人間の理性を介入させずに言葉を生み出していく手法で、たかくらは武田俊とこの手法を用いて108種類の連句をつくったという。また、本展示のポイントの一つとして任意の単語の組み合わせでつくられた俳句が挙げられるが、これはデペイズマンの手法を用いている。19世紀の詩人ロートレアモンによる『マルドロールの歌』の一節「ミシンと蝙蝠傘との解剖台の上での偶然の出会い」という詩句が典型とされるが、ある物を本来あるべき所とは異なる環境に置いたり、意外なものを組み合わせたりすることによって違和感を生じさせる手法をさす。さらに、召喚された妖怪はさまざまなパーツを組み合わせた異形のものであるが、異質なパーツを貼り合わせて造形的にデペイズマンの効果をもたらそうとするコラージュに通じる。本展示はこうした手法を組み合わせながら、総合的には、人間の集合知を自動的に形にしていく生成AIという機械と共同作業を行うことで、現代におけるシュルレアリスム的な実験を行っているとも考えられるのである。

「みえるもの あらわれるもの いないもの / AI Yokai Summoning Ritual」キービジュアル

メタバースと現実空間の境界

上述の展覧会より数カ月前の2023年2月28日(火)から3月26日(日)にかけて、山梨県立美術館にて、たかくらの個展「メカリアル」3が開催された。たかくらは山梨県市川三郷町(旧市川大門町)出身で、当美術館には幼い頃より足を運んでいたという。

本展は館内の展示スペース、館外の「芸術の森公園」、さらにメタバース(仮想空間)を行き来することでたかくらの作品を鑑賞する仕掛けがなされた。来場者はまず美術館エントランス正面の展示スペースで、壁面に展示された3点の大きな平面作品と、床に描かれたマップ、そして展示台に置かれた石板を目にする。平面作品には2体1組のように描かれたキャラクターを中心に、月や雲といった風景的な要素から扉、花、大きな手などさまざまなモチーフが入り乱れている。これらの要素は粗いドットでカラフルに描かれ、ところどころに自由に描かれた描線も見られる。全体から受ける印象は、冒険系のロールプレイングゲーム(RPG)の世界観のようであると同時に、まるで三連祭壇画として描かれた宗教画のようでもある。近づいてみると、平面作品でありながら四角いドットが立体的に重なって画面がつくられている。これはUVプリンタで印刷した、デジタル技術によって描かれた絵画で、上述の「みえるもの あらわれるもの いないもの / AI Yokai Summoning Ritual」展の9点の平面作品にも引き継がれている。

「メカリアル」山梨県立美術館内より
館内展示スペース床面のマップ

床面のマップは山梨県立美術館と山梨県立文学館が設置されている「芸術の森公園」を表現したもので、建物、公園を流れる小川、彫刻などが描かれ、あたかもRPGに登場する2Dのドット絵のマップのようである。マップ上には①から⑩の番号が記載されており、来場者は番号が記載された場所を実際に訪れてみるよう促されている。それぞれの場所には、たかくらが制作したNFTアートを取得できる二次元バーコードをプリントした石板が石の上に設置されている。①は出発地点であるエントランス正面の展示スペースであり、展示台の上の石板を読み込んでNFTアートを取得する。このように本作品は、来場者が自分の身体を使って現実空間を移動することで仮想空間上にある作品を一つひとつ獲得する仕掛けとなっており、実際に体験すると、自分が宝探しのRPGの主人公になったような感覚を味わえる。

シュルレアリスムの手法でAIと人間の関係性を探る

さて、「メカリアル」展にはもうひとつの側面がある。マップ上には、地図の要素と番号のほかに、細い帯のように文字がつづられている。例えば「ハラハラト髪ハ昔ニ忘ラレテ 人傳テナラヌ春ノ胸ヨ サテハ 琥珀ノ花ノ束 しるく・はつとノ手品ノ種」といった文言である。これは山梨県甲府市出身の明治生まれの画家で詩人でもあった米倉壽仁による詩「透明ナ歳月」の一節である。たかくらは本展の制作前に「米倉壽仁展」4を鑑賞し、米倉の作品からインスピレーションを得たという。米倉は古賀春江や福沢一郎、さらにはマックス・エルンストやサルバドール・ダリといった前衛芸術家から影響を受け、初期はダリ風の作品を描き、戦後はオートマティスムやデペイズマンといったシュルレアリスムの手法を用いながら、日本独自の、あるいは米倉独自のシュルレアリスムの境地を拓こうと試みた。

たかくらは「メカリアル」制作にあたり、特に米倉の《閉ざされた悲歌−石神−》(1978年)を取り上げた。「石神」とは道祖神のことで、道祖神信仰の残る山梨県内では丸石を祀っていることが多いが、本作品には男女一対の双体道祖神が描かれている。

たかくらの出身地である市川三郷町は双体道祖神が多く見られる地域である。ここで既述の三連画に戻ると、ペアで描かれたキャラクターはこの双体道祖神から着想したもので、それぞれに《仮現和合図−錫箔のない鏡には扉がない 二重映像は民衆の秘密の夜を縫ってゆき 犬のような対象はめしべのように麗しい 無数の麗星を軽蔑する無数のスプーン−》、《機肉和合図−ひしめく肋骨の湾 息ぶく赤い灯台 燃えはてようとする一本の螺狀線 静脈は宇宙の挽歌を嘆いている 広漠とした腦髄の谷の陰で−》、《情思和合図−昆虫の羽根のように脆く散る貝殻いろの夜明に 真珠はなぜ平衡を失うのか 美しいものは遙かな誤算である 生活よ出発せよ子午線の虹へ そんな顔をして下さるな 魂なんぞ歳月の羅針盤はないのです−》という作品名が付けられている。長い文言は米倉の詩句だが、たかくらはこれらの詩句をAIに読ませて画像を生成し、これに手を加えて平面作品を制作したのである。いわば、たかくらという現代のアーティストが米倉という過去の作家に想を得て、AIという機械とともに、過去と現在、人間と機械、言葉と絵といったさまざまな境界線を越えて制作した作品といえる。実際、たかくらによればこの作品は、現実と仮想、合理と非合理といった二面的な世界の和合を描いたものであるという。ちなみに、公園各所から取得できるNFTアートも道祖神をモチーフとしたキャラクターである。

芸術の森公園より。写真中央にQRコードが配されている

さらに、たかくらは現実の展示スペースや公園内のみならず、メタバース(仮想空間)内にも作品《MECHAREAL》を作成した。2023年8月現在でも、山梨県立美術館図書室に設置されたVRゴーグルを着用して、あるいは個人の端末を利用して鑑賞することができる5。メタバース内には、広々とした緑の芝生の上に神社の拝殿のような大きな建物があり、双体道祖神のキャラクターや米倉の詩句が配されている。鑑賞者はこうして、館内空間から館外空間へ、さらにNFTと連動したRPGのようなAR(拡張現実)や、VRゴーグルを使用した仮想空間へと移動してたかくらの作品を鑑賞しながら、同時に、こうしたデジタル技術によって牽引される新しい世界のかたちを探ろうとするたかくらの試みに自らも参加することになる。

メタバース内《MECHAREAL》より

たかくらは自ら最新技術を駆使した表現を行いながら、急速な技術革新によって新たに到来しつつある現在の状況について「向こう側とこちら側の境界が融解しつつある」と見ており、「融解し、引き裂かれ、矛盾が生じている現状を、どうにかしてそのまま表す必要がある」との考えから本展を構想したという6。たかくらが命名した展覧会タイトル「メカリアル」には、大正時代から昭和初期にかけて日本が急速に近代化した時期に、西洋のシュルレアリスムを受容した古賀春江などが描いた機械主義的な傾向7が重ね合わされている。そこには、「AIが生成したテキストや仮想現実の世界は、彼らの想像していた無意識の世界に極めて近いものなのではないだろうか。シュルレアリストたちは仮想と現実に、人間と非人間に、常に引き裂かれつつ、それらを何とかひとつの和合にたどりつかせようともがいたのではなかっただろうか」8と考えるたかくらの思いが込められている。

「メカリアル」広報物

最後に、冒頭で紹介した展覧会「みえるもの あらわれるもの いないもの / AI Yokai Summoning Ritual」に戻ってみよう。「メカリアル」展ではあくまで鑑賞者であった我々が、今度は作品制作のプロセスにまで参加することになる。それどころか、参加者の介入によって生み出された妖怪たちもオンライン上で生き続けることになる。たかくらは、「メカリアル」展と同じくデジタル技術やシュルレアリスムの手法を用いながら、さらに、表現者・鑑賞者、生物・非生物、存在・非存在といった境界までも融解させ、新たに現出しつつある世界をどのように読み解くべきか、ともに考えるよう参加者に促すのである。

脚注

1 たかくらかずきについては次の公式ホームページを参照。https://takakurakazuki.com/profile.html
2 「みえるもの あらわれるもの いないもの / AI Yokai Summoning Ritual」展については次のNEORT++のホームページを参照。https://two.neort.io/ja/exhibitions/ai_yokai
3 「メカリアル」展については次の山梨県立美術館公式ホームページを参照。https://www.art-museum.pref.yamanashi.jp/exhibition/2023/956.html
4 「米倉壽仁展 透明ナ歳月 詩情のシュルレアリスム画家」主催・会場:山梨県立美術館、会期:2022年11月19日(土)〜2023年1月22日(日)。展覧会概要は次の山梨県立美術館公式ホームページを参照。https://www.art-museum.pref.yamanashi.jp/exhibition/2022/651.html
5 次のSTYLY GALLERYのリンクからアクセスできる。https://gallery.styly.cc/scene/7417700f-1060-4cb3-b4f1-6424fc2b9195
6 「メカリアル」展にてたかくらが発表したステートメントより引用。
7 この傾向は古賀春江の代表作である《海》(1929年、東京国立近代美術館蔵)などに顕著である。本作には、近代化の象徴としての工場、飛行船、船、灯台、モダンガールなどがコラージュの技法によって描かれている。合理性を否定しようと試みたシュルレアリスムと機械主義的な傾向が結合した表現はシュルレアリスム発祥の地である西洋には見られない現象で、近代化とシュルレアリスム受容期が重なった日本独自の傾向であるとされる。
8 註6と同じ。

※URLは2023年8月24日にリンクを確認済み

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