竹見 洋一郎
2023年に50回を迎えたアニー賞で、作品賞(リミテッドシリーズ テレビ/メディア部門)とプロダクションデザイン賞(テレビ/メディア部門)をダブル受賞したトンコハウス制作の『ONI ~ 神々山のおなり』(以下『ONI』)。本作にちなんだ展覧会が、PLAY! MUSEUMで4月2日まで開催されています。ピクサーでカラースクリプトを手掛けてきた「光の演出家」堤大介氏が、自身の立ち上げたスタジオで初めて挑んだ長編作品。『ONI』の世界観を伝えるとともにトンコハウスの演出手法を紹介する展覧会の様子を、写真を中心にレポートします。
18歳で渡米した堤大介が、ロバート・コンドウとともにアメリカで立ち上げたアニメーションスタジオ・トンコハウスは『ダム・キーパー』(2014年)から活動を本格化した。同作のアカデミー賞短編アニメーション賞へのノミネーションを経て次作への注目が集まるなか、2022年10月よりNetflixオリジナル作品として、堤が監督を務める初の長編アニメーション『ONI』が配信されている。日本の森に暮らす妖怪や神々を描く、全4話154分の3DCG作品だ。
タイトルのONIは、日本の民話に登場する「鬼」でもあり、本作では森の妖怪たちを脅かす謎の外敵。さらに堤は「個人の心に潜む闇。自分が知らない、自分と異なる存在を『悪』と見てしまう心の弱さのこと」と、タイトルに込めたメッセージを語る。それはアメリカの地でマイノリティとしてアニメーション制作に取り組んできた、自身の経験にも重なるようだ。
「トンコハウス・堤大介の『ONI展』」の会場となるPLAY! MUSEUMは「絵とことば」をテーマにした美術館で、2020年の開館以来、『ぐりとぐら』『コジコジ』などをテーマに幅広い年齢層が楽しめる企画を展開してきた。初めてアニメーションを扱う本展でも、いわゆる制作資料などを披露するメイキング展示とは一味違う趣向を凝らしている。展示の導入部では、神々が住まい精霊が潜む森の映像を、手漉き和紙スクリーンに投影している。屋久島に取材した自然描写は『ONI』の白眉といえるもので、緻密に描き込まれた古来の森の植生は、湿度や匂いまでも感じられるような存在感だ。
会場を照らす提灯の光に導かれるように奥に進むにつれ、周囲はどんどん暗くなっていく。曲がった通路の先にある、祭りやぐらが再現展示された広い空間は、物語のクライマックスとなる夜のシーンをモチーフにしている。設置された太鼓を叩くと、音に連動して森の精霊「モリノコ」が発光してインスタレーションが現れる仕掛けで、『ONI』の作品世界に包まれる体験型の展示となっている。会場の最後のパートでは、ストーリーが生まれるきっかけとなったアイデアスケッチから3DCGアニメーションが生み出される制作過程が紹介される。本作は初期にはストップモーションとして構想されていたが1 、パイロット版のためにつくられたコマ撮り用の人形やスタジオセット、さらにカラースクリプトやライティングの設定資料など、トンコハウスの映像づくりを垣間見ることができる。
『ONI』の制作の特色となっているのが、日米のスタッフがチームを組み、制作体制が模索された点にあるだろう。脚本を手がけたのは『心が叫びたがってるんだ。』(2015年)などで知られる岡田麿里。岡田が日本語で仕上げた脚本から、堤とブラッドリー・ファーニッシュが英語版の脚本を完成させて決定稿とした。さらにNetflixからのフィードバックやストーリーボード上の変更は、堤が日本語に翻訳したうえで岡田と検討して進めたという。声優のレコーディングも、アメリカ式にプレスコで収録した英語版声優の演技がその後の作画や演出を導き、英語版の完成後に日本式にアフレコで吹き込んだ日本語版を制作。「英語版も、日本語版もどちらもオリジナル」と堤が言うバージョンが生まれた。二つの言語を行き来しながらブラッシュアップしていく過程は、作品の創造性にどのような影響を与えたのか興味が尽きない。
脚注
information
トンコハウス・堤大介の「ONI展」
会期:2023年1月21日(土)~4月2日(日)
会場:PLAY! MUSEUM(東京・立川)
開館時間:10:00~17:00(土日祝は18:00まで)
休館:会期中無休(3月5日を除く)
入館料:一般1,800円、大学生1,200円、高校生1,000円、中・小学生600円、未就学児無料
https://play2020.jp/
※URLは2023年3月23日にリンクを確認済み